此岸ノ鬼   作:夜十喰

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仮募集をしてから約2ヶ月....ようやく投稿することが出来ましたーー!!

やっとリアルで時間が作れまして、これからボチボチ更新して行こうと思います。


初のオリジナル作品なので、拙い部分も多いと思いますが、アドバイス、感想などドンドンいただけると嬉しいです。


それでは早速お楽しみ下さい。


現代ノ鬼

時は魑魅魍魎が犇めく江戸の時代。人々はすぐ隣にある死への恐怖に日々打ちひしがれながら生きていた。人々に恐怖を植え付けた存在は、突如現れ、無慈悲にその力を振るった。人は無力だった。どれだけ抵抗しても、どこへ逃げようと、どこへ隠れようと、ヤツらはどこにでも現れ、その禍々しく圧倒的な力で、生への渇望を嘲笑う様に、人を人だったモノに変えた。

 

 

人はヤツらを、生を()らう()物『喰魔(クラマ)』と呼んだ。

 

 

 

喰魔の脅威は国の各地に及び、人は絶滅の一途を辿るのみと、この世に絶望し、生を諦めかけた──────そんな時だった。

 

 

希望を失い、絶望する人々の前に、彼らは突然現れた。

 

襲い来る喰魔を次々と倒し、葬って行く彼らの姿を、人々の目に焼き付いた。今まで全く歯が立たず、出会えば死ぬしか無いと、そう思っていた絶望の権化たる存在が、いとも簡単に倒させて行く光景を目の当たりにした人々は、喜びも忘れ、その場に立ち尽くすことしか出来ずにいた。

 

 

生を乞う人々の前に颯爽と現れ、喰魔を撃退したのは、鬼の仮面をつけたおそらく10代後半から20歳前半くらいであろう7人組の男女だった。

 

『よく頑張った。よく生きた。よく踠いた。後は拙者たちが切り開こう。明日の、明後日の、未来の、さらにその次の未来を』

 

 

瞬く間にその場にいた喰魔を全て倒した彼らのうちの1人が仮面で見えない口を開きそう言うと、彼らは散開するように、すぐにその場を去ってしまった。

 

 

その時、人々の目には、颯爽と駆ける彼らの背中にそれぞれ1体ずつ、計7体の異形の影が映ったという。

 

 

それっきり、人々は彼らの姿を見る事は二度と無かった。しかし同時に、人々が喰魔を目撃したのも、その日で最後となった。

 

 

人々は彼らを神の遣いとして崇め奉り、姿なき彼らに感謝を注いだ。

 

 

そして、鬼の仮面をつけた彼らは、人々にある名で呼ばれる様になり、人々はその名を後世に伝説として言い伝える様になった。

 

 

 

 

その名は────────『鬼人(オニビト)

 

 

 

 

 

 

 

 

彼らの尽力あってか定かでは無いが、その日以来人々が喰魔に襲われることも無くなり、あまつさえその姿を見ることすら無くなった。

 

そして時が過ぎるということはいかに無情か、人々は、次第にその恐怖や脅威、更にはその存在すらも、記憶の中から消し去っていった。その後、瞬く間に数多ある伝承からもその存在が消えた喰魔は、知る人ぞ知る空想上の生物として認識される様になった。それにつられる形で、鬼人の存在も口から語り継がれる寓話となり、喰魔と鬼人の存在は完全に人々の記憶の中から消え、この此岸の地から消滅したものと思われていた。

 

 

しかし、それは全くの間違いであった。人々の知らぬこの世の裏で、喰魔はその力を弱体化させることもなく、この此岸の地にその脅威をふるっていたのだ。ならなぜ、喰魔たちは表の世界の人々にその姿さえ目撃される事が無くなったのか。それは、喰魔と共に人の記憶から消えたはずの誰も知らない英雄達が、誰に認識される事もなく、静かに、しかし確実に、人々を、この此岸の世を守ってきたからである。

 

 

彼らの誓い、力、血、使命は脈々と途切れる事なく受け継がれた。その過程で、彼らは各々に子孫繁栄に努め、江戸の時代が終わる頃、彼らは『緋蜂(ヒバチ)家』『辻凪(ツジナギ)家』『(カノウ)家』『淵上(フチガミ)家』『兎宮(トミヤ)家』『戒血(カイチ)家』『蜜芭(ミツバ)家』の7つの家に分かれ、それぞれが1つの組織となり、喰魔の撃退に勤めていた。

 

そして、この7つの家を総じて【鬼掟七家(キテイシチケ)】と呼んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして現代、鬼人の血は途絶える事なくこの時代まで行き届き、現代の鬼人たちは今なお消息を見せない喰魔との戦いに日々身を投じている──────

 

 

「ハァ…ハァ…ハァ……!!」

 

 

───────その最中……

 

 

 

「ハァ…ハァ…クソッ!!一体なんだってんだよ⁉︎」

 

ここはとある山の奥深く。辺り一面が闇に覆われた真夜中の森の中で、1人の男が暗闇の中を怯えた様子で必死に走っていた。男の耳には無数をピアスが開けられており、首や指にはジャラジャラと沢山のアクセサリーがつけられている。いかにもチンピラですと言わんばかりの男は、葉の間からわずかに差す月の光を頼りに、生い茂る草木を手で掻き分け、切り傷だらけの手や泥だらけになったら服と靴に目もくれず、男はただひたすら森の中を駆ける。

 

「ハァ…ハァ…なんでっ……俺がこんな目に……いつまで付いてくんだよ!クソがッ!」

 

怯えた様子を見せる男だったが、次第にその感情が怒りに変わっていく。どうやら男は何かに追われており、逃げ惑う自分を客観的に見て、自分の無様な姿に怒りの感情を覚えた様だった。

 

「上等だ!だったら完全に撒いてやるよ!!」

 

そう言うと、男は走るスピードを上げた。男は息を切らしながらも、そのスピードを落とす事なく走る。それどころかこの視界がほぼ真っ暗のこの状況で、男は無駄のない動きで森を一直線に抜けていく。その動きだけで、逃げるこの男が只者では無いことは一目瞭然だろう。では逆に、それほどの動きを見せる男が逃げ惑う相手とは一体どんな奴なのか、それは今まさに追われている男自身ですらその姿を目視しておらず、分かっていない。ただ、男の直感が告げる。決して追いつかれてはならないと。

 

「ハァ……どうだ…クソ野郎…!!……ハァ…これだけ走れば流石に撒いただろ……ハァ…ハァ」

 

男は、一度立ち止まり、後ろを振り返る。そこには誰もおらず、ただ木々が風に吹かれ、不気味に揺れているだけ。

 

「……ハァ!!...ここまでは流石に追って来ねぇようだな…っと!?」

 

その事に安心し、今まで身体に入っていた力を抜き、その反動で足が数歩後ろへ下がった時、男の足に太い木の根っこが引っかかり、バランスを崩した男が後ろに倒れかけたその時───────

 

 

ヒュンッと言う風を切る音とともに、男の首から血がタラーッと流れた。

 

「え…ぁ……はぁァァ!!!?」

 

あまりに突然のことに驚きの声を上げる男。痛みのする首に手を置く。そこには確かに血が流れていたが、幸い傷の深さは2、3ミリ程度で、致命傷になるほどの傷では無かった。男は驚きながらも安堵するが、手に広がる赤い血を見て慌てて辺りを見回す。しかし、周りを見渡してもやはり誰もいない。人の気配すらも感じない。男がその事実を認識した時、同時にとてつもない恐怖感に襲われた。加えて自分が木につまづいていなければ、確実に首をハネられていた事実が、更に男に恐怖を植え付ける。

 

「ウアァァァァァッ!!!!!?」

 

男は再び逃げ出した。しかし、今度は先程のような後ろを振り返る余裕は無く、今度こそまさにただ逃げ惑うだけだった。

 

「ハァ……ハァ……!!クソッ!!クソクソクソッ!!!」

 

男は再び必死に走る。恐怖を紛らわすように声を漏らしながら。

 

 

 

そして男はようやく森の出口までたどり着いた。

 

「ハァ...!!森を抜ける!もうちょい...!!」

 

男は、森を出て相手を目視さえすれば返り討ちに出来るという、恐怖している事に対する負け惜しみの様な考えの中、ようやく森を抜けた。

 

 

しかし、その先は───────

 

 

ザパァーンッ!!ザァー!ザァー!ザパァーンッ!!

 

 

「……はあ!?」

 

森を抜けた先は、どこにも逃げ場の無い、高く荒々しく打ち付ける荒波が下で待つ断崖絶壁だった。

 

 

これ以上逃げ場が無いことを理解した男は、来た道を振り返る。その顔は、覚悟と恐怖が混在した様な、そんな表情で満ちていた。

 

「なんなんだよ!!いい加減姿を見せやがれ!!」

 

男は振り返り、森に向けて叫ぶ。

 

「………………」

 

男の声が森の闇に消えていく。

 

「………………」

 

男は黙ったまま、闇の中を鋭い眼光で睨みつける。

 

 

 

『はぁ……さっさと諦めれば良かったのに、めんどくせぇな……』

 

 

「!!!?」

 

男の問いかけに答える様に、森の闇の中から人間の男の声が聞こえて来た。男はその声を聞き肩をビクッと震わせる。

 

 

そして、ザクッザクッという足音を立て、声の主が闇の中から歩いてくる。少しずつ、その姿が満月の光の元に照らし出される。

 

 

「──────ゾクッ!!」

 

 

男は月明かりに照らし出された人物の姿を見て、戦慄した。

 

 

 

満月の光が照らし出したのは、黒いモッズコートに身を包み、黒いズボンと黒い靴。更に黒い手袋まで。全身を黒で覆った人間だった。そして、特に目立ったのは、その顔につけられていた不気味なペストマスクだった。更にその人物の腰には、黒い刀が添えられているのが男の目に入る。

 

 

『もう逃げ場はねえよ。さっさと諦めろ』

 

 

ペストマスクの男は、逃げてきた男に向けて、再び諦めるよう促す。

 

全身黒ずくめの不気味な男の姿をその瞳に写した男は、先程までとは比べ物にならない程に背筋を震わせ、心底怯えた様子を見せる。

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ…!!」

 

次第に男の呼吸が速くなっていく。なぜここまで男が怯えるのか、それは彼自身が今自分の目の前にペストマスクのいる意味が理解出来たからである。

 

 

 

ペストマスクの男の目的。それは自分を()()()()()のだと。

 

 

 

「なんなんだよ!?なんでお前みたいな奴が、俺を追ってきてんだよ!?俺は何もしてねぇ!何もやっちゃいねぇんだよ!」

 

男は突然、必死に自分で弁明を始めた。声を荒げ、必死に叫ぶ。しかし、ペストマスクの男が彼の弁明を聞き入れる事は無く、ペストマスクの男は一度ため息をつくと、心底めんどくさそうに口を開く。

 

『はぁ……緋蜂(ヒバチ)直衛(ナオエ)。27歳。1年半前、一般人男性に対する恐喝・暴行・脅迫。その約2ヶ月後に、一般人女性に対する恐喝・脅迫・暴行・強姦。更にその数ヶ月後に別の一般人女性に対しても同じ犯行を行なっている』

 

ペストマスクの口から次々と出てくる罪状の提示に、逃げてきた男、緋蜂直衛の顔色がサァーッと引き、青白くなってしまっている。

 

『まだ他にも結構あるな。これだけの事をしてきたんだ。流石に何もやって無いってのは無いんじゃ無いのか?』

 

「そ、それをやったのは俺じゃねぇよ!お、俺は...そう!さ、誘われただけで、やってねえ!断ったんだ!」

 

直衛は必死に叫ぶ。自分は無実だと。自分は何もしていないと。しかし、明らかな動揺が、その言葉が嘘である事を物語っていた。

 

『じゃあ誰に誘われたんだ?そして、お前はそいつがこの犯行を行うと分かっていながらなぜ何もしなかった?』

 

「そ、それは………」

 

直衛の明らかな嘘に、ペストマスクは再び大きなため息を吐いた。

 

『はぁ……』

 

ペストマスクのため息に、直衛はビクッと体を震わせる。

 

『嘘をつくのはお前の勝手だが、俺に対してそれは自分で自分の首を絞めているのと同義だぞ?』

 

「ど、どういう事だ...!!?」

 

まるで嘘が分かるという様なペストマスクの言い草に、直衛は更に動揺し、声を荒げる。

 

『お前が知る必要はねえよ』

 

ペストマスクは一言そう言い捨てると、腰に添えていた刀を抜き、刃の先を直衛にむけこう言い放った。

 

『お前は()()()の掟を破った。故に俺は、お前をこの世から排除する。それだけだ』

 

ペストマスクは冷酷に淡々と、直衛に死を告げた。

 

 

 

「ふ、ふざけるなぁァァァァァァァ!!!」

 

自身への死の宣告を受け、直衛は顔を真っ赤にし、怒りに震えだす。瞳孔が開き、額に血管が浮き出て、喉がはちきれんばかりに声を上げる。

 

「ふざけるな!こんなとこで死んでたまるか!いいのか!?俺は()()()の人間だぞ!?こんな事が許される訳がない!俺の頭首が許すはずがねぇ!!」

 

今直衛が発した“緋蜂家”、これは直衛が自分の命を繋ぐ為に残された数少ないカードの1つだった。少ないカードだったが、これには直衛も絶対の自信があった。これで自分は助かる。相手は自分に何も出来ない。僅かな希望を自身の中で少しずつ膨らませていく直衛。しかし、その希望も簡単に打ち砕かれる事になる。

 

 

『この件はお前んとこの頭首様も承諾済みだ』

 

 

「………………は?」

 

予想外の相手の解答に、一瞬直衛の思考が停止する。

 

『だから、テメェは自分の家に、一族に、家族に、見放されたんだよ』

 

直衛が理解するのを拒んだ結果を容赦なく叩きつけるペストマスク。

 

「う、嘘だ...嘘だ!!そんな訳がない!!」

 

直衛は必死に否定する。嘘だ。ありえない。何かの間違いだ。そんな言葉を頭を抱えながらひたすら叫ぶ。

 

そんな直衛を見たペストマスクは、彼が大きな勘違いをしている事を理解し、三度大きなため息を吐いた。

 

『はぁ……お前は何か勘違いをしている様だから言っておく。本来俺の行動に頭首の許可も承諾も必要無いんだよ。お前の処分は決定した。これはどう足掻こうと覆らねえ』

 

ペストマスクで隠れた口から、容赦の無い言葉が次々と吐き出される。直衛は堪らず地面に膝をつき、顔を地面に向ける。

 

『掟を破った者を抹殺する。それが、俺の、俺の()に与えられた役割だからな』

 

直衛の呼吸が更に荒くなる。血の巡りがドンドン速くなり、全身の血管が皮膚から浮かび上がっている。全身の幹線から汗が溢れ、強膜が赤く染まっていく。

 

『というわけで、これより対象者の排除を執り行う』

 

その言葉を聞いた瞬間、直衛の中で恐怖心が怯えから怒りに変化した。直衛は地面に向けていた顔を勢いよく上げ、満月の浮かぶ夜空を仰ぐ。

 

そして──────

 

 

 

「黙れェェェェ!!」

 

 

現実を否定するように直衛が声を張り上げる。すると、彼の周りの空気が大きく揺らめく。よく見ると、彼の身体からゆらゆらと赤黒いオーラの様なものが溢れ出ていた。彼は膝に手を置き、肩をダランとさせながらのっそりと立ち上がる。顔を下に向けながら、ペストマスクを睨みつける。

 

 

「だったら簡単だ!テメェを殺して、俺は生きてやる!!」

 

 

彼はこの時から既に、冷静な判断など出来ていなかった。目の前にいるのがどれだけ強大な相手なのか、もちろんそんな判断など出来ておらず、ましてや戦術など皆無。彼の頭の中にはただ、自身の“力”で相手を打ちのめし、殺すことしかなかった。

 

 

 

そして、直衛は満月の浮かぶ夜空に向けて

 

 

 

 

「討ち滅ぼせ!【驍鬼(ギョウキ)】!!」

 

 

 

 

口上の如く添えられた言葉に続き、直衛は1つの“名”を叫んだ。

 

 

 

その瞬間、今の今まで何のいなかった直衛の背後に、夜でもクッキリ見えるほどの赤黒い影が現れる。その赤黒い影は、次第に夜の闇に溶ける様にゆっくりと消えていく。

 

『……っ』

 

赤黒い影が完全に消失する。すると、影が漂っていた場所に、一体の異形が現れた。

 

 

突然現れた異形は、全身を血の様な赤黒い皮膚で覆い、人型で二本の足で立ち、同じく二本の腕が生えている。腰から下には動物の毛皮の様なものをズボンの様に履いており、更に口には大きく鋭い牙が生え、目の強膜は真っ黒に染まり、瞳孔は金色に輝いている。そして異形の右手には大きな鉈の様な刃物が握られており、その額には、皮膚と同じ色の()()()()が生えていた。

 

 

その異形の姿はまさに、日本に古来から言い伝えられている怪物、【鬼】そのものだった。

 

 

『グルラァァァァぁぁぁぁ!!!!』

 

 

驍鬼と呼ばれた鬼らしき異形の生物は、激しい咆哮を上げるとともに跳躍すると、直衛の前に着地し、彼を守る様に手に持った鉈をペストマスクに向けた。

 

『グルルゥゥゥ!!』

 

まるで犬が威嚇するような低い唸り声を上げる驍鬼。鋭い牙をギラリと覗かせた口からだらしなく涎を垂らし、殺意に満ちた眼光でペストマスクを睨みつける。

 

「ははっ!俺が抵抗しないとでも思ったかァ?生憎と俺は()()殺す事を躊躇するほどあまちゃんじゃ無いんだなぁ!どうせ逃げ切れねぇならテメェを殺すまでだ!!」

 

形勢逆転とでも言いたいのか、直衛は突然自分が優位に立ったような口ぶりで話し出す。

 

対するペストマスクは、異形の怪物を目の前にしても、鉈を向けられても、殺意に満ちた視線を向けられていても、一切の動揺も恐怖も怯えも見せない。

 

『はぁ…………』

 

「あぁ?」

 

するとペストマスクは、直衛対面してから何度目か分からないため息を吐き、直衛に向けていた刀を下ろした。

 

『心底めんどせぇ...結局死ぬんだから抵抗すんなよ。“鬼”まで顕現させやがって....はぁ....』

 

ペストマスクはそう言うと刀を鞘に戻し、完全に直衛を舐めたような声色で言い放つ。

 

 

『ん?遺言は済んだか?もうちょっと時間必要か?』

 

 

 

「─────っ!!」ピキッ

 

 

ペストマスクのまるで自分など目に写っていないとでも言いたげな言葉に、直衛の怒りが限界を迎える。

 

 

「やれェ、驍鬼!!あのクソ野郎の四肢を捥いで細切れにしろォォ!!!」

 

 

直衛の指示を聞き、驍鬼は右足を軽く後ろに引き、重心を落とす。そして、引いた右足に力を込めると右足が地面にめり込み、地面を力の限り蹴る。

 

『ゴルグアァァァァ!!』

 

刹那、目にも止まらないスピードで加速した驍鬼は、瞬きする間もなく、ペストマスクの目の前まで移動し、手に持った鉈を天高く振り上げる。

 

 

しかしそんな窮地でさえ、ペストマスクはその場を動く気配すら見せない。

 

 

驍鬼はそんなペストマスクの奇怪な行動に戸惑う事なく、ただ命令された通りに動く。振り上げた鉈を、今度は力の限り振り下ろした。ブウォンッ!という空気の切れる音が空気を震わせると共に、その刃がペストマスクを捉えた────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガキィィィンンッッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────はずだった。

 

 

 

「な...ん...だと...⁉︎」

 

 

直衛は自分の目と耳を疑った。驍鬼の放った一撃は、確実にペストマスクの脳天を目掛け振り下ろされたはず。本来なら肉の切れる音、骨の絶たれた音、血の飛散する音が夜の闇に響くはずだった。しかし、直衛の耳に届いたのは、そんな生々しい音ではなく、硬い物質同士が衝突した時に生じる甲高い金属音だったからである。

 

 

 

振り下ろされた驍鬼の一撃は、ペストマスクを殺すこと無く、空中で停止した。いや、驍鬼自身が停止させたのでは無く、何かが驍鬼の攻撃を防いだのだ。

 

 

そして、直衛はその甲高い金属音と驍鬼の攻撃を防いだモノの正体をその目で目の当たりにしていた。

 

 

 

『コシューー.....』

 

 

 

驍鬼の一撃を防いだのは、全身の外皮が漆黒の鎧の様な装甲になっており、顔もフルフェイスのヘルメット様に目、鼻、口が見えない漆黒。更に後頭部からは銀色の獅子の鬣の様な髪が生え、額には、驍鬼と同じように皮膚と同じ色、すなわち漆黒に染まった角が二本生えている細身でスタイリッシュな“鬼”だった。

 

 

漆黒の鬼の右手にはこれまた黒い大太刀が握られており、これが驍鬼の鉈を寸前の所で防いだのだ。

 

 

『はぁ...で?最後の悪足掻きはこれで終わりで良いのか?』

 

 

ギリリッ!!チィリリッ!!と、刃同士が互いに強い力で押し合うことで発生する音と夜の闇に美しく光る火花の散る音を、ペストマスク越しに聞きながら、彼は直衛をただただ冷たく見据える。

 

 

渾身の抵抗を難なく防がれた直衛は、驚愕のあまり目を見開き口をパクパクさせている。そして、ペストマスクの冷たい視線を肌で感じ、彼は再び自らの死を直感した。

 

 

『終わりのようだな。なら....やれ』

 

 

ペストマスクの命令を受け、漆黒の鬼は横に倒し驍鬼の鉈を防いでいた大太刀を一度軽く引き、驍鬼がバランスを崩した所で再び力を込め、上方へと弾く。ガキィン!!という鈍い音と火花が散り、驍鬼は上体を仰け反らせてしまう。方や漆黒の鬼は、すぐさま腰を落とし、刀身を外気に晒したまま、居合の構えを取る。そして──────横一閃。

 

漆黒の鬼が振り抜いた一撃は驍鬼の首を易々と捉え、その首を刎ねた。

 

驍鬼の首は、人間と同じ赤い血を撒き散らし、月明かりに照らされながら宙を舞う。

 

首を無くした身体からも勢いよく血が吹き出し、驍鬼の立っていた場所を中心に血の海が広がる。

 

 

驍鬼の身体は後方に倒れ、背中を地面につける。そしてその身体は次第にひび割れ、ボロボロと崩れては灰へと変わっていく。

 

 

「う...そ...だろ....」

 

 

あまりにも呆気ない驍鬼の敗北に直衛は膝を地面につけ、両肩を落とす。

 

そして次の瞬間には、直衛の首に冷たい刃が突きつけられていた。

 

 

『じゃあな。俺が憎ければ地獄(向こう)で腕磨いて待ってろ。そう遠くないうちに俺もそっちへ行くだろうからな.....』

 

 

ペストマスクはそう言い残し、突きつけた刀を振り払った。振り払われた刀は直衛の首の筋肉や骨をたった一太刀で両断した。

 

 

奇妙な事に、切られたはずの直衛の首は切られたから数秒間は身体と繋がっており、ペストマスクが鞘に刀を収めると同時に首が地面に落ちた。

 

彼は自分の足元に転がってきた緋蜂直衛だったモノを、ただただ冷たく見下ろしていた。人を殺した事を嘆いているのか、後悔しているのか、もしくは殺す事に愉悦を感じているのか、そもそも彼にその様な感情があったかのかどうか、ペストマスク越しには分からなかった。

 

 

しかし、少なくとも痛みも恐怖も一瞬で消し去るペストマスクの殺しの腕は、せめてもの慈悲と言えたのかもしれない。

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

『任務完了....か』

 

そう一言溢し、ペストマスクはその着けていたマスクを外し、被っていたフードを下ろした。

 

今まで隠れていた顔と髪が外気に触れ、夜の冷たい風に吹かれ小さく揺れる。

 

 

マスクの中から露わになったのは、血のような赤い瞳とフードを被っていたにもかかわらず、ボサボサっと無造作にハネた黒い髪の高校生くらいの青年だった。

 

 

「ご苦労だったな」

 

 

青年は振り向き、自身の後ろに立っていた漆黒の鬼に労いの言葉をかけると、漆黒の鬼は霧の様に消えてしまった。

 

 

「…………はぁ、帰るか」

 

 

 

 

Prrrr....!!Prrrr....!!

 

 

 

 

「んっ」

 

 

青年がその場を後にしようとした時、胸ポケットに入れていた青年のスマホがブルブルと震え出した。青年はスマホを胸ポケットから取り出し、電話をかけてきた相手を見て、すぐに電話に出る。

 

 

「ジャストタイミングだな。今終わったところだ」

 

 

『ん…ご当主さま、任務遂行お疲れ様、です』

 

 

電車越しに聞こえてきたのは、ゆっくりとした静かな声色の幼げな女の声だった。

 

「ああ。もうすぐ帰るからアイツにもそう伝えといてくれ」

 

『わかり、ました。そう伝えて─────兄貴ィィ!!』

 

「うおっ」

 

電話で話していると突然、話相手の声が怒鳴りつける様な声に変わった。その大声に青年も驚き、キーーンとする耳を抑える。突然聞こえてきた怒鳴り声は、先程まで話していた女の声とは正反対のはつらつとした活気のあるこれまた幼げな女の声だった。

 

『また何にも言わずに任務に行ってたな!いつも言ってるよな!行くなら行くって一言言ってから行けって!何回言わせんだこの駄兄!』

 

男勝りな口調と迫力で聞こえてくる声は、青年と兄貴と呼んだ。どうやら怒鳴り声の女は青年の妹の様だ。

 

月依(ツクヨ)、ちゃん...電話、返して。それと、ご当主さま、任務の後、疲れる、から、あんまり大きな声、ダメ、だよ』

『でもよー!兄貴は一度言っても聞かねえんだ!聞くまで言うしかねえだろ。ほら、莉月(リユエ)も言ってやってくれよ!』

『え...⁉︎ぼ、ぼくは、別に...』

 

「はぁ...悪かった悪かった。話は帰ってから聞くから。とりあえず切るぞ」

 

『あ!!ちょっ、待て兄k─────』

 

活気ある声の女の子を“月依”、静かな声の女の子を“莉月”と呼び合う彼女たち。突然2人で言い合いを始めた彼女達に、兄らしい青年はため息を吐き、任務遂行の報告を終えたと電話切った。

 

「ったくアイツら...ま、これ以上めんどくさいことにならない様にとっとと帰るか....」

 

 

青年はそう言うと、最後に一度だけ夜空に浮かぶ月を見つめながらある男の言葉を思い出していた。

 

『お前はあの月みたいに人を暗闇から優しく照らす男になれ。太陽みたいに熱を持つ必要も闇を完全に払う必要も無い。お前は誰かを暗闇から救い導ける男になれ。お前の名前はそう言う願いを込めて付けたんだ』

 

思い出したのは青年が幼い頃に父親から聞いた名前の由来。それと懸け離れた現状に、青年は愚痴をこぼす様に吐き捨てる。

 

 

「誰かを救い導く...よくもまぁこんな環境に産まれた奴にそんな名前をつけたもんだな...親父のやつ」

 

 

月明りだけが降り注ぐ暗闇の中、足元に広がる血の海の上で1人手に持つペストマスクを寂しげに見つめながら佇む青年の名は『戒血(カイチ) 月彦(ツキヒコ)』。

 

 

彼は高校生にして、現代における鬼人が集う組織『鬼掟七家』、その一角を担い、【掃除】を生業とする『戒血家』の現頭首である。

 

 

 

これは、そんな彼が現代に生きる様々な鬼人達と人の生を喰らう異形の怪物『喰魔』との命を削り合う戦いの物語。




読んでいただきありがとうございました〜!

1話から1万字近く....長いなーと自分でも思います。すみません(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)
本当に軽く戦闘シーンを描写しましたが、いかがだったでしょうか?やはりかなり難しいですね...もっと分かりやすく迫力のある描写が書けるように努力したいと思います!

それから、早速声と名前だけでしたが、送っていただいたキャラクターのうち2名を登場させました。詳しい説明は次にするとして、まだまだキャラクターは募集しているので(むしろ重要ポジションのキャラが揃っていない)、是非参加いただけるとありがたいです。

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