ウタカタノ花   作:薬來ままど

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あまりにも誤字脱字が多すぎたため、再投稿いたします。申し訳ございません。


二十章:役者は揃った
壱(再投稿)


炭治郎は禰豆子を抱えつつ汐の手を引き、先ほどの場所へ戻った。攻撃を受けた際に千切れてしまった肩ひもを結び、眠っている禰豆子の口に壊れてしまった口枷の代わりに縄を噛ませた後箱に戻すと、炭治郎は汐の手当てをしようと服に手をかけようとして踏みとどまった。

 

それは以前に、同じように負傷した汐の手当てをしようと、服に手をかけた時に手ひどい一撃を喰らってしまった事があった。

緊急事態だったとはいえ、年頃の少女の服を剥こうとしたことに変わりはなく、善逸だったら確実にあの世に叩き込まれていただろう。

 

だが、汐はためらう炭治郎の前で隊服の釦を外すと、彼に背を向ける形で服を脱いだ。いつもならありえないことに炭治郎は面食らったが、汐の上半身から流れ出る血を見て息をのんだ。

 

そしてすぐさま、先ほど手当てをしてもらった時と同様に汐の手当てをしていく。その間、汐は一言もしゃべらず、黙って炭治郎の手当てを受けていた。

 

(汐、どうしたんだろう。あの時からずっと様子がおかしい。さっきも後悔と苦悩の匂いがしたし、汐は自分が悪くないのにため込んでしまうところもあるから――)

 

「炭治郎」

 

ふいに名前を呼ばれた炭治郎は、肩を震わせ手当てをしている手を止めた。

 

「ど、どうした汐。痛くしすぎたか?」

 

炭治郎が思わず聞き返すと、汐は振り向くことなくそのまま口を開いた。

 

「あたし、さっき派手男にあたしにできることは何もないって言われたの。そして実際にその通りだと思った。あたしじゃ禰豆子を何とかできなかったし、自分ひとりで突っ走って大勢の人間に迷惑をかけた。正直のところ、今のあたしじゃアイツらの足手纏いなのはわかっている」

 

汐の淡々とした言葉が炭治郎の胸に突き刺さり、彼は大きく顔を歪ませた。そんなことはない。汐のせいなんかじゃない。そんなことを言おうとして口を開いた炭治郎の言葉を、汐が遮るように言った。

 

「けれど、このまま何もせずに尻尾を巻いて逃げ出すのだけは絶対に嫌。あんな連中に屈するなんざ、死んでもごめんだわ!だからお願い、あたしに逃げろなんて言わないで。来るなって言わないで。あたしもあんた達と一緒に、最後まで戦わせて!!」

 

汐は振り返り、炭治郎の目をしっかり見据えて言った。匂いをかがなくてもわかる。その目には確かな決意が宿っていた。

 

炭治郎は何かを言いかけて口を開いたが、それを閉じると汐の目を見据えてうなずいた。

 

「勿論だ。俺の方もまだ動ける。一緒に戦おう、汐!」

 

皆で戦い抜く!最後まで!!

 

二人は頷きあうと、禰豆子に必ず帰ると誓い、戦いの渦中へと戻っていくのだった。

 

 

*   *   *   *   *

 

 

帯の防御を解いた妓夫太郎は、宇髄の顔を舐めるように見据えながら言った。

 

「お前違うなぁ。今まで殺した柱と違う」

 

妓夫太郎の言葉に怪訝な表情を浮かべる宇髄に、彼は地を這うような声色でつづけた。

 

「お前は生まれた時から特別な奴だったんだろうなぁ。選ばれた才能だなぁ。妬ましいなぁ、一刻も早く死んでもらいてぇなぁ」

「・・・才能?ハッ」

 

妓夫太郎の言葉を聞いた宇髄は、鼻を鳴らし、自嘲的な笑みを浮かべながら嘲るように言い放った。

 

「俺に才能なんてもんがあるように見えるか?()()()()()()()()()()()、テメェの人生幸せだな。何百年生きていようが、こんな所に閉じ込もってりゃあ世間知らずのままでも仕方ねぇのか」

 

『100年以上も無駄に生きているから、目も耳も耄碌してるようね』

 

その言葉を聞いて、先ほどの汐の言葉が蘇ったのか堕姫は顔を歪ませ、妓夫太郎は口を閉ざしながら宇髄の言葉を聞いていた。

 

「この国はな広いんだぜ。凄ェ奴らがウヨウヨしてる。得体の知れねぇ奴もいる。刀を握って二月(ふたつき)で柱になるような奴もいる。俺が選ばれてる?ふざけんじゃねぇ」

 

先程の笑みから一変し、宇髄は怒りに満ちた顔で二人を睨みながら鋭く言った。

 

「俺の手の平から、今までどれだけの命が零れたと思ってんだ」

(そう。俺は煉獄のようには出来ねぇ)

 

宇髄の脳裏に、多くの人々の命を救い散っていった煉獄の姿が蘇る。

 

「ぐぬぅう、だったらどう説明する?」

 

妓夫太郎は唸り声のようなものを上げながら、再び身体を掻き毟りだした。

 

「お前がまだ死んでない理由はなんだ?俺の“血鎌”は猛毒があるのに、いつまで経ってもお前は死なねぇじゃねぇかオイ、なあああ!!」

 

しかし宇髄はその事実に怯むことなく冷静に言い返した。

 

「俺は忍びの家系なんだよ。耐性つけてるから、毒は効かねぇ」

「忍びなんて江戸の頃には絶えてるでしょ!嘘つくんじゃないわよ!」

 

堕姫は喚く様に否定するが、その言葉を宇髄はさらに冷静に否定した。

 

(嘘じゃねぇよ。忍は存在する。姉弟は九人いた。十五になるまでで七人死んだ。一族が衰退していく焦りから、親父は取り憑かれたように厳しい訓練を俺たちに強いた。生き残ったのは、俺の二つ下の弟のみ。そして弟は、親父の複写だ)

 

宇髄の脳裏に、感情のないひたすらに無機質な目をした弟の姿が蘇った。

 

(親父と同じ考え、同じ言動、部下は駒、妻は跡継ぎを産むためなら死んでもいい。本人の意志は尊重しない、ひたすら無機質。俺は、あんな人間になりたくない)

 

そんな運命をたどることに嫌気がさした宇髄は、三人の妻と共に逃げるように里を抜けた。そんな中、彼らが出会ったのは鬼殺隊当主である産屋敷輝哉だった。

 

『つらいね天元、君の選んだ道は』

 

花の舞う中、彼は優しい視線を宇髄たちに向けながら、優しい声色で言った。

 

『自分を形成する幼少期に植え込まれた価値観を否定しながら、戦いの場に身を置き続けるのは苦しいことだ。様々な矛盾や葛藤を抱えながら君は、君たちは、それでも前向きに戦ってくれるんだね。人の命を守るために。ありがとう。君は素晴らしい子だ』

 

その言葉を聞いた瞬間、宇髄は自分の選んだ道が正しかったことを確信したのだった。

 

(俺の方こそ感謝したいお館様、貴方には。命は懸けて当然、全てのことはできて当然、矛盾や葛藤を抱える者は、愚かな弱者。ずっとそんな環境でしたから)

 

「ん?んん?んんんん?」

 

宇髄は二人に向かって不敵な笑みを浮かべるが、その様子を見ていた妓夫太郎はにやりと嫌な笑みを浮かべた。

 

「ひひっ、ひひひっ、やっぱり毒効いてるじゃねぇか。じわじわと。効かねぇなんて虚勢張って、みっともねぇなぁあ、ひひっ」

 

妓夫太郎の言う通り、宇髄の顔はは毒々しい紫色にただれ始めていた。しかし宇髄はそれをさほど気にするそぶりも見せず、高らかに言い放った。

 

「いいや全然効いてないね、踊ってやろうか。絶好調で天丼百杯食えるわ、派手にな!!」

 

そう言った瞬間、宇髄は瞬時に二人と距離を詰め日輪刀を振りぬいた。妓夫太郎が鎌を振り上げ、堕姫が帯を伸ばし、宇髄の身体を刻もうとした。

 

だが宇髄は二本の日輪刀で瞬時に堕姫の帯を切り刻み、妓夫太郎の鎌を受け止めると、その強靭な左足で堕姫の腹部を思い切り蹴り上げた。

 

「俺の妹を蹴んじゃねぇよなあ」

「この糞野郎!!」

 

宙に舞う堕姫は帯を、妓夫太郎は鎌で日輪刀を弾くと宇髄に向かって振り上げた。しかし、宇髄と彼らの間には先程の爆薬の玉が浮かび、鎌と帯がそれに触れた瞬間凄まじい爆発が起こった。

 

その熱風に堕姫は悲鳴を上げ、妓夫太郎はその爆発から素早く離れると、至近距離での爆発の割に軽傷な宇髄の日輪刀が頸に伸びていたのに気づいた。

彼はすぐさまその一撃を躱すと、冷静に分析をし始めた。

 

(特殊な火薬玉だなぁ。鬼の体を傷つける威力。斬撃の僅かな摩擦で爆ぜる。気づかねぇで斬っちまって喰らっちまったな。すぐ攻撃喰らうからなぁ、アイツは)

 

だが、攻撃に転じようとした妓夫太郎の頸に、躱したはずの刀身が再び迫っていることに気づいた。

 

(刀身が伸びっ・・・)

 

これには流石の妓夫太郎も顔色を変えた。視線を動かした先には、宇髄が左手の指先だけでもう片方の刀身を持っているのが見えた。

 

(刃先を持ってやがる!!どういう握力してやがる)

 

妓夫太郎は直ぐに左手で刀を弾くが、その頸筋からは一筋の赤い雫が零れ落ちていた。

 

「チッ、()()()は仕留め損なったぜ」

 

宇髄は舌打ちをしながら刀を反動で自分の所に戻した。その傍らでは

 

「うううう!!また頸斬られた!!糞野郎!!糞野郎!!絶対許さない!!」

 

先程宇髄に頸を斬られた堕姫が、喚きながら自身の頭部を抱えていた。

 

「悔しい、悔しい!!なんでアタシばっかり斬られるの!!あああっ、わああ!!」

 

喚き続ける堕姫をしり目に、妓夫太郎は目を細めながら静かに言い放った。

 

「お前、もしかして気づいてるなぁ?」

「何に?」

 

そう言う宇髄は笑みを浮かべるが、その顔からは脂汗が零れ落ち、心なしか顔色も悪くなっているようだった。

 

「・・・気づいた所で意味ねぇけどなぁ。お前は段々死んでいくだろうし、こうしてる間にも、俺たちはじわじわと勝ってるんだよなぁ」

 

妓夫太郎は再び顔中を掻き毟りながら、頭を振った。だが、そんな空気を壊すような、大声が辺りに響き渡った。

 

「それはどうかな!?俺を忘れちゃいけねぇぜ。この伊之助様と、その手下がいるんだぜ!!」

 

爆発が止み、開けられた大穴から刀を高々と掲げる伊之助と、女性の装いで鼻提灯を出している善逸の奇妙な二人組が飛び込んできた。

 

「なんだ、こいつら?」

 

その場に似つかわしくないような闖入者に、流石の妓夫太郎も面食らう。そんな中、宇髄の頭上からパラパラと芥が降り注いだかと思うと、青色と緑色のものが彼の前に降りてきた。

 

それは、互いに羽織をひるがえし、宇髄を庇うように立つ汐と炭治郎の二人だった。

二人の姿を見て、宇髄の目が大きく見開かれた。

 

何故お前らがここにいるんだと言いたげな彼に、汐は静かな声色で告げた。

 

「あんたにはまだまだ聞きたいことがたくさんあるの。だから、こんなところで死なれちゃ困るのよ。それに、あたしはやられっぱなしで黙っていることなんてできない。やられた分は、倍にして返してやるんだから!」

 

そう言って汐は、刀を構えながら鬼達を鋭い目で睨みつけた。

 

外ではまきをと須磨の二人が、町の人々の避難誘導を行っている声が聞こえ、敵が増えたことに腹正しさを感じたのか、妓夫太郎は顔を掻き毟る手の速度を上げた。

 

「下っぱが何人来たところで、幸せな未来なんて待ってねぇからなあ。全員死ぬのに そうやって瞳をきらきらさすなよなあぁ」

 

そう言う妓夫太郎をみて、炭治郎の身体が微かに震えた。

 

(汐の言う通り、鬼が二人になっているうえに帯鬼も死んでいない。どっちも上弦の陸なのか?分裂している?だとしたら・・・)

(本体はこっちの昆布頭の方だわ。目が尋常じゃないくらいやばいもの。だけど、こんなところで引くわけには・・・)

 

汐と炭治郎の手が微かに震えているのは、疲労か、それとも恐れか。しかしそれでも、こんなところで死ぬわけにはいかない。勝たねばならない。

何とか自分自身を鼓舞しようとしたとき、空気を切り裂くような静かな声が響いた。

 

「勝つぜ。俺達鬼殺隊は」

 

頭上から降ってきた力強い声に、炭治郎は勿論汐の手の震えも止まった。だが、それを否定する堕姫の声が響き渡った。

 

「勝てないわよ!頼みの綱の柱が、毒にやられてちゃあね!!」

 

(!?)

(毒!?)

 

汐と炭治郎は思わず振り返り、宇髄の顔を見つめた。しかし、宇髄は心配無用というように再び声を上げた。

 

「余裕で勝つわボケ雑魚がぁ!!毒回ってるくらいの足枷あってトントンなんだよ、人間様を舐めんじゃねぇ!!」

 

その言葉が虚勢であることは汐も炭治郎も見抜いていた。現に彼の顔色は悪く、皮膚も不気味に爛れている。

だが、それでも宇髄はさらに声を張り上げた。

 

「こいつらは三人共、優秀な俺の“継子”だ!逃げねぇ根性がある」

「フハハ、まあな!」

 

その言葉に伊之助は気をよくしたのか、得意げに胸を張った。そしてさらに、宇髄の大きな手が汐の背中をたたいた。

 

「そして何より俺達には天下無双の歌姫、ワダツミの子がついてんだ!!こいつが何を意味するか、お前らにわかるか!?」

 

宇髄の言葉に汐の目頭が熱くなり、鬼達は顔を歪ませながら彼を睨みつけていた。

 

「手足が千切れても喰らいつくぜ!!そして、てめぇらの倒し方は既に俺が看破した」

 

その堂々たる出で立ちは、かつて汐達が見た誇り高き戦士、煉獄杏寿郎の姿と重なった。

 

「同時に頸を斬ることだ!二人同時にな。そうだろ!!そうじゃなけりゃ、それぞれに能力を分散させて、弱い妹を取り込まねぇ理由がねぇ!!ハァーッハッハ、チョロいぜお前ら!!」

 

すると宇髄の笑い声にかぶせるように、伊之助の高笑いが響き渡った。

 

「グワハハハ、なるほどな簡単だぜ。俺たちが勝ったも同然だな!!」

 

あまりにも短絡的な思考をする男二人に、汐は軽く眩暈を起こしそうになった。だが、こういうのは嫌いじゃない。

それどころか先ほどの恐れは消え失せ、体が熱くなってきた気がした。

 

だが、妓夫太郎はそんな汐達を嘲笑うように、口元を大きくゆがめた。

 

「その“簡単なこと”ができねぇで、鬼狩りたちは死んでったからなあ。柱もなあ、俺が十五で妹が七、喰ってるからなあ」

「そうよ、夜が明けるまで生きてた奴はいないわ。長い夜はいつもアタシたちを味方するから。どいつもこいつも死になさいよ!!」

 

堕姫が宇髄の背後から帯を伸ばしてきた。しかしその攻撃は宇髄たちに届く前に、雷鳴のような轟音にさえぎられた。

 

「善逸!!」

 

善逸の攻撃は堕姫を屋根の上へと打ち上げた。

 

「蚯蚓女は俺と寝ぼけ丸に任せろ!!お前等はその蟷螂を倒せ!!わかったな!!」

「わかった、気を付けろ!!」

「死ぬんじゃないわよ!死んだら殺すからね!!」

 

炭治郎と汐の言葉に、伊之助は刀を振り回しながら頷き、善逸と堕姫を追って走り去っていった。

 

「妹はやらせねえよ」

 

妓夫太郎はそう言って、口を耳まで裂けるように歪ませた。それを見て、汐も同じように口元を歪ませながら言い放つ。

 

「こっちこそ、さっきの借りをまとめて返してやるわ。あの糞女にやられた分もね!!」

 

汐の挑発的な言葉に、妓夫太郎は表情を思い切り歪ませるのだった。

汐はどちらに値すると思いますか?

  • 漆黒の意思
  • 黄金の精神
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