ウタカタノ花   作:薬來ままど

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死闘、再開




善逸によって打ち上げられた堕姫は、空中で体勢を立て直すと屋根の上に降り立った。そして、目の前に対峙する善逸を見て目を見開く。

 

「お前・・・!!あの時にアタシに楯突いた不細工!!」

 

善逸の顔に堕姫は見覚えがあった。それは、自分が蕨姫花魁に扮していた時、生意気にも自分に歯向かい意見してきた者だった。

その後吹き飛ばし、帯に取り込んだはずのその者が目の前にいることに、彼女は驚きを隠せなかった。

 

「俺は君に言いたいことかある。耳を引っ張って怪我をさせた子に謝れ」

 

善逸は眠ったまま口を開くと、鋭い声で堕姫に言い放ち、堕姫は意味が分からないと言った表情で、善逸を見つめた。

 

「たとえ君が稼いだ金で衣食住与えていたのだとしても、あの子たちは君の所有物じゃない。何をしても許されるわけじゃない」

 

静かな声で話す善逸に、堕姫は不愉快だと言わんばかりに眉根を寄せた。

 

「つまらない説教を垂れるんじゃないわよ。お前みたいな不細工が、アタシと対等に口を利けると思ってるの?」

 

堕姫はふんと鼻を鳴らすと、鎌首を擡げながら嘲るように言い放った。

 

「お前程度の頭じゃ理解できないでしょうけれど、この街じゃ女は商品なのよ。物と同じ。売ったり買ったり壊されたり、持ち主が好きにしていいのよ。不細工は飯を食う資格ないわ。何もできない奴は人間扱いしない」

「自分がされて嫌だったことは、人にしちゃいけない」

 

善逸は静かに首を横に振ると、諭すように言った。だが、彼がそう言った瞬間、突如堕姫の口からは濁った声が響き渡った。

 

「違うなあ、それは」

 

その声は堕姫のものではなく、彼女の兄妓夫太郎の声だった。

 

「人にされて嫌だったこと、苦しかったことを、人にやって返して取り立てる。自分が不幸だった分は、幸せな奴から取り立てねぇと、取り返せねえ。それが俺たちの生き方だからなあ。言いがかりをつけてくる奴は、皆殺してきたんだよなあ」

 

顔を上げた堕姫の額には、先ほどまではなかった【陸】と刻まれた目玉が浮き出ていた。

 

「お前らも同じように、喉笛掻き切ってやるからなああ」

 

妓夫太郎と対峙していた汐達は、その殺気に思わず怖気が走った。今まで出会ってきた鬼など比ではない。風柱でさえ、ここまでの殺気は感じなかった。

 

(すごい殺気だ!!肘から首元まで鳥肌が立つ。宇髄さんはともかく、汐はこんな奴とも戦っていたのか・・・!!)

 

汐も歯を食いしばりながら、滲み出る殺気に耐えていた。

 

(何を弱気になっているんだ!当り前だろ、相手は上弦の陸だぞ!しっかりしろ炭治郎!宇髄さんは毒を喰らってる上に、汐は俺よりも傷が深い。俺が二人を守らないと・・・!!)

 

炭治郎は刀を握る手に力を込めた。斬られた背中が突っ張り痛みが走るが、二人の痛みに比べたらなんてことはない。

一方汐も、唇から血が出る程かみしめながら、目の前の鬼を睨みつけた。

 

(さっきは不意をつかれたけれど、今度は絶対にやらせないわ!やられた分を取り立てるなら、更にこっちが取り立てるまでよ!!)

(あいつが動いた瞬間に、刀を振るんだ。ほんの少しでも、動いた瞬間に・・・!!)

 

炭治郎がそう考えた瞬間、妓夫太郎の姿が消えその鎌は炭治郎、ではなく汐の目の前に迫っていた。突然のことに反応ができない炭治郎は、目で追うだけで精いっぱいだった。

 

「同じ手は喰わねぇ。歌わせる暇なんざ与えねえよ」

 

妓夫太郎の猛毒の鎌が汐の喉笛に突き立てられようとした瞬間、汐は身体を後方に瞬時にそらし、その瞬間宇髄の刃がその鎌を穿ちとめた。

そのまま汐は横に転がり、宇髄は凄まじい速さで妓夫太郎の攻撃を捌いている。

 

「汐!!大丈夫か!?喉は・・・!」

 

炭治郎は倒れている汐に素早く駆け寄ると、狙われた首筋を慌てて確認した。そこには傷一つない、真白な喉笛があるだけだった。

 

「平気よ。二度も同じ手に引っ掛かるもんか」

 

ほっと胸をなでおろす炭治郎だが、同時に咄嗟に動けなかった自分に激しく腹が立った。

 

(何をしてるんだ。足を引っ張っている・・・!!)

 

だが、後悔する暇もなく二人をとてつもない鬼の気配が包んだ。そして上を見上げた瞬間、轟音と共に天井を突き破って無数の堕姫の帯が降りてきた。

それは引幕のように汐達をそれぞれ分断する。

 

(これは、あの女の帯!くそっ、帯が邪魔で前が見えない!!)

 

苛立つ汐の頭上から、堕姫の甲高い笑い声が響き渡った。

 

「アハハハハッ、全部見えるわ、あんたたちの動き。兄さんが起きたからね、これがアタシの本当の力なのよ!!」

 

堕姫は帯を高速で振り回し、善逸と伊之助を翻弄しながら下で戦う汐達の妨害も行っていた。

善逸と伊之助は必死で攻撃を回避するものの、よけきれなかったのか身体にはいくつかの切り傷ができていた。

 

「うるせぇ!!キンキン声で喋るんじゃねぇ!!」

 

堕姫の耳障りな声に、伊之助の憤慨する声が響く。それを聞いていた汐は(全く持ってその通りだわ)と、帯を捌きながら思った。

 

「ギャーギャー、ギャーギャー喧しいんだよ!!盛りの付いた獣かテメーは!!」

 

汐も怒りのあまり荒い口調で叫ぶが、それを嘲笑うかのように妓夫太郎の笑い声が響いた。

 

「クククッ、継子ってのは嘘だなあ。お前らの動きは統制が取れてねぇ。全然だめだなあ」

 

帯に交じって妓夫太郎の血の斬撃が飛び交い、汐達は必死でその二つの攻撃を捌いていた。だが、妓夫太郎の言う通り即席の隊と異なり、二人の動きは寸分の狂いもなく、殆ど隙がなかった。

 

汐達が攻撃を受け流せば受け流す程、建物は悲鳴を上げ、崩壊へと近づいていた。

 

(倒壊する!!瓦礫で周囲が見えない・・・)

 

宇髄は爆薬を取り出し、瓦礫を吹き飛ばすが、その隙を妓夫太郎は見逃さなかった。

 

(速い、本当に蟷螂みたいな奴だ。なんだこの太刀筋は・・・)

 

両手から繰り出される太刀筋の読めない斬撃が、毒で弱った宇髄を容赦なく襲う。そしてそれに加えた彼の血の斬撃が、後方から宇髄に狙いを定めていた。

 

(逃げ道がねぇ)

 

斬撃が宇髄の身体に食い込む寸前、その間に滑り込む者があった。炭治郎が素早く入り込み、その斬撃を受け止めたのだ。

 

(ぐあああ重い!!攻撃が重い!!流せ!!受け流せ!!まともに受けたら、刀が折れる!!)

 

見た目よりも遥かに思い攻撃に、炭治郎は歯を食いしばり必死で耐えた。だが、そんな炭治郎の死角から、堕姫の帯が襲い掛かる。

 

「させるか!!」

 

その帯の間に汐が入りこみ、炭治郎が斬られるのを防ぐと汐は口を開き、高らかに叫んだ。

 

「いつまでへばってんだぼんくら共!!死ぬ気で気張れクソッタリャア!!」

 

――ウタカタ 壱ノ旋律――

――活力歌(かつりょくか)!!!

 

汐の歌が響き渡り、炭治郎と宇髄の身体に熱を持たせ、炭治郎は咄嗟に水の呼吸を用いて斬撃を受け流した。

 

――音の呼吸 伍ノ型――

――鳴弦奏々(めいげんそうそう)!!!

 

宇髄の日輪刀が爆ぜながら回転し、その勢いで身体を前に進ませた。先ほどよりも威力が上がった攻撃に、妓夫太郎は目を見張った。

 

*   *   *   *   *

 

一方、汐の歌は屋根上にいた善逸と伊之助の耳にも届き、彼等にも活力を与えた。

 

「うおおお!なんだこりゃあ!?力が漲ってくるぜェ!!」

 

伊之助は高らかに叫ぶと、二本の刀を構え堕姫に突っ込んでいった。堕姫は一瞬顔を歪ませるも、その場から動かず帯で伊之助の道を遮断する。

 

「アンタはまきをを捕らえた時に邪魔をした奴ね。遠目にしか見ていなかったけれど美しかったわ。アンタは全員殺した後味わって食べてあげる!」

「ハッ!気色悪りぃ蚯蚓に喰われるなんじゃ、冗談じゃねえ!!そのキンキンうるせぇ口、二度と利けなくしてやるぜ!!」

 

汐の歌で士気が上がった伊之助は、声高らかに再び突っ込んでいくのだった。

 

(騒がしい技で押してきた所で意味がねぇんだよなあ)

 

妓夫太郎がにやりと笑った瞬間、宇髄の行く手を帯が阻み、その隙をついて妓夫太郎の攻撃が迫った。

すると、宇髄の横から汐と炭治郎が飛び出し、汐が堕姫と対峙した時のように帯を日輪刀で縫い留めた。

 

(役に立て!!少しでも攻撃を減らせ!!勝利の糸口を見つけろ!!)

(活力歌の効果が切れる前に、こいつらの連携を何とか崩すのよ!!)

 

汐と炭治郎は歯を食いしばりながら、必死で二つの攻撃を受け流していき、そんな二人を見て宇髄は目を剥いた。

 

(アイツら、もうやべぇぞ。動けているのが不思議なくらいだ。竈門は背中の、大海原は全身の傷が相当深い。止血はしてるようだがギリギリだ・・・。俺が毒を喰らっちまったせいで、早くカタを付けなければ全滅だ!!)

 

「アハハハハッ、死ね不細工共!!」

 

堕姫は笑いながら、無数の帯で近づこうとする善逸と伊之助を薙ぎ払う。それに加え、妓夫太郎の血の斬撃が飛び交い、善逸と伊之助は防戦一方だった。

 

「帯に加えて血の刃が飛んでくるぞ、何じゃこれ!!蚯蚓女に全然近づけねぇ!!」

 

特に血の斬撃は猛毒であり、掠っただけでも命に関わるということが、伊之助は文字通り肌で感じていた。

 

「くそォォォ!!特に血の刃はやべぇ!!掠っただけでも死ぬってのをビンビン感じるぜ!しかもさっきまで調子よかったのに、体が重くなってきやがった!!」

 

伊之助は苛立ちを隠しきれず、悪態をつきながら動き回り、善逸も歯を食いしばりながら必死で攻撃をよけ続ける。

 

下でも汐と炭治郎、そして宇髄が必死に鬼の猛攻に食らいついていた。

 

(ふざけてんじゃねーわよ!!ウタカタが切れた上に、新たに歌う暇すらない!炭治郎も派手男も、いい加減にやばいわよ!!)

 

鬼の攻撃も勿論だが、妓夫太郎と堕姫の一番の脅威はその連携だ。統率されたその動きを崩さない限り、汐達に勝利はない。

それはわかっているのだが、猛攻で息が続かず、意識まで飛びそうになっていた。

 

(踏ん張れ、踏ん張るのよ!!何があっても最後まで足掻け!あきらめるな!!)

 

既に手当てされた傷は開き、焼けるような熱さが汐を襲う。しかしそれでも、引くわけにはいかない。ここで死ぬわけには絶対にいかない。

だが、このままでは状況が変わらない。万事休すか、と、誰もが思ったその時だった。

 

屋根の上に気配を感じ、妓夫太郎が顔を上げるとそこには、黒髪を一つに結んだ女性が一人立っていた。

彼女は大量のクナイが装てんされた、銃のような大型の装置を構え、妓夫太郎に向けて放った。

 

黒いクナイの雨が、妓夫太郎に向かって降り注ぐ。

 

(なんだ、クナイか。柱を前にこの数全て捌くのは面倒だなぁ。ちまちまと鬱陶しいぜ。ヒヨコの鬼狩りも四人いるしなあ。まぁ、当たった所でこんなもの・・・)

 

そこまで考えて、妓夫太郎は違和感を感じた。

 

(いや、そんな無意味な攻撃今するか?)

 

日輪刀で頸を斬られない限り、鬼は死ぬことはない。それ外の武器で傷をつけられても、すぐに治癒してしまうためかすり傷にすらならない。

その事は鬼狩りならわかっていることである。だからこそ、妓夫太郎はこの攻撃に何か意図があるということを瞬時に察した。

 

血鬼術――

――跋弧跳粱(ばっこちょうりょう)

 

妓夫太郎は両手の鎌と血の斬撃を自分の周りで振り回し、その遠心力と刃でクナイの雨を防いでいた。

 

(斬撃で天蓋を作ってる!!)

 

攻撃が防がれた事に女性は息をのむが、息をのんだのは彼女だけではなかった。

宇髄が妓夫太郎の隙を狙い、一気に突っ込んできたのだ。

 

(オイオイオイ、何だ何だコイツは。突っ込んで来るぞ。しかも刺さってんじゃねぇか、テメェにもクナイが)

 

妓夫太郎の言う通り、宇髄の身体にも何本ものクナイが突き刺さっていた。しかし宇髄は全く痛がる様子を見せず、ただ目の前の鬼に刃を振るうことだけを見据えているようだった。

 

(そうか、忍だ。剣士じゃない。元々コイツは感覚がまともじゃねぇ)

 

妓夫太郎はすぐに宇髄の頭部に向かって鎌を振るうが、彼は姿勢を瞬時に落とし斬撃を躱すと妓夫太郎の頸ではなく足に向かって刃を振るった。

周りの瓦礫と共に妓夫太郎の両足が切断され、それに意識が向いたとたんに彼の頸に一本のクナイが刺さった。

 

その刹那。

 

参ノ旋律――

――束縛歌(そくばくか)!!!

 

汐の歌が響き、妓夫太郎の全身が硬直した。彼はすぐに振り払おうとしたが、体が言うことを聞かず足も再生していなかったことに気づいた。

 

(足が再生しない上に、暗示も振り払えない。やはり何か塗られていた。このクナイ、おそらく藤の花から抽出されたもの。体が痺れ・・・)

 

妓夫太郎は首筋に刺さるクナイを忌々し気に睨みつけ、舌打ちをしたその瞬間。

 

炭治郎が前に飛び出し、その頸に向かって漆黒の刃を振るった。

 

(やるじゃねぇかよ。短時間で統制がとれ始めた・・・。おもしれぇなぁあ)

 

そんな状況に、妓夫太郎はにやりと気味の悪い笑みを浮かべた。

汐はどちらに値すると思いますか?

  • 漆黒の意思
  • 黄金の精神
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