ウタカタノ花   作:薬來ままど

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戦いはいよいよ佳境。はたして勝つのはどちらか

(展開に大きな矛盾が見つかったため、誤字脱字含め修正し再投稿させていただきました)


二十一章:決着
壱(再投稿)


――雷の呼吸 壱ノ型――

 

汐を解放した後の善逸は、そのまま柄に掛けた手に力を込めた。堕姫は善逸に向けて帯を伸ばし、その体を引き裂こうとした。

 

(あんたの技の速度はわかってんのよ!!何度も見てるからね!!)

 

――霹靂一閃

 

(どけ、不細工!!)

 

堕姫の帯が善逸の身体を薙ごうとしたその時だった。

 

神速!!

 

善逸の姿が消え、堕姫が彼を認識した時に、既にその刃は彼女の頸を穿っていた。

その反動で瓦が瞬時に砕け、瓦礫と化して降り注ぐ。

 

その速さと首に亀裂が入ったことで、堕姫は驚愕を顔に張り付け青ざめた。しかも、先ほど汐に投げつけられたクナイの毒のせいで、微かだが動きが鈍っていた。

 

(き、斬られかけてる!!まずい!!こいつがこれ程動けるとは・・・!しかも、さっきのクナイのせいで、身体にうまく力が入らない!!)

 

焦りを見せる堕姫に、善逸は歯を食いしばり全身全霊の力を刀に込めた。

 

(斬れろ、斬れろ、振り抜け!!霹靂の神速は二回しか使えない、足が駄目になる!)

 

善逸の足はすでに無数の傷がつき、血が球となって飛び散っていた。

 

(さっき瓦礫から出るために、一度使ってるから後がない。そしてもう今以外、頸を狙える機会は訪れない!!炭治郎と汐ちゃんがこの千載一遇を作ったんだ!絶対に斬る!!絶対に!!)

 

「「ぬううあああああああああ!!!」」

 

刀を振り下ろす炭治郎と、その上から体重をかけ押し切ろうとする汐の咆哮が重なり響き渡った。

しかしそれ程までしていても、妓夫太郎の頸には刃が食い込みすらしなかった。

 

(クソッタレ!!なんで斬れないのよこいつ!!馬鹿じゃないの!?馬鹿じゃないの!?)

(毒で弱体化しているはずなのに、汐の力を合わせてもまだ力が足りないのか!!)

 

二人が苛立ちを顔に表したその時。妓夫太郎のの両腕から血の刃が飛び出す兆候が表れた。

 

(毒からもう回復した!!巻き込んで斬り裂かれる・・・!!)

「汐、離れろ!!」

 

炭治郎の鋭い声が飛び、汐は舌打ちをしながらその場から飛びのき、それと同時に妓夫太郎の両腕から回転する刃が飛び出した。

 

「炭治郎!!」

 

炭治郎の刀が押し戻され、そのまま体ごと弾き飛ばされた。しかもその隙を突いて、血の刃は汐と炭治郎を容赦なく襲った。

 

(あああ、もう少しだったのに、あともう少しでっ・・・!)

 

「諦めるな馬鹿野郎!!!最後まで足掻けーーッ!!」

 

汐は飛ばされながらも、炭治郎に向かって檄を飛ばしていた。

 

(そうだ、汐の言う通りだ!喰らい付け、最後まで!!)

 

炭治郎の目に光が宿り、飛び交う血の刃を捌き始めた。

 

「このガキ共オオオオ!!!」

 

激昂した妓夫太郎の怒号が響き渡り、毒を分解したせいか技の速度が急激に上がり炭治郎を押し返した。

そしてそのまま、鎌の先端が炭治郎に突き刺さろうとした瞬間。

 

金属同士がぶつかる甲高い音が響き、目を見開けば炭治郎と妓夫太郎の間には宇髄の姿があった。

片腕は斬り裂かれて原形をとどめておらず、彼は口でもう一本の刀を咥えながら、妓夫太郎の刃を受け止めていた。

 

目を見開く妓夫太郎のすぐそばで、刀が爆ぜ轟音と粉塵が巻き上がった。

 

(この男、死んでない!さっきは確かに心臓が・・・。そうか、そうかこいつ!筋肉で無理やり心臓を止めてやがったなあ!そうすりゃあ毒の巡りも一時的に止まる)

 

「【譜面】が完成した!勝ちに行くぞォオ!!」

 

宇髄の声が轟音の余韻に浸る空間に高らかに響いた。

宇髄の言う【譜面】とは、彼独自の戦闘計算式。分析に時間はかかるものの、完成すれば敵の弱点や死角すらもわかる。

 

しかし今の彼は毒が回り、敵の攻撃を捌くので手一杯であり頸を狙うことは不可能だった。

 

それを行えるのは、炭治郎と汐のどちらか。しかし鬼も馬鹿ではない。不可思議な技を扱うワダツミの子である汐を狙う確率は非常に高い。

 

だが、宇髄は信じていた。ワダツミの子としてではなく、汐自身の潜在能力を。そして、竈門炭治郎の底力を。

 

宇髄は放たれた刃を全て弾き飛ばし、更に前へ突き進んだ。すでに片腕は機能していないのにもかかわらず、全く衰えることのない技の精度に妓夫太郎も青ざめた。

 

(コイツ・・・!!片腕が使い物になってねえんだぞ!?ありえねえだろうが!!ふざけんなよなああ!!)

 

妓夫太郎の鎌が宇髄の左目を大きく切り裂き、体勢を大きく崩した。しかし彼はそれでも刀を振り抜くが、切っ先は僅かに届かず妓夫太郎の腕を掠っただけだった。

そんな中、背後からは体勢を立て直した汐が、息を吸いながら向かってきていた。

 

「喚き散らすんじゃねえよ!ワダツミの子!!」

 

妓夫太郎は身体を捻って宇髄を躱すと、振り向きざまに左手を振り払い、汐の刀をいとも簡単に弾き飛ばした。

紺青色の刀が弧を描いて飛んでいくのをしり目に、妓夫太郎は今度は右手で持っていた鎌を汐の顔面に向かって振りぬいた。

 

「汐ーーッ!!」

 

吹き飛ばされながらも炭治郎は、汐の名を叫ぶように呼んだ、その時だった。

 

硬いものがぶつかるような音が響き、妓夫太郎の表情が強張った。

そこには、妓夫太郎の鎌を歯で噛んで受け止めている汐の姿があった。

 

「はああああ!?」

 

妓夫太郎が思わず叫ぶと、汐は鎌を噛み砕き、空いた手を妓夫太郎の目に突き刺すと、そのまま目玉を抉り取った。

 

「ギアアアアアア!!!」

 

妓夫太郎の濁った悲鳴が響き、足元が大きくぐらついた。だが、それでも彼は汐に向かって血の刃を飛ばし、その一つが汐の額を滑り真っ赤な花を咲かせた。

 

「うしっ・・・」

「怯むな、やれえ!!!」

 

思わず声を上げる炭治郎だが、汐の雷のような声に身体を震わせ、彼はそのまま大きく跳躍すると刀を振り上げた。

 

(クソが、クソが!!なめやがってガキ共が!!)

 

しかし妓夫太郎は急速に目を再生させると、残った鎌で炭治郎の顎を貫いた。

 

(お終いだなあお前等。あの女もテメエも、毒で死ぬぜ)

 

妓夫太郎の顔に勝ち誇った笑みが浮かぶが、炭治郎の目はそれでも光を失わなかった。

 

(斬る!!頸を斬る!!諦めない、絶対に斬る!!最後まで足掻く!!)

 

炭治郎はすでにボロボロになっている手で刀を握りなおすと、そのまま刃を妓夫太郎の頸に叩きつけた。

猛毒が体内に回っているはずなのに、その力は全く衰えていなかった。

 

(コイツ、まだ刀を振りやがる!!馬鹿が、先刻だって俺の頸を斬れなかったくせになああ)

(腕だけじゃ駄目だ、全身の力で斬るんだ!頭のてっぺんから爪先まで使え!身体中の痛みは全て忘れろ!喰らいつけ!渾身の一撃じゃ足りない!!その百倍の力を捻り出せ!!)

 

斬りかかってくる炭治郎を見て、妓夫太郎は息をのんだ。炭治郎の額の傷が、炎の様な真っ赤な文様に変化していた。

 

(なんだ?額の痣が・・・)

 

「ガアアアアア!!!」

 

炭治郎の口から獣のような咆哮が上がり、その気迫に押されて妓夫太郎の全身に鳥肌が立った。

これはまずい、離れなければと本能が警告した。

 

だが、炭治郎の顎を突き刺している鎌はいくら力を込めても抜けず、妓夫太郎は汐に噛み砕かれはしたものの、まだ残っているもう一本の鎌を振り上げた、その時だった。

 

突如青色の閃光が迸ったかと思うと、振り上げた妓夫太郎の腕に僅かな衝撃が走った。思わず目を滑らせると、そこには自分の腕にしっかりと鎬を食い込ませる淡い青色の一本の刀があった。

 

「忘れモン、だぜ・・・」

 

遠くには息も絶え絶えの宇髄が、腕を振り下ろしたままの姿勢でこちらを見ているのが目に入った。だが、刀が刺さった程度で鬼である彼の肉体がどうなるということでもない。

しかしそれは、刺さったままであったなら、ということだった。

 

妓夫太郎が気を取られていた僅かな間に、真っ青な影が滑り込んだ。目を凝らせば、そこには頭から血を流し、口からも血を溢れさせていた汐がおり、己の手のひらで刀を押し込んだ。

刀が滑り、妓夫太郎の腕と刀が共に暗闇の中へ吸い込まれていった。

 

(何故だ、何故だ!?猛毒を受けているんだぞ!?このガキも、この女も何故死なない!?)

 

驚く妓夫太郎に、汐はにやりと笑った後、炭治郎の刀を両手で握りしめた。

 

(まだよ、まだ死なないわ。毒が回り切って死ぬまでの僅かな時間に、あたしは、あたし達はお前等を必ず倒す!!)

 

汐の力も加わり、炭治郎の漆黒の刃が妓夫太郎の頸の半分にまで到達した。だがそれでも、妓夫太郎は何とか筋肉を強張らせそれを防ごうとした。

 

(畜生、こんなガキ共に・・・!まずい、斬られるぞオオオ!!)

 

滑りだす刃に妓夫太郎は焦るが、彼にはもう一人、妹の堕姫がいる。彼女の頸がつながっている限り、彼が死ぬことはない。

そうなれば優先するべきは、堕姫の頸の死守だ。

 

「アンタがアタシの頸を斬るより早く、アタシがアンタを細切れにするわ!!」

 

堕姫の帯が持ち上がり、善逸をバラバラに引き裂こうと伸ばしたその瞬間。

バラバラになったのは善逸ではなく、帯の方だった。

 

何が起こったのか分からず堕姫が首を動かすと、そこには息絶えたはずの伊之助が刀を振りかぶって向かってくる姿があった。

 

(何でよ!?コイツ、お兄ちゃんが心臓を刺したのに!?)

 

伊之助の左胸からは血が流れだしているのが見えているため、刺したことは間違いはない。それなのに何故生きているのか、何故動けるのか。混乱する堕姫に、伊之助は濁った声で叫んだ。

 

「俺の体の柔らかさを見くびんじゃね゙ぇ゙!!内臓の位置をズラすなんざお茶の子さい゙さい゙だぜ!!険しい山で育った俺に゙は、毒も効かね゙ぇ゙!!」

 

しかし伊之助の口からは血があふれ、毛皮を真紅に染めていく。それでも彼は二本の刀を善逸とは逆方向から堕姫の頸へと押し当てた。

 

そのまま渾身の力を込めて、ねじ切る腹だ。

 

「「「アアアアアアアア」」」

「ガッ、ア゙ア゙ア゙ア゙ッ」

 

四つの咆哮が町中に響き渡り、それぞれの刃が鬼の頸をすべる。堕姫は焦りながら兄に助けを求め、妓夫太郎もなんとか回避しようと血鬼術を放とうと試みた。

しかし、それよりも速く刃は遂に頸を穿ち――

 

――二つの頸が弧を描いて、同時に空を舞った。

 

斬り落とされた頸はごろごろと地面を毬の様に転がり、何の導きか兄妹が向かい合うようにして止まった。

 

一瞬、時が止まり静寂が訪れる。その静寂を破ったのは、喜びに満ちた甲高い声だった。

 

「斬った!?斬った!!斬った!!キャーーーーッ」

 

その声は、屋根の上から戦況を見ていた宇髄の妻の一人、須磨のものだった。

 

「斬りましたよ雛鶴さん!草葉の影から見てください!!」

 

須磨は涙を流しながら雛鶴に抱き着くが、その言葉は本来死んだ者に対してつかわれるものであるため、健在である雛鶴への言葉としてはふさわしくない。

まきをはそれを指摘しつつ、須磨の頭を平手でたたいた。

 

ところが、雛鶴は奇妙な違和感を感じて目を見開いた。炭治郎と汐は、毒が回っているせいかそのまま動かない。

そんな二人に宇髄が何かを叫んでいるようだが、よく聞こえない。しかしその表情と口の動きが、ただ事じゃないことを物語っていた。

 

「逃げろーーーーーッ!!!!」

 

宇髄が叫ぶと同時に、頸を失った妓夫太郎の身体から、全方向に向かって血の刃が放出された。

それは炭治郎と汐に首を斬られる直前、最後のあがきで放った血鬼術だった。

 

真っ赤な血の刃が嵐となり、その場にいるもの全員に襲い掛かろうとしたとき、炭治郎を押しのける青い影があった。

 

汐がそのまま前に飛び出し、刃の嵐の前に立ちはだかった。

 

何をしているんだ。逃げろ、逃げろ!

 

炭治郎が心の中で叫ぶが、汐の耳には届かない。汐自身も、聞こえるのは自分の心臓の音と、嵐以外は目にも耳にも入らなかった。

 

(どうする、どうする!?あれを喰らえばこの場にいる全員お陀仏だ。爆砕歌じゃ防ぎきれないし、狂瀾怒濤でも無理だ。回転する刃を何とかしなければ・・・。回転、回転・・・。回【転】・・・)

 

その瞬間。襲い来る刃の嵐が急速に遅くなり、細部まではっきりと見えるようになった。それと同時に、汐は顔に焼けるような熱を感じた。

 

――ウタカタ 伍ノ旋律・転調――

 

――爆塵歌(ばくじんか)!!!

 

「あああああああああああああ!!!!!」

 

汐の口から、否全身から放たれた声の竜巻が、刃の嵐を巻き込み砕いていく。その反動はすさまじく、炭治郎、宇髄、善逸、伊之助、そして宇髄の妻たちは、襲い来る衝撃に耐えようと、固く目を瞑った。

 

やがて声の竜巻は全ての刃を砕くと、そのまま風に乗って掻き消えていった。

辺りには今度こそ、本当の静寂が訪れようとしていた。

汐はどちらに値すると思いますか?

  • 漆黒の意思
  • 黄金の精神
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