ウタカタノ花   作:薬來ままど

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※関西弁苦手なので、ところどころおかしいですが、ご了承ください
※名前の呼び方などは捏造です


二十三章:刀鍛冶の里


「それでは、こちらでお待ちください」

 

ひょっとこの面をつけた者たちに通された部屋で、汐と甘露寺は正座をしながら里長を待っていた。

ここにたどり着くまでの間に、汐は甘露寺から少しだけ里長のことを聞かされていた。

 

里長の名は鉄地河原鉄珍(てっちかわはらてっちん)といい、何とも舌を噛みそうな名だが、この刀鍛冶の里を納める立派な人物だという。

更に、甘露寺としのぶの日輪刀は彼が打ったものだということに、汐は少なからず驚いた。

 

「大変お待たせいたしました」

 

二人のお付きの者に連れられてやってきたのは、長めの口のひょっとこのお面をつけた、汐の半分くらいの身長の小柄な老人だった。

汐はもっと逞しい男を想像していたのだが、それとは似ても似つかわしくない外見に思わず息をのんだ。

 

(い、いや、人は見かけによらないわ。善逸だって普段はあんなにみっともないけれど、いざという時は別人みたいになるし)

 

汐は心の中で首を振りながら、そっと座った里長、鉄珍を見据えた。

 

刹那の沈黙が辺りを満たした時、先に口を開いたのは鉄珍だった。

 

「どうもコンニチワ。ワシ、この里の長の鉄地河原鉄珍、よろぴく」

 

彼の口から飛び出したのは、あまりにも軽い口調の言葉。それに汐は面食らい、思わず息をのんだ。

 

「は、はあ、どうも、大海原汐です・・・」

「お久しぶりです、鉄珍様。本日よりお世話になりますので、どうぞよろしくお願いいたします」

 

汐のぎこちない挨拶に対して、甘露寺は深々と頭を下げ、そんな二人を見て鉄珍は、嬉しそうにうなずいた。

 

「うんうん、可愛い娘が二人、ワシ今、とっても幸せ。やっぱり若い娘と話すのはええもんやな」

 

鉄珍の雰囲気に、汐は玄海と似たような気配を感じて思わず固まった。が、汐は彼の言葉に違和感を感じ、顔を上げた。

 

(あれ?今この人娘が二人って言った?ってことはこの人、あたしを女だって見抜いている。つまり、ワダツミの子の特性が効かない人間なんだわ)

 

汐の特性が効かない人間は多くはなく、そのほとんどが並々ならぬ実力者ばかりであり、汐は思わず身体を震わせた。

 

「そっちの青い子は緊張しているみたいやけど、取って食ったりせえへんから安心したってや。あ、そうや。せっかくやし、かりんとうをあげよう」

 

鉄珍はそう言って、甘露寺と汐の前にかりんとうを差し出した。

甘露寺は顔を輝かせるが、汐は少し顔を引き攣らせてかりんとうを見つめていた。

 

「ん?お嬢ちゃん、ひょっとして甘いもん苦手?」

「え、ええ。まあ」

「さよか。でもな、そのかりんとう、普通のかりんとうとちょっとちゃうんや。甘いもんが嫌いな焔が、唯一食べることができるかりんとうなんやで」

「焔って、鉄火場さんの事?」

 

汐は鉄火場も自分と同じ、甘いものが苦手であることを初めて知り目を見開いた。

鉄珍はお面で隠れているため"目"を見ることはできないが、少なくとも嘘をついているようには思えず、汐は恐る恐るかりんとうに手を伸ばすと、意を決して口に入れた。

 

「あ、あれ?」

 

口の中に入れた瞬間、確かに甘いがとても食べやすく、後に残る味ではなかった。

汐は生まれて初めて、甘いものを美味しいと感じた。

 

「何これ、おいしい!甘いのに食べやすい!」

「し、しおちゃん!はしたないわよ!」

 

汐は思わず大声を上げてしまい、甘露寺に諫められると顔を真っ赤にしてうつむいた。

 

「も、申し訳ございません!私の弟子が失礼なことを・・・!」

「ええよええよ。子供は元気が一番。それな、砂糖やのうて、蜂蜜つこてるの。初めてそれを食べた焔も、おんなじ反応しとってな。かわいい子やったわ~」

 

鉄珍は何かを思い出すかのように遠くを見るような仕草をしたが、お付きの者に促されて二人の方を向いた。

 

「さて、二人の刀は前もって預からせてもろたけど、蜜璃ちゃんはともかく、青い子、汐ちゃんやったかな?焔なんやけど、実は今かなり落ち込んでいて、仕事どころじゃないんよ」

「落ち込んでる?まさか、あたしが刀を壊しちゃったせい?」

 

汐は以前にも刀を破損し、鉄火場にものすごく泣かれたことがあったため、そのせいではないかと思い顔を青ざめさせた。

 

しかし、鉄珍は首を横に振って続けた。

 

「ああ、汐ちゃんのせいちゃうよ。実はここ最近、蛍が行方不明になってな。そのせいで焔も仕事に身が入らんようになってしもた」

「蛍?」

 

聞き覚えのない名前に汐が首をひねると、鉄珍は言った。

 

「鋼鐵塚蛍。汐ちゃんも知っとるやろ?あれの名付け親、ワシなの」

 

思わぬ名前を出されて汐は固まり、新たな情報が増えすぎたせいか少しだけ混乱し始めた。

 

「でも何で鋼鐵塚さんがいなくなって、鉄火場さんが落ち込んでるの?あたしが知る限り、あの二人あんまり仲良しには見えなかったけど」

「あの二人な、小さい時から一緒にいろんなことを競い合ってた幼馴染なんや。蛍はようわからんが、焔は蛍に負けとうないっていつもいつも泣いとったんや。その競争相手がいなくなって、やる気が出なくなったんやろ」

 

鉄珍の口から出た思わぬ言葉に、汐は驚いた表情をした。

 

「さっきの続きやけど、蛍の方はワシ等も探しとるし、焔の方もなんとか説得しとるから堪忍してや。蛍は癇癪を起し、焔はすぐに泣きよる。二人共小さい頃からあんなふうや」

 

そう言う鉄珍は、困ったように溜息をついた。

 

「ううん、違うわ。きっとあたしが刀を折ったり刃こぼれさせたりするのがいけないの・・・」

「いや、違う」

 

――折れるような鈍を作ったあの子が悪いのや

 

鉄珍は汐の言葉を遮り、きっぱりと言い放った。その並々ならぬ気迫に、汐は言葉を飲み込み身体を震わせた。

 

「とにかく、鉄火場の事は我々に任せてください。鋼鐵塚の事も、見つけ次第取り押さえます故」

「あ、ああそう。とりあえず殺さないようにしてね。何だか殺気立ってるように見えるから」

 

鉄珍のお付きの者は、大腕を振ってそう言い、汐は引きつった笑みを浮かべて眺めていた。

 

「説得はつづけるけど、もしも焔が刀を打たない場合、別の者を君の刀鍛冶にする。うちの里の温泉は、身体の傷だけじゃなく心の傷にも効くから、後はワシ等に任せて二人ともゆっくり過ごしてや」

 

鉄珍たちの言葉に、汐と甘露寺は深々と頭を下げ、感謝の言葉を述べた。

 

「では、さっそく宿へとご案内いたします」

 

お付きの者が立ち上がり、汐と甘露寺は彼に連れられ部屋を後にした。

 

 

*   *   *   *   *

 

「うわぁ、凄い景色よしおちゃん!こっちに来て一緒に見ましょうよ!」

 

硫黄の匂いと湯煙に包まれる中、一糸まとわぬ姿の甘露寺は興奮したように遠くを指さした。秋の気配が近いのか、木の葉の紅葉が所々で始まっていた。

 

汐は子供の様にはしゃぐ甘露寺に少し引きつつも、体の芯まで温まる温泉を堪能していた。

 

この温泉は怪我や病気にはもちろん、性格の歪みや思いやりの欠如、将又恋の病にまで効くというから驚きだ。

(最も後者は到底信じがたいものだが)

 

「それにしてもみっちゃん、相変わらず凶悪な物持ってるわねぇ」

 

甘露寺の胸元にぶら下がるそれに目を向けながら、汐は少しだけ呆れたように言えば、甘露寺は顔を赤らめながら慌ててそれを隠した。

 

(いや今更隠されても、隊服から結構見えてるし。あんなものひけらかしてたら、世の中の助平男共はありの様に集ってくるんじゃないかしら)

 

そんなことを考えていた汐だが、ふと、ある疑問が浮かんだため、思い切って聞いてみた。

 

「ねえみっちゃん。みっちゃんはなんで鬼殺隊に入ったの?あんたに弟子入りしてからずいぶん経つけど、その理由をまだ聞いてなかったと思って」

 

汐の唐突な質問に甘露寺は顔を赤らめ、もじもじと恥ずかしそうに身をよじった。その"目"からは恥じらいの感情が見え、汐は大きな違和感を感じた。

 

「そ、そうね。しおちゃんにはきちんと話しておかないといけなかったわね。ああでも、どうしよう!恥ずかしいわ~」

「鬼殺隊に入る恥ずかしい理由って何なの?」

 

汐がたまらず問いただすと、甘露寺は「あんまり言いふらさないでね」というと、先ほどよりも顔を赤くして叫んだ。

 

「私が鬼殺隊に入った理由はね・・・、添い遂げる殿方を見つけるためなの!!

「・・・はい?」

 

甘露寺の思いがけない言葉に、汐の思考は停止した。汐の知る限り、鬼殺隊に入った理由の多くは、凄惨な過去を経験しているためであり、自分自身や炭治郎もそれに当てはまった。

善逸や伊之助の様に、しょうもない理由で入隊した者もいるのだが、甘露寺の動機はそれを凌駕するものだった。

 

「やっぱり自分よりも強い男の人がいいでしょ?守ってほしいもの!しおちゃんも女の子だから、私の気持ちわかるわよね?」

「え?あ、うん。確かに、自分よりも貧弱な奴はちょっと遠慮したいかもね」

 

汐は顔を引き攣らせながらそう言うと、甘露寺は「そうよね~」と嬉しそうに笑った。

しかし汐は心の中で思っていた。

 

(みっちゃんと添い遂げられる強い男って、早々見つからないんじゃないかな。っていうか、みっちゃんの力自体が化け物級だから、悲鳴島さんとかあれぐらいの人じゃなきゃ無理なんじゃないかな)

 

「でもね、本当はそんな人なんていないんじゃないかって、思うこともあったのよ」

「え?」

 

突然声を落とした甘露寺に、汐は驚いて顔を向けた。

 

「しおちゃんは、私の力がすごく強いことは知ってるわよね?でもね、それは鍛えたからだけじゃないの。私の身体はね、普通の人とは違って筋肉の密度が八倍もあるらしいの」

「は、八倍!?」

 

飛び上がる汐をしり目に、甘露寺はさらに続けた。

 

「そのせいかはわからないけど、私ってたくさん食べるでしょ?しおちゃんはもう慣れただろうけど、普通の人が見たらみんなびっくりしちゃうから、この事はお見合いが破断した日から隠さなきゃって思ったの」

「お見合いが破談って、なんで?」

 

甘露寺の話では、桜餅の食べ過ぎで髪の色が変わってしまい、加えて彼女の特異体質のせいで二年前にお見合いが破談になってしまった事があった。

だから彼女は、それをひたすら隠した。神を黒く染め、食べたいものを我慢し、嘘をついて力が弱い振りをしていた。

 

「でもね、そうしているうちに、これが本当に正しいことなのかわからなくなったの。いっぱい食べるのも、力が強いのも、髪の毛も全部私なのに、私は私じゃない振りをするの?って。私が私のまま出来ることや、人の役に立てることもあるんじゃないかな?ありのままの私を好きになってくれる人はいないのかなって」

 

そう言って俯く甘露寺を、汐は呆然と見つめていた。初めて聞かされた、甘露寺蜜璃という人間の過去。

偽りの自分を演じながらも、心のどこかでそれを疑問に思う、矛盾した気持ち。他の者とは少し異なるものの、彼女も彼女なりに苦しんできたことを、汐は今初めて知った。

 

「あ、ごめんね、こんな話聞いてもつまんないわよね。忘れて――「つまんなくなんかない」

 

甘露寺の言葉を遮り、汐はぴしゃりと言い放った。

 

「他人が何を言おうが、関係ないわ。そんなの、そいつらが勝手に嫉妬して勝手に怖がってるだけじゃない。誰のものでもない、みっちゃんだけがもつ才能だもの。そんな奴ら気にしないで、胸張ってふんぞり返ってればいいのよ!」

 

汐は鼻を鳴らしながらそう言い放ち、甘露寺ははっとした様子で言葉を聞いていた。

 

それはかつて、輝哉に言われた言葉と似ているように思えた。

 

『素晴らしい。君は神様から特別に愛された人なんだよ、蜜璃。自分の強さを誇りなさい。君を悪く言う人は皆、君の才能を恐れうらやましがっているだけなんだよ』

 

(似ているわ・・・。私の居場所を与えてくださった人と、似た言葉を・・・)

 

甘露寺の目には涙がたまり、心の底から汐を継子にしてよかったと感じた。

 

「ありがとうしおちゃん。私、あなたと会えて本当に良かったわ!あなたがたくさんの人に愛されている理由も、わかった気がする」

「愛されてる?本当かなあ?少なくともオコゼ野郎と蛇男からは嫌われてると思うけどね」

 

汐は苦々しげにそう言ったが、ふと、あることを思い出して一つ尋ねた。

 

「あ、そうだ。唐突に聞くけどみっちゃん、あいつ、あの蛇男の事はどう思ってるの?」

「蛇男って、もしかして、伊黒さんの事?」

「うん。非番の日にはよく食事に出かけてるって言ってたし、文通もしてるって言ってたから仲がいいんじゃないかと思って」

 

それは何気ない言葉だったが、甘露寺の心を乱すには十分だったらしく、赤らめていた顔がさらに赤くなった。

 

「い、伊黒さんとは、その。靴下をくれたり、一緒に出掛けたりするけど、でも、その・・・」

 

途端に口数が少なくなり、しどろもどろになる彼女に、流石の汐も察した。

 

(あ、こりゃ脈ありだわ。でもあの様子じゃ、あいつがみっちゃんの事を好きだってことには気づいてなさそう。あたしから見れば、あからさますぎて逆に引くのに、恋は盲目ってこういうことを言うのね)

 

師匠と弟子の関係であるにもかかわらず、精神面では完全に逆転する二人を、傾きかけた太陽は優しく照らしているのだった。

汐はどちらに値すると思いますか?

  • 漆黒の意思
  • 黄金の精神
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