ウタカタノ花   作:薬來ままど

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ホワイトデー特別編
恋愛要素有り


縁、結びし(ホワイトデー特別編)

「いたっ!」

 

洗面台の前に立っていた汐は、髪に痛みを感じて小さく悲鳴を上げた。視線を動かせば、小さな櫛が髪に引っ掛かってしまっていた。

顔をしかめながら櫛を外すと、歯の一部が小さく欠けてしまいそこに真っ青な髪が引っ掛かっていた。

 

「あちゃーっ。また壊れたか。やっぱり手ごろな櫛じゃあ駄目か」

 

汐はがっかりした表情で櫛を外すと、かけてしまった櫛をまじまじと見つめた。

 

「あれ?どうしたんですか?」

 

そんな汐の元に、通りかかったきよが怪訝そうな顔をして問いかけた。

 

汐は欠けてしまった櫛をきよに見せながら、困ったように笑いながら言った

 

「あたし、体質のせいかそれとも海暮らしが長かったせいか、髪が傷みやすくて櫛が通りづらいのよ。そのせいで、櫛もすぐに壊れてしまうことも多いの」

 

「そうだったんですね」

 

「別に生活に支障があるわけじゃないからいいんだけど、でも、やっぱり。見た目が綺麗な方が少なくとも悪い印象は与えないわよね」

 

髪を指でつまみ、汐は複雑な表情で姿見を見つめた。今まで身だしなみに無頓着だった彼女が気にするようになったのは、ある人物の影響が強かった。

 

そうでなくてもただでさえ男と間違われるため、せめて見た目だけでも女らしくなりたいと思う気持ちもある。

 

(とはいえ、この櫛はもうだめね。もっといい素材の櫛があればいいんだけれど、結構するからなあ)

 

「あの。その櫛、供養に出しましょうか?」

「え、いいの?」

「はい。任せてください」

「ありがとう。あたし、これから任務だから宜しくね」

 

汐は櫛を丁寧に紙に包むと、きよに渡してその場を後にした。その後ろから炭治郎が角を曲がってくることに気づかないまま。

 

 

*   *   *   *   *

 

 

「ただいまー!あー、疲れた!!」

 

単独任務が終わり汐が蝶屋敷に戻ってくると、玄関に見覚えのある履物があった。炭治郎と禰豆子のものだ。

 

そのまま屋敷に上がり、荷物を下ろしていると奥から炭治郎が姿を現した。

 

「あ、汐。帰ったのか!」

 

汐の姿を見るなり、炭治郎は嬉しそうに駆け寄ってきた。心なしか、彼の目がいつもより輝いているように見える。

 

「あんたも帰ってたのね。それより何だか嬉しそうだけど、何かあったの?」

「汐を待ってたんだよ。お前に渡すものがあって」

 

渡すものと言われ、汐が怪訝そうな表情をすると、炭治郎は徐に懐から小さな包みを取り出した。

 

「なんだろう?開けてみてもいい?」

「ああいいぞ」

 

炭治郎の許しをもらい、汐はすぐさま包みを開けると、そこにあった物を見て目を見開いた。

 

「これって・・・櫛?」

 

そこにあったのは魚が描かれた、一つの櫛だった。

 

「ああ。この前きよちゃんが汐の櫛が壊れてしまったって聞いたから、任務の帰りに買ってきたんだ」

「買ってきたって・・・これ、かなりいい櫛じゃない。結構したんじゃないの?でも、なんで?」

 

驚きのあまりしどろ戻りになる汐に、炭治郎は少し照れ臭そうに言った。

 

「前にお前が俺に根付をくれただろ?そのお礼がまだだったから、それも兼ねてだ。もしかして気に入らなかったのか?」

 

炭治郎の言葉に汐は首を横に振ると、櫛を両手で包むようにして持ちながらほほ笑んだ。

 

「ありがとう。凄く、凄くうれしい!大切に使うわね」

「あ、ああ!」

 

汐の幸せそうな笑みと、心からうれしそうな匂いに炭治郎の胸が音を立て、顔に熱が籠った。そんな彼の眼はいつも以上に輝き汐の心も皺背にさせていた。

 

翌朝。

 

「~~~♪」

 

鼻歌を歌いながら汐は炭治郎からもらった櫛で髪を梳かす。よい品物のせいか、汐の硬めの髪質でも滞りなく歯が通っていた。

 

そのせいかはわからないが、心なしか髪に艶が出たようにも見えた。

 

そんな汐の背中に、しのぶは笑いながら声をかけた。

 

「おはようございます、汐さん」

「あ、しのぶさん。おはよう!」

 

いつも以上に元気な声に、しのぶの表情が自然に緩む。するとその隣から別の人物がひょっこり顔を出した。

 

「おはよう、汐ちゃん」

「あれ、甘露寺さん?来てたの?」

 

思わぬ人物の登場に汐は驚き、甘露寺は任務を済ませ、少しだけ休むために蝶屋敷を訪れたことを言った。

 

「それにしても、汐ちゃんずいぶんうれしそうね。何かいいことでもあったの?」

「うん。櫛を新しくしたら、髪が少しだけよくなった気がするの!」

 

汐はそう言って今使っていた櫛を二人に見せた。魚の文様が描かれた本つげの櫛。二人の目からしてもかなりいいものであることが分かった。

 

「あら素敵な櫛。しかも本つげね。どうしたの、これ?」

「炭治郎があたしにくれたの。あたしが櫛を駄目にしたことを知って、わざわざ買ってきてくれたみたい。あいつって本当に気が利くわよね」

 

そう言って笑う汐だが、しのぶと甘露寺は目を見開くと互いに顔を見合わせた。そして。

 

「きゃあああああああ!!!」

「あらあら、まあまあ」

 

突然甘露寺が頬を染めながら突然甲高い声を上げた。それに汐は思わず肩を震わせ、しのぶはにやけつつも、大声を出す甘露寺を静かに諫めた。

 

「ご、ごめんなさい。でもあまりにもその、可愛らしくて」

 

甘露寺がそう言うと、しのぶもそれに少しばかり同意した後二人は汐に向き合った。

 

「汐さん。男性が女性に櫛を送る意味をご存じですか?」

「意味?知らないけど、なんか意味があるの?」

「ちゃんとあるのよ。とても素敵な意味が。あのね、殿方が女性に櫛を送る意味はね――」

 

 

 

*   *   *   *   *

 

その頃別の場所では。

 

「あれ?炭治郎何かいいことでもあった?」

 

炭治郎からうれしい音がする事を感知した善逸が、怪訝そうな顔で彼を見つめていった。

 

「ああ。この前の任務の帰りに、汐に贈り物を買ったんだ。この間汐にもらったもののお返しができていなかったから」

 

炭治郎の言葉に善逸は顔を歪ませると「へぇ~」とだけ答えた。

 

「でもまさかあそこまで喜んでくれるとは思わなかったよ」

「俺もお前の惚気話を聞かされるとは思わなかったよ」

 

と、善逸はぶっきらぼうに言うが、ふと炭治郎が何を贈ったのかが気になった。

 

良くて天然、悪く言えば鈍感な彼が、女の子を喜ばせる贈り物を贈ったことが気になったのだ。

 

「ところでお前何を汐ちゃんに贈ったんだ?あの子が喜ぶって相当だと思うんだけど・・・」

「ああ、櫛だよ。汐が櫛を欲しがっていたってきよちゃんから聞いて、それで・・・」

 

しかし炭治郎がそれ以上言葉を紡ぐ前に、善逸の拳が炭治郎の左頬を強く穿った。不意のことで受け身が取れず、炭治郎の身体はなすすべもなく吹き飛ばされた。

 

「な、なにをするんだ善逸!!」

 

いきなりの事に流石の炭治郎も憤慨し、体を起こして声を荒げた。だが、

 

「何をするんだはこっちの台詞だ馬鹿野郎!!お前、お前それがどういう意味なのかわかってやってんのかあああ!!」

 

何故か善逸は顔を真っ赤にしながら、唾を飛ばしてまくし立てた。その尋常じゃない様子に炭治郎の怒りは瞬時にしぼみ、恐れに変わる。

 

「ど、どういうことなんだ善逸。なんでそんなに怒っているんだ?」

「どうもこうもあるか!!お前、男が女の子に櫛を贈る意味を知っているのか!?」

「え?何か意味があるのか?」

 

炭治郎が聞き返すと、善逸の怒りはさらに激しくなり「くぁwせdrftgyふじこlp!!」と途中から声にならない声を上げた。

 

「いいかこの鈍感馬鹿野郎!!女の子に男が櫛を贈る意味ってのはなあ!!!」

 

 

 

 

――『求婚』の意味なのよ(なんだよ)――

 

その後、顔を合わせた二人の関係がしばらくぎくしゃくしたことは言うまでもなかった。

この作品の肝はなんだとおもいますか?

  • オリジナル戦闘
  • 炭治郎との仲(物理含む)
  • 仲間達との絆(物理含む)
  • (下ネタを含む)寒いギャグ
  • 汐のツッコミ(という名の暴言)
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