ウタカタノ花   作:薬來ままど

133 / 171
二十五章:招かれざる客


人形との訓練で、汐と炭治郎は新たな力に目覚めた。

 

汐は相手の隙の位置を視覚的に捉えることができる【青の(みち)】。炭治郎は匂いにより相手が次に狙ってくる場所がわかる【動作予知能力】。

 

二人共死に近しい経験をしたことで得た能力であり、柱よりも反射や反応が遅い二人が彼らに匹敵する動きをするための強力な武器となる。

 

その日も小鉄を監視する汐を加え、炭治郎は人形を使っての特訓にいそしんでいた。

 

「行けぇ、炭治郎!やっちまえーっ!!」

 

汐の声援が飛ぶ中、炭治郎は全身の神経を研ぎ澄ませながら刀を振るっていた。

 

(よし、よし!!わかるぞ動きが!!前よりもずっとよくわかる!!)

 

炭治郎は最初は目で追うこともやっとだった人形の動きが、今や細部までしっかり見えるようになった。

 

(体力も戻ってついていけてる!!)

 

汐の声援が炭治郎の身体に熱を持たせ、力をみなぎらせた。

 

(よし、入る!!渾身の一撃・・・)

 

人形の大ぶりの攻撃を、炭治郎は身体を捻って飛び上がりながら躱し、そのまま人形の首筋に刃を向けた。

だが、刃が届く寸前に炭治郎は思い出した。この人形は老朽化と損傷が激しく、もしも自分の攻撃が当たったら壊れてしまうかもしれない。

 

「斬ってーーー!!!」

 

しかしそれを見抜いた小鉄が、全身全霊で叫んだ。

 

「壊れてもいい!!絶対俺が直すから!!」

 

小鉄は心の中で炭治郎の人の好さを危惧した。大事な局面で躊躇ってしまうことを。

けれど、だからこそ。そんな彼だからこそ。小鉄は炭治郎に死んでほしくないと思った。強く、願った。

 

そしてその願いが通じたのか。炭治郎の刀が人形の首のあたりに綺麗に入った。

 

「入った!!」

 

汐が思わず叫ぶと、炭治郎はその勢いのまま地面に尻を思い切り叩きつけてしまった。

そして持っていた借り物の刀も、役目を終えるかのように真っ二つに折れた。

 

「炭治郎!!」

「大丈夫ですか、炭治郎さん!!」

 

汐と小鉄は尻を抑えて悶絶する炭治郎に駆け寄った。

 

「ご、ごめん小鉄君。借りてた刀折れちゃった」

「あんたねぇ、少しは自分の心配をしなさいよね」

「そうですよ。炭治郎さん、あんた人が良すぎです」

 

二人の言葉に炭治郎は微妙な顔をするが、小鉄が人形の方に顔を向けて小さく叫んだ。

 

振り返ってみれば、人形の頭部が砕けており、その中からは一本の刀が姿を現していた。

 

「で、でた!!なんか出た!!ここここ、小鉄君、なんか出た!!何コレ!?」

 

炭治郎は混乱しているのか、疲労困憊しているはずなのに小鉄を両手で軽々と抱えていた。

 

「いやいやいや、分からないです俺も!!何でしょうこれ!!」

 

小鉄も混乱しているのか、喚きながら炭治郎の両手を使い見事な倒立を決めていた。

 

「あんた達驚きすぎじゃない?ただの刀じゃないの」

「いやいやいや!少なくとも三百年以上前の刀だぞ!?やばいよ、やばいよね、どうする!?」

 

炭治郎と小鉄は全身を真っ赤にして荒い息を吐きながら、人形の中の刀を凝視していた。

 

「・・・あんたらすごい顔になってるわよ?鏡持ってきてあげようか?」

「逆に汐さんはなんでそんなに冷静なんですか!?普通人形の中から刀が出てきたら驚くでしょう!?」

「そう?鬼殺隊なんてやってれば、大抵の事には驚かなくなるわよ」

 

汐はさも当たり前のように言うと、二人は何とも言えない顔で汐を見つめた。

 

「あ、そうだ。炭治郎さん!!この刀貰っていいんじゃないですか?もももも、貰ってください、是非!!」

 

小鉄は興奮のあまり呂律の回らない口でそういうが、炭治郎はその申し出を拒否した。

 

「やややや、駄目でしょ!今まで蓄積された剣戟があって、偶々俺の時に人形壊れただけだろうし、そんな」

「いえいえ、炭治郎さん、ちょうど刀を打ってもらえず困ってたでしょ>いいですよ、持ち主の俺が言うんだし」

「そんなそんな、君そんな」

「戦国の世の鉄は凄く質がいいんです。もらっちゃいなよ。ゆう」

「いいの?いいの?っていうか、ゆうってなに?」

 

再び組体操を始める彼らに、汐は「阿呆かこいつら」と小さく言うと、出現した刀をまじまじと見つめた。

 

「と、とにかく刀ちょっと抜いてみます?」

「そうだね、見たいよね!!」

 

二人は黄色い声を上げながら、はやる気持ちを抑えて刀に手をかけた。

 

だが、鞘から抜き放たれた刀は、見るも無残に錆びついていた。

これを見た二人はあまりの事に地面に突っ伏してしまい、それを見た汐は「忙しいなこいつら」と再び呟いた。

 

「いや、当然ですよね。三百年とか・・・、誰も手入れしてないし、知らなかったし・・・。すみません炭治郎さん、ぬか喜びさせて・・・」

「大丈夫!!気にしてないよ」

 

申し訳なさそうに謝る小鉄に、炭治郎は顔を上げてそう言った。しかしの顔からは涙が流れ落ち、鼻水まで出ていた。

炭治郎の悲壮感漂う顔に、小鉄は罪悪感でいっぱいになり何とかなだめようとした。

 

その時だった。

 

背後から何かの気配を感じ、汐は反射的に振り返った。それと同時に、何かが近づいてくる足音が聞こえてきた。

 

そして木々をかき分けるようにして姿を現したのは――

 

――筋肉隆々の鋼鐵塚の面をつけた大男だった。

 

「うわあああああ!!」

「ぎゃあああああ!!」

 

その風体に炭治郎は勿論、汐ですら絶叫した。

 

「話は聞かせてもらった・・・。後は・・・任せろ」

 

鋼鐵塚はそれだけを言うと、炭治郎の手から刀を奪い取ろうとした。

それを慌てて阻止する炭治郎、小鉄、汐の三人。しかし何故か、三人がかりでも鋼鐵塚と均衡するのがやっとだった。

下手をしたら、汐と炭治郎よりも強いかもしれなかった。

 

「放してください!ちょっ・・・、なんで持っていこうとしてるんです!?」

「何やってんのあんた!これじゃあ強盗じゃないの!!」

 

炭治郎と汐が必死に訴えるが、鋼鐵塚は「俺に・・・任せろ・・・」とだけ言った。

 

「だから何を任せんのよ!」

「任せろ・・・」

「だから何を!?」

「説明してくださいよ!鋼鐵塚さん!!」

 

何を聞いてもそれしか答えない鋼鐵塚だったが、一向に刀を放さない三人にしびれを切らしたのか、突如両腕を振り回した。

 

「俺に任せろと言ってるだろうが!!」

「うわああああ!!大人のする事じゃない!!」

「こんの37歳児!!いい加減にしなさいよ!」

 

――ウタカタ・参ノ旋律――

――束縛歌!!!

 

汐は怒りのあまりウタカタを放ち、鋼鐵塚の身体を拘束した。が、それは一瞬の事で彼は暗示を振り払うと再び暴れ出した。

 

「「ほぎゃああーーーー!!!」」

 

これには汐だけでなく炭治郎も、目玉がまろび出る程に驚いた。万事休すか、と思ったその時。

 

「少年達よ。鋼鐵塚さんの急所は脇です。ここを狙うのです」

 

この場に似つかわしくない冷静な声と共に、鋼鐵塚の背後に回っていた人影が彼の両脇をくすぐった。

 

すると鋼鐵塚は情けない声で笑いながらその場に倒れた。

 

「あ、あなたは・・・、鉄穴森さん?」

 

そこにいたのは、伊之助の刀を打った刀鍛冶師、鉄穴森鋼蔵だった。

 

「ご無沙汰してます。お元気でしたか?」

 

最後に会ったのは、鋼鐵塚、鉄火場と共に伊之助の刀を蝶屋敷に持ってきたときであり、あの時は伊之助の暴挙のせいで二人は散々な目に遭っていた。

 

「お久しぶり、炭治郎君、汐さん。鋼鐵塚さんはくすぐられるとしばしぐったりしますので、私から説明しましょう」

 

鉄穴森は一つ咳ばらいをすると、そっと口を開いた。

 

「二人とも、鋼鐵塚さんを許してやってくださいね。山籠もりで修行していたんですよ」

「山籠もり?」

「修行?」

 

二人がきょとんとしながら聞き返すと、鉄穴森は鋼鐵塚が炭治郎を死なせないよう強い刀を作るために、己を鍛える修行をしていたと説明した。(その時小鉄は、気絶している鋼鐵塚に向かって石を投げつけていた)

 

感動のあまり涙を流す炭治郎に、汐は(刀鍛冶師の修行じゃないんじゃない?)と心の中で冷静に突っ込んだ。

 

「炭治郎君はずっと鋼鐵塚さんに刀をお願いしているでしょう?嬉しかったんだと思いますよ。この人、剣士さんに嫌われて担当外れる事多かったから・・・」

「そうなんですか?」

 

顔を歪ませる炭治郎に、小鉄は鋼鐵塚に対してさらに厳しい言葉を投げつけた。

 

「人づきあいが下手すぎなんですよね、この方。だから未だに嫁の来手もないんですよね」

 

その言葉を聞いた汐は、脳裏に鉄火場の事が思い浮かんだ。悪態をつき、木槌で殴りつけることもあるも、彼に憧れ好意を抱いている彼女の事を。

 

「そう?実は案外近くにいるんじゃない?候補」

 

汐がそう呟くと、炭治郎と小鉄は怪訝そうな顔で汐を見つめた。

その時、倒れていた鋼鐵塚が弾かれるようにして起き上がった。

 

「この錆びた刀は俺が預かる。鋼鐵塚家に伝わる日輪刀研磨術で、見事に磨き上げてしんぜよう」

 

まるで世紀末に迷い込んだ者のような動きでそういう鋼鐵塚だが、小鉄の容赦ない一言が突き刺さった。

 

「じゃあ初めからそう言えばいいじゃないですか、一言。信頼関係も無いのに任せろって、馬鹿の一つ覚えみたいに」

 

すると鋼鐵塚は小鉄の首を掴んで締め上げたので、炭治郎と鉄穴森は慌てて彼のわきの下をくすぐりだすのだった。

 

やがて落ち着いた鋼鐵塚は、錆びた刀を持って仕事場へ向かうと言った。

 

「あ、ちょっと待って」

 

そんな鋼鐵塚を汐は呼び止めると、彼にだけ聞こえる声で言った。

 

「鉄火場さん、あんたからの贈り物、ものすごく喜んでたわよ」

 

鋼鐵塚は一瞬だけ足を止めたが、言葉を発しないまま森の中へと消えていった。

 

*   *   *   *   *

 

「ということが昨日あってさ、刀の研磨が終わるまで三日三晩かかるらしくて、研ぎ終わるのが明後日になるんだ」

 

翌日の昼前。炭治郎はある部屋で煎餅をかじりながらそう言った。

 

鋼鐵塚家に伝わる研磨術。それは想像を絶するほどの苛酷な物らしく、命を落とした者すらいるという。

鋼鐵塚の身を心配する炭治郎は、覗くなと釘を刺されていたのにもかかわらず様子を見に行きたいと言い出した。

 

だが、それを聞いていたのは汐・・・ではなく。

 

「知るかよ!!出て行けお前等!」

 

何故か二人の前には玄弥がおり、目の前にいる汐と炭治郎に怒声を浴びせた。

 

「大体、なんで大海原まで俺の部屋にいるんだよ!?」

「だって人形が壊れてやることもないし暇なんだもの。それと、あたしの事は汐でいいって言ったじゃない」

「そういう問題じゃない!そもそも、女が男の部屋に来ること自体がおかしいんだよ!」

「なんでよ?別に知らない仲じゃないじゃない」

「うるせえな!大体、お前等何友達みたいな顔して喋ってんだよ!!」

 

声を荒げる玄弥に、炭治郎は心底驚いた顔をした。

 

「えっ、俺たち友達じゃないの?」

「違うに決まってんだろうが!!てめえは俺の腕を折ってんだからな!忘れたとは言わせねえ」

 

玄弥は炭治郎にそう怒鳴りつけるが、炭治郎は淡々と曇りなき眼で言った。

 

「あれは女の子を殴った玄弥が全面的に悪いし、仕方ないよ」

「そうよ。っていうか、あんたまだそんな昔のことを根に持ってるの?いい加減に忘れなさいよ」

「うるせーなぁ!!それと下の名前で呼ぶんじゃねえ!!」

 

二人とは対照的に玄弥はぎゃあぎゃあと騒ぎ続け、炭治郎は親交を深めようと彼に煎餅を手渡そうとした。

それを拒否し煎餅を叩き落すが、炭治郎は玄弥の顔を見てある事に気づいた。

 

「あれ?歯が・・・、抜けてなかったっけ?前歯。温泉で」

「前歯?温泉?」

「ああ。実は汐がいない間、どこからか歯が飛んできたんだ。飛んできた方向を見たら玄弥が温泉に入ってて・・・」

 

炭治郎の言葉に汐は玄弥の口の中を見ようと身を乗り出したが、玄弥は口を押えてそっぽを向いた。

 

「見間違いだろ」

 

居心地の悪い沈黙が少し続いた後、玄弥はぽつりとそう言った。だが、汐は玄弥の"目"が嘘をついていることに気が付いた。

 

「玄弥、あんた・・・」

「見間違いじゃないよ。その時の歯取ってあるから」

 

炭治郎は懐から取り出した歯を玄弥の前に突き出した。それを見た玄弥は顔を青ざめさせ叫んだ。

 

「なんで取ってんだよ!気持ち悪ィ奴だな!」

「いやだって、落とし物だし返そうと」

「正気じゃねえだろ!捨てろや!」

「炭治郎あんた、流石にそれはないわ・・・。ありえないわ・・・」

 

きょとんとする炭治郎と対照的に、汐と玄弥は顔を思い切り引き攣らせていた。

 

「ああもう!!お前らいつまで居座ってんだ!!さっさと出てけ!!」

 

玄弥は炭治郎を蹴りだし、汐を押し出すと障子を音を立てて閉めてしまった。

 

「なんであんなにずっと怒っているんだろう。やっぱりお腹が空いているのかなあ」

「あんたが非常識だからでしょ!落とし物って言って歯を持ってくるのはあり得ないわ」

 

汐がきっぱりとそう言うと、炭治郎は納得できないように唇を尖らせた。

 

「あ、さっきは言いそびれたけれど。あたしそろそろこの里を発つことになると思うの」

「えっ、もう?」

「刀もできたし、懐剣の方は置いて行っても問題はないからね。今こうしている間にも、どこかの誰かが鬼に襲われているだろうし」

 

汐は決意に満ちた顔で炭治郎を見た。汐と別れるのは寂しいが、鬼殺隊員である以上当然のことだと思った。

 

「そうか、そうだよな。じゃあ発つときは行ってくれ。見送るから」

「ありがとう、そうさせてもらうわ。さて、あたしは鉄火場さんが気になるし、挨拶も兼ねてちょっと出てくるわね」

 

汐はそう言って炭治郎と別れると、鉄火場の元へ向かった。

 

 

*   *   *   *   *

 

その日は下弦の三日月が掛かった静かな夜だった。

 

一人の鍛冶師の男が、浴衣姿に手ぬぐいをぶら下げた格好で帰路についていた。

 

「ちょっとのんびり長湯しすぎたな。明日も早朝から作業だってのに・・・」

 

下駄の音をからころとさせながら、男は急ぎ足で家路を急ぐ。

 

すると彼の前に、何かが置かれているのが目に入った。

 

それは、美しい模様が描かれた一つの壺だった。

 

「壺?」

 

何故道の真ん中にこのような物が置いてあるのか。それに、こんな場所にあっては、ぶつかって割れてしまい怪我をする恐れもある。

 

「危ねえなあ。誰だ、こんなところに壺なんか置いて・・・」

 

男が壺を片付けようと手を伸ばした、その時だった。

 

壺の中から何かが飛び出し、男の身体を壺の中に引きずり込んだ。

骨が砕ける嫌な音が辺りに響き渡り、男を引きずり込んだ壺はガタガタと激しく揺れた後、まるで生き物のようにその中身を吐き出した。

 

そこには先程まで男が身に着けていた面と浴衣。そして身体の一部が無残な姿で転がり出て来た。

 

「不味い不味い。やはり山の中の刀鍛冶の肉など、喰えたものではないわ。だが、それもまたいい・・・。」

 

壺の中から姿を現したのは、顔の目のある位置に口があり、口のある位置に目があり、顔の横から手をはやした異形の鬼、玉壺だった。

口の部分からは血が滴り落ち、先ほどまで食事をしていたことが伺えた。

 

「しかしここを潰せば鬼狩り共を、ヒョッ、確実に弱体化させられる」

 

玉壺はそう言って嬉しそうに舌なめずりをした。

 

一方、とある建物の上では、老人の鬼半天狗が震えながら蹲っていた。

 

「急がねば・・・急がねば・・・、玉壺のお陰で里は見つかった」

 

半天狗はぶるぶると震えながら、か細い声でつぶやいた。

「けれどもあの御方はお怒りじゃ・・・。早う早う、皆殺しにせねば・・・。あの御方に楯突く者共を・・・」

 

脅威はすぐ傍まで迫っていることに、この時は誰も気づくことができなかった。

この作品の肝はなんだとおもいますか?

  • オリジナル戦闘
  • 炭治郎との仲(物理含む)
  • 仲間達との絆(物理含む)
  • (下ネタを含む)寒いギャグ
  • 汐のツッコミ(という名の暴言)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。