ウタカタノ花   作:薬來ままど

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「鉄火場さん!鉄火場さん!!」

 

汐は、鉄火場の工房の扉を叩きながら声を張り上げた。すると少し間をおいて、中から鉄火場が顔を出した。

「汐殿?こんな時間にどうして・・・。いやそれよりも、里が何やら騒がしいようですが・・・」

 

怪訝そうにそういう鉄火場に、汐は矢継ぎ早に捲し立てた。

 

「鬼よ!里に鬼が出たわ!!」

「えっ、鬼が!?何故・・・」

「いいから早く逃げる支度をして!!」

 

汐の言葉に、鉄火場は慌ててうなずくとすぐさま荷造りを始めた。その間に汐は、刀を抜いて周囲を警戒する。

 

あちこちから鬼の気配はするが、炭治郎のように正確な位置まではわからない。しかしその気配は、先ほど見た分裂する鬼とは異なるものだった。

 

(やっぱりさっきの奴の気配じゃない、別の鬼がいるわ。もしも上弦だとしたら相当やばい・・・!)

 

汐は微かに震える身体を叱咤しながら、神経を研ぎ澄ませた。

 

「お待たせいたしました!」

 

数秒後、風呂敷を抱えた鉄火場があわただしく出て来た瞬間、里中に半鐘の音が響き渡った。

既に鬼の報せは里中に広がっているようだ。

 

「行くわよ!あたしから離れないで!」

 

汐はそう言って刀を納めると、鉄火場の手を取ろうとした。

 

「あ、ちょっとお待ちください!」

「何!?まだ何かあるの!?」

 

汐はこんな時に何を言い出すのかと言わんばかりに、鉄火場を睨みつけた。

 

「鋼鐵塚の元へ行きたいのです。鬼の襲撃を知らせないと。あいつはきっと、この騒ぎを知りません」

「知らないって、これだけ派手に鐘の音が鳴ってるのに、気づかないわけないわよ。きっと逃げてるわ」

 

汐の言葉に、鉄火場は首を何度も横に振った。

 

「いいえ。鋼鐵塚は一度仕事に没頭すると、誰が何をしようとも己の仕事を全うするまで決して動きません。にわかには信じられないかもしれませんが、あの人はそういう人なんです!!」

 

鉄火場は身体を震わせながら叫ぶように言った。汐は一瞬だけ迷ったが、今までの経緯を見て、彼ならありえない事ではないと思いなおした。

 

「わかったわ。鋼鐵塚さんの所に行きましょ!鉄火場さんは何処にいるかわかるのよね?」

「はい!存じております!」

「じゃあ道案内をお願い。走るからあたしの手をしっかり握って」

 

汐はそういうと、鉄火場の手を取って走り出した。勿論、鉄火場の事を考えていつもよりは速度を落として。

 

そのまま汐は、鉄火場を連れて森の中を駆け抜けていた。鉄火場の手から伝わる震えが、不安と恐怖を汐にも伝えていた。

それを感じた汐は、絶対に鬼達の思い通りになどさせないと胸に決意を抱いた。

 

やがて少し進むと、少し前に誰かが走っているのが見えた。

 

(あれは、隊服!そしてあの髪の色は・・・)

 

「あんたっ、時透無一郎!!」

 

汐が叫ぶように呼ぶと、人影の主時透無一郎は汐の方に顔を向けた。

 

「よかった!あんたも無事だったのね!」

 

汐は無一郎の隣を走りながら嬉しそうにそう言った。そんな汐に無一郎は一瞬だけ驚いた顔をしたが、すぐに表情を戻した。

 

「あんたなら気づいているかもしれないけれど、この辺に別の鬼の気配がするわ!多分、さっきのヒトデ爺とは別の――」

 

汐がそう言いかけた時、少し後ろの方で叫び声が聞こえてきた。その声に、汐は聞き覚えがあった。

 

「あの声は・・・、小鉄!?」

 

思わず振り返れば、魚のような怪物に襲われている小鉄の姿があった。

 

汐は足を止め、そちらに向かおうと顔を向けた。だが、それを無一郎は静かに制止した。

 

「どこに行くの?まさか助けに行くつもり?」

「はあ!?何言ってるの、当たり前でしょ!?」

 

汐は苛立ちを隠すことなく無一郎にぶつけた。

 

「あれ、どう見ても子供でしょ?刀鍛冶として技術も未熟なはず。助ける優先順位は低いと思うけど」

 

無一郎の無機質な声に、汐は思わず息をのんだ。

 

「あんたそれ・・・、本気で言ってるの・・・?」

 

汐は声を震わせながら聞き返すが、無一郎はさも当たり前と言ったように汐を見つめ返した。

 

「里全体が襲われているなら、まず里長や技術の高い者を優先して守らない――」

 

「うるせェェェーッ!!!」

 

無一郎の言葉を、汐は遮って叫んだ。

 

「命に優先順位があるかボケェ!!鬼から人を助けんのが鬼殺隊だろうが!!」

 

汐はそう叫ぶと、迷わず小鉄の方へ駆け出した。

 

「小鉄!!」

 

汐が呼ぶと、小鉄はこちらに顔を向けた。小鉄の前には、身体は魚で人間の腕のようなものが生えた化け物が、奇妙なうめき声を上げながらにじり寄ってきていた。

 

「汐さん・・・!?」

「伏せて!!」

 

小鉄が伏せると同時に、汐は怪物の頸に向かって刃を振り下ろした。

だが、怪物は身体が崩れず再生し始めた。

 

「頸を斬っても死なない!?鬼の気配がするのに・・・!?」

 

汐は一瞬焦りの表情を浮かべるが、ふと怪物の背中に壺のようなものが生えているのが見えた。

 

(いかにも怪しい壺・・・、もしかして・・・っ!!)

 

「小鉄、ちょっとこれ貸して」

 

汐は小鉄から半ば強引に刀を奪い取ると、両腕を振り下ろそうとしている怪物の懐に潜り込んだ。

 

海の呼吸 漆ノ型――

――鮫牙(こうが)!!!

 

汐は刀を挟み込むように怪物の胴体に突き刺すと、身体を大きく捻って怪物をねじり切った。まるで獲物を食いちぎる鮫のように。

 

(前に見た、伊之助の獣の呼吸を参考に思いついた技だけど、うまく決まったわ!)

 

怪物の身体が大きく傾き壺が露になると、汐は壺に向かって刀を振り下ろした。

 

壺が砕けると同時に、怪物は形を失い崩れていった。

 

「大丈夫!?怪我は・・・」

「汐さん、後ろです!!」

 

汐が言い終わる前に小鉄が叫んだ。振り返れば、汐の死角からもう一匹の化け物が鋭い爪を振り下ろそうとしていた。

 

間に合わない!小鉄が悲鳴を上げ、汐が固く目をつぶったその時。

 

ふわりと柔らかな風が吹いた。汐が目を開くと、そこには風になびく長い髪と、真っ二つに両断された化け物の姿があった。

 

「君、邪魔だからさっさと逃げてくれない?」

 

声の主、時透無一郎は刀を構えたまま、後ろで震える小鉄に言い放った。

 

「小鉄君、こっちです!」

 

物陰から鉄火場が小鉄に向かって手を伸ばし、小鉄は頷くと立ち上がって走り出した。

無一郎はそれを一瞥すると、呆然としている汐に顔を向けた。

 

「ねえ、ぼさっとしてる暇あるの?君が発端なんだから、最後まで油断しないでよ」

 

そういう無一郎の"目"には、先ほどの冷徹さは消え失せていた。

 

「そうね。助かったわ、ありがとう。でも奴さん、まだやる気みたい」

 

汐の言う通り、真っ二つに斬ったはずの化け物は崩れずに再生していた。

 

「あいつは壺を壊せば倒せるみたい。あたしが注意を引くから・・・」

「いい。一人で十分。それよりも周りを警戒して。まだいくつか気配がする」

 

無一郎はそういうと、目にもとまらぬ速さで化け物の壺を斬り裂いた。

汐は思わず唖然としそうになるが、無一郎の言う通りに周りを警戒した。

 

すると周りからぞろぞろと化け物たちが集まりだした。一匹一匹は強くないが、数が多い。

 

「ええい、面倒くさい!!みんなまとめて吹き飛ばしてやる!」

 

――ウタカタ・伍ノ旋律――

――爆砕歌!!!

 

汐の歌が広範囲に響き、壺ごと化け物を吹き飛ばした。それを見た無一郎は目を見開き、汐を凝視していた。

 

「これで全部かしら。だけど、こいつを生み出した本体は近くにいないようね・・・」

 

汐は周りを見渡しながらそう言い、無一郎は表情を崩さぬまま崩れる化け物を見つめていた。

 

その時だった。

 

「うわあああ、二人共ありがとう!!」

 

隠れていた小鉄が飛び出し、汐と無一郎にに抱き着き涙を流した。

 

「死んだと思った。俺死んだと・・・、怖かった!うわあああ!!!」

 

小鉄はバタバタと手を振りながら、大声で泣き喚いた。余程怖かったのか、未だに膝が震えていた。

 

「昆布頭とか鬼よりも鬼女とか思って悪かったよぅ!ごめんなさい~~~!!!」

 

小鉄は再び二人に抱き着き涙を流すが、小鉄の発した言葉に汐のこめかみがピクリと動いた。

 

「ちょっと待って?昆布頭はともかく、鬼よりも鬼女ってあたしの事!?」

「昆布頭って、僕の事?」

 

二人が詰め寄ると、小鉄は泣きながらそれを肯定し謝った。

汐は十発ほど殴ってやろうかと思ったが、今の状況を思い出して踏みとどまった。

 

「そうだ、あたし達鋼鐵塚さんのところに行くつもりだったの!あんた何か知らない?」

 

汐がそういうと、小鉄の体が大きく跳ねた。

 

「そうだ!俺、そのために助けを呼びに行こうとしてたんです!鉄穴森さんも襲われてて、鋼鐵塚さんが刀の再生で不眠不休で研磨をしてるから・・・」

 

小鉄の言葉に、汐は先ほどの鉄火場の訴えを思い出した。

 

「どうか助けてください!少しでも手を止めてしまうともうダメなんです!!どうか、どうか・・・!!」

 

小鉄は服が汚れるのも構わずその場に突っ伏し、二人に向かって頭を下げた。

それを見た無一郎は、困惑した表情を浮かべる。

 

「ちょっと、男がむやみに土下座なんかするもんじゃないわよ。安心して!あたし達はそのために来たんだから」

「・・・え?」

 

汐の言葉に、無一郎は思わず顔を向けた。そのとき、彼の頭に小さな痛みが走った。

 

『君は必ず自分を取り戻せる、無一郎』

 

それはかつて、自分が大きな傷を負い床に臥せっていた時。

見舞いに訪れていた輝哉に言われた言葉だった。

 

『混乱しているだろうが、今はとにかく生きることだけ考えなさい。生きてさえいればどうにかなる』

 

それはとても優しく、温かな言葉。

 

『失った記憶は必ず戻る。心配はいらない。きっかけを見落とさないことだ。些細なことが始まりとなり、君の頭の中の霞を、鮮やかに晴らしてくれるよ』

 

「ちょっと、大丈夫?」

 

急に黙ってしまった無一郎を心配して、汐は声を掛けた。すると無一郎は座り込んだままの小鉄の手を引くと、そのままひょいと片腕で担いでしまった。

 

「へぁっ!?」

 

間抜けな声を出す小鉄をそのままに、無一郎は汐の方を向いていった。

 

「先に行くよ」

 

無一郎はそれだけを言うと、そのまま小鉄と共に走り出してしまった。

 

あっという間に見えなくなってしまった無一郎に一瞬あっけにとられるが、すぐに頭を振って鉄火場を見た。

 

「鉄火場さん、時間がないからあんたを背負っていくわ!」

「え、でも・・・!」

「つべこべ言わない!ほら、さっさとする!!」

 

汐が怒鳴りつけると、鉄火場は慌ててうなずいて汐の背中におずおずと負ぶさった。

鉄火場が軽いのか汐が鍛えられているのかは定かではないが、不思議と重さは感じなかった。

 

「飛ばすわよ!しっかりつかまって、舌噛まないように気を付けて!」

 

汐はそう言い放つと、足に力を込めて走り出した。

 

一方、小鉄を抱えた無一郎は、走りながらぼんやりと考えていた。

 

(これは正しいのかな?こんなことをしてたら、里全体を守れないんじゃ・・・)

 

『鬼から人を助けんのが鬼殺隊だろうが!!』

 

汐の怒鳴り声が脳裏によみがえると、迷いはまるで霞が晴れるように消えていった。

 

(いや、できる。僕はお館様に認められた)

 

――鬼殺隊霞柱・時透無一郎だから

 

無一郎が到着すると、既に化け物は何匹か入り込んでおり、一人の鍛冶師が襲われていた。

 

菜切り包丁を持ってはいるが、到底武器にはならないだろう。

 

「鉄穴森さん!!」

 

無一郎は叫ぶ小鉄を乱暴に落とすと、そのまま化け物の壺を一太刀で斬り裂いた。

だが、化け物はまだうめき声を上げながら無一郎ににじり寄ってくる。

 

数には問題はない。だが、動けば間合いの外になる小鉄たちが襲われてしまう。

しかし無一郎に迷いはなかった。襲われる前に、全て自分が倒してしまえばいい。

 

無一郎が動き、前方の化け物を一瞬で倒し、小鉄たちに襲い来る化け物も瞬時に倒した。

 

その無駄のない動きに、小鉄たちは目を奪われる。

 

やがて最後の一匹を倒した無一郎が、座り込む二人に近寄ろうとすると、足元から這い寄る様にして化け物が近づいてきていた。

無一郎はすぐに振り向き、刀を向ける。だが、その刃が届く前に、化け物の壺は淡い青色の刀に貫かれた。

 

「油断しないでって言ったのは、どこの誰だったかしら?」

 

止めを刺した汐は少し皮肉めいて笑うと、無一郎は少し呆れたように溜息をついた。

 

「遅い」

「あんたが速すぎるのよ!!あたしを柱みたいな出鱈目人間たちと一緒にしないで!というか、助けてもらった癖に何よその態度」

「別に助けてもらうつもりなかったんだけど」

「あんた、いちいち腹立つわね!!」

 

汐は歯を剥き出しながら怒鳴りつけるが、無一郎はそれを無視して小鉄たちに向き合った。

 

「ねえ、あなたが鉄穴森という人?」

 

鉄穴森が頷くと、無一郎は刃こぼれした刀を彼の前に突き出した。

 

「俺の刀用意してる?早く出して」

 

鉄穴森は無一郎の刀を見るなり、その無残な姿に思わず息をのんだ。

 

「これは酷い刃毀れだ」

「だから里に来てるんだよ」

「なるほどなるほど。では刀をお渡ししましょう」

 

いやにあっさりと通る話に、無一郎は不信感を抱いたのか眉根を寄せた。

 

「随分話が早いね」

 

後ろでは小鉄が「感謝したらいいですよ」と上から目線で口を挟むが、無一郎は完全に無視して言葉を紡いだ。

 

「実は、少し前に炭治郎君に頼まれていたんですよ。あなたの刀の事を。そしてあなたをわかってやってほしいと」

「炭治郎が・・・」

「成程。炭治郎なら言いそう、ううん。絶対に言うわね。あいつは呆れる程お人好しだから」

 

だから好きになったんだけど、と、汐は彼への想いをそっと胸の中に収めた。

 

「だから私はあなたを最初に担当していた刀鍛冶を調べて・・・あっ!!鋼鐵塚さん!!」

 

鉄穴森は思い出したように声を上げ、慌てた様子で駆け出した。汐達も彼を追って足を進める。

 

少し先には一つの小屋があり、鉄穴森はあたりを見回しながら言った。

 

「良かった、魚の化け物はいない!!あの小屋で作業してたんです。中には時透殿に渡す刀もあります!!それを持ってお二人はすぐに里長のところに向かってください!!」

 

鉄穴森はそう言って小屋の中へ入ろうとするが、無一郎は小さく首を横に振った。

 

「いや、駄目だ」

「え、何ですか?」

 

困惑する鉄穴森に、汐も気配を感じたのか鋭く言った。

 

「来てるわ。それも飛び切りやばい奴!!」

 

汐は鉄火場を、無一郎は鉄穴森と小鉄を掴んで制止させた。

 

「ヒョッ」

 

不意にどこからか声がして、少し前の草むらががさりと音を立てた。

それと同時に、壺がひとりでに動いて草の影から出て来た。

 

「よくぞ気づいたなぁ。さては貴様、柱ではないか?」

 

壺の中からにゅるりと何かが伸びあがるように飛び出て来た。

 

全身から人の腕のようなものを生やし、目や口などの位置が滅茶苦茶な異形の姿をした鬼だった。

 

「そんなにこのあばら家が大切かぇ?コソコソと何をしているのだろうな?ヒョッヒョッ」

 

そのあまりの醜悪さに刀鍛冶師達は震えあがり、汐は吐き気を催し、無一郎は表情を崩さずに見据えた。

この作品の肝はなんだとおもいますか?

  • オリジナル戦闘
  • 炭治郎との仲(物理含む)
  • 仲間達との絆(物理含む)
  • (下ネタを含む)寒いギャグ
  • 汐のツッコミ(という名の暴言)
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