「ヒョヒョッ、初めまして。私は玉壺と申す者。殺す前に少々よろしいか?」
玉壺と名乗った鬼は、ニヤニヤとした笑みを浮かべながら頭を下げた。
額と口の位置にある目には【上弦・伍】と刻まれているようだ。
「今宵五方のお客様には、是非とも私の作品を見ていただきたい」
玉壺は複数の腕を動かしながら、嬉しそうにそう言った。
「作品?」
「何を言ってるのかな?」
汐と無一郎は、玉壺の言葉の意味が分からず首を傾げる。
「ではまず、こちら」
玉壺はそう言って手を叩くと、いつの間にかそばには壺がありその口から赤黒いものが飛び出してきた。
「“
壺の中から出て来たものに、全員の身体に鳥肌が立った。
それは、刀鍛冶と思わしき者たちがいくつも組み合わさった、おぞましいものだった。
手足は滅茶苦茶につなぎ合わされ、あちこちに刀が突き刺さり、割れた面からは虚ろな目が覗き、皆夥しい量の血を流している。
あまりの凄惨な姿に、刀鍛冶の三人は言葉も出なかった。
「御覧ください、まずはこの手!」
そんな彼等に、玉壺は嬉々として語りだした。
「刀鍛冶特有の分厚い豆だらけの汚い手を、あえて!私は全面に押し出しております」
うっとりと自分の"作品"の素晴らしさを語り続ける玉壺に反して、鉄穴森と小鉄は震えながら口を開いた。
鉄火場に至っては、口元を手で押さえながら言葉もなく彼らを呆然と見つめていた。
「金剛寺殿、鉄尾さん、
「あああ・・・、鉄広叔父さん・・・!!」
小鉄は面の中からボロボロと涙をこぼしながら、震える声で呼んだ。
「そう! おっしゃる通り!!この作品には五人の刀鍛冶を贅沢に!!ふんだんに使っているのですよ。それ程感動していただけるとは!!」
彼等の反応を湾曲して解釈した玉壺は、更に嬉しそうに手を叩いた。
「さらに刀を刺すことにより“
もはや玉壺の説明は汐達には全く理解できなかった。いや、理解したくなどなかった。
(こいつ・・・、なんてことを・・・なんてことを思いつくの・・・!?残虐さ、異常さ・・・、今までの奴らとは比較にならない・・・!)
あまりの残酷さに汐の身体はぶるぶると震え、殺意が冷たい氷のように全身を流れていった。
「そして、極めつけはこれ!!このように刀を捻っていただくと・・・」
玉壺は刀鍛冶師達に突き刺さっている一本の刀を掴むと、思い切り捻った。
「ギャアアア!!」
その瞬間、刀が刺さっていた鍛冶師の男が耳をつんざくような悲鳴を上げた。
「うわああー、やめろーーっ!!」
小鉄が喚きながら駆け寄ろうとするが、それを鉄穴森が必死で抑えた。
「まさか・・・、まだ意識が・・・息があるのに・・・?」
鉄火場の声は震えを通り越して掠れ、身体は石のように固まっていた。
「その通り!どうですか、素晴らしいでしょう。断末魔を再現するのです!!」
その非人道的に、汐は全身から血管を浮き上がらせ、怒りの言葉を吐こうと口を開いた時だった。
「おい、いい加減にしろよクソ野郎が」
今までにない程の怒りに満ちた無一郎の声と共に、彼は目にもとまらぬ速さで玉壺を斬りつけた。
だが、玉壺はそれを上回る速さで壺の中に引きこみ、その一太刀を避けた。
そのまま玉壺は、いつの間にか置かれていた屋根の上の壺に移動していた。
「まだ作品の説明は終わってない!最後までちゃんと聞かれよ」
話を中断されたせいか、玉壺は不機嫌そうな声色で言い放った。
(あいつ、あんなふざけた姿してるくせに、移動速度が速い・・・!)
焦る汐に反して、無一郎は冷静に玉壺の動きを観察していた。
(壺から壺へ移動できる・・・なるほど)
「私のこだわりは、その壺の・・・」
屋根の上で再び語りだす玉壺に、無一郎は飛び上がると一気に斬りつけた。
しかしその刃は玉壺に届かず、虚しく空を切った。
(移動が速い、また逃げられた)
無一郎は顔をしかめながら、玉壺の姿を捜した。
視線を向ければ、先ほどまでは何もなかった位置に壺があった。
(気づくと壺がある、どうやって壺を出してくるんだ)
玉壺は先ほどから説明を中断され続けているせいか、不機嫌そうに顔をしかめた。
「ええい、いい加減にしろ!私の説明の邪魔を・・・」
――ウタカタ・参ノ旋律――
――束縛歌!!!
汐の歌が響き渡り、玉壺の身体を拘束した。その隙を突き、汐が斬りかかるが玉壺は歌を振り払うとまた別の場所へ移動した。
(束縛歌がほとんど効かない・・・。やっぱり上弦の鬼には効果が薄い・・・)
壺を破壊しながら汐が苦々し気に顔を上げると、玉壺は全身に血管を浮き上がらせながら言った。
「よくも斬りましたね、私の壺を・・・、芸術を!!話を遮るばかりか、気味の悪い歌まで聞かせおって!!」
玉壺は激昂しながら汐達を見回して叫んだ。
「審美眼のない猿共め!!脳まで筋肉でできているような貴様らには、私の作品を理解する力はないのだろう、それもまた良し」
一人で納得する玉壺を眺めながら、無一郎は苛立ちを感じつつも冷静に分析していた。
(いや、でもこれだけ逃げると言うことは、さっきの分裂鬼とは違って、こいつは頸を斬れば死ぬんだ)
だとしたら、まだ勝機はある。汐が鬼の動きを止めることができるなら、うまく使えば討伐することも可能だ。
「ねえ、君・・・」
無一郎が汐を呼ぼうと口を開いた、その時だった。
玉壺の手のひらから壺が生えるように現れたかと思うと、壺の中から金魚が何匹か飛び出してきた。
(あれは・・・金魚・・・?)
金魚はぴちぴちとかわいらしく跳ねたかと思うと、突然身体を大きく膨らませた。
だがそれは一瞬の事で、突然金魚の口から夥しい量の針が飛び出してきた。
──
無数の針は屋根の上にいた無一郎を狙い、彼はそれを身を捻ってかわす。
別の金魚は汐に向かって針を放ち、何とか躱すものの針の一本が汐の頬を掠めた。
汐が顔を上げると、金魚はもう一度口を膨らませ別の方向を見ていた。その先には、鉄火場たちがいた。
「鉄火場さん!!」
汐が叫ぶよりも早く、無一郎が動いた。だが、それと同時に針が発射される。
その針は鉄火場たちに届くことはなかったが、代わりに無一郎の身体にいくつも突き刺さっていた。
「時透殿!!」
鉄穴森が小鉄を抱えたまま叫び、小鉄は凄惨な姿になった無一郎を涙をこぼしながら見ていた。
「邪魔だから隠れておいて」
無一郎は淡々とそう言うと、呆然とする汐に向かっていった。
「君、動けるならこの人達を隠して」
汐は頷くと、震えている三人を連れて森の奥へを避難させた。その間にも、無一郎は発射される無数の針を、刀で弾いていた。
「ヒョヒョヒョ、針だらけで随分滑稽な姿ですねぇ。どうです?毒で手足がじわじわ麻痺してきたのでは?」
毒という言葉に、無一郎の眉が微かに動いた。しかし、動揺する様子はなかった。
「本当に滑稽。つまらない命を救って、つまらない場所で命を落とす」
玉壺は無一郎を嘲笑いながら、そう言い放った。すると、無一郎の表情が大きく変わった。
玉壺の言葉に、既視感を感じたのだ。
『いてもいなくても変わらないような、つまらねぇ命なんだからよ』
(なんだ、この感じは・・・。でも思い出せない。昔同じことを言われた気がする・・・。誰に言われた?)
無一郎の脳裏に、薄ぼんやりとここではないどこかの景色が蘇った。
とても蒸し暑い、夏の日。暑さのあまり、戸を開けていた。そのせいか、夜だというのに蝉が鳴いていて、酷くうるさかった・・・。
「ヒョヒョッ、しかし柱ですからねぇ一応は、これでも。どんな作品にしようか胸が踊る」
玉壺は嬉しそうに笑いながら、手をワキワキと動かしていた。
その隙を突いて、無一郎は一気に斬りかかる。
「うるさい。つまらないのは君のお喋りだろ」
無一郎の刀が玉壺の頸に届こうとしたとき、玉壺は別の腕から再び壺を生やした。
──血鬼術、
そしてそれを振り上げた瞬間、壺から大量の水が無一郎に向かってきた。
だが、水が無一郎に届く前に、彼の体に衝撃が走った。
「!?」
衝撃に耐えられず、無一郎の身体はごろごろと地面に転がった。同時に、玉壺からも息をのむ音が聞こえる。
(何だ、今のは・・・?)
無一郎は身体を起こし、顔を上げたその時。目の前の光景に目を見開いた。
そこには壺のような形の水球に閉じ込められた、汐の姿があった。
「汐!」
無一郎は思わず汐の名前を呼び、すぐに身体を起こして斬りかかろうとした。
だが玉壺は、あろうことか汐の後ろに隠れ、無一郎の刀が一瞬止まった隙に、再び水を浴びせた。
しかし無一郎も、一度見た技であるせいか、あふれでる水を避け、再び斬りかかる。
その度に玉壺は針を浴びせ、逃げ回ることを繰り返した。
「ヒョッヒョッ・・・、柱の小僧を捕らえるつもりだったが、これもまたいい・・・。窒息死は乙なものだ、美しい」
玉壺は、水球の中の汐をまじまじと見つめながら、うっとりと言葉を紡いだ。
「鬼狩りの最大の武器である呼吸を止めた。もがき苦しんで歪む顔を想像すると堪らない、ヒョヒョッ」
玉壺は嬉しそうに目を細めていたが、汐の青い髪を見て大きく目を見開いた。
「青い髪・・・。そうか!貴様が例の歌姫、ワダツミの子・・・!いい、これはいい!!この娘を使えば、更に素晴らしいものが・・・」
玉壺は興奮しながら汐の周りをぐるぐると動き、汐は何とか脱出しようと刀を振ってみた。
しかし水球はぐにゃりとたわみ、斬ることはできなかった。
(なんで・・・なんで・・・?)
必死に抵抗する汐を見て、無一郎の心がざわめいた。
(なんで僕を、俺を庇ったんだ・・・?なんで・・・)
無一郎は再び斬りかかろうとしたが、先程の毒のせいか、身体が痺れて全くいうことを聞かない。
だが、今自分が動かなければ汐が危ない。いや、汐だけでなく鉄火場たちの命も・・・。
動きが止まった無一郎に、玉壺は好機と言わんばかりに水を放とうとした。
しかし先程かわされ続けていたせいか、水は壺から流れ出ることはなかった。
(むっ、少し遊びすぎたか・・・?だが、まあいい。柱の小僧はもう動けん上に、小娘の歌も呼吸も封じた)
歯を食いしばる無一郎と水球の中の汐を見て、玉壺は高らかに笑った。
「里を壊滅させれば、鬼狩り共には大打撃。鬼狩りを弱体化させれば産屋敷の頸もすぐそこだ、ヒョッヒョッ」
勝ち誇ったように笑う玉壺の顔を、汐は腹立たしげに睨み付けた。
(こいつは、この生ごみ野郎は絶対に生かしておいちゃいけない・・・!)
しかし汐を取り巻く水は、刀では切れそうもない上ウタカタを放つための空気の余裕もない。
いくら人より息を長く止めることが出来ても、呼吸をしなければ生命活動を持続することは出来ない。
このままなにもしなければ、汐に待っているのは死のみだ。
(くそっ、無一郎は毒で痺れて動けないし、あたしは呼吸もウタカタも封じられた・・・。どうする?どうする?)
「さて、鬼狩り二匹は放ってもいいだろう。後は、目障りな刀鍛冶師共を・・・。ああ、小娘。お前は死んだ後にきちんと素晴らしい作品にしてやるから、安心して待っていろ」
玉壺は顔を汐に近づけて笑うと、小屋の方に向かって動き出した。
(まずい、まずい!早くしないと鋼鐵塚さんが危ない!早く早くしないと・・・、でも・・・!!)
焦る汐の脳裏に、突然過去の出来事が浮かんできた。
それは数ヶ月前に、吉原での任務の事。鬼の術を相殺した時に放った、新たなウタカタ。
(確かあの時は、毒で呼吸なんかほとんどできていなかった。でも、爆砕歌以上の威力が出た。あの感覚を思い出せたなら、何とかなるかもしれない・・・!)
一方、無一郎は水球の中の汐と小屋を睨みながら、動かない自分の身体に焦りを感じていた。
(駄目だ、体が動かない。毒を食らいすぎた・・・。もう戦えない)
無一郎は霞む視界の中、自分はもうここまでだということを感じた。
(せめて、あの子だけは助けたかったな。あの子の力はきっとこの先必要だったのに。でも、もう駄目だ。終わった)
『どうして、そう思うんだ?』
「え?」
誰かの声が聞こえた気がして、無一郎は頭を上げた。すると目の前に、その場にいないはずの炭治郎が立っていた。
(炭治郎?どうして・・・いや、ちょっと待て)
『先のことなんて、誰にも分からないのに』
(違う。炭治郎にはこんなことを言われてない。言ったのは、誰?)
しかし考える間もなく、無一郎の視界は段々と霞を帯びてきた。しかしそれでも、炭治郎に似た誰かは彼に語り続けた。
『自分の終わりを、自分で決めたらだめだ』
(君からそんなこと言われてないよ)
『絶対どうにかなる。必ず誰かが助けてくれる』
(何それ、結局人任せなの?一番駄目だろう、そんなの)
炭治郎に似た誰かの言葉を無一郎は否定し続けるが、それでも彼は口を止めなかった。
優しい声色で、語り続けた。
『一人でできることなんて、ほんのこれっぽっちだよ。だから人は、力を合わせて頑張るんだ』
(ううん、違うよ)
無一郎は小さく首を振って、ぎゅっと目を閉じた。
(誰も僕を助けられない。みんな、僕より弱いから。僕がもっとちゃんとしなきゃいけなかったのに、判断を間違えた。自分の力を過大評価していたんだ、無意識に。柱だからって)
だからあの子は、汐はあんな目に遭っているんだ。
無一郎は霞む視界の中、汐を見つめた。
汐も何とかもがいているが、水球からは出られないようだった。
(ごめん・・・)
無一郎が心の中でそう告げた時、視界の端に何かが動くのが見えた。
面をつけた小さな少年が、汐の入った水球に包丁を突き立てていた。
* * * * *
時間は少し遡り
鴉の羽音が響く中、暗闇の中を駆け抜ける一つの人影があった。
「急がなきゃ、急がなきゃ、里のみんなが危ないわ!」
桃色と緑色のお下げを激しく揺らしながら、恋柱・甘露寺蜜璃は風を切って走り続けていた。
担当地区での任務後、鴉から里の襲撃の知らせを聞き、直ぐ様里へ向かっていたのだ。
「でも、私の担当してる地区から刀匠さんたちの里、すごい近かったのね!びっくり!」
――よーし、頑張るぞォ!!
蜜璃は胸に決意を強く抱きながら、夜を軽やかに駆けていった。
大切な人たちを守るために。
反撃の準備は整いつつあった。
この作品の肝はなんだとおもいますか?
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オリジナル戦闘
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炭治郎との仲(物理含む)
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仲間達との絆(物理含む)
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(下ネタを含む)寒いギャグ
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汐のツッコミ(という名の暴言)