不死川玄弥には目的があった。それは、何が何でも柱になる事。
柱になる目的は、風柱であり実兄である不死川実弥に認められることだった。
あって"あの時"の事を謝りたかった。
それは玄弥がまだ幼い頃。彼らの母親は、体の小さな女性だった。
しかしそれに反して、母親はよく働いた。少なくとも玄弥は、彼女が寝ているところを見た記憶はなかった。
父親はろくでなしという言葉が生ぬるく感じる程の、屑な男だった。妻や子供に暴力を振るい、暴れることに一切躊躇のない男だった。
そんな彼は人から恨まれ、刺されて死んだ。自業自得の最期だった。
ある日、玄弥は外出したきり戻らない母を、幼い弟や妹たちと待っていた。兄の実弥は母を捜しに行くと言って家にはいなかった。
日付が変わっても帰らない母親を妹は心配したが、玄弥はきっと戻るとなだめた。
しかし母の代わりに戻って来たのは、狼のような獣だった。
獣は一瞬で弟や妹たちを斬り裂き、玄弥の顔にも大きな傷をつけた。動きが素早く、玄弥も目で追うことができなかった。
あわよくば殺されると思った時、それを救ったのは兄だった。
実弥は獣と共に外に消え、玄弥は医者を呼ぼうと外に飛び出した。
そこで見たのは、血で真っ赤に染まった実弥と、同じく血に染まってその下で横たわる母だった。
玄弥は泣きながら母親の亡骸を抱きしめた。そして兄に向かって声を荒げた。
『何で母ちゃんを殺したんだよ!!うわあああ!!人殺し!!人殺しーーーーっ!!」
その時の玄弥は、兄が母を殺したということしか認識していなかった。
混乱していた。弟と妹たちはすでに冷たくなっており、もう手遅れだということがわかってしまっていたから。
そして後になり、玄弥は真実を知った。自分や家族を襲った獣の正体が、鬼と化してしまった母だったということに。
実弥は家族を守るために、自分の母親を殺したということに。
夜が明け始めた外に出て初めて、家族を襲ったのが母親だと気づいたとき。
最愛の母親を手にかけて打ちのめされていた時に、必死で守った弟から罵倒された彼は、どんな気持ちだったのだろう。
――一緒に守ろうって、約束したばかりだったのに・・・
『玄弥、家族は俺たち二人で守ろう』
それは父親の死後、実弥と二人で買い出しに来ていた時だった。
『親父は刺されて死んじまった。あんなのは別に、いない方が清々するけど、親父がいねぇとなると皆心細いだろうから。これからは、俺とお前でお袋と弟たちを守るんだ。いいな?』
まるで自分に言い聞かせるようにう言う実弥の言葉を、玄弥は少し訂正した。
『これから
玄弥の言葉に実弥は少し驚いた顔をしたが、飛び切りの優しい笑顔を弟に向けた。
見事な満月がかかった、綺麗な夜だった・・・。
* * * * *
汐、無一郎と分断された炭治郎と禰豆子は、分裂し力を増す半天狗に苦戦を強いられていた。
寸でのところで玄弥が駆け付けたものの、分裂した鬼がそれぞれ異なる能力を使うため、戦況は不利に傾きつつあった。
だが治郎と禰豆子も、負けじと新たな技、日輪刀に禰豆子の血鬼術を合わせた【爆血刀】を生み出し鬼に手傷を負わせていた。
その刀で斬られると、再生が非常に遅くなるうえに焼けるような激痛を鬼に与えることができるようだった。
玄弥も重傷を負いながらも鬼の本体を突き止め追っていた。
そしてついに、玄弥の目が鬼の本体を捕らえるが、それは想像をはるかに超えるものだった。
半天狗の本体は、野ネズミほどの小さな小さな鬼だった。
その頸は非常に硬く、玄弥の刀をいとも簡単にへし折り、炭治郎の赤い刀でも斬り落とすことはできなかった。
それどころか、炭治郎達の前には六体目の新たな鬼が現れていた。
【憎】という文字が刻まれた雷神の太鼓のようなものを背負った、幼い少年ほどの姿の鬼だった。
鬼は半天狗の本体を、樹木のようなもので盾のように守り炭治郎の攻撃を防いでいた。
(六体目・・・!!)
その光景に炭治郎の顔が大きく歪んだ。四体の鬼にさえ手こずっているのに、さらに新たな鬼が現れたという事実に絶望を感じた。
しかし炭治郎はある事に気が付いた。喜怒哀楽、他の鬼の気配が消えていたのだ。
その絡繰りは、別の場所にいた玄弥が目撃していた。
炭治郎が本体の頸を斬ろうとしたとき、積怒が両手を掲げた。
その瞬きほどの間に、空喜と可楽は握りつぶされるようにして吸収された。
少し離れた場所にいた哀絶は、声を発することなく吸収され、積怒はあの姿へと変化したのだ。
鬼は半天狗の本体を、樹木のようなもので覆い隠し始めた。
「待て!!」
炭治郎が叫ぶと、鬼は炭治郎を鋭い目で睨みつけた。
その威圧感に炭治郎は思わず竦み、玄弥ですら汗と動悸が止まらなかった。
「何ぞ?」
鬼の口から、重りの様な声が漏れた。気を緩めれば一瞬で押しつぶされてしまうようだった。
「貴様、儂のすることに何か不満でもあるのか。のう、悪人共めら」
鬼は炭治郎を射抜く様に見据え、そう言った。そのあまりの声の重さに、玄弥は縫い付けられたように動けなくなった。
「ど・・・、どう・・・して」
そんな中、鬼の重圧に負けないようにと、炭治郎は日輪刀を握りなおしながら口を開いた。
「どうして俺たちが、悪人・・・なんだ?」
炭治郎の小さいがはっきりとした声は、鬼の耳にも届いた。
「弱き者をいたぶるからよ」
鬼はさも当たり前だというように答えた。
「先程 貴様らは、手のひらにのるような『小さく弱き者』を斬ろうとした。何という極悪非道。これはもう鬼畜の所業」
「小さく弱き者?」
鬼のあまりにも身勝手な言葉に、炭治郎は声を震わせた。
「誰が・・・誰がだ。ふざけるな」
先ほどまでの恐怖が、怒りに変わり体中を流れていく。
炭治郎は気づいていた。目の前の鬼から発せられる血の匂いに。
「お前たちのこの匂い、血の匂い!!喰った人間の数は百や二百じゃないだろう!!」
炭治郎の額に、怒りのあまり血管が浮き出した。全身の血液が、怒りのあまり沸騰しそうだった。
「その人たちが、お前に何をした? その全員が、命を償わなければならない事をしたのか!?」
炭治郎の怒りは空気を震わせ、禰豆子、玄弥も唖然として彼を見つめていた。
「大勢の人を殺して喰っておいて、被害者ぶるのはやめろ!!ねじ曲がった性根だ、絶対に許さない!!」
――悪鬼め・・・!! お前の頸は、俺が斬る!!
炭治郎の怒りに満ちた声が、あたり中に響き渡った。
一方。合体した鬼の気配は、森の中をソラノタユウに導かれながら走っている汐にも届いていた。
(何、この感じ!?ヒトデ爺の物なのは確かだけれど、最初の気配とは訳が違う・・・!炭治郎、禰豆子!!)
汐は焦る気持ちを抑えながらも、気配のする方向へ足を進めた。
すると身体を震わせるような音が響き、地面が激しく揺れた。
(何!?地震!?)
汐はよろけながらも視線を上に向けた、その時だった。
はるか上空に木の龍のようなものが現れ、激しく暴れているのが見えた。
その龍から鬼の気配を感じた汐は、すぐさまその場所へ向かった。
木の龍はうねりながらも、炭治郎を捕らえようとその頭を伸ばしていた。
既に玄弥と禰豆子は捕まり、炭治郎だけが辛うじて逃れている状態だ。
だが、炭治郎も愚かではない。逃げ惑いながらも、冷静に鬼の攻撃を分析していた。
(木の竜の頭は五本!!伸びる範囲は、およそ六十六尺*1だ。よし、一つ分かったぞ!!)
炭治郎は空中に投げ出されながらも、身体を捻って技を放とうと刀を構えなおした。
(ヒノカミ神楽、碧羅の・・・)
しかし炭治郎が技を放つ寸前、木の龍が口を開き、空喜超音波を炭治郎に浴びせた。
空中では身動きが取れない炭治郎は、その攻撃をまともに受けてしまった。
「ガッ・・・!」
炭治郎はうめき声を漏らしながら、近くの木に身体を打ち付けそのまま落下した。
「オエッ!」
炭治郎は酷い眩暈と吐き気に耐え切れず、そのまま胃の内容物を吐き出し蹲った。
(こっ・・・鼓膜が破れた。目が回る、立てない、駄目だ!!早く立て、早く!!)
歪む視界の中、それでも炭治郎は必死に立ち上がった。
(攻撃が来るぞ!!)
炭治郎が駆け出すのと、鬼の太鼓が鳴り響くのは同時だった。
地面が八つ手の形にへこみ、炭治郎の左足を容赦なく砕き潰す。
新たな鬼は、今までの鬼の全ての攻撃が使えるようだった。
攻撃予知で攻撃が来るのはわかるが、その猛攻に対処しきれなくなっていた。
一向に衰えない攻撃に、炭治郎の顔に焦りが見えた時。その目にあるものが映った。
それは、海の底のように真っ青な髪に、目を引く真っ赤な鉢巻。
(汐・・・!?)
炭治郎が汐の姿を捕らえたその一瞬の隙を突き、死角から木の枝が炭治郎の身体に巻き付いた。
(し、しまった・・・!!)
炭治郎は顔を青くさせるがもう遅く、木は炭治郎の胴に絡みつき締め付けた。
「炭治郎!!」
その光景は汐の目にも映っていた。今にも腹の中身を吐き出しかねない姿を見て、汐はすぐさまその方向へ向かった。
(ん?人間の気配が一つ増えた)
汐の存在は、炭治郎を攻撃していた鬼も感知していた。
(あれは、あの青い髪の小娘は・・・、ワダツミの子か!まさか生きておったとは・・・!)
鬼はすぐさま木の龍を炭治郎から汐に向けた。ワダツミの子の危険性は、無惨からもらった情報の中にもしっかりとあった。
――あの怪物は確実に潰せ、と。
炭治郎は霞む意識の中、近くの龍の頭が汐に向かって口を開いたのを見た。
(駄目だ、汐・・・、危ない!!)
――伍ノ旋律 爆砕歌!!!
汐が爆砕歌を放つのと、太鼓が鳴り木の龍が超音波を放つのは同時だった。
二つの衝撃波は空中でぶつかり合い、そのままはじけて消えた。
「爆砕歌が、相殺された!?」
汐が呆然としたその一瞬。再び太鼓の音が響き渡った。
その瞬間、汐は凄まじい重圧に押しつぶされた。周りが八つ手の形にへこむ。
「・・・!!」
その光景を炭治郎は呆然と見ていたが、汐が押しつぶされたことを脳が認識した瞬間、薄れていた意識が戻って来た。
「うわあああああああ!!!汐ーーーッ!!!」
炭治郎の悲鳴が、あたり中に響き渡った。
その攻撃は少し前に炭治郎も受けていた。しかし一度目は畳が崩落し、二度目は攻撃を喰らう寸前に鬼の腕を斬り裂いていたため、短時間で済んだ。
しかし汐の場合はわけが違う。身体がひしゃげる程の重圧をまともに受けてしまっていた。
炭治郎の悲鳴は、囚われていた禰豆子と玄弥の耳にも届いていた。
禰豆子と玄弥の脳裏に、屈託のない笑顔の汐の顔が蘇る。
「うううう!!!」
「クソがアアアア!!!」
二人は拘束から逃れようと、力の限り必死で藻掻いた。
一方、汐を押しつぶした鬼は、目の前の光景に目を見開いていた。
(し、信じられん・・・・。この小娘・・・、生きている!!耐えている!!)
地面がへこむほどの重圧の中を、汐は必死に耐えていた。普通の人間なら、とっくに人の形を成していない攻撃のはずだった。
(い、いや・・・、耐えているどころか、こやつ、こやつ!!この重圧の中、何故動ける!?)
鬼が驚愕を張り付ける中、汐は吐き気のするような重圧の中でゆっくりと動いた。全身から汗が吹き出し、筋肉が悲鳴を上げているが、汐はそれでも地面を踏みしめて立ち上がった。
焦った鬼が更に重圧をかけるが、汐は軽くよろけたものの膝をつくことはなかった。
震える足で、しっかりと立ち上がった。
「その、被害者ぶったクソ面を・・・、こちらに向けるな・・・!」
汐は骨が砕けかねない重圧の中、鬼を睨みつけながら言い放った。
口からウタカタ特有の高い音が響き渡る。
「目障りなんだよ、腐れ外道が!!」
――ウタカタ・陸ノ旋律――
――重圧歌!!!
汐の音のない歌が響いた瞬間、今までたっていた鬼が突然木にめり込むようにして倒れこんだ。
突然の事に何が怒ったか分からない鬼は、驚愕の表情を張り付けたまま木に顔を押し付けられていた。
(な・・・、なんだ・・・、これは・・・!?何故、何故立てん・・・!?)
「そのまま寝てろ!」
鬼が倒れたせいか重圧から解放された汐は、メキメキと音を立てている鬼に向かって鋭く言い放った。
炭治郎はその様子を、呆然とした表情で見つめていた。が、
「うわあああああああ!!!」
汐が鬼を押しつぶしたと認識した瞬間、炭治郎は先程とは全く反対の意味の悲鳴を上げた。
何とか這い出した禰豆子と玄弥も、目の前の光景が信じられずに目を点にさせていた。
その時、炭治郎は悟り、そして固く固く誓った。
(絶対に、絶対に!二度と、二度と!!汐を理不尽に怒らせたり、滅多なことを言うのはやめよう!粉砕される!跡形もなく!!)
背中に流れる冷たい汗が、今この時が現実であることを否が応でも伝えていた。
この作品の肝はなんだとおもいますか?
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オリジナル戦闘
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炭治郎との仲(物理含む)
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仲間達との絆(物理含む)
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(下ネタを含む)寒いギャグ
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汐のツッコミ(という名の暴言)