ウタカタノ花   作:薬來ままど

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二十七章:光明


目の前の光景に、蜜璃は自分の目を疑った。そこには、上弦の鬼との戦いで命を落としたはずの煉獄杏寿郎が立っていたからだ。

 

(そんな、嘘・・・。だって師範は・・・煉獄さんは・・・)

 

溢れそうな涙をこらえるように、蜜璃は一度瞬きをした。すると、煉獄の姿が陽炎のように歪み、代わりに立っていたのは真っ青な髪の色と、真っ赤な鉢巻の少女。

 

大海原汐が、蜜璃を守るように立っていた。

 

「しお・・・ちゃん・・・」

 

蜜璃の目から涙があふれ出し、頬を濡らしていった。

 

それは、鬼の拳が蜜璃に到達する数秒前の事。

 

炭治郎の手当てをしていた汐が突如飛び出し、鬼に飛び掛かった。

 

汐の刀が橙色に煌めき、その斬撃は鬼の身体を大きく抉るとはるか遠くに吹き飛ばした。

蜜璃に意識が向いていた鬼は、汐を完全に失念していたため反応が遅れたためその力に成す術はなかった。

 

「しおちゃん・・・!!」

 

汐の姿を見て涙を流す蜜璃だが、間髪入れずに轟音が響き渡った。あちこちから竜の頭が汐達の方に向かってきたのだ。

 

「ぐあああああ!!!」

 

するとその轟音をかき消すかのような声が響き二人の身体は地面に引き倒されていた。

 

蜜璃が目を見開くと、そこには炭治郎、禰豆子、玄弥の三人が二人を庇うようにして倒れていた。

 

「み、みんな・・・」

 

蜜璃が口を開きかけたその時、炭治郎の焦った声が響いた。

 

「立て立て立て!!次の攻撃くるぞ!!」

「わかってるっつーの!!」

 

玄弥は怒鳴り返しながら禰豆子と共に、蜜璃を抱えて立ち上がった。

 

「甘露寺さんを守るんだ!!一番可能性のあるこの人が、希望の光だ!!」

 

炭治郎の凛とした声が、蜜璃の身体に染み渡るようにして響く。

 

「んなもん当り前よ!!あたしの師範は、仲間は、絶対に死なないし死なせない!!」

 

汐の決意に満ちた表情と声に、蜜璃の胸は締め付けられた。

 

「みんなで勝とう!!俺たちは・・・!!」

 

炭治郎が言葉を紡ぎ終わる前に、体勢を立て直した鬼の太鼓が響いた。

上空から雷の筋が、汐達めがけて降り注ぐ。

 

汐は爆砕歌を放とうと息を吸った、その時だった。

 

「伏せて」

 

蜜璃の静かな声が響くのと、雷が落ちるのはほぼ同時だった。

轟音と土煙が上がり、焦げ臭い匂いが辺りに充満する。

 

(やったか?)

 

鬼は表情を険しくさせながら、その場所を凝視していた、その時だった。

 

「みんな、ありがとお~~!!」

 

土煙の中から、間の抜けた声が辺りに響く。

 

「柱なのにヘマしちゃって、ごめんねぇぇ」

 

土煙が収まったその場には地面に突っ伏す汐達と、涙を流しながら刀を振り回す蜜璃の姿があった。

あれ程の数の雷の雨を、蜜璃は全て斬り捨てたのだ。

 

「仲間は絶対に死なせないから!!鬼殺隊は私の大切な居場所なんだから、上弦だろうが何だろうが関係ないわよ!!」

 

蜜璃は涙と泥で汚れた顔を乱暴に拭くと、叫ぶように言い放った。

 

「私悪い奴には絶対負けない!!覚悟しなさいよ、本気出すから!!」

 

そう言って立ち上がる蜜璃の"目"を見て、汐は息をのんだ。今までにない程の決意と気迫、そして柱としての責務を読み取れた。

 

「うん、それでこそみっちゃん。あたしの師範の甘露寺蜜璃よ!」

 

汐の嬉しそうな言葉に、蜜璃の口元に笑みが浮かんだ。

 

「だったらもう遠慮はいらないわね。あの馬鹿、ぶちのめすわよ!!」

 

汐もそう言って蜜璃の隣に立とうとしたとき、蜜璃は首を横に振った。

 

「ここは私に任せて、しおちゃんは炭治郎君たちと本体を捜して」

「え?」

 

汐が思わず見つめ返すと、蜜璃は顔を鬼に向けて言った。

 

「炭治郎君にはあなたが必要よ。私の言いたいこと、わかるわね?」

 

蜜璃の真剣そのものの表情に、汐は全てを察すると頷いた。

それを見た蜜璃は嬉しそうに笑うと、表情を引き締めて前を見据えた。

 

(お父さん、お母さん。私を丈夫に生んでくれて、ありがとう)

 

蜜璃は心の中にたくさんの人達を思い浮かべた。

 

ある任務での最中に救った人々は、涙を流して蜜璃に礼を言った。

 

同じ柱である伊黒は、蜜璃の為に縦じまの長い靴下をくれた。

 

継子を迎えることもできた。たくさんの仲間もできた。

 

(女の子なのに、こんな強くっていいのかなって。また、人間じゃないみたいに言われるんじゃないのかなって、怖くって。力を抑えていたけど、もうやめるね)

 

蜜璃の脳裏に、汐と炭治郎の言葉が蘇る。

 

(他人が何を言おうが、関係ないわ。胸張ってふんぞり返ってればいいのよ!)

(この人が、希望の光だ!!)

 

「任せといて。みんな、私が守るからね」

 

蜜璃は胸に確かな決意を抱くと、地面を蹴って走り出した。

それと同時に太鼓が鳴り響き、巨大な竜が姿を現した。

 

「こっちは私が何とかするから、しおちゃん達は本体を!!」

「わかったわ!行くわよ、あんた達!!」

 

汐の言葉に炭治郎達は頷き走り出した。

 

「炭治郎、本体の入っている玉は何処だ!?わかるか!?」

「わかる、こっちだ!!」

 

炭治郎がある方向を指さすと、汐達はその方角へ足を進めた。

 

残された蜜璃は、四方八方から襲い来る竜を片っ端から切り刻んでいった。

 

(もっと心拍数を上げなくちゃ)

 

大きく息を吸い、肺に空気を大量に入れ血の循環を速くする。

 

(もっと早く、強く・・・、もっと!!)

 

鬼は本体のある方向へ向かった汐達を見て、僅かに焦りを見せた。

再生力を落とす剣術を使う炭治郎、人と共に戦う鬼禰豆子、致命傷を与えても絶命しない玄弥、そして、人とは思えない技を持つワダツミの子、汐。

本体を落とされることを危惧した鬼は、汐達の方向へ追っ手を放とうとしたときだった。

 

蜜璃が瞬時に飛び掛かり、竜の頭をバラバラに斬り裂いた。しかも先ほどよりも速度が増しているようだった。

 

(先ほどよりも動きが速い!何をした!?何をしている!?)

 

鬼はすぐさま蜜璃に視線を向け、そして大きく目を見開いた。

蜜璃の左首筋に、桃色の奇妙な痣が浮き出していた。

 

(痣・・・!?初めから在ったか?)

 

それを見た鬼はある事に気づいた。酷似していたのだ。鬼の持つ文様に。

鬼は太鼓を二度同時に打ち鳴らし、雷と竜を同時に差し向けた。しかし蜜璃は、それすらも容易に斬り裂き、舞うように飛び回る。

 

(不愉快極まれり!!)

 

鬼は不快感を隠すことなく、蜜璃を睨みつけた。

 

(この小娘のせいで、童共の方へ石竜子をやれぬ!!憎たらしい!!)

 

だが、蜜璃と鬼との間には絶対的な相違点があった。

それは、蜜璃は人間で、こちらは鬼であるということ。

 

鬼には体力の限界がないということ。

 

(必ず体力が続かなくなる。人間は、必ず!!)

 

「ぐああああ!!」

 

一方、森の中では炭治郎のうめき声が響いていた。

本体の入った木を見つけたのはいいが、血鬼術で出来た木は、炭治郎達を振り落とそうと暴れまわる。

 

汐が何度か束縛歌で動きを止めるものの、やはり上弦の鬼の能力は侮れなかった。

 

「振り落とされるな!!頑張れ、頑張れ!!木のアレ・・・ヘビトカゲ竜みたいなのが、来ないうちに、甘露寺さんが止めてくれてるうちに!!」

 

全身を引き裂かれるような風圧を必死で耐える汐達だが、しがみ付くのに精いっぱいで刀を振ることすらできない。

 

一向に変わらない状況に、玄弥は悔しそうに歯を食いしばった。

 

(大海原が動きを止めても、このままじゃ埒が明かねえ。なら・・・!!これしかねえ!!)

 

玄弥は意を決すると、突然目の前の木に食らいついた。木を噛みちぎるバリバリという音が、風を切る音に交じって聞こえてくる。

それを見た汐と炭治郎は、目玉が飛び出す程驚いた。

 

(木を、鬼を喰ってる・・・!?)

「玄弥大丈夫か!?お腹壊さないか!?」

 

冷静に驚く汐と、微かに驚く場所が違う炭治郎をしり目に、玄弥はそのまま気を喰らい続けた。

 

玄弥は蜜璃同様、特殊な肉体を持っていた。鬼、もしくは体の一部や血鬼術を帯びたものを喰らうと一時的に鬼と同じ体質になれるのだ。

それは鬼の強さに比例し、相手が強ければ強い程、玄弥の身体能力も再生能力も増す。

 

玄弥は呼吸が使えないが、彼の持つ優れた咬合力と消化器官による短時間の鬼化によりここまで戦って来られたのだ。

 

玄弥が幹を喰いちぎったことにより、暴れ木は重力に従って倒れた。だが、それでも木は抵抗をやめず、枝の鞭が炭治郎達を寄せ付けまいと暴れまわる。

 

その時、一本の枝が禰豆子の右肩を大きく抉り、真っ赤な鮮血が吹き出した。

 

「禰豆子!!」

 

一番近くにいた汐が思わず叫ぶと、禰豆子の血は汐の頭から雨の様の降り注いだ。

 

禰豆子の血を浴びて真っ赤になった汐は、目の前の状況を見てある事を思いついた。

 

「禰豆子――!!あんたの血鬼術であたしを燃やして!!」

「!?」

 

汐の声に、禰豆子は驚いたように汐を見た。

 

「あたしがこのまま突っ込んで、あの枝を全部焼き払う!!だからお願い!あたしに力を貸して!!」

 

禰豆子は一瞬だけ戸惑うように瞳を揺らしたが、汐の真剣な表情を見て頷いた。

 

汐は刀を構えると、大きく息を吸った。低い地鳴りのような音が響き、刀が橙色に変化する。

 

「皆どいて!!禰豆子、お願い!!」

 

汐が踏み出すと同時に、禰豆子が術を発動した。汐の身体が真っ赤な炎に包まれ、火の玉となって木の中に突っ込む。

 

海の呼吸 捌ノ型――

――漁火(いさりび)!!!

 

炎の弾丸と化した汐の振り下ろされた剣戟が、動き続ける枝を全て焼き払い消し炭へと変えた。

 

「今だぁああああああ!!」

 

叫びと同時に炭治郎の刀にも火が燃え移り、漆黒の刃が赤く輝く。

 

――ヒノカミ神楽――

――炎舞!!!

 

炭治郎が刀を振り抜き、木の球体を斬り裂いた。

汐、禰豆子、玄弥が木が閉じないよう押さえつけ、炭治郎が止めを刺そうと振り上げた時だった。

 

(い、いない!!)

 

汐はすぐさまあたりを見回し、鬼の気配を探った。それ程遠くはない様だ。

炭治郎も匂いを辿り、鬼のいる方角を向いた。

 

「ヒィィ!!」

 

遠くで甲高い悲鳴を上げながら逃げていく、半天狗の本体が目に入った。

 

その瞬間、炭治郎の体内を怒りが流れるように駆け巡った。

 

「貴様アアア、逃げるなアア!!責任から逃げるなアア!!」

 

雷鳴のような炭治郎の声が森中に響き渡り、半天狗の身体が一瞬硬直する。

 

「お前が今まで犯した罪、悪業、その全ての責任は必ず取らせる!!絶対に逃がさない!!」

 

その言葉を聞いた半天狗は、一瞬、同じようなことを誰かに言われたような錯覚に陥った。

 

『貴様のしたことは、他の誰でもない貴様が責任を取れ。この二枚舌の大嘘つきめ』

 

(大嘘付き?馬鹿な)

 

半天狗は走りながら、首を横に振った。

 

(儂は生まれてから一度たりとも嘘など吐いたことがない、善良な弱者だ。これ程可哀想なのに、誰も同情しない)

 

半天狗はそう自分に言い聞かせながら、ひたすらに逃げ惑った。

 

(くそっ、ここからじゃ束縛歌が届かない・・・!!早くケリをつけないと、みっちゃんがもたない・・・!!)

 

汐は顔を歪ませながらも、半天狗を逃がすまいと必死で後を追った。

炭治郎も負けじと、汐の後を追おうとしたときだった。

 

炭治郎の背後で、メキメキという奇妙な音が聞こえた。そして否が応でもわかる、激しい怒りの匂い。

 

「いい加減にしろ、このバカタレェェェェ!!」

 

炭治郎は後ろを振り返り、ぎょっとした。玄弥が自分の何倍もある大木を担ぎ、振りかぶっているところだった。

 

「汐危ない!よけろーーー!!」

 

炭治郎が叫ぶと同時に、玄弥は怒りに任せて大木を放り投げた。

 

大木は綺麗な放物線を描き、汐を飛び越え半天狗の方向へと叩き落された。

 

「うわああああああ!!!」

 

いきなり飛んできた大木に汐は悲鳴を上げるが、それをかき消す玄弥の怒声が響き渡った。

 

「ガアアアアアッ、クソがァァァ!!いい加減死んどけお前っ!!」

 

玄弥は再び大木を引き抜くと、怒りに任せて再び放り投げた。

 

「空気を読めえええ!!」

 

投げられた大木は半天狗の進路を塞ぎ、たまらず悲鳴を上げる。

そこにすかさず、追いついた禰豆子が爪を振り上げた。

 

「ヒイィィ!!」

 

半天狗は小さな体を生かして禰豆子の攻撃をかいくぐると、そのまま恐ろしい速さで再び逃げ出した。

 

「足速ェェ!!何なんだアイツ、クソがァアアア!!追い付けねぇええ!!」

 

玄弥の怒声が飛び、汐も苛立ちが頂点に達する中、炭治郎は半天狗の狙いに気づいた。

 

半天狗の狙いは延々と逃げ続け、夜が明ける前に蜜璃が潰れるまで粘る事だった。

 

(そんなことさせない!!俺たちが、お前には勝たせない)

 

炭治郎は必死に半天狗を追うが、先ほどの攻撃で左足をやられているため激痛で踏ん張りがきかない。

禰豆子も玄弥も、もはや体力は限界に近かった。

 

(せめて、せめて・・・。一瞬だけでもいい。あいつの動きを止められたら・・・。あいつの耳に、少しでも歌が届けば・・・!!)

 

だが、半天狗は束縛歌が届く範囲外におり、仮に届いてもすぐに拘束は解かれるだろう。

 

(でもやるしかない!例え何の力になれなくても、少しでもみんなの役に立てるのなら・・・!!)

 

汐は走りながらウタカタの呼吸音を響かせた。弦を弾くような、高い音。

そして頭の中に流れ込む、束縛歌の旋律。

 

すると、その旋律は突然。いつもとは異なる旋律へと変わった。

 

鬼を確実に捕らえる。絶対に逃がさない・・・!!

 

――ウタカタ 参ノ旋律・転調――

――繋縛歌(けいばくか)!!!

 

汐の口から歌が放たれた瞬間、時が止まったような奇妙な感覚が広がった。

 

それは汐の遥か前を走っていた半天狗の耳にも届いた。

 

(なん・・・じゃ・・・。これは・・・!?)

 

半天狗の身体が突然硬直し、足が石のように重くなった。

 

(う、動け・・・ん!?何故じゃ・・・!?何故儂の身体が・・・動かん・・・!?)

 

半天狗は体中から汗を吹き出しながら、必死でこの状況を理解しようとした。

 

(あの青い髪の娘の・・・、青い怪物の・・・!!)

 

半天狗の顔がみるみる青く染まる中、後方から何かが破裂するような轟音が響いた。

 

思わず振り返ったその時。半天狗の首筋に押し当てられたのは、真っ赤に燃えた日輪刀。

 

炭治郎が刃を、その頸に食い込ませていた。

この作品の肝はなんだとおもいますか?

  • オリジナル戦闘
  • 炭治郎との仲(物理含む)
  • 仲間達との絆(物理含む)
  • (下ネタを含む)寒いギャグ
  • 汐のツッコミ(という名の暴言)
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