ウタカタノ花   作:薬來ままど

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今回はいつもより短めです。
久々にあの方が出ますww


参(一部閲覧注意描写有)

時間はかなり遡り。

炭治郎はある日、ある人物から一通の手紙をもらっていた。

 

それはかつて汐と共に出会った、鬼でありながら鬼舞辻無惨を敵視する、珠世という女性からだった。

 

珠世からの手紙には、炭治郎が禰豆子と十二鬼月の血液を提供してくれたことへの感謝の意と近況報告がつづられていた。

 

かつて、浅草で悲運にも無惨に鬼にされてしまった男性が自我を取り戻し、無惨の支配を逃れ少量の血で生きているということ。

次に珠世は、禰豆子の血が短期間で何度も成分変化を起こしていることに驚いていることと、彼女の考察が記されていた。

 

禰豆子が未だ幼子のような状態でいるのは、自我を取り戻すよりも重要で優先すべきことがあるのではないかということ。

 

そして最後に、手紙にはこう綴られていた。

 

『炭治郎さん。これは完全に私の憶測ですが、禰豆子さんは近いうちに 太陽を克服すると思います』

 

日が差す中を禰豆子は、優し気な視線を炭治郎と汐に向けていた。

 

「禰豆子・・・」

 

炭治郎はふらつく体を汐に支えてもらいながら、ゆっくりとその手を禰豆子へと伸ばした。

 

「良かった・・・」

 

目から涙をとめどなく溢れさせながら、炭治郎は言葉を紡いだ。

 

「大丈夫か?お前・・・、人間に・・・」

 

すると禰豆子は、そのままふにゃりと柔らかい笑みを浮かべながら口を開いた。

 

「よ、よかった。だい・・・、だいじょうぶ。よかったねぇ。ねぇ」

 

禰豆子は炭治郎の言葉をオウム返しに繰り返していた。

よく見ると目は鬼の者であり、口の中には牙も見える。人間に戻ったわけではないようだった。

 

落胆する炭治郎だが汐は気づいていた。鬼の気配はそのままだが、明らかに今までとは何かが違うと。

少なくとも、悪い方向へは向かっていないようだった。

 

「みんなありがとうなぁ。俺達の為に」

 

声がして振り返れば、先ほど半天狗に襲われかけた里の者たちが駆け寄ってきていた。

 

「禰豆子ちゃん、死んでたら申し訳が立たなかったぜ」

 

皆涙を流しながら、汐達に感謝の言葉をかけていた。

 

「いや・・・ほんとに、よかった。ち、塵になって消えたりしなくて・・・」

 

炭治郎は身体を大きく震わせると、禰豆子をそのまま抱きしめた。

 

「うわあああ、よかったあ・・・!!よかったああ、禰豆子、無事でよかったああ!!」

 

炭治郎はそのまま大声をあげて泣きわめき、そんな兄を禰豆子は優しく抱きしめた。

 

そんな混沌とした光景を、崖から降りてきた玄弥は呆然と見ていたが、笑いあう兄妹を見て優しくほほ笑んだ。

 

「良かったな・・・、炭治郎、禰豆子・・・」

 

玄弥の口から、温かな声が零れた。

 

一方。それを見ていた汐も、二人の顔が見えなくなるほど涙を溢れさせながら声を上げた。

 

「本当よ。禰豆子、よがっだ・・・。本当にぃ・・・よがっ、うぼろろろろろ」

 

だが汐は、言葉の途中でえずきそのまま決壊してしまった。

 

「うわあっ!!汐大丈夫か!?」

 

炭治郎は禰豆子から離れると、蹲くまってしまった汐に駆け寄った。

 

「しっかりしろっ、ううっ」

 

しかし炭治郎も、今までの戦いの傷のせいか、口を押えて汐同様に蹲ってしまった。

途端に里の者たちは慌てだし、禰豆子もびっくりしたのか目玉が零れ落ちそうなほど目を見開いた。

 

たちまち辺りは、混沌とした空気に包まれた。

 

一方、森の奥では濁った悲鳴が辺りに響き渡っていた。

 

「ぎゃあああああ~~~~っ、もう無理!!」

 

半天狗の分身憎珀天と戦っていた蜜璃は、一向に衰えない攻撃に窮地に陥っていた。

頭からは血が流れ、体中傷だらけで動いていることが不思議なほどだった。

 

「ごめんなさい、殺されちゃう~~っ。しおちゃああん!!」

 

蜜璃は泣きながら刀を必死で振り回していたが、突然自分に迫っていた木の竜が粉々になった。

驚いて目を凝らせば、憎珀天の身体も同様に塵となり消えていった。

 

「ひゃあ、助かった・・・!!」

 

蜜璃は間の抜けた声を上げながら、刀を握りしめて座り込んだ。

 

「しおちゃん達が本体の頸を斬ったんだわ・・・!!流石私の継子と仲間たちだわ・・・!!」

 

蜜璃はもたらされた勝利に顔をほころばせ、朝日の差す空を見上げた。

 

 

*   *   *   *   *

 

その報せに喜んだのは、汐達だけではなかった。

 

どこかにある、どこかの大きな屋敷。その一室で一人の少年は積み上がった本を戻そうとしていたが、突然目を見開き本を全て床に落とした。

無造作に転がる本が無作法な音を立てるが、少年は拾おうともせずに立ち尽くしていた。

 

「あら?」

 

女中と共に現れた養母の女性は、その光景を見て不思議に思いながらも笑顔で問いかけた。

 

「俊國、どうしたの?こんなに散らかして」

 

養母がそう言うと、少年は歓喜に身体を震わせながら口を開いた。

 

「ついに、ついに太陽を克服する者が現れた・・・!!よくやった、半天狗!!」

 

そのあまりの喜びように、少年は裏返った声で部下の名を呼び褒めたたえた。

 

養母は言葉の意味は分からなかったが、息子が非常に喜んでいることがわかると思わず顔をほころばせた。

 

「まあ、ずいぶん楽しそうね。読んだ本のお話かしらっ・・・」

 

だが、養母の言葉はそれ以上続けられることはなかった。突然彼女の首から上が消失したからだ。

 

「え?」

 

養母が倒れる音と共に、床には真っ赤な液体が広がった。突然の事に女中は、事態を理解するのに時間を要した。

 

「えっ?奥様?首が・・・、どうしたんですか?どっ・・・、ええ?」

 

女中が必死に言葉を紡ごうとする中、少年はその惨劇を全く意に介することなく肩を震わせた。

 

「これでもう、青い彼岸花を探す必要もない。クククッ・・・」

 

無惨は愉快そうに笑うと、その顔を天井に向けた。

 

「永かった・・・!!しかしこの為、この為に千年、増やしたくもない同類を増やし続けたのだ」

 

少年の身体がメキメキと不可思議な音を立てたかと思うと、小さな体は瞬く間に膨らみ始めた。

 

「十二鬼月の中にすら現れなかった稀有な体質、選ばれし鬼」

 

そして瞬く間に少年は、成人男性の姿になり歓喜の雄たけびを上げた。

 

「あの娘を喰って取り込めば、私も太陽を克服できる!!」

 

変貌した少年、否、鬼の始祖鬼舞辻無惨の姿を見た女中は、金切り声を上げた。

 

「キャアアア!!人殺し!!化け物、化け物!!旦那様ァー!!」

 

女中はそのまま逃げようとするが、無惨が手を大きく振るとその上半身が瞬く間に吹き飛んだ。

部屋中に充満する血の匂いと汚れていく部屋。だが、今の無惨に取ってそんなことはどうでもよかった。

 

あの日、初めて鬼となった日からずっと待ちわびていた。この瞬間を。

 

鬼舞辻無惨という鬼が誕生したのは、今から千年以上前にさかのぼる。

 

貴族の出身だった無惨は、非常に病弱であり二十歳前には死ぬと言われていた。しかしそんな無惨を見捨てず、救いの手を差し伸べたものがいた。

 

それは、無惨の主治医だった善良な医者だった。

 

医者は少しでも無惨が生き永らえるように苦心していたが、一向に病状が改善どころか悪化していくことに無惨は腹を立てていた。

 

そしてある日の事。風の噂でこの医者にかかっていた貴族の娘が死んだということを聞き、ついに我慢ができなくなった無惨は、回診時に医者の頭に鉈を突き立て殺害した。

 

しかしその医者が処方した新薬の効果が出たのは、医者を殺してから間もなくのことだった。

それが、鬼の始祖が生まれた瞬間だった。

 

いかなる傷を負っても治り、病にもかからない。強靭な肉体を手に入れたと、無惨は初めは喜んだ。だが、一つ大きな問題があった。

 

日の光の下を歩けない。日光に当たれば死ぬということを、本能で理解していた。

その他、人の血肉が必要ということもあったが、それは人を喰えばいいという至極単純な事であり、無惨にとっては問題ですらなかった。

 

昼間のうち行動が制限されるのは屈辱的であり怒りが募った。

日の光でも死なない身体になりたい。

 

無惨は医者の作った薬の調合を見たが、試作の段階だったからか、“青い彼岸花”という薬の作り方はわからなかった。

それは実際に青色をした彼岸花を使用していたらしいが、生息地も栽培方法もわからない。

 

知っているのは殺した医者だけだった。

 

無惨はその医者の足取りをたどり、かつてこの医者にかかって死んだ貴族の娘の事を調べたが、娘の一族は彼女の葬儀中に起った事故で屋敷ごと滅びてしまっていた。

 

手掛かりをなくした無惨は完全な不死身の身体になるために、青い彼岸花と太陽を克服できる者を探すことを最優先としていた。

 

そして、竈門禰豆子が太陽を克服した今。無惨の狙いはただ一つとなった。

 

禰豆子を喰らい、太陽を克服して完全な生物になる事。

 

事態が大きく動き出すことは、確実であった。

 

 

*   *   *   *   *

 

「炭治郎、汐、大丈夫?」

 

里の者に背負われた汐と、禰豆子に背負われた炭治郎は、小鉄に肩を預けていた無一郎に声を掛けられていた。

 

「あ・・・、と・・・時透くん。よかった、無事で」

「あ、あたしも平気。何とか生きているわ」

 

汐と炭治郎は、疲労のせいか力ない声でそう言った。

 

「刀・・・、ありがとう」

 

炭治郎が言うと、無一郎は毒の後遺症で身体を震わせながら言った。

 

「こっちこそありがとう。君達のお陰で大切なものを取り戻した」

「え、そんな。何もしてないよ、俺は」

「そ、そうよ。炭治郎が何もしてないなら、あたしはもっと何もしてないわよ」

 

炭治郎と汐がそう言うと、無一郎は一瞬困ったように笑うが、視線を禰豆子に向けると首を傾げた。

 

「それにしても、禰豆子はどうなってるの?」

 

そんな無一郎の行動を真似てか、禰豆子も同じように首を傾げた。

 

「いや、それが・・・」

 

炭治郎が詳細を説明しようと口を開いた、その時だった。

 

「しおちゃああああん!!みんなああああ!!」

 

遠くから声と共に地響きが聞こえ、皆が何事かとぎょっとして振り返ると、桃色と緑色の塊が砲弾のように駆け寄ってきた。

 

「うわああああ!!勝った勝ったぁ、皆で勝ったよ。すごいよぉおお!!」

 

蜜璃は泣きじゃくりながら、汐達を両手で抱きしめた。

炭治郎と無一郎、玄弥の三人は驚きのあまり固まり、特に玄弥に至っては耳まで茹蛸の如く真っ赤に染まった。

 

「いだいいだいいだい!!!みっちゃん痛い!!あたし右肩外れてるのよ!!力入れないで!!」

 

汐は抱きしめられて脱臼した肩に激痛が走り、涙目になりながら叫んだ。

 

「うわあああ!!ごめんねええ!!!でもみんな生きてるよおおお!!よかったああああ!!」

 

先程よりも更に大声で泣きわめく蜜璃を見て、禰豆子はにっこりと笑うと「よかったねぇ」と答えた。

 

上弦の鬼二体を相手にし、汐達は誰一人として欠けることなく勝利を収めた。

そして禰豆子が日の光を浴びても命を失わず、人の言葉を取り戻した。

 

これが何を意味するのかは、誰にも分からない。

 

しかし今はこの喜びの時間を少しでも長く分かち合おう。

明日へつなぐ、希望として。




注意!今回炭治郎君はリバースしていません

この作品の肝はなんだとおもいますか?

  • オリジナル戦闘
  • 炭治郎との仲(物理含む)
  • 仲間達との絆(物理含む)
  • (下ネタを含む)寒いギャグ
  • 汐のツッコミ(という名の暴言)
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