ウタカタノ花   作:薬來ままど

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その後、傷を負った汐達はすぐさま蝶屋敷へと搬送された。

炭治郎と柱二人は勿論の事、汐と玄弥も見た目以上に重傷を負っていた。

 

汐は脱臼した右肩に加え、ウタカタ多用による喉の炎症が起きていて、最低でも一週間は安静と診断された。

 

それから数日後。ギプスを外してもらった汐は、散歩がてら蝶屋敷の中を歩いていた。

強張った腕の違和感をぬぐうように腕を動かしながら歩いていると、炭治郎達がいる病室から声が聞こえてきた。

 

「あら、誰か来てるの?」

 

汐がのぞき込むと、そこにはおにぎりを頬張りながらこちらを向く炭治郎と隠の男があった。

 

「汐。肩の怪我はどうだ?」

 

開口一番に汐を気遣う言葉を発する炭治郎に、汐は困ったように笑った。

 

「それはこっちの台詞。あんた、つい最近まで意識不明の重体だったんでしょ?ったく、相も変わらず人の心配ばかりするんだから」

 

汐はそう言って炭治郎の眠るベッドに座った。

 

「ほら。顔にご飯粒ついてるわよ」

「え、どこ?」

「ここよ。ああもういいわ。あたしがとるから、手ぬぐい貸して」

 

汐は炭治郎から手ぬぐいを受けると、ご飯粒が付いた顔を優しく拭く。

汐から漂う香りに炭治郎の心臓が跳ね、頬に熱が籠った。

それを見ていた隠の男は、顔をしかめながら咳払いをした。

 

「ところで、誰この人?」

「え、覚えてないか?後藤さんだよ。ほら、俺と一緒に裁判にかけられたとき、一緒にいただろ?」

「覚えてないわよ、そんな前の事。っていうか、隠ってみんな顔隠れてて見分けがつかないし」

「お前、それ本人の前で堂々とよく言えるな」

 

汐と炭治郎の会話を聞いて、後藤は思い切り顔をしかめながら突っ込んだ。

 

「で、その隠の後藤さんは何でここに居るの?」

 

汐が尋ねると、炭治郎は後藤から刀鍛冶の里の詳細を聞いていたと言った。

 

あれから刀鍛冶の里の者たちは、鬼の襲撃を逃れるため拠点をすぐに移していた。

後藤の話では、彼等は"空里"という場所をいくつか作っており、有事の際にすぐに移れるようにしているとのことだった。

 

「っていうかあんた、朝っぱらからよくそんなに食べられるわね」

「朝ご飯をしっかり食べないと、一日が始まらないからな。それに、甘露寺さんもいっぱい食べるって言ってから大丈夫だろう!」

「あれは普通の人間の物差しにあてはめちゃ駄目よ。みっちゃんはともかく、無一郎も三日でほぼ全快って、いよいよ人間卒業し始めてるんじゃない?」

「流石に言いすぎだぞ汐。そこは尊敬しなくちゃ」

 

呆れたように溜息をつく汐を見て、後藤は目を見開きながら言った。

 

「お、お前。柱をよくそんな風に言えるな。恐ろしくないのか?」

「怖い?どこが?みっちゃんは時々柱っぽくないところあるし、無一郎は腹立つことを平気で言うけど、悪い連中じゃないと思うわよ?」

「いやそうじゃなくて!柱をよく呼び捨てにできるなってことだよ!」

 

後藤の言葉に、炭治郎もはっとした様子で顔を向けた。

 

「そうだ。師範の甘露寺さんはともかく、時透君は年下だけど俺たちより上の立場なんだぞ。呼び捨てはいけないと思う」

「あたしだって、最初は立場を考えて名字で呼んだわよ。でも、そうすると口をへの字にして不貞腐れるから、名前で呼ばざるを得なくなったのよ」

 

汐が二度目の溜息をつくと、炭治郎と後藤は汐がそこまで柱と親しくなっていたということに、驚きのあまり表情を固まらせていた。

 

「と、ところでさ。竈門の妹!えらいことになってるみたいだけど、大丈夫なのか?」

 

後藤の言葉に、汐は肩を震わせた。

 

禰豆子が太陽を克服した。その噂は隠の間でも広がっていた。

人を襲わないというだけでも驚くべきことなのに、更に鬼の絶対な弱点である太陽まで克服した。

 

それによって何が起こるのか、今時点では全く分からないのだ。

 

「あっ、はい!太陽の下、トコトコ歩いてますね」

 

後藤の心配をよそに、炭治郎はあっけらかんとした表情で答えた。

 

「それってやばくね?マジでやばくねえか?今後とうなるんだよ」

 

すると炭治郎は、微かに表情を曇らせながら口を開いた。

 

「今、調べてもらっているんですけど分からなくて。人間に戻りかけているのか、鬼として進化しているのか・・・」

「胡蝶様が調べてくれてんの?」

「いや、珠世さんが」

「ちょっと、炭治郎!」

「たまよさんて誰だ?」

 

後藤がそう口にした瞬間、炭治郎はおにぎりを盛大に噴き出した。

 

「わっ!何やってんのよ馬鹿!大丈夫!?」

 

汐はすぐさま咳き込む炭治郎の背をさすりながら、水の入った洋杯を差し出した。

 

「おいおい!!やっぱり食いすぎだろうが!病み上がりなんだから、控えろよ!!」

 

後藤も慌てて炭治郎の背中を汐と共にさすった。

 

(あ、危なかった・・・)

 

青い顔で呼吸を整える炭治郎を見て、後藤は呆れた表情を向けながら言った。

 

「っていうか、チビ三人組と妹はどこにいんだよ。アオイちゃんもいねぇしよ」

「今は重体の隊士もいないらしいので、ずっと禰豆子と遊んでくれてるんですよ。そのお陰で、少しずつ喋れるようになってきて」

「そうそう。こないだ、伊之助が怪我してここに来た時に禰豆子に名前を教えてたせいか、あたしの事を伊之助って呼んだのよ。その後に伊之助を締めてから、禰豆子にはきちんと訂正させたけどね」

 

汐は笑いながらそう言うが、さらりと出た恐ろしい言葉に気づいたのは後藤だけだった。

 

「まあこいつの事情はともかく、平和だな」

 

後藤は一瞬目を細めるが、ある事を思い出して目を見開いた。

 

「ただ、黄色い頭の奴が来たら、えらいことになるんじゃねぇの?」

「えっ?」

「あっ」

 

その言葉に炭治郎は疑問を抱き、汐が何かを察して表情を変えた、その時だった。

 

「ギィィャアアアアアアアアアア」

 

外から耳をつんざくような叫び声が響き、三人は思わず飛び上がった。

 

「この声は、善逸か?」

「噂をすれば何とやら、か。全く、人の鼓膜を破る気かよ」

 

後藤が顔をしかめていると、汐の口から小さく舌打ちの音が聞こえてきた。

 

「ちっ、うるせぇな」

 

汐は小さく呟くと、すっと音もなく立ち上がった。

 

「どこに行くんだ?」

 

後藤が尋ねると、汐は背中を向けたまま淡々と答えた。

 

「あいつ、締めてくる」

「!?」

 

汐の冷たい声に、炭治郎と後藤は全身に鳥肌が立つのを感じた。

 

「う、汐。やりすぎるなよ」

「いや、そこは止めろよ!お前の彼女だろ!?」

「流石に無理ですよ!粉砕されます!!跡形もなく!!」

 

涙目になる炭治郎を見て、後藤は心の中でひそかに先ほどの声を主の無事を祈るのだった。

 

 

*   *   *   *   *

 

「ギィィャアアアアアアアアアア」

 

その光景を見た瞬間、善逸の口から凄まじい程の高音が放たれた。その五月蠅さに、禰豆子と遊んでいたアオイたちは、思わず耳を塞いだ。

 

「お、おかえり!」

 

善逸の顔を見て禰豆子がそう言うと、善逸は顔を真っ赤にし、目玉が零れ落ちそうなほど見開いて叫んだ。

 

「可愛すぎて死にそう!!」

「どうぞご自由に!!」

 

そんな善逸にアオイは冷ややかに突っ込むが、その言葉すら今の善逸の耳には届かなかった。

 

「どうしたの禰豆子ちゃん、喋ってるじゃない!俺のため?俺のためかな?俺のために頑張ったんだね!!」

 

善逸は禰豆子の両手を握りしめながら捲し立て、あまりの五月蠅さにきよは耳に痛みを感じたのか、塞ぎながら顔を青くさせていた。

 

「とても嬉しいよ!!俺たち遂に結婚かな!?」

「あっち行って下さい!!」

 

尚も喚く善逸をアオイは引き剥がそうとするが、善逸は禰豆子以外目にも耳にも入らない様だ。

 

「月明かりの下の禰豆子ちゃんも素敵だったけど、太陽の下の禰豆子ちゃんも、たまらなく素敵だよ!!素晴らしいよ!!」

「離れなさいよ!」

「結婚したら毎日寿司とうなぎ食べさせてあげるから、安心して嫁いでおいで!!」

耳がよいはずの善逸が、アオイの言葉に全く耳を貸すことなくしゃべり続ける程、彼は興奮状態に陥っていた。

だが、

 

「おかえり、いのすけ」

 

禰豆子のよく通る声が響いた瞬間、善逸はぴたりとその動きと口を止めた。アオイたちは何とも言えない表情で善逸を見つめ、禰豆子はニコニコと笑いながら善逸を見ていた。

 

やがて少し間が開いた後。

 

「あいつ、どこにいる?ちょっと殺してくるわ・・・」

「物騒なこと言わないで!!

 

緩み切った表情は伊之助に対しての憎悪と嫉妬に歪んだものになり、口からは血が流れ出ていた。

それを慌ててアオイは止めようとするが、その足は不意にぴたりと止まった。

 

善逸の前に立っている人物の気配を感じたからだ。

 

「あら、おかえり善逸。相も変わらず元気いっぱいね」

「あ、う、汐・・・ちゃん」

 

善逸の程までの怒りに歪んだ表情が、みるみるうちに怯えたものへと変わっていく。

 

「ちょうどよかったわ。腕が固定されていたせいか、少し違和感があるの。訓練、付き合ってくれるわよねぇ?」

「え、ちょっ、汐ちゃん・・・待って・・・やめて・・・!!」

 

汐はにっこりと笑いながら善逸に近づき、閉じていた目を開けた。そこには、鬼も震えあがるような光の無い目だった。

 

「ギイヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

その瞬間、善逸のこの世のものとは思えない断末魔の叫びが、屋敷中に響き渡った。

 

*   *   *   *   *

 

汐達が蝶屋敷で騒いでいたころ。柱達は産屋敷邸に集められていた。

 

緊急での柱合会議のためだ。

 

「あーあァ、羨ましいことだぜぇ。なんで俺は上弦に遭遇しねぇのかねぇ」

 

風柱・不死川実弥は心底残念そうにそう口にした。

 

「こればかりはな。遭わない者は、とんとない」

 

それに答えたのは蛇柱・伊黒小芭内。彼はそう言った後向かいに座る蜜璃と無一郎に顔を向けて言った。

 

「甘露寺、時透、その後 体の方はどうだ?」

「あっ、うん。ありがとう、随分よくなったよ」

「僕も・・・、まだ本調子じゃないですけど・・・」

 

蜜璃は心配してくれる伊黒に嬉しさをかみしめつつ答え、無一郎は目を伏せながら答えた。

 

「これ以上、柱が欠ければ鬼殺隊が危うい・・・。死なずに上弦二体を倒したのは尊いことだ」

 

岩柱・悲鳴嶼行冥は涙を流しながら二人を労わった。

 

「今回のお二人ですが、傷の治りが異常に早い。何かあったんですか?」

 

蟲柱・胡蝶しのぶが二人に尋ねると、代わりに応えたのは水柱・冨岡義勇だった。

 

「その件も含めて、お館様からお話があるだろう」

 

義勇がそう言った時、柱達の待つ部屋の襖が開いた。

 

「大変お待たせ致しました」

 

そこに現れたのは、鬼殺隊当主産屋敷輝哉ではなく、彼の妻である産屋敷あまねだった。

 

「本日の柱合会議、産屋敷耀哉の代理を、産屋敷あまねが務めさせていただきます」

 

あまねはそう言って、黒髪と白い髪の子供たちと共に頭を下げた。

 

「そして、当主の耀哉が病状の悪化により、今後皆様の前へ出ることが不可能となった旨、心よりお詫び申し上げます」

 

あまねのあいさつの後、柱達は一斉に頭を垂れた。

 

「承知・・・。お館様が一日でも長く、その命の灯火、燃やしてくださることを祈り申し上げる・・・。あまね様もお心強く持たれますよう・・・」

「・・・柱の皆様には、心より感謝申し上げます」

 

悲鳴嶼の凛とした声にあまねは、いったん言葉を切ると感謝の言葉を述べた。

 

「既に御聞き及びとは思いますが、日の光を克服した鬼が現れた以上、鬼舞辻無惨は目の色を変えて、それを狙って来るでしょう。己も太陽を克服するために。大規模な総戦力が近づいています」

 

あまねの言葉に、柱達の顔に緊張が走る。

 

「上弦の肆・伍との戦いで、甘露寺様、時透様の御二人に独特な紋様の痣が発現したと報告が上がっています。御二人には、痣の発現の条件を御教示願いたく存じます」

 

「!?」

「!?、痣?」

 

これを聞いた蜜璃と無一郎は表情を変え、他の柱達は一斉に二人に視線を向けた。

 

「戦国の時代、鬼舞辻無惨をあと一歩と言う所まで追い詰めた始まりの呼吸の“剣士たち”・・・。彼らは全員に、鬼の紋様と似た痣が発現していたそうです」

 

その話に、一部の柱達は驚いたように肩を震わせた。

 

「伝え聞くなどして、御存じの方は御存じです」

 

あまねの言葉に悲鳴嶼は口をつぐみ、なんとも言えない表情を浮かべていた。

 

「俺は初耳でした。何故伏せられていたのです?」

「痣が発現していない為、思い詰めてしまう方が随分いらっしゃいました。それ故に、痣については伝承が曖昧な部分が多いです」

 

実弥の問いに、あまねは少し目を伏せながら答えた。

 

「当時は重要視されていなかったせいかもしれませんし、鬼殺隊がこれまで、何度も壊滅させられかけ、その過程で継承が途切れたからかもしれません。ただ一つはっきりと記し残されていた言葉があります」

 

――“痣の者が一人現れると、共鳴するように周りの者たちにも痣が現れる”

 

「始まりの呼吸の剣士の手記に、このような文言がありました」

 

あまねの代わりに応えたのは、彼女の息子である黒髪の少年だった。

 

「今、この時代で最初に痣が現れた方。柱の階級ではありませんでしたが、竈門炭治郎様。彼が最初の痣の者」

 

炭治郎の名前が出た瞬間、一部の柱達の表情が強張った。

 

「ですが御本人にも、はっきりと痣の発現の方法が分からない様子でしたので、ひとまず置いておきましたが、この度それに続いて柱の御二人が覚醒された。御教示願います。甘露寺様、時透様」

 

「は、はい!!」

 

あまねに見惚れていた蜜璃は、不意に名前を呼ばれて上ずった声で返事をした。

 

「あの時はですね、確かにすごく体が軽かったです!!」

 

あの時の感覚を思い出しながら、蜜璃は上ずった声のまま答えた。

 

「ぐあああ~~って来ました!グッてして、ぐあーって、心臓とかがばくんばくんして、耳もキーンてして、メキメキメキィって!!」

 

蜜璃の説明に、柱達は勿論あまねたちですら、呆然とした表情で見つめていた。

伊黒に至っては、頭を抱えてしまう始末だった。

 

「申し訳ありません。穴があったら入りたいです」

 

一気に変わった空気に蜜璃は我に返ると、真っ赤な顔で顔を伏せた。

 

(もぉー!何やってるのよ私の馬鹿馬鹿!!こんなんだから、しおちゃんに呆れられちゃうのよ!)

 

蜜璃が心の中で自己嫌悪に陥っている中、空気を切り裂く様に無一郎の声が響いた。

 

「痣というものに自覚はありませんでしたが、あの時の戦闘を思い返してみた時に、思い当たること、いつもと違うことが、いくつかありました」

 

無一郎は真剣な表情で、あまねの目を真っ直ぐ見据えた。

 

「その条件を満たせば、恐らく みんな痣が浮き出す。今から、その方法を御伝えします」

 

無一郎の言葉に、場の空気が一瞬にして張り詰めるのだった。

この作品の肝はなんだとおもいますか?

  • オリジナル戦闘
  • 炭治郎との仲(物理含む)
  • 仲間達との絆(物理含む)
  • (下ネタを含む)寒いギャグ
  • 汐のツッコミ(という名の暴言)
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