ウタカタノ花   作:薬來ままど

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「日輪刀と同じ素材・・・。それって、玄弥の銃のようなものですか?」

 

炭治郎が尋ねると、鉄火場は「おそらく」と答えた。

 

「銃?」

 

汐が聞き返すと炭治郎は、玄弥は日輪刀の他に日輪刀と同じ素材でできた銃を使うということを話した。

 

「そうだったの。何よアイツ。あたしが話しかけた時は、そんなことちっとも教えてくれなかったわ」

「玄弥と?」

 

今度は炭治郎が聴き返すと、汐は頷いた。

 

「でも、あたしと話す時は何故か顔を赤くして目を逸らすのよね。いい加減に慣れて欲しいわ。あたしだってもっともっと玄弥と話してみたいのに」

 

汐はそう言って頬を膨らませると、炭治郎は何とも言えない、微妙な気持ちになった。

 

「話を戻しましょう」

 

鉄火場の冷静な声に、炭治郎は慌てて気持ちを切り替えた。

 

「調べてみた所、江戸よりもさらに前の時代、戦国、もしくは安土桃山時代辺りの物ということがわかりました。その頃には既に日輪刀を打つ技術がありましたから、この懐剣はその過程で打たれたものでしょう」

「でも、これじゃあ鬼の頸は切れないわね。精々隙を突くくらいにしか使えなさそう」

 

汐が首をひねっていると、黙っていた鋼鐵塚が口を開いた。

 

「懐剣の用途は護身の他に自害、暗殺などだ。だが、これは色も変わらず、使った形跡が殆どなかった。おそらく、一度も使わなかったか、もしくは使えない者が何らかの理由で所持していたのだろう」

「そう・・・って、鋼鐵塚さん。あんたなんでそんなこと知ってるの?これを研いだのは鉄火場さんなんでしょ?」

 

汐が問いかけると、鋼鐵塚の肩が小さく跳ねた。

 

「実は、蛍は私の仕事を少しだけ見てくれたんですよ」

 

代わりに答えたのは鉄火場だった。

 

「この懐剣が日輪刀だと気づいたのは、蛍が炭治郎殿の刀を研磨する少し前でした。日輪刀となれば研磨の方法が違う。私は師匠に叩き込まれた研磨術を思い出しながら仕事をしていたんです」

 

だが、研ぎ終わる前に鬼が里を襲撃したため、結局研ぎ直しになってしまったという。

 

「そんな時、この人が私にいろいろと教えてくれたんですよ。最も、相も変わらず上から目線でしたが」

「それはお前が未熟だからだろうが。あんな調子でいたら、何年かかるかわかりゃしねぇ」

 

そう言う鋼鐵塚の声が優しいことに、汐と炭治郎が気づいてほほ笑んだ。

 

「この懐剣は、是非とも汐殿がお持ちください。貴女の故郷で見つかったからだけではなく、これは貴女がもつべきです」

「どうしてそう思うの?」

「確かな根拠はありませんが、しいて言えば【勘】でしょうか。こういった類の物はあまり信用しないのですが」

「ううん、ありがとう。大切にするわね」

 

汐は懐剣を受け取ると、抱きしめるようにそっと胸に当てる。

喜びの匂いを感じた炭治郎は、その嬉しさにつられるように微笑んだ。

 

「あ、そう言えば!」

 

汐は思い出したように鉄火場の方を向くと、少しどもりながら訪ねた。

 

「鉄火場さん、あの後大丈夫だったの?その、鉄火場さんが・・・」

「私が女であること、ですか?」

 

鉄火場があっけらかんと答えると、ほぼ全員が肩を震わせた。特に後藤は目をこれ以上ない程見開き、鉄火場を凝視していた。

 

「あの件で私の性別がほぼ里の者に知られたのですが、驚くことに知っている者は知っていたんです。むしろ、知らなかった者の方が少なかったくらい」

「ええっ、そうだったの!?」

「はい。この人も、私が女であることを知ったら、しばらく石のように固まっていましたよ」

 

くすくすと笑いながらそう言うと、鋼鐵塚は「うるせぇ」と小さく言ってそっぽを向いた。

 

「勿論、奇異の目で見る者はいました。ですが、私の打った刀が上弦の鬼を討伐したということで、里の者の考え方が少しずつ変わってきたように感じました」

「そう。よかった。あたし、実は心配してたのよ?鉄火場さんが里を追い出されちゃったらどうしようって。もしそうなったら、里に怒鳴り込んでやるって思った」

「こらこら汐。流石にそれはやりすぎだ」

 

張り切る汐を炭治郎が諫め、それを見た鉄火場の面から、軽快な笑い声が漏れた。

 

「そのせいかわかりませんが、最近になってよく手紙をもらうようになったのです。私の仕事ぶりを見たいとか、話がしたいとかそう言う内容の手紙が」

「そうなんですか。いったい誰が・・・」

「・・・全部男からだがな」

 

炭治郎の問いを遮って、鋼鐵塚がぶっきらぼうに言った。

 

「この人、私が手紙をもらうようになってから、ずっと不貞腐れているんですよ。訳を聞いても答えてくれないし。あ、不貞腐れるのはいつもの事なのですが、今回はそれが長いような気がして」

 

何故でしょう?と首を傾げる鉄火場を、後藤は何故か羨ましそうに見ていた。

 

「汐殿、本当にありがとうございました」

「えっ?」

 

突然頭を下げた鉄火場に、汐は思わず声を上げた。

 

「私は、自分の腕が未熟なこと、女であることからずっと逃げてきたのです。ですが、貴女と出会ったことで、私は自分を偽ることをやめました。どんなに取り繕っても、所詮私は私なのだということに気づいたのです」

「鉄火場さん・・・」

「これからは、ありのままの自分で生きて行こうと思います。本当に、本当にありがとうございました!!」

 

鉄火場の声には一切の迷いも恐れもなかった。面で顔は見えないが、きっと晴れ晴れとした表情をしているだろう。

 

「それから、炭治郎殿」

「は、はい!!」

「これからも、汐殿をよろしくお願いいたします」

「は、はい!!・・・って、ええっ!?」

「ちょっ・・・」

 

炭治郎と汐は真っ赤になり、うまく言葉を紡ぐことができなかった。

 

「とにかく!!」

 

そんな空気を切り裂く様に、鋼鐵塚の声が響く。

 

「炭治郎」

「は、はい!!」

 

不意に呼ばれた炭治郎が返事をすると、鋼鐵塚は突然炭治郎の髪を掴んで言った。

 

「お前は今後、死ぬまで俺にみたらし団子を持ってくるんだ。いいな、分かったな」

「は、はい・・・。持っていきます」

 

ひょっとこの口が炭治郎の頬に刺さる程顔を近づけながら、鋼鐵塚は震える声で言った。

 

「ちょっと、何をしているんですか。二回り近く下の子に集るなんでみっともない」

 

鉄火場は鋼鐵塚を引きはがすと、呆れたように言った。

 

「そんなにみたらし団子が食べたいなら、私が作りますよ。だから少しは落ち着きなさい」

 

鉄火場がそう言った瞬間、鋼鐵塚の動きがぴたりと止まった。

 

「は、鋼鐵塚さん・・・?」

 

まるで石のように動かなくなった鋼鐵塚に、炭治郎が恐る恐る声を掛けると、

 

「止めろおおおおおお!!!俺を殺す気かァァアア!!」

 

突然、断末魔のような叫び声が鋼鐵塚の口から飛び出した。

そんな彼からは、まごうことなき恐怖の匂いが漏れていた。

 

「殺すだなんて心外な。あの時はたまたま失敗してしまっただけで、次は・・・」

「たまたまで歯が折れそうなほどの強度の団子ができるのか?喉が焼けるようなタレができるのか?あんな劇物生み出しやがって。あの時、危うく俺は死ぬところだったんだぞ!!」

 

先程と同じくらいの怒りの炎を纏いながら、鋼鐵塚は鉄火場に詰め寄った。

それを見ていた汐達は、同じ考えを胸に浮かべた。

 

(鉄火場さん・・・、料理、苦手なんだ・・・)

 

口論する二人を見て、汐達は何とも言えない気持ちになった。

 

「さて、私たちはお暇します。ほら蛍、帰りますよ」

「おい炭治郎!!必ずみたらし団子を持ってこい!!絶対に焔に作らせるな!!」

 

鉄火場に引きずられていく鋼鐵塚は、必死の思いで炭治郎にそう言った。

 

「ありがとうございました!お二人共お大事に!!」

 

去って行く二人に、炭治郎はそう言った。

 

「噂には聞いていたけど、スゲェ人達だな」

 

静かになった病室で、後藤がぽつりと言った。

 

「鉄火場さんはともかく、今日の鋼鐵塚さんははかなり穏やかでしたよ。相当つらいみたいです」

「マジかよ・・・」

「そうね。でも、二人が元気そうでよかったわ」

 

そこまで言った汐は、唐突にある事を思い出した。

 

「そう言えば炭治郎。あんた、鉄火場さんが女だって聞いたとき、あんまり驚いていなかったけど、もしかして知ってたの?」

「えっと、知っていたというか違和感はあったよ。初めて出会った時、鉄と火の匂いの他に、妙に柔らかい匂いがしたから・・・」

「何よそれ!知ってたんなら教えなさいよね!!あたし結構後になって知ったんだから!!」

 

汐が思わず叫ぶと、背後から不機嫌そうな声が聞こえてきた。

 

「さっきから、うるせぇんだよ」

 

汐が振り返ると、玄弥が不機嫌そうな顔でこちらを睨んでいた。

 

「あら、あんたいたの?いたんなら会話に混ざればよかったのに」

「できるわけねぇだろ。この状況で」

 

玄弥はそう言って汐に背を向けた。その耳が真っ赤に染まっていることに、汐は気が付かなかった。

 

「さて、あたしはそろそろ部屋に戻るわ。あんた達もゆっくり休んで」

「ありがとう。お前もゆっくり休むんだぞ」

「そうさせてもらうわね。じゃあね、炭治郎、玄弥、後藤さん」

「おー、お大事にな」

 

汐がそう言って部屋に戻ろうとしたときだった。

 

「うおおおおお!!!」

窓の硝子が砕け散ると同時に、外から伊之助が雄たけびを上げながら飛び込んできた。

 

「ぎゃあああああ!!!」

 

玄弥を除く全員が悲鳴を上げ、先ほどまでの静けさはあっけなく崩壊した。

 

「ああーーーー!!伊之助・・・!!何してるんだ!窓割って・・・!!」

「お前バカかよ!!胡蝶様に殺されるぞ!!」

 

炭治郎と後藤が叫ぶように言うと、伊之助は両腕を振り回しながら「ウリィィィィ!!」と叫んだ。

 

そんな伊之助に後藤が「黙れ!!」と言いながら頭を叩くが、伊之助は一向に黙らない。

 

(部屋を別にしてほしい・・・)

 

玄弥は両手で耳を塞ぎながら、騒音から逃げるように布団に潜り込んだ。

 

「強化、強化、強化!!合同強化訓練が始まるぞ!!」

 

伊之助は興奮しきっているのか、身体についた硝子の破片を気にも留めずに叫んで走り回った。

 

「強い奴らが集まって、稽古つけて・・・何たらかんたら言ってたぜ」

「?なんなんだ、それ」

 

炭治郎が尋ねると、伊之助は胸を張って「わっかんねえ!!」と答えた。

 

飽きれて呆然とする炭治郎だが、汐が妙に静かであることに気づくのに少しだけ遅れた。

視線を移せば汐は俯いたまま小刻みに震えており、はっきりとわかる怒りと殺意の匂いが鼻を突き刺した。

 

その雰囲気は後藤にも伝わった。善逸を再起不能にすると宣言した時よりも、明らかに怒りの度合いが違う。

 

二人の背中を、冷たいものが伝った。

 

「人の部屋で騒ぐなって、何回何十何百何千回も言ったはずなのに、あんたはこれっぽっちも懲りていないようねぇ・・・」

 

汐の地の這うような声が響き、炭治郎と後藤は顔を引き攣らせた。

 

「よかったわ。今ちょうどここにいい獲物があるの。研ぎたてて切れ味抜群の、素晴らしい獲物よ」

「汐・・・、お前、まさか・・・」

 

炭治郎の顔がこれ以上ない程真っ青に染まり、出てくる声も震えていた。

 

「今日という今日は絶対に許さない!!その皮と腸と××××(ピー)綺麗に掻っ捌いて、干物にしてやるゴルァアアアア!!!」

 

汐は貰った懐剣を握りしめ、伊之助に向かって躍りかかろうとした。

それを後藤が羽交い絞めにし、何とか阻止した。

 

「落ち着け汐!!それをやったら本当に人殺しだぞ!!殺意、殺意引っ込めて!!」

「やかましいいい!!!しのぶさんが来る前に、あたしがお前をやってやるぅぅぅうう!!」

 

汐はそう叫んで後藤を振り払い、伊之助に飛び掛かろうとしたときだった。

 

「その必要はありませんよ、汐さん」

 

背後から透き通った声が聞こえ、汐は思わず動きを止めた。

恐る恐る振り返れば、そこには満面の笑みで青筋を立てているしのぶの姿があった。

 

「ひっ、こ、胡蝶様!!」

 

後藤は上ずった声を上げ、汐は勿論あれほど騒いでいた伊之助も、ぴたりと動きを止めた。

 

「私はこれから伊之助君と話をしますので、汐さんはお部屋に戻ってくださいね」

「・・・はい」

 

汐の殺意はみるみるうちに消え失せ、伊之助は汐に睨まれたときよりも明らかに怯えているように見えた。

 

その後、伊之助が朝までこってり絞られたことは、言うまでもなかった。

 

 

*   *   *   *   *

 

同時刻。

 

銀糸の髪を夜風に揺らしながら、宇髄は星空を見上げた。

失った左目のあった場所には、彼の趣味がちりばめられた眼帯がある。

 

ふう、と小さく息を吐いたその時。

 

「失礼します、天元様」

 

背後から声がして振り返ると、そこには宇髄の妻である三人の女性が立っていた。

 

「おー、戻ったかお前等。おかえり」

 

宇髄がそう言うと、彼女たちの表情が緩んだ。

 

「はー!あんな遠くまで行ったの、久しぶりで疲れましたー!」

「よく言うよ、須磨。あんたは海を見てはしゃいでいただけじゃないか」

 

疲れたように伸びをする須磨を見て、まきをは呆れたようにそう言った。

 

「まきをさんだって、港町の珍しいものに目移りしてたの、知ってるんですからね!」

「うるさい!!あたしは仕事で聞き込みをしてたんだ!」

「二人ともちょっと黙って」

 

言い争いを始める二人を、雛鶴は鋭い一言で黙らせた。

 

「天元様の読み通り、元海柱・大海原玄海様の居住地から、これが見つかりました」

 

そう言って雛鶴が差し出したのは、一冊の古い文献だった。

 

「大海原家の跡地は既にありませんでしたが、彼はこのような物を海の隠し洞窟に保管していたようです」

「そうそう。あの大きな岩のある入り江、まさか隠し通路があったなんて驚きです!!」

 

興奮する須磨に、まきをは「あんたが転んだ拍子に偶然見つかったんだけれどね」と呟いた。

 

「天元様・・・」

「ああ。こいつが、大海原家とワダツミの子の謎を解く大きな手掛かりになる」

「さっそく読んでみましょうよ!!」

 

須磨の言葉に雛鶴は頷き、皆に見えるようにして文献を開いた。

 

「こ、これは・・・」

 

文献を読み進めて行くほど、皆の顔が青ざめたものに変わっていく。

 

「こ、これ・・・、本当の事なんでしょうか?信じられない・・・」

「でも、これが現実だ。現実は受け入れなくちゃいけない・・・」

 

須磨とまきをは、青い顔で宇髄を見上げた。

 

「天元様。もしも、これが事実だとしたら、彼女は・・・」

 

雛鶴は今にも泣きそうな表情で宇髄を見上げると、宇髄は顔から一筋の汗を流していた。

 

「嗚呼。あいつに取っちゃ、これはあまりにも酷すぎる現実だ・・・」

 

宇髄は目を閉じ、汐の顔を思い浮かべた。何者にも、何事にも屈しない、気高き魂を持つ青い髪の少女。

 

だが、今目の前で明かされた真実は、汐にとっては残酷なものだった。

 

(汐・・・。お前は、いや、お前達は・・・)

 

四人の間の重苦しい空気に反し、星空はどこまでもどこまでも澄みわたっていた。

この作品の肝はなんだとおもいますか?

  • オリジナル戦闘
  • 炭治郎との仲(物理含む)
  • 仲間達との絆(物理含む)
  • (下ネタを含む)寒いギャグ
  • 汐のツッコミ(という名の暴言)
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