ウタカタノ花   作:薬來ままど

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翌日。

 

機能回復訓練をしていた汐の元へ、蜜璃が様子を見にやってきた。

 

汐は訓練を中断すると、蜜璃と共に部屋へと戻った。

 

「そう、もうすぐ完治なのね。よかった・・・」

 

汐から話を聞いた蜜璃は、心の底から嬉しそうに笑った。

 

「腕の違和感ももうほとんどないから、長くても一週間以内には復帰できるみたい。ところで、みっちゃんがここに来たのは見舞いだけじゃないわよね?」

「ええ。しおちゃんにこれからの事を伝えるために来たの」

 

蜜璃はそう言って、真剣な表情で汐を見た。

 

「もしかして伊之助が言ってた、合同強化訓練・・・ってやつ?」

「そうそう!名付けて"柱稽古"!!柱よりも下の階級の隊士の人達が、私達柱の所に来て稽古をする、大規模な催しなの!!」

 

蜜璃は頬を高揚させながらそう言った後、突然真剣な表情で汐を見ながら言った。

 

「ねえ。しおちゃんは、柱がどうして継子以外に訓練をつけないかわかる?」

 

蜜璃の問いかけに、汐は首をひねってこたえた。

 

「柱が変人すぎて人が近寄ってこないから?」

「しおちゃん、ボケないで真面目に考えて」

「あ、うん(ボケてないけど)。えっと、単純に考えたら、忙しいのよね。みっちゃんもしのぶさんも、あちこち飛び回っているみたいだし」

 

汐の答えに、蜜璃は頷いた。

 

柱は警備担当地区が広大なうえ、鬼の情報収集や自身の更なる剣技向上の為の訓練。その他諸々やることがたくさんあった。

その為圧倒的に時間が足りず、隊士の育成が不十分だった。

 

「でも、この間の刀鍛冶の里の事件以来、鬼が全然出なくなったの。どうしてか分かる?」

「うーんと、考えられるのは・・・。禰豆子が太陽を克服した事・・・」

「そう。無惨はきっと禰豆子ちゃんを狙ってくるから、きっと大きな戦いになると思う。そのためにも私達はもっともっと強くならないといけないから、皆の戦力向上の為に悲鳴嶼さんが提案したのよ」

 

そう言う蜜璃は、まるで自分の事のように誇らしげだった。

 

「参加するのは私の他に、伊黒さん、悲鳴嶼さん、無一郎君、不死川さん、そして、元柱の宇髄さん」

「え、宇髄さんも?」

「話を聞いたらノリノリで参加してくれたそうよ。最近いろいろあって鬱憤がたまっていたからちょうどいいって笑ってたって」

 

嬉しそうに話をする蜜璃を見て、汐は少し困ったように笑った。

 

「ん?あれ?今出した名前に、冨岡さんとしのぶさんが入っていないけれど、どうして?」

 

汐が唐突に尋ねると、蜜璃の表情が明らかに曇った。

 

「冨岡さん、何だか元気がないみたいなの。会議の時も『俺はお前達とは違う』って言って不死川さんと喧嘩になりそうだったから、何か悩み事でもあるのかもしれないわ」

「しのぶさんは?」

「しのぶちゃんは、何か大切な用事があるって言ってたわ。稽古よりも大事な事って、よっぽどの事なのね。心配だわ・・・」

 

悲し気に目を伏せる蜜璃を見て、汐も何とも言えない気持ちになった。

 

「ところで話は変わるんだけど、しおちゃん。あなたは"痣"って知ってる?」

「痣?」

 

汐が聞き返すと、蜜璃は神妙な面持ちで頷いた。

 

「上弦の鬼と戦った時、私の身体に痣が出ていたみたいなの。その時は無我夢中で分からなかったんだけれど、それが出るといつも以上にすごい力が出せるの」

「痣・・・。もしかして、無一郎や炭治郎の顔に出てたあれのこと?」

 

汐の言葉に、蜜璃は驚いたように目を見開いた。

 

「あたしも少しだけ遠目で見ただけだけれど、確かにすごい動きをしていた気がする。あれっていったい何なの?」

「原理はよくわからないけれど、身体の温度を三十九度以上にして、心拍数を二百以上にすると痣が出てすごい力が出せるの。でも、体質的に痣が出ない人もいるみたいで、そこはよくわからないわ」

「体温を三十九度・・・。たぶんあたしには無理ね。あたしの平熱は低いから、そんな体温だったら確実に死んでるわ」

 

汐は少し残念そうに答えた。

 

「・・・でも、しおちゃんはそれでいいのかもしれないわ」

 

蜜璃はそう小さく呟くと、汐に悟られないように笑った。

 

「さて、私はこれから準備をしなくちゃ。しおちゃんはしっかり回復訓練をして、万全の状態で稽古に挑むのよ」

「はーい」

 

蜜璃はそう言って蝶屋敷を後にした。

 

訓練を終えた汐は、炭治郎の顔を見ようと病室へ向かっていた。

すると

 

「自分よりも格上の人と手合わせしてもらえるって、上達の近道なんだぞ」

 

部屋の中から炭治郎の熱のこもった声が聞こえてきた。

 

「自分よりも強い人と対峙すると、それをグングン吸収して強くなれるんだから」

 

その声が炭治郎の飽くなき向上心を現していると感じて、汐も自然と笑顔になった。

 

だが

 

「そんな前向きなことを言うんであれば、お前と俺の中も今日これまでだな!!」

 

空気を震わすような善逸の怒声が、汐の耳を突き刺した。

 

「お前はいいだろうよ、まだ骨折治ってねぇから、ぬくぬくぬくぬく寝とけばいいんだからよ!!俺はもう、今から行かなきゃならねぇんだぞ!!分かるかこの気持ち!!」

「いたたたた!!」

 

炭治郎の悲鳴が聞こえたため、汐は慌てて部屋の中に飛び込んだ。そこには、炭治郎の額に激しく噛みつく善逸の姿があった。

 

「へー、そう。そんなに休みたいなら、休ませてあげましょうか?」

 

汐がそうささやくと、善逸の顔が一瞬で青く染まった。

昨日、汐に完膚なきまでに叩きのめされた恐怖が蘇ってきたのだろう。

 

よく見れば善逸の頭には、こぶの痕がまだ残っていた。

 

「こらこら汐。やたらめったらに怪我人を増やしちゃ駄目だ。アオイさんたちが大変だろう?」

「え、気にするところそこ?俺の心配はしてくれないの?」

 

炭治郎のズレた指摘に、善逸は冷ややかに突っ込んだ。

 

「まったく、今更騒いだってしょうがないでしょ?覚悟決めなさい覚悟」

 

汐の有無を言わせない圧力に、善逸は涙を流しながら背を向けた。

 

「あっ、善逸。いい忘れてたけど、ありがとう」

 

炭治郎は、去り行く善逸の背中に向かって声を掛けた。

 

「俺に話しかけるんじゃねえ・・・!!」

 

しかし善逸は振り返ることなく、恨みと憎しみを籠った声で答えた。

 

「いやいや、待ってくれ。上弦の肆との戦いで片足がほとんど使えなくなった時、前に善逸が教えてくれた雷の呼吸のコツを使って、鬼の頸が斬れたんだ」

 

炭治郎は、朗らかな表情を向けて言った。

 

「勿論、善逸みたいな速さでは出来なかったけど、本当にありがとう。こんな風に、人と人との繋がりが窮地を救ってくれる事もあるから、柱稽古で学んだ事は全部きっと良い未来に繋がっていくと思うよ」

 

炭治郎の"目"と"音"は、嘘偽りのない彼の心を静かに映していた。

善逸はそんな炭治郎に一瞬だけ面食らうが、

 

「馬鹿野郎、お前っ・・・そんなことで俺の機嫌が直ると思うなよ!!」

 

しかし言葉とは裏腹に、善逸の表情はこれ以上ない程緩んだ笑顔になっていた。

それを見た炭治郎は(あ、ゴキゲンだ。よかった)と安堵し、汐は(単純な男ね・・・)と呆れた顔をした。

 

そのまま善逸は頭から花を咲かせながら、蝶屋敷を後にした。

 

「あ、汐。甘露寺さんが来てたって聞いたけれど、何か話してたのか?」

「うん。柱稽古の事を少しね」

「そうか。俺も詳細を善逸から聞いてたんだ」

「そうだったの。みっちゃんの話だと今回の稽古、今の柱連中は勿論、宇髄さんも参加するって」

「宇髄さんも!?それは楽しみだなぁ」

 

稽古が待ち遠しいのか、炭治郎は頬を赤くしながら鼻息を荒くしていた。

 

「でも、冨岡さんとしのぶさんは不参加なんですって」

「冨岡さんとしのぶさんが?どうして?」

「詳しくはみっちゃんもわからないみたいだけど、しのぶさんは凄く大事な用事があるみたい。冨岡さんは・・・、なんか妙なことを言ってたらしいわ。『俺はお前達とは違う』って」

 

汐の言葉に、炭治郎の目が不安げに揺れた。

 

「どういう意味なんだろう」

「さあ?ひょっとして、『雑魚とは違うのだよ、雑魚とは!!』みたいな感じかしら」

「冨岡さんがそんなことを言うわけないだろう。それに、その言葉はなんだかすごく危険な気がする」

 

うーんと二人が首をひねっていると、突然窓の外から何かが飛んで来る気配がした。

 

汐が顔を動かした途端。黒い塊が二つ、ものすごい速さで飛んで来るのが見えた。

 

一つは炭治郎の額に。もう一つは汐の脇をすり抜け、壁に激突した。

 

「ギャアアアアアッ!!」

「なっ、なっ・・・」

 

炭治郎は悲鳴を上げて額を抑え、汐は目を白黒させた。

炭治郎に激突した黒い塊はけたたましく鳴いた。

 

「うわぁ、血が出た!急に何するんだよ!酷いな」

 

よく目を凝らせば、それは炭治郎の鴉であり、炭治郎を嘲るように何度も鳴いた。

そして壁にぶつかっていたのは、汐の鴉だった。

 

「タユウ!?び、びっくりするじゃない!!ダツ*1みたいに突っ込んでくるんじゃあないわよ!!」

 

汐も驚きを怒りに変えて詰め寄ると、タユウはいつも通りに間延びした声で鳴いた。

 

「と、ところで二人、いや、二羽とも。どうしたんだ?」

 

落ち着いた炭治郎が問いかけると、二羽の鴉はほぼ同時に咥えていた手紙をそれぞれに渡した。

 

「オ館様カラノ手紙ダ!!至急読ムノダ!!」

「オ館様カラノオ手紙デス~。今スグ読ンデクダサイネェ~」

 

「「えっ!?」」

 

鴉の言葉に、二人は目玉が飛び出る程驚いた顔をした。

 

「お、お、お館様からァーー!?ど、どうしよう!あたしまた、なんかやらかした!?」

「(自覚あるのか・・・)いや、手紙からはそんな殺伐とした匂いはしない。とにかく読んでみよう」

 

二人は顔を見合わせてうなずくと、恐る恐る手紙を開いた。

 

「え、これって・・・」

 

汐と炭治郎は、輝哉からの手紙を読み進めて息をのんだ。

 

「お館様、もうそんなに具合が悪くなってたの・・・。それに、これ・・・」

 

汐は読み終わると硬い表情のまま炭治郎を見た。

 

「・・・汐。頼みがあるんだ」

 

炭治郎は手紙を読み終えると、汐の目を見据えながら言った。

 

「俺と一緒に行って欲しい。お館様の頼みを聞くために」

「そんなの当り前よ。嫌って言ってもついていくわ。お館様の直々のお願い、断る理由なんてないもの」

 

汐は決意を込めた表情で頷き、炭治郎も同じく頷いた。

 

「じゃああたしは、しのぶさんに話をしてくるわ。それまで勝手な事するんじゃないわよ」

 

汐はそう言うと、足早にしのぶの元へ向かった。

 

「・・・・」

 

炭治郎は、輝哉からの手紙を握りしめながら目を伏せた。

 

「・・・冨岡さん」

 

炭治郎の小さく呟かれた名前は、病室に静かに響いた。

 

*   *   *   *   *

 

その頃、宇髄邸では・・・

 

「遅い!!」

 

晴れ渡った空の下を、宇髄の怒声が響いていた。

 

「遅い、遅い、遅い!!何してんのお前ら。意味わかんねぇんだけど!!」

 

宇髄は片手に竹刀を持ちながら、眼前で蠢く隊士達に檄を飛ばしていた。

 

「まず基礎体力が無さすぎるわ!!走るとかいう単純なことがさ、こんなに遅かったら上弦に勝つなんて、夢のまた夢よ!?」

 

宇髄の言葉は、地面に突っ伏している隊士達容赦なく突き刺さるが、彼等は動くことすらできないようだった。

 

「ハイハイハイ、地面舐めなくていいから。まだ休憩じゃねぇんだよ。もう一本走れ」

 

宇髄はそんな彼等に、容赦なく竹刀を振り下ろす。

乾いた音が響き渡り、隊士達のうめき声が聞こえた。

 

(ったく、どうしようもねえな。質が悪い!)

 

そんな隊士を見て、宇髄はうんざりしたように鼻を鳴らした。

 

柱稽古。その名の通り、柱達による一般隊士達の強化訓練。

 

まず初めに宇髄の下で基礎体力の向上から始まり、無一郎による高速移動の稽古。

次に蜜璃の地獄の柔軟訓練、伊黒による太刀筋矯正訓練、実弥による無限撃ち込み稽古。悲鳴嶼による筋力強化訓練。

 

柱一人一人がそれぞれの訓練を担当し、隊士達は彼らの元を回って稽古を受ける。

 

だが、この訓練の目的はそれだけではなかった。

 

柱の方も、隊士との訓練によって自分自身の能力の向上も見込まれ、痣が出ている者は痣状態でいられるように。

まだ痣が出ていないものには、痣を出せるようにするという目的もあった。

 

その過程で、得た情報は隊全員に伝達・即共有で、隊全体の力を上げていた。

 

来たる戦いに備えて。

 

だだ、一人の男を除いては。

 

「・・・・」

 

その日、水柱・冨岡義勇は一人、自身の屋敷で瞑想をしていた。

今頃、他の柱達は隊士達との訓練に精を出しているころだろう。

 

聞こえるのは自分が生きている音と、外から聞こえる鳥のさえずりだけだった。

 

ほんの、数秒前までは。

 

「ごめんくださーい!冨岡さーん!!」

 

屋敷の外から聞き覚えのある声が聞こえた。

 

義勇は小さく肩を震わせるが、聞こえなかったことにして瞑想を続けた。

 

「こんにちは、すみませーん。義勇さーん、俺ですー。竈門炭治郎ですー」

 

しかし、炭治郎の声は一向に止まる気配がない。

それでも義勇は、声に答えることなく目を閉じた。

 

「ああもう、じれったい。炭治郎、ちょっとどいて」

 

外から聞こえた別の声に、義勇は思わず目を見開いた。

 

(大海原も来てるのか・・・!?)

 

「ちょっと冨岡さん!!いるのはわかってんのよ!!居留守なんか使ってないで、さっさと出てきなさいよ!!」

 

汐の怒鳴り声と共に、扉を叩く大きな音が屋敷中に響き渡った。

 

「わー、汐やめろ!それじゃあ取り立て屋みたいじゃないか!」

「うるっさいわね。いくら呼んでも出てこない冨岡さんが悪いのよ!あーもう、これじゃあ埒が明かないじゃない!」

 

苛立ちを孕んだ汐の声が聞こえ、義勇はこのまま炭治郎が汐を連れ帰ってくれることを願った。

 

正直なところ、義勇は汐が苦手だった。

 

苦手というよりは、今まで出会った事のないタイプの女性だったため、扱い方が分らないのだ。

 

それ程まで、歩く爆発物のような汐は、義勇にとって未知の存在だった。

 

だが、次の炭治郎の声で義勇の願いは粉々に吹き飛ぶことになった。

 

「じゃあ入ってみよう。すみませーん、入りますねー」

 

その言葉に、義勇は耳を疑った。

 

(入ります?いや・・・。帰りますだな、聞き間違いだ・・・)

 

しかしそれは聞き間違いではなかったことが、扉の向こうから現れた炭治郎と汐の姿を見て嫌でも気づかされるのだった。

*1
ダツ目ダツ科の魚。光に反応し突進してくるので非常に危険。

この作品の肝はなんだとおもいますか?

  • オリジナル戦闘
  • 炭治郎との仲(物理含む)
  • 仲間達との絆(物理含む)
  • (下ネタを含む)寒いギャグ
  • 汐のツッコミ(という名の暴言)
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