義勇さんの過去に一部捏造があります
義勇さんの扱いが酷いです
壱(注意書き有)
冨岡義勇には
彼等は病死した両親の遺産を使って、二人で慎ましく暮らしていた。
そんな蔦子が嫁ぐことになり、義勇はそれを心の底から祝福した。今まで苦労した分、姉には幸せになってほしかった。
しかしその願いは、蔦子が祝言を上げる前日の夜に無残にも砕かれた。鬼が蔦子と義勇を襲い、蔦子は義勇を守ってその命を落とした。
義勇は、姉を殺したのは鬼だと必死に訴えたが、誰も信じてもらえなかった。それどころか、周りの人間は義勇が心を病んだと思い、当方の親戚の医者の元へ送られることになってしまった。
だが、義勇はそれを拒みその途中で脱走するが、遭難してしまった。
その際にのちに師となる鱗滝左近次の知り合いの漁師に拾われ、鬼殺の路へと進むことになった。
その時に出会ったのが、義勇と似た境遇の同い年の少年、錆兎だった。
二人は意気投合し、辛い修行も二人なら乗り越えられた。義勇の傍にはいつも錆兎がいた。
しかし義勇の心の中には、決して消えないしこりがあった。
それは、自分を庇って死んだ姉の事。姉の代わりに自分が死ねばよかったのではないか。自分のせいで姉は死んだのではないか。
自分は、生きていていい人間なのか。
ある日、義勇はその想いを錆兎に打ち明けた。だが、錆兎から返ってきたのは、渾身の力の平手打ちだった。
頬が腫れ、口からは血があふれ出た。義勇は頬を抑えながら、錆兎の顔を見つめた。
『さ・・・、錆兎・・・』
『自分が死ねば良かったなんて、二度と言うなよ。もし言ったらお前とはそれまでだ。友達をやめる』
錆兎は義勇を見据えながらきっぱりと言い切った。
『翌日に祝言を挙げるはずだったお前の姉も、そんなことは承知の上で鬼からお前を隠して守っているんだ。他の誰でもない、お前が・・・お前の姉を冒涜するな』
錆兎の鋭い言葉が、義勇の胸に突き刺さる。
『お前は絶対死ぬんじゃない。姉が命を懸けて繋いでくれた命を、託された未来を繋ぐんだ。義勇』
* * * * *
義勇は汐と炭治郎に背を向けると、頬を手で押さえた。汐が打った右ほおではなく、左頬を。
(痛い・・・)
義勇は痛みを感じていた。汐に打たれた頬も痛むが、同じくらいに痛むのは心。
義勇の脳裏には、あの時錆兎に打たれた衝撃と痛みがはっきりと蘇っていた。
(何故、忘れていた?錆兔とのあのやり取り、大事なことだろう)
大切な親友が教えてくれた、大切な出来事。それをなぜ忘れていたのか。
いや、忘れていたわけではなかった。思い出したくなかった。涙が止まらなくなるから。思い出すと悲しすぎて 何も出来なくなったから。
(蔦子姉さん・・・、錆兎・・・未熟でごめん・・・)
義勇は、二人に背を向けたまま項垂れた。それからまるで石になったかのように、ピクリとも動かなくなってしまった。
(あれ・・・?)
汐は顔を引き攣らせながら、冷たい汗を流した。先ほど、自分が叩いた頬とは反対側の頬を押さえていたように見えた。
(もしかして、強く叩きすぎて、冨岡さんの頭馬鹿になっちゃった・・・?)
汐は青い顔で炭治郎と見つめた。炭治郎も、自分が酷いことを言ってしまったのではないかと表情を曇らせた。
(汐の言っていることは間違っているとは思わないけれど、義勇さんにとってはそうじゃなかったかもしれない。追い打ちをかけてしまったのかもしれない・・・)
このままでは義勇の心が折れてしまうかもしれないと感じた炭治郎は、必死に考えを巡らせた。
その結果、炭治郎の頭に一つの案が浮かんだ。
(そうだ。早食い勝負をするのはどうだろう?)
炭治郎は至ってまじめに考えた。
(勝負で俺か汐が勝ったら、元気を出して稽古しませんか?みたいな・・・。俺はまだ復帰許可おりてないから、手合わせ的なこと出来ないし。義勇さん、寡黙だけど早食いなら喋る必要ないし、名案だな!)
目を輝かせる炭治郎を見て、汐は炭治郎がまた何か突拍子もないことを考えているのを察した。
「炭治郎、大海原。遅れてしまったが、俺も稽古に「義勇さん、ざるそば早食い勝負、しませんか?」
義勇の言葉を遮って、炭治郎が提案した。
(なんで?)
(やっぱり)
義勇は疑問符を頭に張り付け、汐は相も変わらずおかしな提案をする炭治郎に頭を抱えた。
その時だった。
「え?」
義勇は突然、強烈な眩暈を感じて蹲った。頭が揺さぶられるような不快感が、段々と広がっていく
「えっ、ちょっ・・・?!」
「うわああああ!!義勇さーん!!」
呆然とする汐の顔と叫ぶ炭治郎の声が、ぼんやりと見え、そして聞こえた気がした。
「嘘、嘘!?あたし義勇さんやっちゃった!?本当にやっちゃった!?」
「言ってる場合じゃない!!とにかく、義勇さんを休ませよう!!手伝ってくれ!!」
* * * * *
眩暈を起こした義勇を連れて、汐と炭治郎は休めるところを探した。
運よく空いている茶屋がみつかり、休憩がてら皆で休むことした。
「ごめん、本当に、ごめんなさい」
義勇に濡れた手ぬぐいを手渡しながら、汐は心から申し訳なさそうに謝った。
「いや・・・」
義勇は腫れた頬を冷やしながら、汐から目を逸らしていた。
「善逸や伊之助を殴った時もよく気絶してたけれど、まさか柱のあんたまでそうなるとは思わなかったわ」
「・・・、お前は普段からもこんなことをしてるのか?」
義勇の問いかけに汐は「まさか!こんなことは偶にしかやらないわよ!」と答えた。
義勇はため息をついて目を閉じた。頬の鈍い痛みが、手ぬぐいの冷たさに溶け込んでいく。
「あのね、義勇さん。あたし、あんたにちゃんと言っておきたいことがあるの」
汐は顔を逸らす義勇に向かって話しかけた。
「あたし、あんたに命を助けられて、鬼殺隊の事とかいろいろ教えてくれて本当に感謝しているの。あんたがいなければ、あたしはとっくにこの世にはいないし、おやっさんの事も救えなかった。それだけじゃない。あたしを炭治郎と禰豆子に会わせてくれた。前に進む希望をくれたのはあんたよ。だから、その、本当にありがとう」
汐の声は、義勇の耳を通り体の中に染みて行く。
「俺は特別なことは何もしていない」
「十分特別よ。あんたいい加減に、その後ろ向きの性格何とかしなさいよ」
「俺は後ろ向きじゃない」
「・・・鏡持ってきてあげようか?」
汐は相も変わらずつれない義勇に呆れながらも、思っていたことを口にした。
「でも、そう言う融通が利かないところ、錆兎にちょっと似てるかも」
「!?何故お前が錆兎を・・・」
義勇はそう言いかけて口を閉じた。汐も鱗滝の下で学んだ、いわば妹弟子のようなものだ。
彼から錆兎の事を聞いていてもおかしくない。
「この半分の羽織の柄は錆兎の物で、もう半分は俺の、姉の形見なんだ」
「お姉さんの?」
「ああ。俺の姉は、俺を守って殺された」
義勇はぽつりぽつりと、自分の過去を語りだした。姉を殺され、鱗滝と出会い、そして錆兎と出会った事。
話が進むにつれ、汐の胸もきしむように痛みだした。
「姉さんは本当にやさしかった。俺が眠れないときには、眠るまで傍にいて子守唄を歌ってくれた」
「へえ。義勇さんにもそんな時代があったのね」
「あの時の俺は、本当に小さく、無力だった。姉さんが鬼に襲われているのに、何もできなかった」
「そりゃそうよ。あたしだって、親友が鬼にさらわれたのに助けられなかった。時々夢に見ることもあるのよ」
でもね、と汐はつづけた。
「炭治郎が言ってたわ。『過ぎた時間はもう戻らない。下を見てしまえばきりがない。失っても、失っても生きていくしかないんだ』って。実際その通りだった。あたし達も今日まで、多くの物を失ったわ。でも、それと同じくらいに得たものもある。今の自分がここに居るのは、その失った過去があるからこそだと、あたしは思うわ」
義勇は目を見開いて汐を見た。深い青い瞳に自分の顔が映っている。
年下の少女とは思えないその雰囲気に、義勇は圧倒された。そして思い出した。
かつて、鬼と化した父親を斬ると決心した、あの時の事を。
「だから、その。うまく言えないけれど、あんまり気にすんじゃないわよ。あんたがそんなんだと、あたしも・・・」
「すまなかった」
「え?」
義勇の謝罪の言葉に、汐は面食らった。
「俺のせいで、お前達にいらぬ心配をさせてしまった。本当に申し訳ない」
「馬鹿ね、言葉が違うでしょ?こういう時は謝罪じゃなくて、別の言葉があるじゃない」
汐がそう言うと、義勇はきょとんとした表情で見つめた。"目"を見る限り、本当に分からないようだった。
その時、炭治郎がお盆に水を乗せて戻って来た。
「あ、義勇さん。具合は大丈夫ですか?」
「ああ」
「ちょっと炭治郎。そんなことよりこの鈍感柱何とかしてよ!」
「ええっ!?何があったんだ?」
炭治郎が加わり、三人の間に奇妙で騒がしい時間が生まれ、義勇は困惑した。
しかし不思議と、不快には思わなかった。
そんな義勇の胸に、その時には気づかなかったある思いが生まれた。
――この二人は、決して死なせてはならない。守らなくてはならない。
それが、今自分にできる為すべきことだと。
義勇が元気になったころ、炭治郎は改めてざるそば早食い競争を提案し、汐と義勇は困惑したものの受け入れた。
結果は、汐が二人に圧倒的な差をつけ完勝。義勇に稽古をつけてもらうことを約束させた。
「あ、そうだわ。あたし明日から復帰だから、早めに帰って準備しないと」
蝶屋敷に向かう途中に、汐は唐突に口を開いた。
「そうなのか。俺はあと5日はかかるみたいだから、頑張って待つよ」
「頑張って待つって意味わかんないけれど、まあいいか。じゃあね、二人共。後義勇さん。もう二度と柱じゃないとか居場所はないとかいうんじゃないわよ!もし口にしたら・・・、性転換させるからね」
汐は拳を握りしめながらにっこりと笑った。その瞬間、義勇と炭治郎はこれ以上ない程の怖気を感じた。
(最近の女は、これほどまでに怖ろしいのか・・・)
時代は変わるものだなと、義勇はしみじみ思うのだった。
* * * * *
その日は、雲一つない満点の星空が輝く夜だった。
純白の雪の上に転々とつく足跡の先には、一人の男が佇んでいた。
彼は真っ赤な鉢巻を靡かせながら、星空を慈しむ様に見上げていた。
すると背後から誰かが近づく気配がした。男は振り返り、その姿を見て目を細めた。
『よう。夜更かしは肌によくないぜ。いくらちっこいガキでも、お前は女だからな』
男の言葉に青い髪の少女は少し顔をしかめつつも、男の目を真っ直ぐ見据えながら口を開いた。
『お前に聞きたいことがある』
『・・・なんだ?』
少女の淡々とした声に今度は男が顔をしかめつつも、返事を待った。
『なぜ私を殺さなかった?』
『今更かよ』
少女の問いに、男は心底呆れたように溜息をついた。
『本来なら、私とお前の一族は相いれない存在だ。お前の名と私の【歌】がお前に通用しないのがその証拠。だのに、お前は私を殺すどころか受け入れ、あろうことか【家族】として傍に置いている。何故だ?』
少女の淡々とした言葉が、静かな夜に響いて消える。
男は困ったように頭をかきながら、言葉を探しているようだった。
『私は【家族】というものが分からなかった。否、今もよく分からない。そしてお前の事も未だに分からない。わからないことだらけで、どうしたらいいか分からないんだ』
少女はまるで痛みをこらえるように、ぎゅっと表情を歪ませた。すると
『あのよぅ。さっきからお前は俺に理由ばかり聞いているが、理由ってそんなに重要か?』
『・・・何?』
『俺も大して生きてねえから、でけぇことは言えねえ。だがこの世には、理由がないこと、必要ないことがいくらでもあるんだよ』
男の言葉に、少女は混乱しているのか視線をあちこちに泳がせた。
『まあ簡単に言っちまえば、お前を連れ出した理由なんざ特にねえよ。俺がしたいからそうしただけだ。俺はちまちま考えるのが好きじゃねえからな』
『そのようだな。でなければ、己の約束された地位を捨ててまで私を連れまわすなどの酔狂ができるわけない』
『なんだよ。わかってんじゃねえか』
男は小さく笑みを浮かべながらそう言った。
『そうだ。昨夜生まれた赤ん坊だが、名前が決まったようだ。皆大喜びで名を呼んでいた』
『当たり前だ。名前ってのは人が生まれて最初に貰う、一生物の贈り物だからな』
『・・・私には名がないが』
少女は少し残念そうな声色でそう言った。すると男は、驚いたように目を見開いて言った。
『あれ?俺、お前に名前つけてなかったっけ?』
『私を一度も読んでいないだろうに。年齢の割に頭の中はすでに耄碌していると見える』
少女の辛辣な言葉が男を穿つと、男は小さく『可愛げのねぇガキ』と呟いた。
『まあ、お前を拾ってからいろいろと忙しかったからな。って、言い訳にすらならねぇか。だが、俺だってお前につける名前くらい用意してるぜ』
『適当なものではないだろうな。名前とは、一生物なのだろう?』
少女は挑発的にそう言うと、男は心なしか嬉しそうに目を細めた。
『いいか。一度しか言わねえ。耳の穴かっぽじってよく聞けよ』
――お前の名前は・・・
薄雲が空を覆う時刻、汐はゆっくりと目を開けた。
だが、その目は虚ろでどこか遠くを見ているように見えた。
「私の、名前は・・・」
汐の口から出た声は、いつもの彼女とは全く異なる淡々としたものだった。
この作品の肝はなんだとおもいますか?
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オリジナル戦闘
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炭治郎との仲(物理含む)
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仲間達との絆(物理含む)
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(下ネタを含む)寒いギャグ
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汐のツッコミ(という名の暴言)