ウタカタノ花   作:薬來ままど

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怪我が完治した汐は、柱稽古への参加を許可された。そして、今現在は宇髄邸の前にいる。

 

以前に蜜璃と柱間のあいさつ回りをしたときに一度訪れてはいるが、森に囲まれたかなり大きな敷地に驚いた記憶がある。

 

汐は意を決して、屋敷の門をくぐった。

 

「よォ、久しいな騒音娘!お前また上弦と遭遇したんだって?生き残るたぁ、悪運の強い女だな」

 

汐の顔を見るなり、宇髄は声を上げた。左目には装飾がされた眼帯がつけられ、左腕は斬り裂かれたせいで中指がなかったが、それでも元気そうだった。

 

「ちょっと。しばらく見ない間に人の名前を忘れたの?それとも、頭に行くはずの血液が明後日の方向に流れてるの?」

「相変わらず減らず口は一丁前だな、汐」

 

宇髄は微かに顔をしかめるが、心なしか嬉しそうだった。

 

そんなやり取りを見て、這いつくばっている隊士達は目を見開いた。

 

(あいつ、元とはいえ柱と対等に話してるぞ・・・?)

(いや、対等どころか言い合ってるぞ。何者だ、あいつ)

 

そんな彼等をしり目に、汐は宇髄を見上げながら言った。

 

「で、ここではどんな訓練をするの?」

「ああ。基礎体力の向上訓練っつって、まあ早い話が走り込みだ。この土地をひたすら、死ぬ寸前まで走る訓練だ」

「そりゃあまた単・・・、分かりやすい訓練だわ」

 

汐が皮肉めいた笑みを浮かべると、後方から甲高い声が聞こえてきた。

 

「あーーっ、青い髪の子!お久しぶりー!!」

 

汐が振り返ると、そこには見覚えのある三人の女性がいた。

 

「こら須磨!!あんた何仕事を放り出してるんだい!!」

「お久しぶり、汐さん。ごめんね、騒がしくて」

 

汐を見つけるなり騒ぎ立てる須磨、それを怒鳴りつけるまきを、その二人を諫める雛鶴だった。

 

「お久しぶり、皆。あの時は皆を助けてくれて本当にありがとう」

 

汐が礼を言うと、三人は意外そうに目を見開いたがにっこりとほほ笑んだ。

 

「おいアホ娘!んなところで無駄口叩いてねえで、とっとと準備しろ」

 

宇髄の言葉に汐は返事をすると、雛鶴に連れられて荷物を置きに行った。

そんな汐の背中を、須磨は複雑な表情で見ていた。

 

「須磨。そんな顔をするんじゃない」

 

それに気づいたまきをが、語気を強めて言った。

 

「だって、だって。私より年下の女の子が、あんな・・・、あんな・・・」

 

須磨の目にはうっすらと涙がたまっていた。

 

「須磨。お前の気持ちはわかる。だが、真実を告げてそれをどう受け入れるかはあいつが決めることだ。お前が心配することじゃない」

 

そう言う宇髄の顔は、柱だったころと変わらない威厳に満ちていた。

 

「そうだよ。それに、あたしらだって見たじゃないか。あの子の底力。それに、あの子は一人じゃない。たくさんの仲間がいる。きっと大丈夫だよ」

「ううっ・・・」

 

鼻水を啜る須磨に、まきをはそう言った。

 

「さて、あたしらは皆の食事の支度をしないとねぇ。みんなくたくたになって帰ってくるだろうし。ほらいくよ!」

 

まきをは須磨を引きずってその場を去り、宇髄はそんな二人を見て柔らかくほほ笑んだ。

 

「天元様、お待たせいたしました」

 

宇髄が振り返ると、そこにはさらしを巻いた洋袴姿の汐が立っていた。

 

引き締まった体格に、しっかりとついた筋肉。そして見事に割れた腹筋に皆の視線はくぎ付けになった。

 

「ちょっと、人の身体を何じろじろと見てるのよ。厭らしいわね」

「馬鹿言うな。誰がお前みたいなちんちくりんに興味持つかよ」

「・・・やっぱり男として再起不能にしておけばよかったわ」

 

汐は宇髄をじろりとにらみ、それを見た雛鶴は「流石に配慮が足りません、天元様」と彼を窘めた。

 

「んじゃ、とりあえずまずは一周ひとっ走りして、鈍った身体を存分に叩き起こしな!!」

「当然よ!あんたこそ、強くなったあたしを見てひっくり返ったりしないでよ!」

「言うじゃねえか。あ、一つ言っとくが、ウタカタを使うのは禁止だからな」

「わかってるわよ。じゃあ行ってくるわね」

 

汐はそう言うと、準備体操をした後そのまま走り出した。

 

一部始終を見ていた隊士達は「あいつ、女だったのか・・・」と呟き、汐の去った方向を見つめていた。

 

元々汐は海辺育ちで、肺機能は勿論の事、動きづらい砂の上での走り込みを日課としてこなしてきた。

そして今は、蜜璃と伊黒の指導を受けている身だ。

 

汐の身体能力の高さは、すぐに他の者たちの目に留まることになった。

ごつごつとした険しい道を、まるで普通の道のように軽やかに掛けて行く。

 

その韋駄天のような姿の汐に、宇髄は舌を巻いた。

 

(ほぉ~。病み上がりであの動きたぁ、上弦とやりあっただけはあるな。柱の継子は伊達じゃねえってことか)

 

「それに引き換えてめえらは・・・」

 

宇髄は地面をはいつくばっている隊士達に目を向けると、竹刀を振り上げ容赦なく打ち鳴らした。

 

「いつまで這いつくばってんだ!!女が気張ってるのに男がそんな体たらくでどうすんだ!!男の意地一つくらい見せてみろやァ!!」

 

青い空に宇髄の怒鳴り声が響き渡った。

 

*   *   *   *   *

 

柱稽古が始まってしばらく経ったある夜の事。

一つの影が、夜空を斬り裂く様に飛んでいく。

その先にある窓から見える部屋には、一人の女性が物憂げな顔で書物を読んでいる姿があった。

 

影はためらうことなく窓に近づき、その足を止めた。

 

「こんばんは、珠世さん」

 

落ち着いた声が響き、珠世は手を止めて窓の方を向いた。そこには首に紐のようなものを巻いた一羽の鴉が静かにたたずんでいた。

 

「物騒ですよ、夜に窓を開け放っておくのは。でも今日は、本当に月が美しい夜だ」

 

言葉を話す鴉を見て、珠世はそれが鬼殺隊の鴉だとすぐに理解した。

 

「初めまして。吾輩は産屋敷耀哉の使いの者です」

 

身分を明かした鴉に、珠世は小さく肩を震わせた。

産屋敷耀哉。鬼殺隊の現当主の名は珠世も勿論知っており、それは鬼である自分とは決して相いれないはずの存在。

 

それがなぜ、自分と接触してきたのか。珠世は不審気に目を細めながら言った。

 

「・・・どうしてここが・・・、わかったのですか?」

 

珠世が尋ねると、鴉は人間の人脈を辿って珠世が買ったこの家の持ち主を特定。更に昼間のうちに愈史郎の視覚を把握していたことを明かした。

自分は訓練を受けているとはいえ、ただの鴉に過ぎない。そのためそこまで警戒されないことも。

 

「貴女方に危害を加えるつもりはないので、安心してほしい」

 

鴉は穏やかな口調でそう言うが、珠世は警戒心を解かないまま口を開いた。

 

「では、何の御用でしょうか」

「ふむ、不信感でいっぱいの様子。無理もない。吾輩が炭治郎や汐のように、貴女から信用を得るのは難しいですね。やはり」

 

鴉は少し考えこむような動作をした。

 

(どういった腹積もりなの。産屋敷・・・、何か騙そうとしている?)

 

それを見た珠世は、耀哉の意図が全く読めず困惑していた。

 

「・・・愈史郎は・・・?」

「愈史郎君は心配いりませんよ。ほら、走ってくる足音が聞こえる」

 

鴉が言い終わると同時に、上の階から凄まじい足音が響き渡った。

 

「では、用件を話しましょうか」

 

そんな騒がしさに目もくれず、鴉は淡々と言葉を紡いだ。

 

「鬼殺隊にも、鬼の体と薬学に精通している子がいるのですよ。禰豆子の変貌も含めて一緒に調べて頂きたい」

「一緒に・・・?」

 

珠世が尋ねると、鴉は驚くべき言葉を口にした。

 

「鬼舞辻無惨を倒すために、協力しませんか?産屋敷邸にいらしてください」

「!?」

 

思いもよらぬ提案に、珠世の心臓が大きく跳ねあがった。

 

(鬼である私を、鬼殺隊の本拠地へ・・・!?)

 

「勿論、今すぐにとは言いませんが、一刻を争う。それに、貴女も我々と目的は同じ。悪い話ではないはずだ」

 

珠世は早鐘のように鳴る心臓を抑えながら、鴉を見つめていた。

 

 

「珠世様ああああ!!!」

 

部屋中に響き渡る大声で、愈史郎が部屋の中へ突進してきた。それと同時に、鴉もまた闇夜に姿を消すのであった。

 

「珠世さん。迅速な検討をお待ちしております」

 

その言葉を残したまま。

 

 

*   *   *   *   *

 

場所は変わり、蝶屋敷では

 

(落ち着いて、大丈夫よ。姉さん、私を落ち着かせて)

 

しのぶは一人、仏壇の前で心の中でそう呟いた。

 

(感情の制御が出来ないのは未熟者・・・、未熟者です)

 

だが、いくら頭でわかっていても、顔はそれに反して怒りで歪んでいく。

それを押さえつけるように、しのぶは深く深く、息を吐いた。

 

すると、

 

「師範。お戻りでしたか」

 

しのぶの背後から、カナヲの声がした。今までよりはっきりとした彼女の声に、しのぶの心が跳ねた。

 

「私はこれから、風柱様の稽古に行って参ります」

「そう」

 

しのぶは振り返らないまま、淡々と答えた。

 

「師範の稽古は、岩柱様の後でよろしいですか?」

 

カナヲがそう言うと、しのぶは険しい表情のまま首を横に振った。

 

「私は今回の稽古には参加できません」

「えっ・・・?」

 

しのぶの思わぬ返答に、カナヲは表情を固まらせた。

 

「ど、どうして・・・」

「カナヲ、こっちへ」

 

狼狽えるカナヲに、しのぶは振り返ると手招きをした。

カナヲは素直にうなずき、しのぶの元へ近寄った。

 

「あの、あの・・・私・・・」

 

自分をまじまじと見つめるしのぶに、カナヲはもじもじしながらも口を開いた。

 

「もっと師範と、稽古したいです」

 

頬を染め、俯きながらも自分の想いを口にするカナヲに、しのぶは嬉しそうにほほ笑んだ。

思えば、カナヲは生い立ちのせいで自分から動くことがほとんどできず、指示をされていない事は銅貨を投げて決めていた。

 

それが、汐や炭治郎達と出会ってから、カナヲは心身ともに大きく成長した。

 

汐が記憶をなくした時、初めてカナヲから直談判をされたときは本当に驚き、そして嬉しかった。

 

「カナヲも随分、自分の気持ちを素直に言えるようになりましたね・・・。いい兆しです」

 

その時と同じように、自分の気持ちを素直に言えるようになったカナヲを見て、しのぶは一つの決心をした。

 

「やはり、良い頃合いだわ」

「?頃合い?」

 

カナヲが尋ねると、しのぶは表情を引き締めて言った。

 

「カナヲ。これから私の話すことをよく聞くのです」

「えっ、は、はい」

 

いきなり何を言い出すんだろうとカナヲの表情が不安げになる。

 

「私の姉、カナエを殺した、その鬼の殺し方について話しておきましょう」

 

驚くカナヲをしり目に、しのぶはその鬼の特徴を事細かに話し出した。

そして、その鬼を倒すための手段を。

 

その話は数十分続き、話を終えたカナヲは青ざめた顔で部屋を後にした。

 

(そんな・・・。そんなことって・・・)

 

カナヲは激しく脈打つ心臓を、ぎゅっと握りしめるように隊服を掴んだ。

 

(でもこれは師範が、しのぶ姉さんが決心した事。そして、私との約束・・・)

 

カナヲはぎゅっと目を閉じた。浮かぶのは炭治郎と、汐の顔。

 

(私、ちゃんとやれるかな。ねえ、炭治郎、汐・・・)

 

カナヲの小さな心のつぶやきは、誰の耳にも届くことはなかった。

 

 

 

*   *   *   *   *

 

汐が宇髄邸で訓練を始めてから五日後。

 

「よし、もういいぞ。お前はとっとと次の柱の所へ行け」

「えっ、いいの?五日しかたってないけど」

 

汐がそう言うと、宇髄は目を逸らしながら言った。

 

「ああ、騒音アホ娘の相手はこれ以上してられねえからな」

「何ですって!?」

「バーカ、冗談だよ。この土地を5時間以上も動き回れる体力がありゃあ、文句はねえってことだよ」

「あ、あんた、あたしをからかったわね!?」

 

キーキーと喚く汐の頭を抑えながら、宇髄は言った。

 

「汐。お前なら大丈夫だと思うが、何かあったら周りの連中を遠慮なく頼れよ」

「どうしたのよ急に。気持ち悪いわね」

「別になんでもねえよ。ただの独り言だ」

「随分具体的な独り言ね」

 

汐は小さくため息を吐くと、まあいいわと荷造りを始めた。

 

「あ、もしも炭治郎が来たらあんまりいじめないでよ?あたしの、その、大切な人なんだから」

「へいへい」

 

汐の頼みに宇髄は生返事をすると、そのまま妻と共に汐を見送った。

 

「・・・・」

 

小さくなっていく汐の背中を見て、宇髄は大きく息をついた。

汐は目を見て人の感情を読み取るのが得意だ。

 

いくら忍びの訓練を受けて感情を表に出さないことができるとはいえ、いつ汐に気づかれるかと思うと気が気でなかった。

 

「天元様・・・」

 

そんな宇髄を、三人の妻たちは心配そうに見上げる。

 

「さあて、まだまだやることは山ほどある。雛鶴、まきを、須磨。行くぞ」

 

宇髄はそう言ってにっかりと笑い、妻たちは不安を抱えながらも微笑み返した。

 

その時だった。

 

「すみませーん!!」

 

遠くから元気な聞き覚えのある声が聞こえてきた。

この作品の肝はなんだとおもいますか?

  • オリジナル戦闘
  • 炭治郎との仲(物理含む)
  • 仲間達との絆(物理含む)
  • (下ネタを含む)寒いギャグ
  • 汐のツッコミ(という名の暴言)
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