ウタカタノ花   作:薬來ままど

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仕事が多忙なため、更新が遅れてしまいました。
申し訳ございません





翌朝。目を覚ました汐はすぐに洗面所へと向かった。

そして、鏡で自分の顔を見てほっと胸をなでおろす。

 

(腫れはすっかり引いたみたい。よかった)

 

だが、安心する反面汐は少しだけ不安を感じていた。

昨日は一目見てわかる程腫れていた顔が、今はすっかり元通りになっていた。

傷跡すら、うっすらと残る程だ。

 

(なんだか最近、傷の治りが早いような気がするわ。悪いことじゃないとは思うけど、あたしも段々人間離れしていくみたいでちょっと気持ち悪いかも・・・)

 

汐は傷跡を指でなぞりながら、小さく顔をしかめた。

 

(まあ、今更考えてもしょうがないわね。あたしはできることをやるだけよ。今日こそ、あの野郎のスカした面にぶちかましてやるわ!!)

 

汐は両手で顔を打ち鳴らして気合を入れると、洗面所を出て訓練場へ向かった。

 

その日の訓練も、相も変わらず凄まじいものだった。嵐のような実弥の太刀筋に、隊士達は吹き飛び、善逸は悲鳴を上げ、汐は殺意を剥き出しにしながら挑んだ。

 

そんな中、伊之助は実弥に一撃当てられたことを認められ、次の訓練へ行く許可が出た。

自慢げにする伊之助に腹立たしさを覚えながらも、汐は何度も嵐の中へ突っ込んでいく。

 

そして反吐を吐き、失神するまでその時間は続くのだった。

 

 

*   *   *   *   *

 

汐達がそんな調子な頃。

伊黒邸にいた炭治郎は、四日目にしてようやく訓練を終えることができた。

 

しかし、蜜璃の手紙で炭治郎と仲良くしていることを知った伊黒は、炭治郎を蛇蝎の如く嫌い辛辣な言葉を浴びせ続けた。

 

「じゃあな。さっさと死ね、ゴミカス。馴れ馴れしく甘露寺と喋るな」

 

炭治郎は伊黒に最後まで嫌われていた事に涙しつつも、屋敷を後にした。

 

鎹鴉に案内されながら、炭治郎は次の柱、実弥の屋敷を目指す。

曲がり角を右に曲がった瞬間、炭治郎の目の前に黄色い何かが音もなく姿を現した。

 

「うわあああああ!!!」

 

炭治郎と鴉が悲鳴を上げるが、それが顔中涙と鼻水塗れの善逸だと認識するのに時間はかからなかった。

 

「善逸!?」

 

炭治郎が名を呼ぶと、善逸は炭治郎に縋りつき堰を切ったように叫び出した。

 

「ににににに、逃がしてくれェェェ。炭治郎炭治郎何卒!!」

「逃がす?何から?」

「ややや、やっとここまで逃げてきたんだ。塀を這ってきたんだ。気配を消してヤモリのように、命にかかわる、殺されるっ」

 

炭治郎が尋ねるが善逸はそれに答えず、ただ自分の状況らしきものを支離滅裂に叫んだ。

 

だが、背後から恐ろしい気配を感じ、善逸は勿論炭治郎も震えあがった。

 

「てめぇええ・・・!何自分だけ逃げてんだぁ・・・!」

 

そこには、顔に血の跡をつけた汐が、身の毛がよだつような恐ろしい顔で善逸の首を絞めていた。

 

「ぎゃあああああ!!」

「うぎゃああああ!!」

 

そのあまりの恐ろしさに、善逸だけではなく炭治郎も涙を流しながら叫んだ。

 

「って、なんであんたまで驚いてんのよ!!失礼ね!!」

 

汐は善逸と炭治郎に同時に平手打ちを喰らわせた。

 

「あら炭治郎。やっとここまで来たのねぇ。待ちくたびれたわよ」

「い、いやいやいや!汐!血だらけだぞ大丈夫か!?」

 

顔を引き攣らせる炭治郎に、汐はあっけらかんとした表情で答えた。

 

「ああもう大丈夫、血は止まってるわ。ここじゃあ怪我人なんて飽きる程出るから、薬の確保が大変だけどね。ったく、こうなることを見越して、もうちょっと多めに置いておけっての」

 

汐が不満げに口を尖らせると、突如頭を誰かに鷲掴みにされた。

 

「何なら、薬なんざ必要ねえ状態にしてやろうか?」

 

地を這うような声が響き、善逸は声なき悲鳴を上げ、炭治郎も表情を強張らせる。

 

そこには顔中に青筋を立てた実弥が、汐と炭治郎の頭を掴んでいた。

 

「二人共選べェ。訓練に戻るか俺に殺されるか」

「ギャア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙」

善逸はとんでもなく汚い高音で叫ぶと、炭治郎にしがみ付いて泣きわめいた。

そのあまりの五月蠅さに、実弥は善逸に手刀を入れて黙らせた。

 

「運べ」

「あ、はい」

 

炭治郎は素直に返事をすると、気絶している善逸を申し訳なさそうな顔で背負って歩きだした。

 

「ちょっと、あんた。こいつとあたしを一緒にしないでよ。あたしはあんたをぶちのめすまで逃げるつもりはないから」

 

汐が実弥を睨みつけると、実弥は小さく鼻を鳴らしながら顔をしかめた。

 

「あ、あの、不死川さん」

 

険悪な空気を察したのかそうでないのか、炭治郎の明るい声が響いた。

 

「ご無沙汰しています。今日から訓練に参加させてもらいます。よろしくお願いします!」

 

炭治郎の声に実弥は足を止めると、ぎろりと睨みつけながら言った。

 

「調子乗んなよォ。俺はテメェを認めてねぇからなァ」

「全然大丈夫です!」

 

実弥が不快感を隠しもせずそう言うと、炭治郎も負けじと曇りなき目を向けて言った。

 

「俺も貴方を認めてないので!禰豆子刺したんで!」

 

炭治郎は満面の笑みでそう言うと、善逸を背負ったまま走り出した。

 

「いい度胸だ・・・」

 

こめかみを痙攣させながらそう呟く実弥を見て、汐は思わず吹きだした。

 

「ブフーッ、クックック・・・、綺麗に返されてやーんの」

 

笑いをこらえながら屋敷に戻り、残された実弥はこれ以上ない程の苛立ちを募らせていた。

 

訓練に加わった炭治郎は、善逸が逃げ出したくなる理由を身をもって知った。

 

反吐を吐き、気を失うまで一切の休憩はなし。そして汐同様、実弥は炭治郎に対しての風当たりが強かった。

 

下手をすれば、大怪我をして治療に逆戻りしてしまうほどの。

 

そしてその日、炭治郎は顔中を腫れあがらせて訓練を終えた。

 

だが、炭治郎はこれだけで済んでよかったのかもしれない。

汐はついさっき、訓練中に頭を打ち気を失ってしまった。

 

その為炭治郎は、痛む傷を押して汐を部屋に運んで休ませていた。

 

(全く、汐も相変わらず無茶をするなあ。俺たちはともかく、汐は女の子なんだから顔に傷なんて作っちゃいけないのに)

 

そんなことになったら汐が想っている人が悲しむだろう、と炭治郎が考えた瞬間、胸に奇妙な痛みを感じた。

 

(まただ、この痛み)

 

その痛みは、炭治郎が汐の事を考える度に起きていた。特に、汐に想い人がいるかもしれないと思った日から、度々起こるようになった。

そしてなぜか、身体の痛みよりも気になった。

 

どうしてこんな痛みを感じるのだろう、と考えながら歩いていると、

 

「待ってくれよ、兄貴!」

 

少し先で聞き覚えのある声が響いた。

 

(玄弥の声!)

 

匂いを辿りながら進むと、玄弥が廊下の真ん中に立っているのが見えた。

その前には、実弥の姿があった。

 

「話したいことがあるんだ・・・」

 

玄弥は早鐘のように鳴る心臓を抑えながら、絞り出すように言った。

 

だが、

 

「しつけぇんだよ。俺には弟なんていねェ。いい加減にしねぇと、ぶち殺すぞォ」

 

怒りが籠った低い声が容赦なく突き刺し、玄弥は青ざめた顔で、何も言うことなく俯いてしまった。

 

それを見た炭治郎は、自分とは全く異なる兄弟喧嘩に恐ろしさを感じた。

 

実弥はつづけた。

 

「馴れ馴れしく話しかけてんじゃアねぇぞ。それからテメェは見た所、何の才能もねぇから鬼殺隊辞めろォ」

 

刃のような言葉が容赦なく飛ぶが、炭治郎は微かに漂う匂いに少し違和感を感じた、

 

「呼吸も使えないような奴が、剣士を名乗ってんじゃねぇ」

「そんな・・・」

 

それっきり無言になった玄弥に、実弥は背を向け立ち去ろうとした。

 

「まっ・・・、待ってくれよ兄貴!!」

 

そんな彼の背中に、玄弥は必死で声をかける。

 

「ずっと俺は兄貴に謝りたくて・・・」

 

自分が嘗て、事情も知らずに兄を罵ってしまった事。大切な家族を傷つけてしまった事。

その事を謝りたくて、玄弥はここまで戦ってきた。

 

それを少しだがわかっていた炭治郎は、祈る気持ちで成り行きを見守った。

 

しかし、

 

「心底どうでもいいわ。失せろォ」

 

まるで虫でも追い払うように手を動かしながら、実弥はそう言い放った。

あまりにも冷たい言葉に、玄弥は勿論炭治郎も言葉を失った。

 

「そんな・・・、俺・・・」

 

玄弥の声は、今にも泣きそうなくらいに震えていた。

その声を聞くことなく、実弥はその場を立ち去るはずだった。

 

玄弥の次の言葉を聞くまでは。

 

「俺・・・、鬼を喰ってまで・・・、戦ってきたんだぜ・・・」

 

その瞬間、実弥は足を止めて反射的に振り返った。

目をこれ以上ない程見開き、血走った目を向けながら。

 

「何だとォ?今、何つった?」

 

実弥から感じるのは、怒りを通り越した殺意にも似た感情。

空気を斬り裂くようなそれは、炭治郎の身体も震わせた。

 

「テメェ・・・、鬼を・・・喰っただとォ?」

 

その言葉を言い終えた瞬間、実弥の姿が消えた。

 

(消え・・・?)

 

「玄弥!!」

 

炭治郎の鋭い声が飛び、次に玄弥が認識したのは。

 

自分の両目に向かって躊躇いもなく、指を伸ばす実弥だった。

 

だが、玄弥の両目は炭治郎の介入によって突かれることはなかった。その代わりに、玄弥の頬に一筋の傷をつけた。

 

そのまま炭治郎は玄弥を抱えたまま、障子を突き破って外へと飛び出した。

 

「うわあああああ!!!」

 

炭治郎が障子を破って出てくるのと同時に、善逸の叫び声が響き渡った。

実弥に痛めつけられた隊士達は、慌てて地面に伏せ死んだふりをした。

 

「あれっ?炭治郎か?」

 

善逸は初め、実弥が飛び出してきたのかと思ったが、よく見るとそこにいたのは炭治郎とどこかで見覚えのある少年だった。

 

(えええ、殺されるぞ炭治郎。何してんだ、建物ぶっ壊して・・・)

 

善逸が青ざめていると、炭治郎は建物の中に向かって「やめてください!」と叫んでいた。

すると今度は、捻じ曲がった禍々しい音が近づいてきた。

 

そして建物の中から現れたのは、全身に殺意を纏った実弥だった。

 

(うわあああああ!!おっさんが暴れてんのね!!稽古場じゃない所でもボコられるのかよ!!そう言うのは汐ちゃんだけでお腹いっぱいなんだってば!!)

善逸は青い顔を更に青くして涙を流した。

 

「どういうつもりですか!!」

 

そんな善逸の想いなど露知らず、炭治郎は抗議の眼差しを実弥に向けた。

 

「玄弥を殺す気か!」

 

「殺しゃしねぇよォ。殺すのは簡単だが、隊律違反だしよォ」

 

炭治郎の言葉に実弥は、淡々とそう答えた。

 

「再起不能にすんだよォ。ただしなァ、今すぐ鬼殺隊を辞めるなら許してやる」

 

あまりにも一方的な物言いに、流石の炭治郎も堪忍袋の緒が切れた。

 

「ふざけんな!!あなたにそこまでする権利ないだろ!辞めるのを強要するな!!」

 

炭治郎は先程の出来事を思い出し、あふれる怒りを言葉に乗せて実弥にぶつけた。

 

「さっき、弟なんかいないって言っただろうが!!玄弥が何を選択したって口出しするな!才が有ろうが無かろうが、命を懸けて鬼と戦うと決めてんだ!!」

 

そう、炭治郎は知っていた。玄弥がどんな思いで今まで戦ってきたか。自らの身体に多大な負担をかけてまでここまでやってきた理由を。

 

「兄貴じゃないと言うんなら、絶対に俺は玄弥の邪魔をさせない!!玄弥がいなきゃ上弦には勝てなかった!!再起不能なんかにさせるもんか!!」

 

自分の為に怒っている炭治郎を、玄弥は呆然と見つめていた。

 

「そうかよォ。じゃあ、まずテメェから再起不能だ」

 

実弥の殺意が玄弥から炭治郎に移り、炭治郎はにじり寄ってくる実弥をしっかりと見据えた。

だが、実弥は瞬時に距離を詰めると、炭治郎の鳩尾に容赦なく拳を叩き込んだ。

 

「うわっ、炭治郎!!」

 

その光景を見ていた善逸が思わず叫ぶ。

 

しかし、その光景に驚いたのは実弥もだった。

 

(コイツ!!止めやがった!!)

 

よく見れば実弥の拳は、炭治郎の両手に阻まれている。

 

「ふんがァ!」

 

炭治郎はそのまま身体を大きく捻ると、遠心力を利用して片足を実弥の後頭部へ叩き込んだ。

 

炭治郎が一撃を入れたことに、善逸は目玉を飛び出させながら驚いた。

 

「善逸ーーーーっ!!!」

 

炭治郎は地面に倒れながらも、善逸の名を叫んだ。

 

「玄弥を逃がしてくれ、頼む!!」

 

(ちょっ・・・バッ、バカお前・・・バカ!!名前呼ぶなバカ!!もっと上手いこと合図出来るだろう!!)

 

あまりにも短絡的すぎる合図に、善逸は心の中で文句を言いながら炭治郎を睨みつけた。

 

一方、炭治郎の蹴りを受けたはずの実弥は、すぐさま体勢を立て直すとそのまま逆立ちに近い体制で炭治郎を薙ぎ払った。

 

直撃は避けられたものの、掠っただけで炭治郎の耳から血が噴き出した。

 

(掠っただけで耳が切れる、蹴り!!)

 

顔を歪ませる炭治郎を、実弥は怒りと殺意を込めた目を向けて言った。

 

「いい度胸ォ、してるぜテメェはァ。死にてェようだから、お望み通りに殺してやるよォ」

 

そんな二人を見て、玄弥が叫んだ。

 

「待ってくれ兄貴、炭治郎は関係ない!」

 

だが、玄弥がその先を続ける前に善逸がその腕を掴んで走り出した。

 

その後、炭治郎と実弥の殴り合いは続き、実弥を止めようと隊士達は掴みかかった。

 

その騒ぎを聞きつけた汐は、その光景を見て顔を歪めた。

 

「だ―――!!うるさいわね!!おちおち寝てもいられないじゃないの!!」

 

――ウタカタ 参ノ旋律――

――束縛歌!!!

 

汐の歌が全員を拘束し、ひとまず騒ぎは収まった。

しかし、炭治郎は鴉を通じて上からおしかりを受け、実弥との訓練は中断。接近禁止が命じられた。

 

「ごめんな、二人共」

 

不死川邸を後にしながら、炭治郎は申し訳なさそうにそう言った。

 

「俺のせいで修業がなくなってしまって・・・」

「いやいや。あれ以上続けてたら俺死んでたし、ある意味感謝だわ」

 

善逸はお道化たようにそう言って微かに笑った。

 

一方、汐は何かを考えているようにうつ向いたまま、何も言わずに歩いていた。

と、思いきや突然足を止めると、炭治郎と善逸に顔を向けて言った。

 

「ごめん、あたし屋敷に忘れ物しちゃったみたい」

「え?」

「先に行ってて、すぐに追いつくから。じゃ」

「お、おい!汐!!」

 

困惑する二人に構わず、汐は踵を返すと一目散に屋敷に向かって駆けて行った。

 

だが、炭治郎と善逸は気づいていた。

汐から強い決意の匂いと音を感じた。

 

小さくなっていく汐の背中を、二人は心配そうに見つめていた。

 

 

*   *   *   *   *

 

その後、実弥は苛立ちを抑えられず、体中を震わせていた。

玄弥の事もそうだが、炭治郎。初めて出会った時から気に喰わないと思っていたが、これほどまでに腹立たしい奴だとは思わなかった。

 

(くそっ、くそっ!!)

 

怒りのあまり、注意が僅かにそがれていたのか、他に理由があるのか。それはわからないが。

 

実弥は気づかなかった。誰もいないはずの道場に人の気配がある事に。

 

「!?」

 

気配に気づいた実弥が振り返ると、目に入ったのは目を引く青と赤。

 

汐が静かに、その場にたたずんでいた。

 

この作品の肝はなんだとおもいますか?

  • オリジナル戦闘
  • 炭治郎との仲(物理含む)
  • 仲間達との絆(物理含む)
  • (下ネタを含む)寒いギャグ
  • 汐のツッコミ(という名の暴言)
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