ウタカタノ花   作:薬來ままど

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試験から十五日ほどたった後。

雲一つない晴天の下、汐は洗濯物を物干しにかけ一息ついたところだった。

道の向こうから、二人の人物がこちらに向かって歩いてきていた。

 

一人は江戸風鈴を下げた編み笠をかぶったひまわりのような羽織を纏った者。もう一人は南部風鈴を下げ、金盞花の羽織を纏った隣の者よりも背が低い者。

二人ともひょっとこの面をつけ、その背中には、大きなものを背負っている。

 

「炭治郎!炭治郎!!来たよ!あたしたちの刀!!」

 

汐が大声で呼ぶと、炭治郎はすぐさま外に出てくる。

 

「俺は鋼鐵塚という者だ。竈門炭治郎の刀を打ち持参した」

江戸風鈴の男は名を名乗り、炭治郎の前で足を止めた。

 

「お初にお目にかかります、皆様。自分は鉄火場(ほむら)と申します。大海原(わだのはら)汐殿の刀を打ち馳せ参じました」

南部風鈴の男も名を名乗り、汐の前で足を止める。

 

「あ、どうも。大海原(わだのはら)汐です」

汐が名乗ると、鉄火場は深々と頭を下げる。それから汐が中に通そうとすると、隣では鋼鐵塚が座り込み刀の説明を始めてしまう。

困惑する二人に、鉄火場は小さくため息をついていった。

 

「申し訳ない。あれは人の話を全く聞かぬ唐変木なのです。しかし、こう人さまの家の前で座り込まれてはたまりませぬので」

そう言ったかと思うと、鉄火場は袂から小さな木槌を取り出すと、鋼鐵塚の頭を思い切り叩いた。

 

目の前で起きたとんでもない光景に、二人は目を点にしたまま固まる。これには流石の鋼鐵塚も話をやめ、頭を押さえて鉄火場を睨みつけた。

 

「おい貴様。人が話しているときに頭をたたくとはどういう了見だ?」

「どうもこうもありません。人さまの家の前でみっともなく座り込んで駄弁を弄する不届き物よりは、幾分かましかと」

怒りの声を上げる鋼鐵塚に対して、棘のある言葉を返す鉄火場。一触即発の事態が起こる寸前、その助け舟を出したのは鱗滝だった。

 

「相も変わらず仲が悪いことだ」

 

鱗滝の姿を認識した鉄火場は深々と頭を下げる。そして、鋼鐵塚の無礼を心からわびたのであった。

 

それから二人は小屋の中に通され、一通りの説明を受けた。

日輪刀。それは太陽に一番近い山でとれた【猩々緋砂鉄】と【猩々緋鉱石】でできた日の光を吸収する鉄でできたもの。

それを刀に打つのが鉄火場と鋼鐵塚の仕事だという。

 

すると、鋼鐵塚が突然炭治郎を見て驚いたように言った。

 

「お前【赫灼(かくしゃく)の子】じゃねえか。こりゃあ縁起がいいなあ」

「いや、俺は炭十郎と葵枝の息子です」

「そういう意味じゃないでしょ、流れで」

 

見当違いの答えを返す炭治郎に、汐はすかさず突っ込む。

 

「赫灼の子というのは、赤みがかかった髪と目の色をした子供のことです。火の仕事をしている家にこのような子が生まれると、とても縁起がいいと言われているのですよ」

鋼鐵塚に変わって鉄火場がそう説明する。炭治郎はそれを知らなかったらしく、自分の髪をつまんでみていた。

 

「じゃあ、青い髪のあたしは何の子なの?」

ついでに汐も聞いてみると、鉄火場も鋼鐵塚も首を横に振った。

 

「申し訳ありません。自分にはわかりかねます」

「そもそも青い髪の人間なんて聞いたことねえよ」

鋼鐵塚は興味がないといったように言い放ち、再び鉄火場が木槌でたたく。このままではらちが明かないため、鱗滝は刀を見せるよう催促した。

 

二人の鍛冶師は二人にそれぞれの刀を手渡す。日輪刀は別名【色変わりの刀】ともいわれ、持ち主によって刀身の色が変わるという。

 

「さあさあ、刀を抜いてみな」

 

鋼鐵塚に促され、二人はゆっくりと鞘から刀を抜く。

すると、炭治郎の刀がみるみるうちに黒く染まっていった。

 

「おおっ!」

 

炭治郎が驚きの声を上げ、それを見た鋼鐵塚と鱗滝も目をみはった。

 

「くろっ!?」

「黒いな」

 

二人の話によると、このように漆黒の日輪刀はあまりみないらしく、当てが外れた鋼鐵塚は激しく取り乱していた。

しかも炭治郎が年齢を聞くと、齢三十七だという。年齢にそぐわない大人げない行動をとる彼に、鉄火場は容赦なく木槌を振るった。

 

「貴様・・・いい加減にしろよ。俺の頭を何度も何度もたたきやがって・・・何か恨みでもあるのか?」

「貴方の行動がいちいち幼稚すぎるのです。そのようなことだから、嫁が来ないのですよ」

 

鉄火場の容赦ない言葉に、鋼鐵塚はますます頭から湯気を噴き出した。

 

一方、汐の日輪刀は

 

「これは・・・」

 

汐の刀は美しい紺青色へと変化していた。その風体に、鉄火場は満足そうにうなずく。

だが、汐が少し刀を動かした瞬間、全員が思わず息をのんだ。

 

紺青色の刀が、淡い青へと変化したからだ。

更に傾けると、今度は鮮やかな翠玉色。そして別方向に傾ければ薄い水色と次々に色が変化していった。

 

「なんという・・・」

皆言葉なく、色とりどりに変化する刀にくぎ付けになる。先ほどまで取り乱して炭治郎に技をかけていた鋼鐵塚も、思わず動きを止めそれを見つめていた。

 

「あの、これってどういう・・・?こんなことってあるものなの?」

 

汐の言葉に、炭治郎を除く全員が首を横に振った。

 

「普通日輪刀は一度色が変われば永久的にその色に固定される。決して後から変わることはない。だが、これは・・・」

 

「失礼いたします」

鉄火場は汐から刀を受け取ると、傾けながらしげしげと見つめた。

 

「角度を変えるたびに色が変わっているように見えます。まるで、波打つ海のような・・・」

 

鉄火場はうっとりと色が変わり続ける刀に魅入る。が、本来の目的を思い出し小さく咳払いをした。

 

「刀に問題はなさそうなので、このままお使いいただけます。しかし、このようなことは前代未聞。この先どのようなことが起こるのか、自分にはわかりません。大変失礼化とは思いますが、興味深い事例なのでこちらで少々調べさせていただきますね」

 

そう言って彼は鞘に納めてから汐に刀を返す。そして鱗滝のほうを見た。

 

「しかし驚きました。大海原(わだのはら)という名を聞いた時からもしやとおもいましたが、彼女は玄海殿の・・・」

「ああ、娘だ。そして弟子でもある」

「そうでしたか・・・。なんというか、運命のようなものを感じますね」

 

鱗滝の言葉を聞き、鉄火場は納得したようにうなずく。話が見えず困惑する汐に、鱗滝は口を開いた。

 

「玄海の刀を打ったのは、こやつの師の【鉄火場仁鉄】だ。奴は刀をよく破損しては仁鉄にどやされていたな。それで、奴は息災か?」

 

その言葉を聞くと、鉄火場は首を横に振り「師匠は1年ほど前に亡くなりました」とだけ答えた。

その場が水を打ったように静かになる。鱗滝はそれを聞き「そうか・・・」と答えた。

 

「玄海殿がお亡くなりになられたことは存じております。そのせいでしょうか。師匠も後を追うように突然逝ってしまわれたのです。自分に全てを叩き込んでから」

ですから、と。鉄火場は汐のほうに顔を向けていった。

 

「玄海殿のご息女であり弟子である貴女に刀を打てたことを、自分は誇りに思います。どうか、どうかその刀を、大事にしてやってくださいませ」

 

そう言って鉄火場は汐に深々と頭を下げた。汐も「大切に使いますね」と答え頭を下げた。

と、その時だった。

 

「カァ!カァ!竈門炭治郎ォ!北西ノ町ヘ向カエ!!」

炭治郎の鎹鴉がけたたましく鳴き、炭治郎に怒鳴りつけた。

 

「カァ~カァ~。オ仕事デスヨォ~。大海原(わだのはら)汐。貴女ハ南東ノ町へ行ッテクダサイネェ~」

一方汐の鎹鴉は、間延びした声で羽をはばたかせる。

 

「どうやら二人の初任務のようだな。だが、方向が違うということは」

「別の場所での任務ってことね」

「じゃあしばらくお別れってことか・・・」

今までずっと共に戦ってきた炭治郎とのしばしの別れ。わかってはいたものの、いざその時が来ると汐は少し寂しさを感じた。

しかも、これから行うのは文字通り、命を懸けた危険な仕事。一歩間違えれば死んでしまってもおかしくない。

 

ならば

 

「あ、ねえ。あたし一つやってみたいことがあるんだけど」

 

汐の突然の提案に、炭治郎をはじめ皆が何事かと首を傾げた。

 

「せっかく刀も届いたことだし、一度やってみたいと思ってね。炭治郎は知ってる?金打(きんちょう)って」

 

金打(きんちょう)、という言葉を聞いて炭治郎を除いた三人の方がはねる。

 

「ほう。お前、ずいぶん渋いことを知っているのだな」

「あの、金打(きんちょう)というのは?」

「約束を守るために、刀の刃と刃を打ち合わせることだよ。絶対に破れない誓いの証だって、昔おやっさんが言ってた」

 

約束、誓い。汐の言葉を聞いて、炭治郎の顔が引きしまる。自分たちがこれから行うことの意味を、改めて理解したからだ。

 

「ならばすぐに隊服に着替えろ。それから行えばいい」

 

 

二人はすぐさま隊服にそでを通した。真っ黒な布地に、背中には【滅】の文字が刻まれたもの。

きちんと採寸されていたためか、服は寸分の狂いもなく二人の体を包む。

 

この隊服は特別な繊維でできており、通気性がよくそれでいて濡れにくく燃えにくい。そして弱い鬼の爪や牙程度では引き裂くこともできない程の強度を持っている。

二人はその隊服の上から、それぞれの羽織を身にまとった。

炭治郎は緑と黒の市松模様。そして汐は、濃い青色に浮世絵の波のような文様が描かれたものだ。

 

更に、炭治郎と禰豆子の為に、鱗滝が贈り物をくれた。昼間、日の下に出ることができない禰豆子を背負うために作られた箱だ。

これは【霧雲杉】という、非常に軽くて硬い木でできており、さらに【岩漆】という特殊な塗料を塗ってあるため強度も上がっている。

二人がいつも共にいられるようにと、彼の心づかいの証だ。

 

そして二人は向き合い、互いの刀を抜くと、その刃をそっと合わせた。

澄んだ金属音が、刃を合わせたところから小さく響く。その音を聞き、二人は互いの目をじっと見据えた。

 

(必ず生きて、また会おう!)

 

二人の固い誓いは、今この瞬間確かに立たれたのであった。

 

この作品の肝はなんだとおもいますか?

  • オリジナル戦闘
  • 炭治郎との仲(物理含む)
  • 仲間達との絆(物理含む)
  • (下ネタを含む)寒いギャグ
  • 汐のツッコミ(という名の暴言)

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