ウタカタノ花   作:薬來ままど

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注意!ここから先は、ウタカタノ花の核心に加え、難解な設定が出てきます。




時間は遡り、汐達が訓練に精を出していたころ。

 

「大海原家が、初代ワダツミの子の子孫・・・」

 

宇髄から明かされた事に、あまねはそう呟いた。

 

「こちらは元海柱であり、大海原家最後の当主であった大海原玄海が、書き残した文献で御座います」

 

宇髄はそう言って、あまねの前に一冊の書物を差し出した。

 

「彼は柱としての任務をこなす傍ら、自身の生家とワダツミの子について調査をしていました。そして、大海原家とワダツミの子の関係性を秘かに突き止めていたと思われます」

 

宇髄は神妙な表情であまねに向き合うと、ゆっくりと口を開いた。

 

「初代ワダツミの子の子孫であるためか、大海原家の人間は、ワダツミの子の特性である人避けや歌が効かず、それを利用し彼女たちの監視及び抹殺を行っていたようです」

 

宇髄の言葉を、あまねは黙って聞いていた。

 

「ワダツミの子は人と鬼に影響を及ぼす。中には自らの力を制御できず、暴走し多くの人や鬼の命を奪った者も。それを防ぐため、歌が効かない大海原家の人間は、長い間ワダツミの子の監視、そして暴走した時の抹殺を請け負ってきたということです」

 

そう言う宇髄の顔は険しく、身体は微かに震えていた。

 

宇髄の脳裏に浮かぶのは、屈託のない笑顔を見せる汐の顔。そして吉原へ赴いたとき、玄海を思ってか時折寂しそうな顔をしていたことを思い出す。

自分を守り育ててくれた父親が、自分を監視、抹殺するために手元に置いていたと知ったらと思うと、胸が苦しくなった。

 

だが宇髄が最も胸を痛めたのは、この事ではなかった。

 

「そして玄海は、ワダツミの子の正体を突き止め、ここに記しておりました」

「・・・!」

 

宇髄の声に、あまねの目が微かに見開かれた。

 

「ワダツミの子は・・・!」

 

宇髄は痛みに耐えるように歯を食いしばりながらも、必死で言葉を紡いだ。

 

「人間では・・・、ありません」

 

そう言う宇髄の声は震え、握られた拳も震えていた。

 

時が止まったような静寂が、屋敷中を包み込んだ。

 

その静寂を破ったのは、あまねの声だった。

 

「人間ではないというのは、どういう事でしょうか」

 

宇髄は汗を一筋流した後、静かに語りだした。

 

「玄海の遺した文献には、ワダツミの子とは鬼とは異なる進化を辿った、鬼でも人でもない存在であると記されています」

 

宇髄は文献を開き、その頁をあまねに見せながら言った。

 

「その生態は鬼とは異なり、人は喰わず日の光でも死なない、治癒力は人より高いが再生はせず、人とほぼ変わりはないとの事。ですが、その声は人と鬼の脳に直接干渉し、場合によっては命を絶たせるなどの恐るべき行動を起こさせる引き金となります」

 

ですが、と宇髄は更につづけた。

 

「彼女達が何故、どのようにして生まれたのか。それは玄海でも突き止めることは出来なかったようです」

 

宇髄はそう言って、視線を畳に移した。

 

「この事実を彼女は、大海原汐様はご存じなのですか?」

 

宇髄は身体を震わせながら、首を横に振った。

 

妻たちの手前、真実を受け入れるかどうかは汐自身が決める事とは言ったものの、このような悍ましく残酷な真実を告げることに、宇髄自身もためらっていた。

 

矛盾しているとは知りつつも、決断できないでいた。

 

汐が今の今までどのような想いで、どのような覚悟で戦ってきたか、宇髄は少なからず知っていた。

人として、愛する者を守ろうと歯を食いしばり、血反吐を吐きながらも前に進む汐の魂の輝きを、全て否定しかねない事実だったからだ。

 

再び居心地の悪い沈黙が続くと思われたその時。

一羽の鴉が音もなく、あまねの隣に降り立った。

 

鴉はあまねの耳もとで何かを告げると、あまねは驚いたように目を見開いた。

 

(なんだ・・・?)

 

鴉の声はあまりにも小さすぎて、流石の宇髄でも聞き取ることは出来なかった。

だが、あまねの反応を見るに、何かが起こったことは明らかだった。

 

「・・・わかりました」

 

あまねはそれだけを言うと、再び宇髄に向き合い口を開いた。

 

「宇髄天元様。誠に申し訳ございませんが、早急の報せが入りましたので・・・」

「はい。貴重なお時間を頂きまして、誠にありがとうございました」

「いえ、そうではなく。もう少々お待ちいただけますでしょうか」

 

あまねの言葉に、宇髄は面食らったように右目を見開いた。

 

使いの鴉が飛び立ち、それから数分の時がったころ。

 

「失礼いたします」

 

聞き覚えのある声がして、宇髄が顔を向けると、そこには見覚えのある人物が立っていた。

 

「お前は・・・」

 

 

*   *   *   *   *

 

その頃。

 

「う・・・」

 

汐がゆっくりと目を開けると、目の前には自分を心配そうにのぞき込んでいる悲鳴嶼の顔があった。

 

「気が付いたのか・・・!」

 

悲鳴嶼は安堵のあまり、両目から涙を溢れさせながら言った。

 

「ここは・・・」

「覚えていないか?君はあの後、足を滑らせて岩に頭を打ち付けてしまい、今の今まで気を失っていたのだ」

 

悲鳴嶼がそう説明すると、汐は思案するように視線を地面に向けた。

 

「気分はどうだ?どこか痛むか?」

 

悲鳴嶼が尋ねると、汐は首を横に振りながら「大丈夫」と静かに答えた。

 

「心配をかけてごめんなさい。それと、ありがとう」

 

汐はそういうと、すっと立ち上がり悲鳴嶼の横を通り過ぎた。

そんな汐に、悲鳴嶼は何か違和感を感じた。

 

困惑している悲鳴嶼に、汐は振り返らないまま口を開いた。

 

「あなたは自分の行動を恥じることも、悔やむ必要もない。あなたは人間として、するべきことをしただけだ」

 

汐はそれだけを告げると、そのまま振り返ることなくその場を後にした。

 

(なんだ・・・?)

 

悲鳴嶼は拭えない違和感を抱えながら、汐が去ったであろう方角を見つめていた。

 

(今のは本当に、大海原汐なのか・・・?まるで精神が別人にすり替わったような・・・)

 

しかしその違和感の正体がつかめず、彼はその場から暫く動けないでいたのだった。

 

そして汐は、まとめた荷物を抱えながら空を見上げた。

 

「タユウ」

 

汐が静かに呼ぶと、どこからかソラノタユウがそっと足元に舞い降りてきた。

 

「悪いけれど頼める?すぐにみっちゃん、師範に伝えて欲しいことがあるの。それと、出来ればあの人に。お館様にも」

「!?」

 

タユウは驚いたように羽を広げながら、汐を見上げた。

 

「思い出したんだ。"私"の全ての事。そしてこれは、今すぐに伝えなければならない事なんだ。早く、急いで」

 

汐の鋭い声に、タユウは慌てたように蜜璃の元へと飛び立った。

それから炭治郎が向かったであろう、義勇の屋敷の方へ顔を向けると、汐は静かに目を閉じた。

 

(ごめん、炭治郎。また約束、破っちゃった)

 

汐は目を開くと、その道とは反対方向に足を進めた。

 

(あたしは、私は・・・。もう君の傍にはいられない)

 

張り裂けそうな痛みに耐えるように、その場から逃げるように、汐は全力で走った。

 

 

 

 

 

*   *   *   *   *

 

 

 

時間は戻り。

突如産屋敷邸に現れた者たちに、宇髄はこれ以上ない程驚きに目を見開いた。

 

そこには、恋柱である甘露寺蜜璃と、その継子である大海原汐がいたからだ。

 

「お前等、何でここに・・・?」

 

ここが産屋敷邸であるということも忘れ、宇髄は思わずそう言った。

 

だが蜜璃は険しい表情のまま何も言わず、汐と共にあまねに深々と頭を下げた。

 

「ご無理なお願いにもかかわらず、ご対応いただき恐れ入ります」

 

そう口にしたのは蜜璃、ではなく汐。その態度にあまねは勿論、蜜璃、宇髄も目を剥き凝視した。

 

「本来このような場所に"私"のような者はふさわしくないでしょうが、火急の報せゆえお許しいただきたく存じます」

 

いつもの汐からは考えられないような言葉が飛び出し、蜜璃は顔を青くし、宇髄も言葉を失った。

 

(汐・・・?いや違う。姿形は汐だが、目つきや雰囲気がまるで別人だ)

 

宇髄は一度、汐の雰囲気が変化したことがあったことを思い出した。いつもの汐らしからぬ、毅然とした厳かな雰囲気。

 

(まさか・・・、まさかこいつは・・・!)

 

「お前、まさか・・・ワダツミの子か?」

 

宇髄の口から、震える声が飛び出した。その言葉に、汐以外の全員の視線が彼へ向く。

 

「それはいったい、どういう・・・」

「その先は"私"が話そう」

 

そう言ったのは、いつもと雰囲気が全く違う汐の姿をした、ワダツミの子。

 

「全て思い出したんだ。"私"が、ワダツミの子と呼ばれるものが何か。そしてどうして、どのように生まれたのか」

 

そう前置きをすると、ワダツミの子は徐に語りだした。

 

自らの正体と、如何にして彼女たちは生まれたのか。

 

そのすべてを――。

 

*   *   *   *   *

 

「マジ・・・かよ」

 

ワダツミの子が語った真実は、皆が想像するよりも遥かに信じがたいことだった。

 

「そんな・・・」

 

宇髄と蜜璃の顔は真っ青になり、あまねの表情は変わらないようにも見えるが、目は微かに揺れていた。

 

「とても信じがたいのは百も承知だ。だが"私"は嘘偽りは言っていない。いや、正確には"私達"と言った方がいいか」

 

ワダツミの子は少し自嘲気味に笑うと、あまねをじっと見据えた。

 

「その話が真実だとして、鬼舞辻無惨はこの事を把握していると思いますか?」

 

あまねの言葉に、ワダツミの子は小さく首を横に振った。

 

「いいえ。近しい存在とは言え、ワダツミの子は鬼ではない。仮に真実に気づいたとしても、今は太陽を克服した鬼、竈門禰豆子を狙うことに執着しているでしょう。それに今の"私"は、奴にとっては天敵同然。わざわざ危険を冒してまで、凶手を差し向けるとは思えません」

 

ワダツミの子はそう言って、薄ら笑いを浮かべた。

 

「では、あなた方は私達の脅威ではない、ということでよろしいでしょうか」

「はい。少なくとも今は、"私"は人間の敵ではありません」

「・・・そうですか」

 

はっきりと言い切るワダツミの子に、あまねは静かに答えた。

 

「貴重なお話をお伺いすることができ、誠にありがとうございました」

 

あまねはワダツミの子に向かって深々と頭を下げ、皆も同じように頭を下げた。

 

「それから宇髄天元様、甘露寺蜜璃様。本日はお忙しい仲御足労頂き、感謝申し上げます」

 

あまねの挨拶を最後に、その場はお開きになった。

 

汐は困惑する隠に礼を言うと、すぐさま一人屋敷にに戻った。

既に日は傾き始め、夜の気配が近づいている。

 

「・・・・」

 

汐は一人、広間で佇んでいたが――

 

「うわああああああああああああああ!!!!!」

 

――突如、大声を上げながら周りのものを薙ぎ払った。

 

物が落ちる大きな音が広間中に響き渡り、何もなかった床がみるみるうちに物であふれて行く。

 

それは数秒、数分。時間の感覚すら、今の汐には分からなかった。

 

「ハァ・・・、ハァ・・・、ハァ・・・」

 

しばらく経った後、汐は息を切らしながら者が散乱した広間を見下ろしていた。

肩は大きく上下し、体中からは汗が吹き出していた。

 

「あはっ、あははは・・・・」

 

汐は左手て顔を覆いながら、乾いた笑い声を漏らした。

 

自分はワダツミの子としての真実を思い出した。今まで謎に包まれていたことが全て明らかになった。

 

自分が何者なのか、心の奥底では真実を知りたいとひそかに願っていた。

しかしそれは、自分が想像していたよりも、ずっとずっと恐ろしいものだった。

 

大海原汐として生きてきた人間の存在を、全て否定しかねないものだった。

 

汐は笑いながら、ずるずるとその場に座り込んだ。すると、膝のすぐ近くにひと際目を見くものが落ちていた。

 

それは以前、汐の故郷で見つけた、日輪刀の懐剣。

 

汐はしばらくそれを見つめていたが、手に取るとゆっくりと鞘から抜き放った。

 

そして、鈍く光る切っ先を、自らの喉に突き立てるようにして翳した。

 

窓の外で、鴉がはばたいたことに気づくこともなく・・・

 

「ごめんね・・・」

 

汐の力ない声が、誰もいない屋敷に木霊した・・・。

この作品の肝はなんだとおもいますか?

  • オリジナル戦闘
  • 炭治郎との仲(物理含む)
  • 仲間達との絆(物理含む)
  • (下ネタを含む)寒いギャグ
  • 汐のツッコミ(という名の暴言)
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