ウタカタノ花   作:薬來ままど

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汐がときと屋に潜入してから迎えた、初めての朝の出来事。


特別編
遊郭編放送記念特別編~東雲の空を君と仰ぐ~


空が白みだし、夜明けの気配が近づく中。宇髄は一人、静まり返る街を見下ろしていた。

 

この町で一番高い場所。そこからは広い吉原の町が一望できる最高の場所である。

 

(もうすぐ夜が明ける・・・。今日も異常なし・・・か)

 

宇髄は僅かに目を伏せた後、ふと気になり顔を動かした。

 

「ん?」

 

思わず声を上げた宇髄の視線の先には、屋根の上にぽつんと佇む一つの人影があった。

 

濃い紺色の短い髪を風になびかせ、そこに立っていたのは。

 

(あれは、大海原――、騒音娘か?)

 

定期連絡の時間にはだいぶ早く、周りに炭治郎達の姿はない。不審に思った宇髄は、そっと音もなく近寄った。

 

「よォ。早いな」

 

背後から声を掛ければ、汐は小さく肩を震わせながら振り返った。

 

「びっくりした・・・。あんた達と会話するだけで寿命が縮まりそうだわ」

 

驚きつつも憎まれ口をたたく汐に、宇髄は困ったような表情を浮かべた。

 

「こんな時間にどうした?定期連絡には早すぎる時間だろ」

「自然に目が覚めちゃうのよ。海で暮らしていた時は、もう仕事を始める時間だから」

 

汐はそう言って、白みだす空を少し寂しそうに見つめた。

 

「で、あんたこそ何の用?今日の仕事は終わったの?」

「まあな。今日も今日とて、収穫なしだ」

 

宇髄の言葉に、汐は小さく「そう・・・」とだけ返した。

 

「で、首尾はどうなんだ?」

「そうね。あたしがみんなの目を引いているうちは、炭治郎に動いてもらっているわ。誰かさんのお陰であたしの評判上々だし」

 

汐は皮肉を込めてそう言うが、ふと視線を落とし顔を空へとむけた。

その仕草に宇髄が怪訝そうな表情を浮かべると、汐はぽつりと話し出した。

 

「おやっさんが言っていた事、本当だったんだなって思って。あの人が見てきた景色を、あたしが今見ているんだなって」

 

汐の言葉に、宇髄は微かに目を見開いた。

 

「おやっさんは現役だったころ、ほぼ毎日遊郭に通っていたそうなの。そのためいつも金欠気味で、あちこちから借金してたって」

「成程。お前が妙に遊郭の事情に詳しかったのは、そのせいか」

「普通年端も行かない女に、こんなこと平気で教える?頭の中は本当に女の事ばっかりだったんだから」

 

そう言って呆れたように言う汐だが、その姿はどこか寂しげに見えた。

 

「でも、おやっさんは困っている人や悲しんでる人を放っておけない人だから、もしかしたら誰かを救うためにここに来てたのかもしれない。人間としては底辺だけど、そういうところはしっかりしてたから」

 

汐は宇髄を見上げながら、静かな声で言った。

 

「もし、ここに居る鬼をとっちめることができたら、あたしはおやっさんに親孝行できるかな?って言っても、おやっさんはもう死んじゃってるから、親孝行にしては遅すぎるけどね」

 

汐が自嘲気味に笑うと、宇髄は呆れたように溜息をついた。

 

「さあな。お前の事情なんざ知らねぇし、地味に興味もねえ。だが、少なくとも、孝行できる親がいるってのは、悪いことじゃねえだろうさ」

 

そう言う宇髄の"目"に、微かな悲しみが宿ったことに汐は気づけなかった。

 

「あんたって、何だかおやっさんに似てるかも」

「はあ?どこがだよ」

「馬鹿で派手好きで、自意識過剰で、すぐにムキになるところ」

「てめぇ・・・、いい度胸だなぁ騒音娘」

 

宇髄が思い切り顔をしかめて言い返すと、汐はくすくすとおかしそうに笑った。

 

「ふふふ、馬鹿ね。冗談よ」

 

そう言って笑う汐の顔を、登り始めた日の光が照らす。

その姿が艶やかで、宇髄は思わず目を見開いた。

 

んだよ。そんな表情(かお)もできるんじゃねえか

「え?」

「何でもねぇよ。そんなことより、お前はさっさと店に戻れ。朝になってもやることはあるんだからな」

 

抜かるなよ。と最後に促すと、宇髄は音もなく姿を消した。

 

「あんたに言われなくても」

 

汐はそう呟くと、両手で頬を叩いて気合を入れるのだった。

この作品の肝はなんだとおもいますか?

  • オリジナル戦闘
  • 炭治郎との仲(物理含む)
  • 仲間達との絆(物理含む)
  • (下ネタを含む)寒いギャグ
  • 汐のツッコミ(という名の暴言)

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