ウタカタノ花   作:薬來ままど

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鬼にさらわれた元人形職人の右衛門(うえもん)の孫娘を探すため、汐はひとまず手掛かりを探すことにした。

炭治郎の様に鼻が利くわけでもない彼女は、こうして足を使って探すしかないのだ。

とはいえ、町は彼女が思っていたよりも広く全部調べて回るわけにはいかない。

まずは、この町で何か変わったことがないかを聞いてみることにした。

 

「ねえ、ちょっといい?」

 

汐は町の住民にそう声をかける。もちろん、右衛門(うえもん)のことは伏せてだ。

悲しいことだが、彼のことを口にすると皆目に侮蔑を宿すため話してくれる確率が著しく下がってしまうからだ。

 

その結果、興味深い事実が分かった。

 

度々だが人が行方不明になっていることがあること。しかしそのほとんどが身寄りのない者や外部からの人間が多いため、特に事件化されているわけではないということ。

故郷の村や炭治郎たちと過ごしていた汐は、これほどまでに他人に無関心な人間がいることに心底驚いた。

 

(自分と関わりのないことには首を突っ込もうとしない。決して間違いではないけれど、何だか空しいな)

けれど、目の前の事実は決して動かしようがなく、汐もこれ以上干渉するわけにもいかない。

再び汐は捜索を開始した。

 

次に分かったことは、右衛門(うえもん)には、今の自宅のほかに彼専用の作業場と作った人形を一時的に保管している場所があったそうだ。

今はもう使われておらず、廃屋になっているようだが、これはかなり重要な手掛かりになりそうだ。

 

それに、もうじき日が暮れる。夜が来れば、そこからは鬼が活動する時間だ。不謹慎ではあるが、鬼が町に現れてくれれば追跡もしやすい。

 

汐は残してきた右衛門(うえもん)が気になったため、いったん彼の元に戻ることにした。

ついでに食材をいくつか買い込み、彼の為に料理をすることにした。

あの様子だとまともな食事をしていたのかも怪しいからだ。

 

汐が自宅に戻ると、右衛門(うえもん)は寝床にはおらず、散らかった作業場に座り込んでいた。

汐が何事かと覗いてみると、散らばっていた人形の手入れをしているようだった。

 

「これ、全部あんたが作った人形なのね。へえ、よく見てみると人形ってみんな顔が違うのね」

汐はしげしげと人形を見つめる。自分の故郷では見たことのないものばかりで興味がわいたのだ。

 

「一言人形といっても、どれ一つとして同じものはありません。人間と同じです。そして、人形とは読んで字のごとく、人の形をしたもの。その人の魂を映す鏡のようなものだと、私は思っております」

 

彼の言葉を聞きながら、汐はそばにあった人形をとった。どこまでも澄んだ透明な目は、どこかの誰かを彷彿とさせる。

もしも自分を人形に例えるならば、どんな表情をしているだろう。

 

そんなことを考えていると、突如、体中を突き刺すような寒気が彼女を襲った。

 

――この気配は・・・!

 

間違いない。鬼が近くにいる。汐は右衛門(うえもん)に絶対に外に出るなと伝えると、自宅を飛び出した。

 

鬼の気配は自宅からそう離れていない位置にある。どうやらどこかに移動しているようだ。

汐はそのまま足に力を込め、屋根へと飛びあがる。呼吸法により身体能力が大きく上がった彼女にとってこれくらいの芸当はできて当然だ。

 

汐は屋根の上を走りながら気配をたどる。すると、どこからか耳をつんざくような悲鳴が聞こえてきた。

汐がその方向へ向かうと、何かが人を引きずるようにして動いている。気配は、それからしていた。

 

全集中・海の呼吸

肆ノ型・改 勇魚(いさな)下り!!

 

汐は屋根から飛び降りながら、勇魚昇りの勢いを込めて刀を振り落とす。だが、刃はわずかに鬼の頸からそれた。

それでも人質を解放するには十分だったらしく、人は手から離れた。

 

「ここはあたしに任せて、さっさと逃げな!」

 

へたり込む人に汐は一括すると、目の前の敵に刀を構えなおす。だが、月明かりがそれを照らした瞬間、汐は目を見開いた。

 

(何・・・こいつ・・・!?)

 

目の前にいたのは、人よりも二回りほども大きい日本人形に、阿修羅の様に顔が三つついた不気味なものだった。しかし、その顔の部分には目も口も鼻もない。

こいつが、右衛門(うえもん)の孫娘たちを連れ去った鬼なのだろうか。

人形鬼は汐に飛び掛かってくると、左側面の顔が割れ中から刃物が飛び出した。

その一撃を、汐は瞬時に横に飛びのいてかわす。すると人形鬼はくるりと方向を変え、刃物をむき出しにしたまま再び向かってきた。

 

攻撃をかわしつつ、反撃の隙を狙う汐だが、妙なことに気づいた。鬼の気配は確かにする、が、これがあんな遠くまで気配が届く強さとは思えない。

 

(まさか、これは鬼の本体じゃない?)

 

だとしてもこいつを放っておくわけにはいかない。ここで倒さねば、被害が出るのは確実だ。

 

汐はもう一度集中し、息を吸った。まずは動きを止めねばならない。

 

 

全集中・海の呼吸

参ノ型 磯鴫(いそしぎ)突き!!

 

汐の鋭い突きが、人形鬼脳天を貫く。思わぬ反撃を食らったせいか、人形鬼はその動きを止める。そしてそのまま地面に引き倒し、胴体を思い切り踏みつけた。

何かが砕けるような音がして、胴体が砕ける。すぐさま刀を引き抜くと、その頸に刃を振り下ろした。

 

「・・・やっぱり・・・」

 

それはやはり鬼ではなく、中身のないただの人形だった。そしてその中心には、赤い糸が括り付けられたかなり大きな縫い針が一本突き刺さっている。

 

「きっとこれでこの人形を操っていたんだわ。異能の鬼。【血鬼術】という特殊な能力を使う鬼。だとしたら本体はどこに・・・ん?」

汐は気づいた。鬼の気配が人形から消えている。慌ててあたりを見回すと、先ほどの針がするすると動いてどこかへ向かっている。

気配はそこからしているようだ。

 

汐はすぐさま針を追いかけた。これをたどれば、鬼の本体にたどり着けるかもしれない。罠である可能性もあったが、もう道はここしかない。

 

汐が糸をたどるとそこには、古びているがかなりの大きさの建物があった。糸はするすると生き物のように建物の中に入っていった。

扉があったが立て付けが悪いのかなかなか開こうとしない。ここで時間をとるわけにはいかず、汐は思い切って扉を蹴破った。

 

吹き飛ぶ扉を踏みつけながら、汐は中に入る。が、入った瞬間、彼女は思いきり顔をひきつらせた。

 

そこにあったのは、見渡す限りの人形、人形、人形・・・。おびただしい数の人形がぐるりと汐を取り囲んでいた。

彼に自宅で見たときは愛らしいとさえ思った人形が、今や不気味を通り越したおぞましいものに見える。

しかもみな、手や足や首がない未完成のものばかりだ。そしてどれからも、鬼の気配がする。

 

(まさか、まさか。こいつらが全員、鬼の一部・・・!?)

 

ここで襲われたらたまったものじゃない。汐はいったん外に出て体勢を立て直そうと数歩後ずさる。だが、その瞬間。

 

――にんぎょうにんぎょうつくりましょう

あたまをつけておててをつけて

あんよもふたつつけましょう

きれいなきものもきせましょう

きれいなきれいなおにんぎょう

わたしだけのおにんぎょう

 

不意に歌のようなものが聞こえた時、人形たちが一瞬赤く発光したかと思うと。

人形が一斉にまるで波の様に汐に覆いかぶさってきた。

汐は刀を構えるが、それよりも早く人形たちは汐を一瞬で包み込む。悲鳴を上げる間もなく、彼女は人形の波に飲み込まれてしまった。

 

*   *   *   *   *

暗く広い部屋の中に、布がこすれるような音が小さく響く。

部屋の真ん中では一つの影が、何やら一心不乱に手を動かしている。

その影が手にしているのは、さび付いた一本の縫い針。そしてその針の穴には、血のように真っ赤な糸が通されている。

 

影はそのまま機械の様に手を動かし続ける。何度も、何度も、針を突き刺す。

突き刺すたびに、ぷつりという小さい音が何度も何度も響く。そしてそのたびに滴り落ちる、赤黒い雫――

 

――にんぎょうにんぎょうつくりましょう

あたまをつけておててをつけて

あんよもふたつつけましょう

きれいなきものもきせましょう

きれいなきれいなおにんぎょう

きょうはかみをつけましょう

 

部屋の中心で一心不乱に針を動かしながら、歌を口ずさむのは、先ほどの人形の主だろうか。楽しそうに歌を歌いながら、赤い糸を引く。

その時だった。

 

「お楽しみのところ、失礼するわ」

 

扉を開ける音とともに、その場にいないはずのだれかの声が響く。人形の主は背中を震わせながら、動かしていた針を止める。

 

「熱烈な歓迎をありがとう。だけど、あたしをもてなすには少しばかり礼儀が足りなかったようね」

 

声の主、汐はそういって口元に笑みを浮かべた。その体からは、僅かだが殺意が漏れている。

 

「礼儀知らずの悪い子には、お仕置きをしなくちゃね・・・」

 

汐の氷の様に冷たい声が、静かに響いた。

この作品の肝はなんだとおもいますか?

  • オリジナル戦闘
  • 炭治郎との仲(物理含む)
  • 仲間達との絆(物理含む)
  • (下ネタを含む)寒いギャグ
  • 汐のツッコミ(という名の暴言)
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