ウタカタノ花   作:薬來ままど

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斬撃の音と鬼の断末魔が部屋中に響く中、押し入れに隠れた二人は、震えながらも汐の言いつけを守りじっとしていた。
だが、ふとわずかな光を感じた清が顔を上げると、押し入れの戸が少し開いていた。その隙間からは鬼と戦う汐の姿が見えた。

血の雨を体中に浴び、色が変わる刀を振るう彼女は、まるで舞姫の如き動きで鬼を滅していく。それはとても恐ろしく、そしてとても美しかった。
そんな相反する不思議な光景から、清たちは目を離せないでいたのだった。




最初に入ってきた鬼が汐に向かって爪を振り下ろす。だが、汐はそれを紙一重でかわすとすぐさま頸を落とし、後ろから襲い掛かってきた鬼はすぐさま振り返って瞬時に頸を落とした。

稀血である清の血の匂いに当てられてか、鬼は尽きることなく部屋になだれ込んでくる。技を使い、時には体術を使い鬼を葬る汐。しかし鬼の数は彼女が思っていたよりもずっと多い上に右肩の傷が疼くのか、段々と動きが鈍くなって来ていた。

 

(ちょっとちょっと、どれだけの数が入り込んでいるのよこの家は!流石にきつくなってきたわ・・・!)

 

だが、ここで汐が倒れてしまえば清たちが鬼の餌食になってしまう。それだけは絶対に避けねばならない。何よりも、炭治郎との約束を違えるわけにはいかない。

疲労と痛みに耐えながら、汐は前を見据える。目を血走らせ、口からよだれを垂れ流す鬼たちを見て汐の体の奥から沸々と怒りが沸き上がってくる。

 

「その汚い眼をこっちに向けてんじゃねーわよッ!!」

 

汐が怒りに任せて叫んだ瞬間、鬼たちの動きが止まる。ギリギリと四肢を震わせながら、自分たちが動けないことに戸惑っているようだ。

これには汐も驚いたが、なぜか生まれた絶好の好機(チャンス)を逃す術はない。

汐はすぐさま飛び掛かり、刀を振るおうとしたその時だった。

 

「猪突猛進!猪突猛進!!猪突猛進!!!」

 

突如右側の襖が吹き飛び、何かが弾丸の様に突っ込んできて汐が斬ろうとした鬼を吹き飛ばした。埃と畳の繊維が舞い上がり、汐の視界を遮る。

せき込みながらも目を凝らしてみると、そこにいた鬼とは別の存在に汐は目を見張った。

 

「あ、あんたは・・・!」

 

そこにいたのは、先ほど善逸と一緒にいたときに見た頭に猪の皮をかぶった上半身裸の男だった。手にはギザギザに刃こぼれを起こした日輪刀を二本持っている。

下半身は長袴を履いているが、よく見るとそれは汐が履いている隊服と同じものであった。

つまり、彼も鬼殺隊の一人だった。

 

「こんなところにいやがったか鬼共!!屍を晒して俺がより強くなるためより高くいくための踏み台となれェ!!」

 

猪男はそう叫ぶと、笑いながら鬼の群れへ突っ込んでいく。その瞬間、鬼たちの体に動きが戻る。が、猪男の攻撃のほうが早かった。

 

――我流獣の呼吸――

参ノ牙・喰い裂き!!

男の日本の刀が鬼の頸を一瞬で吹き飛ばす。それから背後から襲い掛かってきた鬼も、その荒々しい見た目とは裏腹に柔軟な動きで身をかわす。

その独創的な戦い方に、汐は一瞬目を奪われた。

被り物をかぶっているため本来の眼は汐には見えないが、それでも彼女は確信していた。

 

この男は強い。

 

そんな中、柱の陰に隠れていた蛇の様に細い鬼が、猪男にかみつこうとしていた。彼はすぐさま反応し、迎撃にかかる――。

だが、その足元にも小型の鬼が一匹男の足に食らいつこうとしていた。

 

「危ない!!」

 

汐はすぐさま飛び出し、滑り込むようにして間合いに入り鬼を蹴り上げる。そして飛び上がった鬼の頸をつかむと、その刃を振るった。

それと同時に猪男も蛇のような鬼を葬ったのであった。

 

その鬼たちで最後だったのか、部屋は元の静けさを取り戻す。汐は緊張の糸が切れたのか、その場に座り込んだ。

 

「ふぅ、何とか片付いたみたいね。あんたのお陰で助かったわ。あり――」

 

汐が礼を言おうと顔を向けたその瞬間。猪男が刀を振り上げ、汐に斬りかかってきた。

汐はすぐさま刀を上げてその一撃を受け止める。そして無理やり押し返すと立ち上がって距離をとった。

 

「あ、あんた!いきなり何するのよ!!あたしは鬼じゃない、人間よ!!」

 

だが猪男は聞こえていないのか、汐に再び刃を振り下ろす。ギリギリと鎬の削れる音が響く中、男の口からうれしそうな声が上がった。

 

「アハハハハ!いいねいいね。強者の気配だ!あんな雑魚共なんかよりずっと楽しめそうだぜ!!」

「あんたは鬼殺隊員でしょ!?隊員同士でやりあうのはご法度なのよ!」

 

汐が必死に声を上げるも、興奮している猪男にはまるで効果がない。ただひたすら汐に向かって刀を向け続けている。

刀を受け止めていると、右肩の傷が開いたのか激しく疼いた。

せっかく鬼を倒して一息つけると思った汐は、それを邪魔されたことと理不尽に向けられる刃に堪忍袋の緒が切れた。

 

「いい加減にしろこの馬鹿猪!!」

 

汐の怒号が猪男の耳に入った瞬間。男の動きが止まる。先ほどの鬼と同じように、彼も何故動けないかわからないようだった。

 

「な、なんだ、こりゃ・・・!体が、動かねえ!?」

 

驚愕している猪男の腹部に、汐は蹴りを叩き込む。が、怒りのあまり足元が狂い、腹よりも下の部分にその足を叩き込んでしまった。

気づいたときにはもう遅く、猪男はカエルがつぶれたようなうめき声をあげながら廊下へ吹き飛んだ。

 

「清!叩いて!!」

 

悶絶している男が起き上がる前に、汐は押し入れに隠れていた清に指示を出す。すると、少し遅れて鼓の音が聞こえ猪男の姿は消えた。

再びあたりに静寂が訪れる。今度こそ脅威が完全に去ったのを確認すると、汐は大きく息を吐きながら座り込んだ。

 

鬼の群れと戦い、体は鬼の血で汚れ、そしておかしな男に刃を向けられた汐はだいぶ疲れていた。このままここで眠ってしまいたい。そんなことを考えるほどに。

 

(そういえば、さっきあの変な奴の変なところ蹴っちゃったけど・・・大丈夫よね?)

 

昔いたずらをした村の子供が同じ部分を強打し悶絶していたことを思い出し、汐は少しだけ不安な気持ちになった。しかし理不尽な理由で命を狙われたことに比べれば、きっとかわいいものだろう。

そんなことを考えていると、清とてる子が押し入れから飛び出してきた。

 

「汐さん!大丈夫ですか!?」

 

清が真っ先に汐に駆け寄る。が、汐は自分が鬼の血で汚れていることを考慮し、少し彼から距離をとった。

 

「ああ駄目よ。今のあたしは汚いからあんた達まで汚れちゃうわ。ほら、てる子も怖がっているし」

 

てる子の眼を見て、汐はそう言った。その声が心なしか悲しみを孕んでいることに、二人は気づくことができなかった。

その時。清の持っていた鼓が突然、灰の様になって消えてしまった。驚く二人に、汐は炭治郎が鬼を倒したことに気づきそれを伝えた。

 

(やったのね、炭治郎)

 

安心したのと疲労がたたってか、汐の意識が霞んでいく。目の前が真っ暗になる寸前、誰かが汐の名を読んだ気がした。

 

 

 

*   *   *   *   *

 

 

潮の匂いのする風が吹き、砂浜に生えている草花を揺らす。その遠くに小さな岩があり、そこには小さな黒い影が一つあった。

それが人なのか、それ以外の何かなのか、ここからではわからない。

するとその影に寄り添うように、二つの影が岩に近づいた。それは人のようであり、岩を見上げているようだった。

岩の上の影が動き、二つの影の方を向く。その影は、目を奪われるような青い色をしていた。

 

 

 

*   *   *   *   *

 

 

 

 

「――!――お!しっかりしろ、汐!!」

 

耳元で声を上げられ激しく揺さぶられ、汐ははっと目を覚ました。目の前には自分を心配そうに見つめている炭治郎の顔があった。

 

「よかった。気が付いたんだな」

 

炭治郎の不安げな眼が安心したものに変わる。周りを見回すと、清とてる子も心配そうに汐を見ていた。

 

「あ、あれ?炭治郎?どうしてここに?」

「どうしてって、鬼を倒した後迎えに来るって言っただろ?驚いたよ。部屋に入った瞬間、お前が動かなくなったって清たちが泣きながら言うものだから」

 

炭治郎はそう言って心の底から安心したように言った。

どうやらあの後、汐は少しの間気を失っていたようだった。その間、夢を見たような気がするが思い出せない。

 

「あんたこそ無事だったのね、よかった。あんたの言いつけ通り、二人は無事に守りきったわよ」

汐の声は疲れているせいか、いつもより声に覇気がない。そんな彼女の右腕に、炭治郎の視線が向けられる。すると彼の顔色が瞬時に変わり声を荒げた。

 

「汐、右腕から血が出てる!肩の傷が開いたんじゃないか!すぐに見せて!!」

 

そう叫んで炭治郎は汐の服に手をかける。それに気づいた汐は我に返ると、顔が瞬時に真っ赤になり、

 

「ぎゃあああああ!!!!」

 

ものすごい悲鳴を上げ、炭治郎の顔面に渾身の力を込めた平手打ちを叩き込んだ。小さくうめき声をあげて吹き飛ぶ炭治郎に、清とてる子は目を点にした。

 

「いきなり何すんのよこの馬鹿!!子供が見ている前で何晒してんのよ馬鹿!!!」

「何って・・・けがの手当てをしようとしてただけじゃないか」

「それぐらい自分でできるわよ!!いいからさっさと薬をよこしなさい!!」

 

汐は炭治郎から薬をひったくると、すぐさま隣の部屋に転がり込んだ。いきなり豹変した汐に、炭治郎は頬に手形を残したまま呆然と立ち尽くしていた。

 

汐の手当てが終わった後、炭治郎が清を背負い、汐がてる子を連れていくことになった。汐は血にまみれた自分ではてる子が怖がると思い少し戸惑ったが、彼女の手をてる子が自ら握ったため杞憂に終わった。

鬼の血鬼術が解除されたのか、間取りは普通に戻っていた。もう部屋が変わることも動くこともない。階段を降りて玄関に向かう途中、炭治郎の鼻が反応した。

 

「血の匂いだ」

「え!?まさかまた犠牲者が・・・!?」

二人の顔に瞬時に緊張が走り、足を速める。階段を駆け下りるとそこには吹き飛び破壊された玄関があった。

そしてその奥には――

 

――血に塗れながらも箱を抱えて蹲る善逸と、そんな彼に刀を向け罵倒する猪男の姿があった。




そう言えば鬼滅の鬼って日輪刀で斬れば体は灰になるけど、血はどうなるんだろう。進撃みたいに蒸発するのだろうか。
この作品では血は日光に当てないと蒸発しないという設定になっております。

この作品の肝はなんだとおもいますか?

  • オリジナル戦闘
  • 炭治郎との仲(物理含む)
  • 仲間達との絆(物理含む)
  • (下ネタを含む)寒いギャグ
  • 汐のツッコミ(という名の暴言)
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