ウタカタノ花   作:薬來ままど

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「サアツイテコイ。私タチニ!」

「山ヲ下リマスヨ~。シッカリツイテキテクダサイネェ~」

 

二羽の鴉に導かれながら、炭治郎が禰豆子の入った箱を背負い、その後ろを善逸を背負った汐と何故か伊之助が付いてくる。

汐が善逸を背負っているのには訳があった。

 

あの後炭治郎によって気絶させられた善逸を、彼が背負っていくと言い出したのを汐がとめた。

炭治郎が骨折しているうえに血鬼術を使う鬼と戦ったため、疲労困憊してるからだ。

だが、汐に負けず劣らず頑固な炭治郎もそれを拒否し二人はしばらく睨みあったのだが、汐が炭治郎の口を掴み恐ろしい声で脅迫したため仕方なく任せることになったのだ。

 

それから伊之助が何故鬼殺隊士になった経歴も聞くことができた。なんでも山に入ってきた他の鬼殺隊士から刀を奪い、最終選別や鬼の存在について知ったそうだ。

 

正直なところ、刀を奪われた鬼殺隊士が気の毒でならないと、汐と炭治郎はぼんやりと思った。

 

「それにしても、あんたも山育ちなのね。炭治郎もたしか山育ちだったわよね?」

「ああ。俺の家は炭焼きの仕事をしていたからな」

「はあ?こいつと一緒にすんじゃねえよ。俺には親も兄弟もいねえ。他の生き物との力比べだけが唯一の楽しみだ!」

 

そう言って得意げにする伊之助に、炭治郎はなぜか涙目になり「そうかそうか」と答えた。

 

そんな二人を見ながら歩いていた汐だが、不意に胸元に違和感を感じた。

視線を動かすと、ほんの僅かだが背負っている善逸の指が動いている。それを見た汐の眼がすっと冷たいものになると、善逸にしか聞こえないであろう小さな声でぼそりと言った。

 

「それ以上手を動かしたら、お前を男として再起不能にしてやるからな」

 

その瞬間、善逸の体がびくりと跳ねて動かなくなる。伊之助が反応しこちらを見たが、汐は何事もなかったように微笑んだ。

その笑顔に、何故か伊之助の体が小さく震えた。

 

結局山を下りるまで善逸は寝たふりをしていたが、降りたとたんに汐が華麗に善逸を叩き落したためそれからは彼も自分の足で歩きだした。

 

やがて夜も更け、見事な満月がかかったころ。

鴉が4人を導いたところは、扉に藤の花の家紋が刻まれた家だった。

 

「カァー!休息、休息!!負傷ニツキ完治スルマデ休息セヨ!!」

「カァ~、オ休ミデスヨォ~。ユックリ休ンデクダサイネェ~」

 

二羽の鴉がそれぞれの主人に向かってそう告げる。炭治郎と汐は怪我をしたまま鬼と戦ったことを告げるが、二羽ともただ意味深に笑うだけだった。

 

「はい・・・」

 

突如家の扉があき、一人の老女が姿を現した。気配がしなかったことに汐は驚き、善逸は顔を青ざめさせ「お化けだ!」と言う。

伊之助に至ってはずかずかと老女に近づき、その頭を人差し指でつつく始末だ。

 

「鬼狩り様で御座いますね。どうぞこちらへ」

「ありがとうございます。ほら、汐も善逸も固まってないで行くぞ」

 

他の者を諫めながら、炭治郎は老女の後ろをついていき、彼の後に汐、善逸、伊之助と続く。

炭治郎、善逸、伊之助が同じ部屋をあてがわれ、汐はその隣の部屋をあてがわれた。

いずれの部屋にも着替えの浴衣が用意してあり、それに着替えた後はすぐさま食事が出てきた。(最も食事は老女が気を使ってか、汐も男性陣と同じ部屋でとることになったのだが)

 

この対応の早さに善逸はたいそう驚き、あろうことか妖怪呼ばわりまでしたため炭治郎がその頭に一撃を入れた。

 

用意された食事は天ぷら御膳であり、それはそれはおいしそうであったが、伊之助の食べ方はとても汚く、両手でつかみむさぼるというもの。あまりの見苦しさに汐はお膳を伊之助から離し、善逸も箸を使うように苦言するほどだ。

と、突然伊之助が炭治郎のお膳からおかずを奪い取った。呆然とする炭治郎に得意げに笑う伊之助と、呆れ返る善逸と汐。

だが、炭治郎は咎めることもせず、あろうことか他のおかずも食べて言いという始末だった。

 

当てが外れた伊之助は、頭を抱えながら奇声を上げる。その様子を見て、汐は苦々し気に口をはさんだ。

 

「ちょっと炭治郎、あんまり甘やかさないでよ。こういうのは一回許すとつけあがるんだって」

「なんで?俺は別に構わないよ?お腹が空いているんなら仕方がないし。ああ、もしかして汐も食べたかったのか?」

「そういうことを言っているんじゃないのよ。あたしが言いたいのはね、一度でも甘やかしたら取り返しがつかないことになるからやめなさいって言ってるの」

「ええ・・・そうかな?俺は本当に構わないんだけどな」

 

箸を持つ左手を炭治郎に向けながら、汐は真剣な面持ちで諭すように言う。そんな二人を見て善逸は全身をぶるぶると震わせると、

 

夫婦か!!!

 

お膳をひっくり返しそうな勢いでそう叫んだ。いきなりの事に汐と炭治郎は肩を大きく震わせ、何事かと善逸を見る。

 

何なんだお前ら!子供の教育方針を話し合う夫婦か!!俺の前で仲睦まじい姿を見せるんじゃねえよ!!

 

何故か善逸は涙目になりながら二人に詰め寄る。二人はしばらく呆然としていたが、

 

「ちょっ、あんた何言ってんの!?あたしと炭治郎は別に何も――」

「そうだぞ善逸。俺たちは結婚もしていないし子供もいないし、そもそも俺はまだ結婚できる年齢じゃないぞ」

「いや、そういうことを言ってるんじゃねえよ。なんなんだよお前、なんでそんなに論点がずれてんだ」

 

真っ赤になって否定する汐、真面目な顔で否定する炭治郎、そんな彼をおかしなものでも見るような善逸という構図が出来上がり、蚊帳の外になってしまった伊之助はひたすら吠え続けるのであった。

 

その後、老女は医者を呼んでくれた。そして診察の結果、汐以外の三人が肋骨を折る重傷。汐自身も肩の傷が開き傷口から細菌が入り膿んでいた。

 

(思っていたより全員重傷だったわね。こんな状態であたしたち、鬼と戦っていたんだ・・・鬼殺隊の元締めって、案外鬼より怖いのかも)

 

用意された布団に体を横たえながら、汐は一人天井を眺めていた。

今日一日だけでいろいろなことが目まぐるしく過ぎた。善逸と出会い、伊之助と出会い、鬼を沢山斬って子供を救って、救えなかった命もあって――

 

(そういえば、昔おやっさん言ってたな。生きるってことは覚悟と選択の連続だって。そう。生きている間はきっと何かを選んで何かをあきらめることがたくさんある。今回だってそう。清たちの命は救えたけれど、そうじゃなかった命もたくさんあった)

 

全ての命を救えるとは限らない

けれど、それでも助けられる命なら助けたい

自分と同じような思いをする人間を増やしてはいけないのだ。

――彼と同じ、悲しみを孕んだ眼をする人間は

 

目を閉じて脳裏に浮かんだ彼の顔に、汐の頬が熱を持つ。清と善逸に言われた言葉が、汐の胸の中でくすぶった。

 

(な、なにを考えてるのあたし!も、もう寝よう。起きていたら余計なことばかり考えちゃうから・・・)

 

心の中で活を入れながら、汐は目を閉じる。しばらくそうしていると段々と意識がまどろみの中に落ちていく。

 

――善逸の大声にさえぎられるまでは

 

 

 

一方隣の部屋では。

夜になり禰豆子が箱の中から外に出てきて、初めて善逸達に顔を見せた。が、善逸は何を勘違いしたのか炭治郎に対し大声でののしりながら詰め寄った。

 

「いいご身分だな!!汐ちゃんだけじゃ飽き足らず、こんなかわいい女の子まで連れて両手に花で旅をしてたんだな・・・」

「え?善逸、ちょっと待って・・・」

俺の流した血を返せよぉぉぉ!!!俺は!!俺はな!!お前が毎日アハハのウフフで女の子といちゃつくためにがんばったわけじゃない!!そんなことの為に俺は変な猪に殴られ蹴られたのか!?

目を血走らせ涙を流しながら、善逸は炭治郎を指さし激昂する。炭治郎は何を言われているのかわからず、困惑した様子で善逸をなだめようとした。

しかし善逸は聞き入れず、あろうことか刀を抜き放つ始末だった。

 

鬼殺隊はなあ!お遊び気分で入るところじゃねえ!お前のような奴は粛清だよ!即粛清!!鬼殺隊を舐めるんじゃねえ!!

 

善逸がそう叫んで炭治郎に斬りかかろうとした瞬間。

 

うるせェェェェェエエエエエ!!!!

 

ものすごい怒号が響くのと、隣の襖が吹き飛ぶのがほぼ同時だった。すぐ近くにいた善逸が襖ごと吹き飛び、もうもうと畳の繊維が舞い上がる。

炭治郎と禰豆子は何が起こったのか分からず呆然としていると、吹き飛んだ襖の向こうから凄まじい怒りの匂いを感じた。

 

「オイコラ。何勝手に寝てんだよ!!」

 

汐は吹き飛ばされぐったりしている善逸の胸ぐらを乱暴につかみ、そのまま平手と手の甲で何度も何度も殴打した。手が顔に当たるたびにすさまじい音と衝撃波が発生する。そのせいで、

みるみるうちに善逸の顔は腫れあがり鼻血まで噴き出していた。

 

「や、やめるんだ汐!それ以上やったら善逸が死んでしまう!!」

 

炭治郎が慌てて止めに入るが、汐が「オメーは黙ってろボケ」と冷たく言い放ちそのまま目を覚ました善逸の顔を凝視する。

青い髪を振り乱し、善逸を睨みつける彼女は般若を通り越した真蛇に近いものになっていた。そのまま汐は落ちていた善逸の刀を拾って足の間に突き刺す。

その形相と行動にに善逸の顔は瞬時に真っ青になり、ガチガチと歯を鳴らしだした。

 

「お前何やってんの?こんな夜中に騒いで。あたしの睡眠時間を台無しにしやがって。あたしはね、寝る瞬間を邪魔されるのがこの世で4番目に嫌いなのよ。寝付くまで時間がかかるの。わかる?お前のせいであたしは貴重な睡眠時間がどんどん削られてんだよわかるのかこのド畜生ガァーッ!!」

「汐落ち着けぇー!!今はお前が一番騒がしいって!!それに女の子がそんな言葉を使っちゃ駄目だ!!」

「うるせぇえええ!!!あたしの睡眠時間を返しやがえええ!!!」

 

我を忘れて大暴れする汐を炭治郎は(呼吸を用いて)必死で抑えるが、汐の怒声はなかなか収まらず、結局夜明けまでその声は響いたのであった。

この作品の肝はなんだとおもいますか?

  • オリジナル戦闘
  • 炭治郎との仲(物理含む)
  • 仲間達との絆(物理含む)
  • (下ネタを含む)寒いギャグ
  • 汐のツッコミ(という名の暴言)
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