ウタカタノ花   作:薬來ままど

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善逸をぼこぼこにしてしまった後のお話


信じぬくこと

「ごめん。本当にごめんなさい」

 

善逸の腫れあがった顔を濡れた手ぬぐいで冷やしながら、汐は心から申し訳ないという気持ちを込めて謝る。

そんな彼女に善逸は震える声で「いいよ、気にしないで」と答えた。

 

「俺の方こそごめん。禰豆子ちゃんが炭治郎の妹だって気が付かないで騒いで、君の睡眠を邪魔したのは本当だし」

 

そう言って善逸も申し訳なさそうに汐に頭を下げた。

 

あの後、善逸に汐は怒りながら禰豆子が炭治郎の実妹だということを滾々と説明し、誤解を解くことができた。しかし、我に返った汐も目の前の顔が二倍以上に腫れてしまった善逸を見て心の底から反省した。

 

「それにしても、あんたの顔ってまじまじと見たけれど、そんな顔をしてるのね」

「へ?」

「思ったよりもかわいい顔してる」

「・・・かわいいって、男に対しては誉め言葉じゃないんだよ、汐ちゃん」

 

善逸が呆れたようにそういうと、汐は本気で驚いた顔をした。それが冗談でもないことは、彼女の【音】が物語っていた。

 

「そうなんだ。あたし、炭治郎以外に年の近い男友達がいなかったから、そういうの結構疎いのよ。あたしの住んでいた村では、大人と小さい子供ばっかりだったから」

「確か、汐ちゃんは炭治郎と兄妹弟子なんだよな。でも、呼吸が違うから気になっていたんだけど」

そういうと、汐の表情が少し曇った。その様子に、善逸は失言したかとたじろいでしまう。

 

「そうだよ。あたしは最初から炭治郎と一緒にいたわけじゃない。あたしの住んでいた村はね、西方の漁村だったの。生活は楽じゃないけど、毎日が楽しかった。あの日までは、ね」

「あの日?」

 

汐の言葉に、善逸は怪訝そうにその顔を見つめる。彼女から聞こえてきた【音】に、小さく息をのみながら。

汐は小さく息をつくと、「長いしあんまりおもしろくない話だけど」と前置きして語り始めた。

 

村人と自分の養父の事。村一番の美人と名高い親友の事。鬼の襲撃に遭い村が消滅し、養父が鬼となったこと。そしてその鬼を自らの手で引導を渡したこと。

鬼と自分への憎しみと殺意で狂いそうになっていた時、炭治郎や禰豆子、鱗滝に出会ったこと。鬼である禰豆子を受け入れることが難しかったこと。そして、自分が救われたこと。

 

話を聞き終えた善逸は、呆然としたまま汐の顔を見つめていた。そんな善逸の表情に気づかないのか、汐はわざとお道化て言った。

 

「あたし、あんたの事すごいと思ってるのよ?あんたは禰豆子が鬼であってもあっさり受け入れたでしょ?あたしは最初は無理だった。禰豆子を殺そうとまで思った。けれど、そんなどうしようもないあたしを炭治郎と禰豆子は受け入れてくれたの。だからあたし、二人のためなら何だってできるって思うの」

 

汐はそう言って窓から空を見上げた。少し欠けた十六夜の月が、汐の青い目に静かに映る。

そんな汐の横顔を見て、善逸はうつむき消え入りそうな声でぽつりと言った。

 

「すごく、なんかないよ。汐ちゃんも知っているだろ?俺、自分のことが一番好きじゃない。鬼を見るとああやって怯えて泣いて逃げて。結局汐ちゃんの事も危ない目に遭わせて」

 

善逸はそう言うと膝の上で手をぎゅっと握った。

 

「言い訳にしか聞こえないかもしれないけど、変わりたいし強くなりたいって思ってる。思ってはいるのに何をやっても全然だめで、雷の呼吸だって実は壱ノ型しか使えなくて・・・」

 

弱弱しく語る善逸に、汐は黙ったまま思考を巡らせた。慰めようにも、うまく言葉を選ばなければ気休めととられてしまうのがおちだからだ。

だが、汐はひとつ気になることを見つけた。善逸が言った、雷の呼吸の事だ。

 

「へ?ちょっとまって。あんた、壱ノ型しか使えないの?」

 

汐が言うと、善逸は体を震わせながら深くうなずいた。

 

「雷の呼吸は六つあるんだけど、俺ができたのは一つだけ。だからすごくなんか――」

「すごくないわけないでしょ!むしろすごいじゃない!それだけで今の今まで生き残ってきたんだから!」

 

汐の思わぬ大声に善逸は驚き、汐の顔を見る。彼の黄色い瞳に汐の顔が映った。

そんな善逸の眼を見て汐は小さくうなると、再び視線を逸らす。

 

「初めてあんたの眼を見たときに思ったけれど、あたしはあんたが弱虫には見えなかった。あ、あたしはね。眼を見ればその人の大体の人柄や感情がわかるの。人と鬼の区別もできるくらいね。だから、あんたが弱いとは思わなかったのよ」

 

だから、と汐はつづける。

 

「きっとあんたに圧倒的に足りないのは【自信】ね。自分はできる、大丈夫だって思う自信。炭治郎は腐るほど持ってるけど、全員があいつみたいな前向きお化けじゃないからね」

 

そう言って汐は悪戯っぽく笑った。その笑顔に、善逸の胸が小さく音を立てる。

 

「まあ自信なんてもらえるもんじゃないし、どうすればつくなんてあたしにもわからない。こういうのってきっときっかけなのよ。あたしが禰豆子を受け入れたように、ね。・・・・あ、そうだ!」

 

汐は突然立ち上がり「いいことを思いついた!」と叫んだ。ころころ変わる彼女の音に、善逸は困惑した表情を浮かべる。

 

「あんた、自分が信じられないならあたしたちを信じればいいんじゃない?伊之助はどうかわかんないけど、少なくともあたしと炭治郎は善逸が強くて優しいことを知ってる。見る限り、あんた人を信じるのは得意そうだしね」

「え・・・?」

「そうだそれがいい!もしも怖くなって自分に自信がなくなったら、自分を信じている人を思い出せばいいのよ。善逸にはいないの?自分を少しでも信じてくれた人」

 

汐の言葉に、善逸の脳裏にある人物が浮かんだ。不甲斐なく、どうしようもない自分を決して見限ったりしなかった人。自分を信じてくれていた人。その人の期待にこたえたいと、心の底から思ったこと。

 

「その顔を見るといるみたいね。あんたにとって何よりも大切な人。だったらその人のことを決して忘れては駄目。そして間違っちゃ駄目よ」

 

あたしみたいに、という言葉は消え入りそうだったが、善逸の耳にははっきりと聞こえた。

 

「なんて、ね。あたしだってたいそうなことを言えるような人間じゃないし、ちょっとした独り言だって思ってちょうだい」

「それは無理だよ。独り言にしちゃ長すぎる」

「言うじゃない」

 

そんなやり取りをしていると、善逸が突然汐の顔をまじまじと見つめた。そしてそっと彼女の手を握る。

 

「汐ちゃん、ありがとう。俺、頑張ってみる。君のことを信じるよ」

「善逸・・・」

「だから・・・。禰豆子ちゃんのことを炭治郎に口利きしてくれないか?」

「今までの空気を返せドサンピン」

 

汐の刀のような辛辣な言葉に、善逸の自信は急速にしぼんでいくのであった。




体調不良のせいか今回は少しグダグダしてます。

この作品の肝はなんだとおもいますか?

  • オリジナル戦闘
  • 炭治郎との仲(物理含む)
  • 仲間達との絆(物理含む)
  • (下ネタを含む)寒いギャグ
  • 汐のツッコミ(という名の暴言)
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