ウタカタノ花   作:薬來ままど

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怪我が完治した汐と完治していない伊之助のお話


不器用な子守唄

くぉらああああああ!!!!動くなっつってんだろーが馬鹿猪ィィィ!!!

 

家中に汐の怒声が響き渡るのと同時に聞こえてきたのは、伊之助と汐が走り回る地響きのような音だった。

 

あの日から数日。汐の肩の怪我はすっかり治ったものの、肋骨を骨折している伊之助はまだそうもいかず安静が必要だった。

にもかかわらず、伊之助はじっとしているのが嫌いなのか、部屋を抜け出しては走り回る始末だった。

そんな彼を追いかけまわし連れ戻すのが、いつしか汐の役割になっていた。

 

「うるせえええ!!!俺はじっとしているのは性に合わねえんだ!!早く強い奴と戦いたくてうずうずしてんだよ!」

「だったらまず怪我が治ってからにしなさいよ!悪化したら元も子もないわよ!つべこべ言わずに部屋に戻りなさい!」

 

汐と伊之助の言い争う声が響き渡る。そんな様子を炭治郎と善逸は複雑な表情で見ていた。

 

伊之助の気持ちはわかる。何日もじっとしていては体が鈍ってしまい、いざというときに動けなくなってしまう。それは確かだ。

しかし汐の言っていることは間違ってはいない。医者の話でも、三人は動けるような状態ではなく安静が必要であることは確定していた。

 

だからこそ、二人は汐達の間に入っていくことができなかった。

 

「あーもう、うるせえぞわたあめ牛!なんでそんなに俺に構うんだ!?お前には何の関係もないだろ!?」

「あたしは大海原汐だ!あんたの怪我が心配だからに決まってるでしょ!!仲間の怪我が悪化して喜ぶ奴なんて、頭がおかしい奴だけよ!」

 

汐の言葉が耳に入った瞬間、伊之助は息をのんで動きを止める。ほわほわと、胸の奥から何か温かいものがこみ上げてきたからだ。

急に動きを止めた伊之助に困惑する汐だが、これ幸いと伊之助の手を取り歩くように促す。

自分よりも二回り以上小さいその手に引かれて歩く伊之助は、その感情が理解できないまま汐に引きずられていくのであった。

 

*   *   *   *   *

 

その後、伊之助は何度か部屋を抜け出していたが、その度に汐が見つけ引きずるという光景がよく見られた。

一度汐に酷い目に遭わされているせいか、伊之助は汐に見つからないようにこっそり行動し、そんな自分に腹を立てて怒鳴り見つかるということを繰り返していた。

 

そしてそれが何度か続いた日の夜。

 

「・・・あんたね、いい加減に学習しなさいよ。これで何度目?」

 

目の前に横たわる伊之助を呆れたように見下ろしながら、汐はうんざりしたように言った。伊之助は不貞腐れたようにそっぽを向き、目を合わせようとしない。

 

「医者が言うにはあと少しで完治するって。本当ならとっくに治ってもおかしくないのに、あんたが暴れまわるから治りが遅いのよ?そこんとこ分かってんの?」

「うるせえな」

 

伊之助は汐に背中を向けたまま、ぶっきらぼうに答える。それからそのままの姿勢で伊之助は反対に問いかけた。

 

「そもそもお前には関係ねえだろ。なんでそんなに俺に構うんだ?」

「なんでって・・・そんなの当り前じゃない。あんたが心配だからよ」

「なんでお前が俺のことを心配するんだよ?」

 

伊之助がさらに問いかけると、汐は少しの間言葉を切る。そして言葉を選ぶようにゆっくりと話し出した。

 

「あんたには、酷いことをしちゃったからね。鼓鬼の屋敷でも、ここに来た時にも。その償い、っていうわけじゃないけれど、あんたにずっと謝りたかったのよ」

声の雰囲気が変わったことに伊之助は目を剥くと、思わず汐の方を振り返った。

 

「言い訳に聞こえちゃうかもしれないけれど、あたし怒りが抑えられなくなるとすぐに手が出ちゃうの。もちろん、誰これ構わずはしないわ。あまりにも腹が立った時だけよ」

それもよくないんだけどね、と汐は自嘲気味に笑みを浮かべた。

 

「だから、あんたを傷つけたことをすごく後悔している。本当にごめん」

 

そう言って汐は深々と伊之助に向かって頭を下げた。そんな彼女の姿をみて、伊之助は何かを考えているようだったがふと口を開いた。

 

「お前の言ってること、全然意味が分かんねえ。なんでそんなことをいちいち気にするんだ?お前が何しようがどうしようが、俺には何にも関係ねえことだからな!」

 

伊之助の言葉に、汐は虚を突かれた思いで見つめる。正直、伊之助も何言っているのかがわからなかったのだが、気のせいだろうが汐のことを気遣っているような感じがした。

そんな彼に、汐の心が少しだけ温かくなる。そして「そうね。野暮な事だったわね」とほほ笑みながら言った。

 

「でもだからって、あんたが抜け出していい理由にはならないからね。今日はあんたが寝付くまでここにいるわ」

「はあ!?お前がいちゃ気になってしかたねえ!!さっさと戻れよ!」

「いーや。あんたが寝付くまでここにいる。あ、そうだ。どうせなら子守唄歌ってあげるわよ。炭治郎と禰豆子にも好評な子守唄」

 

汐の思いがけない提案に、伊之助は思わず動きを止める。が、数秒待たずに「子守唄ってなんだ?」という言葉が返ってきた。

子守唄を知らない伊之助に驚きつつも、汐は子守唄の説明をする。

 

「子守唄っていうのは、子供を寝かしつけるときに歌う歌よ。今のあんたは寝たくなくて駄々をこねる子供のようなものだもの。絶対に聴いてもらうから」

 

伊之助はまだ何か言いたげだったが、汐はそれを無視すると目を閉じて口を開いた。

 

優しくあたたかな旋律が汐の口からこぼれだし、伊之助の耳に吸い込まれていく。伊之助の全身が温かなものに包まれ、心の中までほわほわと温かくなっていった。

 

(なんだ・・・?これ?急に、眠く・・・)

 

ふわふわと浮き上がるような不思議な感覚に抗うこともなく、伊之助はそのまま深い眠りに落ちていった。すぐさま寝息を立て始めた彼に、汐はその寝つきの速さに驚く。

 

(今まで寝かしつけた奴の中で、寝つきが一番早いわ。意外とおりこうさんだったりして)

 

そんなことを思うと、汐の口に思わず笑みが浮かぶ。そんな彼女だが、猪の皮の隙間から鼻提灯を膨らましている伊之助を見て少しばかりいたずら心が疼いた。

 

(確かこいつの素顔、結構整ってたのよね。寝顔ってどうなっているんだろう)

 

そのまま歌いながら汐は猪の皮をそっと捲ってみる。すると、その下の彼の整った顔立ちが目に入った。

幸せそうな顔をして眠る伊之助に、思わず汐の顔がほころぶ。こんな綺麗な顔をしているのに何故、猪の皮をかぶって顔を隠しているのか。

疑問はいろいろ残ったのだが、汐は変な散策はせずそのまま皮を戻した。

 

「お休み、伊之助。ありがとうね」

 

汐はそれだけを言うと、そのままそっと自分の部屋へと戻った。

 

 

その後、禰豆子に歌を聞かせる汐の下に、伊之助がちょくちょく来るようになったのは、また別のお話。





この作品の肝はなんだとおもいますか?

  • オリジナル戦闘
  • 炭治郎との仲(物理含む)
  • 仲間達との絆(物理含む)
  • (下ネタを含む)寒いギャグ
  • 汐のツッコミ(という名の暴言)
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