ウタカタノ花   作:薬來ままど

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日が沈み、夜の帳が降りてきた頃。
頃合いを見計らって禰豆子が箱の中から顔を出すと、彼女の名を呼ぶ声が聞こえた。禰豆子が振り返るとそこには、

「禰豆子ちゃ~ん」

ニタニタとした笑みを浮かべた善逸がゆらゆらと身体を揺らしながら、気色の悪い動きで禰豆子に迫ってきた。
そんな善逸から禰豆子は逃げ、そんな禰豆子を善逸が追いかける。明らかに嫌がっている禰豆子に構わず、善逸が近寄ろうとしたとき。

不意に善逸の視界がぐるりと動き、気が付けば天井と笑顔で青筋を浮かべて見下ろす汐の顔が見えた。

「何してんだ、てめーは」

満面の笑みの彼女の口から洩れる言葉は、地の底から響いてくるように低い声だった。そのわきでは禰豆子を庇うように炭治郎が立っている。
だが、善逸はすぐさま起き上がると汐の両肩に手を置いて言った。

「ごめん、汐ちゃん。君は強くて勇敢でたくましい女の子だということは知っている。けれど、やっぱり女の子は可愛くて可憐で守ってあげたくなるようなほうがいいと思うんだ」
「オイ待てこら。それってどさくさに紛れてあたしが女じゃないって言ってるようなもんだろうが」

このままでは再び汐が爆発してしまうと危惧した炭治郎が、二人を引き離しにかかる。そんな中、伊之助が奇声を上げながら乱入し、炭治郎と汐に頭突きをかましてきた。
そんな伊之助を汐が蹴り飛ばし、それを炭治郎がとめ、そんな炭治郎を頭がお花畑な善逸が追いかける。
そんな奇妙な追いかけっこをする四人を、禰豆子は不思議なものを見るような眼でじっと見つめていた。

そんな中、汐の下に新しい隊服が届いた。浅草での戦いで敗れてしまっていたため、修繕を頼んでいたものだった。
本来なら雑魚鬼の爪や牙では引き裂くことができないものだが、相手が血鬼術を使っていたことと、何よりも汐の隊服に不具合が見つかり強度が下がっていたという事実が重なりこのようなことになっていたということだった。
この事に流石の汐も怒るよりも呆れが勝り、その日は早々に眠ってしまうのであった。

そして翌朝。

「汐。そろそろ朝食だぞ。起きろ」

炭治郎が汐の使っている部屋の前で声をかけるが返事がない。彼は小さくため息をつくと「入るぞ」と言って襖を開ける。
そしてその奥の光景を見て閉口した。

部屋にはいろいろなものが散乱し、布団は乱れその中心で汐が気持ちよさそうに眠っている。
鱗滝のところに彼女が預けられて、まず炭治郎が驚いたのが汐が片付けが苦手であったということだ。
片付けが苦手な女性がこの世にいることにひどく驚いたことを覚えている。

「汐、起きろ!朝だぞ!」
炭治郎が声をかけると、汐は小さくうめきながら目を開ける。そんな彼女に炭治郎は呆れたような顔をして周りを見回した。

「お前なんだよこれ。俺いつも言ってるよな?使ったらきちんと片付けろって」
「うるさいわね~、朝っぱらから説教なんかしないでよ。後からやろうと思ってただけ」
「そのあとからっていうのが駄目なんだ。後回しにすると絶対に忘れるだろ?朝食の前に軽く片づけをしてからにしろ」
「わかってるわよ~。まったく、いくら自分が掃除好きだからってあたしにまで押し付けなくても・・・」

ぶつぶつと文句をたれながら、汐は寝ぐせのついた頭のまま片づけを始める。そんな二人を見て善逸は全身を震わせると・・・

親子か!!!」と、全身全霊で叫んだのだった。


八章:蜘蛛の棲む山


ある日の朝。四人の診察に来ていた医者は彼らを集めてある事実を告げた。それは、四人の怪我が完治したことであった。

その言葉に汐と炭治郎の顔に笑みが浮かび、善逸と伊之助はそんな二人を怪訝そうな顔で見つめた。

 

医者が帰路についた昼下がりの頃。四人の前に汐と炭治郎の鎹鴉が飛んできた。二人がそれぞれの鴉を手に乗せると、二羽はそれぞれ鳴き出した。

 

「カァ~カァ~。緊急ノオ仕事デス~。緊急事態デス~」

「北北東。次ノ場所ハ北北東!四人ハ【那田蜘蛛山】ヘ行ケー!那田蜘蛛山ヘ行ケー!」

 

二羽の鴉はそれだけを告げると、窓の外へ飛び去ってしまった。ソラノタユウが緊急と言っていたと言事を踏まえても、ただ事ではないことは確かだった。

 

四人はすぐさま隊服に着替え(伊之助はズボンのみだったが)、身支度を整える。久しぶりに袖を通した隊服は、心なしか以前よりも体に吸い付く様にぴったりと収まる。

汐は姿見を見ながら髪を整え、そして玄海の形見の鉢巻きをしっかり締め直した。

 

「汐、早く早く」

 

玄関に向かうと既に炭治郎たちが外に出て待っている。汐は慌てて履物を履くと三人の後を追った。

 

「では行きます。お世話になりました」

 

炭治郎は見送りに出てくれた老女に向かって深々と頭を下げる。それに合わせて汐と善逸も頭を下げるが、伊之助は礼もせず三人を見た。

老女も彼らにこたえるように深々と頭を下げる。そして頭を上げると、袂から火打石を取り出した。

 

「では、切り火を・・・」

「あ、ありがとうございます」

 

炭治郎がそういうと、伊之助を除く全員が老女に向かって背を向ける。伊之助は不思議なものを見るように、老女に顔を向けた。

 

老女が火打石を二回打ち鳴らすと、カチカチという音と共に火花が飛び散る。それを見た伊之助は

 

「何すんだババア!!」

 

いきなり大声を上げて老女に殴りかかろうとし、そんな伊之助を炭治郎と汐が抑え、老女の前に善逸が守るように立ちはだかった。

 

「馬鹿じゃないの!?切り火だよ!お清めしてくれてんの!危険な仕事に行くから!!」

 

善逸はそのまま切り火の意味をかいつまんで伊之助に説明する。説明が壊滅的にへたくそな炭治郎と比べて、彼の言い方はとても理にかなっていてわかりやすかった。

 

ようやく伊之助の興奮が収まったころ、老女は四人に向かって優しげな声で語り掛けるように言った。

 

「どのような時でも誇り高く生きてくださいませ」

 

――ご武運を・・・

 

そんな彼女に、汐、炭治郎、善逸は再び頭を下げる。伊之助はまだ理解できないのか不思議そうに三人を見ていた。

 

そして炭治郎を先頭に、汐、善逸、伊之助の順で走り出す。その際、伊之助は何度か老女の方を振り返った。

彼女は四人が見えなくなるまで、ずっと頭を下げて見送るのだった。

 

那田蜘蛛山へ向かう道のりを、四人は軽快な速度で走っていく。そんな中、伊之助が走りながら前の三人に唐突に問いかけた。

 

「誇り高く?ご武運?どういう意味だ?」

そんな伊之助を見て善逸は彼が何も知らないことに、呆れたような顔をする。そんな善逸を見た汐は、お前が言うなとでも言いたげな表情をした。

 

「そうだなぁ。改めて聞かれると難しいな。誇り高く・・・『自分の立場をきちんと理解して、その立場であることが恥ずかしくないように正しく振舞うこと』かな?」

「なんだか余計にややこしくなってない?要するに自分の言動行動にきちんと責任を持てっていうことじゃない?」

「ああ、そういう解釈もあるな。それと、あのおばあさんは俺たちの無事を祈ってくれているんだよ」

 

炭治郎と汐が自分の言葉でそれぞれ説明するが、伊之助はわけがわからないと言った様子でさらに口を開く。

 

「その立場ってなんだ?恥ずかしくないってどういうことだ?責任っていったい何のことだ?」

「それは・・・」

「正しい振舞って具体的にどうするんだ?なんでババアが俺たちの無事を祈るんだよ?何も関係ないババアなのになんでだよ?ババアは立場を理解してねえだろ?」

 

矢継ぎ早に紡ぎ出される伊之助の質問に、炭治郎は口を一文字に結ぶとそのまま急加速した。

 

「あ、逃げた!こら待て炭治郎!あたしに押し付けんな!」

 

そんな彼の背中を汐が足を速めて追いかけ、そんな二人に闘争心に火が付いた伊之助が追いかける。そんな三人を最後尾の善逸が情けない声を上げながら追いかけた。

 

やがて日が落ち、あたりが暗黒と静寂に包まれたころ。

 

「待ってくれ!!」

 

突然善逸が叫び、彼を除いた三人が振り返る。

 

「ちょっと待ってくれないか!?」

 

善逸は真剣な表情で三人を見据え、凛とした声で言い放った。これから始まる大仕事を前に、気合を入れようとしているのだろうか。

と、思いきや次の瞬間にはその表情は見事に情けないものとなり、凛とした声も泣きごとへと変わった。

 

「怖いんだ!目的地が近づいてきて、とても怖い!!」

 

ある意味彼らしさを失っていないことに、汐は少し安堵した。

 

「何座ってんだこいつ?気持ち悪い奴だな」

「お前に言われたくねーよ猪頭!目の前のあの山から何も感じねーのかよ!?」

 

善逸が目の前の山を泣きながら指差し、三人は振り返って山を見上げる。

うっそうと木々が生い茂る山は、夜の闇に包まれているせいか一層不気味に見えた。

 

「しかしこんなところで座り込んでても・・・」

「やっぱ気持ち悪りぃ奴」

「気持ち悪くなんてない、普通だ!!俺は普通で、お前らが異常だ!!」

「あんたの普通をあたしたちに押し付けないでよ」

 

怯える善逸とそうでない者たちの押し問答が少し続いたとき、汐と炭治郎は何かを感じ振り返った。

何か妙な感じがする。汐がそう感じた瞬間、彼女の足は自然と山の方へ向かっていた。それに合わせるように、炭治郎も後を追う。

 

その後ろから伊之助と泣きながら善逸もついてくる。そしてしばらく走ったその先には。

 

人がひとり、地面にばったりと倒れ伏していた。

よく見るとその人は右手に刀を持ち、隊服を着ている。鬼殺隊士だ。

 

彼は汐達の姿を見ると、涙を流しか細い声で「助けて・・・」と言った。

 

「大丈夫!?何があったの!?」

 

汐と炭治郎が隊士に駆け寄り、手を伸ばそうとした瞬間。

キリキリという奇妙な音と共に、彼の体は不自然に浮き上がり山の方へ文字通り引っ張られていく。

消える寸前、彼は引きつった声で「繋がっていた・・・!俺にも・・・!」という言葉を残し、助けを求めながら山に吸い込まれるようにして消えてしまった。

 

常軌を逸脱した光景に、全員が口を開けたまま呆然と彼が消えた山を見つめる。

すると山の方から強烈な匂いと膨大な気配が炭治郎と汐のそれぞれの感覚を刺激した。炭治郎の手が震え、汐は思わず自分の体を抱きしめる。

 

(何・・・?今の気配・・・!一匹や二匹の気配じゃない。とてつもなく大きいのと、それから・・・)

 

無惨と遭遇した時ほどではないが、明らかに今までの雑魚とは違う感じに、汐は体を震わせる。でも、ここで立ち止まるわけにはいかない。

 

「俺は、行く」

汐よりも先に炭治郎が口を開いた。思わず顔を見ると、彼も顔に脂汗を浮かべている。

あの炭治郎ですらこんな眼をしていることに、汐は驚きつつも拳を握った。

 

だが、そんな彼らの前に歩み出る者がいた。伊之助だ。彼は炭治郎と汐を押しのけ、刀に手をかけた。

 

「俺が先に行く。お前らはがくがく震えながら、後ろをついてきな。腹が減るぜ!!」

 

挑発的な言動だが、その声には二人を嘲る様子はない。その背中が頼もしく見えて、汐は思わず笑みを浮かべた。

 

(ただ、言葉少し間違ってるけど)

 

そのことは背後で善逸が小さく突っ込んでいた。そんな彼を放置し、伊之助は山に突入し、汐と炭治郎もそのあとを追った。

 

*   *   *   *   *

 

山の中はとても暗く、山に慣れていない人間は瞬時に迷ってしまうほどうっそうとしていた。

山育ちである炭治郎や伊之助はともかく、二人ほど山に慣れていない汐は必死で二人の背中に食らいつく。

そんな汐の手を、炭治郎がそっととった。びくりと体を震わせると、優しい彼の眼とぶつかる。汐の頬に急激に熱が集まった。

 

「大丈夫か?俺たちから絶対に離れるなよ」

「だ、大丈夫よ!あたしだって鬼殺隊員の端くれ。これくらいなんでもないわ!馬鹿にしないで」

 

気恥ずかしさをごまかすように、汐はつっけんどん言うと手を振り払う。炭治郎は眼を見開いたが、少し安心したように目を細めた。

 

「ん?」

すると先頭を歩いていた伊之助が急に止まって自分の両手を見た。手には透明な糸がいくつも絡みついている。

 

「うげっ、蜘蛛の糸?気持ち悪い~」

汐が眉を八の字に曲げて思い切り顔をしかめる。あたりを見回すと、あちこちに蜘蛛の糸が絡みつき、かすかな月明かりで不気味に光っていた。

 

「蜘蛛の巣だらけじゃねえか!邪魔くせえ!」

伊之助は手についた蜘蛛の巣を乱暴に振り払い悪態をついた。そんな彼の背中に、炭治郎は声をかける。

突然声をかけられた伊之助は、警戒心を剥き出しにして炭治郎を見る。しかし、そんな伊之助の感情とは裏腹に、炭治郎は優し気な声色で言った。

 

「ありがとう。伊之助が一緒に来ると言ってくれて心強かった」

 

伊之助は面くらったように炭治郎の顔を見つめた。炭治郎はつづける。

 

「山の中から来た、捩れたような禍々しい匂いに俺は少し体が竦んだんだ、ありがとう」

「ああ、やっぱり?実はあたしもなのよ。鬼の気配がごちゃごちゃに混ざっててすごく気持ち悪くて、寒気がしたのよ。あんたが先陣を切ってくれたおかげで、あたしも前に進むことができたわ。あたしからも、ありがとうって言わせて」

 

二人はにっこりと笑って伊之助に謝罪の言葉を告げる。伊之助はそんな二人を呆然と見ていたが、心の奥から湧き上がってくるほわほわとした温かいものを感じていた。

 

「伊之助、汐!」

 

炭治郎が鋭く叫んで二人を制止させる。彼の視線の先には、背中に滅の字を入れた一人の隊員の姿があった。

 

彼を驚かせないように三人はそっと近づく。そして、炭治郎が声をかけようと手を伸ばしたその時だった。

 

「!?」

 

彼が息をのんで刀に手をかけ振り返る。だが、三人が隊服を着ていると認識した時、彼の表情が少しだけ和らいだ。

 

「応援に来ました。階級・癸、竈門炭治郎です」

「同じく階級・癸、大海原汐よ。そしてこいつが嘴平伊之助」

 

二人が素性を明かすと、隊士は再び顔を引つらせた。その眼には絶望が浮かんでいる。

 

「なんで【柱】じゃないんだ。癸なんて何人来ても同じだ!意味がない!」

隊士がそう言った瞬間、汐の者でも炭治郎の者でもない拳が彼の顔面を穿つ。

 

「伊之助!」

「あんた何やってんのよ!?あたしだって腹立つけどそんな状況じゃないくらいわかるわよ!」

 

汐と炭治郎が伊之助を窘め、隊士は鼻を抑えて伊之助を睨みつける。

だが、伊之助は興奮しているのか隊士の頭を掴んで大声を上げた。

 

「うるせえ!!意味のあるなしでいったらお前の存在自体意味がねえんだよ。さっさと状況を説明しやがれ弱味噌が」

「伊之助止めなさい。いくらその辺を歩いてそうなパッとしてない顔をしてるからって、この人はたぶんあたしたちより先輩よ」

「いや、お前も今ものすごく失礼なことを言ったよな!?お前も俺の事思い切り馬鹿にしてるよな!?」

 

ひとしきりそう突っ込んだ後、彼は伊之助の手を掴みながら説明した。

 

彼も汐達同様鴉からの指令を受け、彼を含め十人の隊員がこの山に入った。だが、しばらくして隊員たちが突如斬りあいを始めたという。

そして彼も巻き込まれそうになり、命からがらここまで逃げてきたということだった。

 

「隊員同士の斬りあい・・・直前で仲間割れってわけでもなさそうね」

「ああ。考えられるのはたぶん、鬼の・・・」

 

炭治郎がそう言いかけたとき、あたりからキリキリと奇妙な音が聞こえてきた。

汐はこの音に聞き覚えがあった。先ほど、山に引き込まれるようにして消えた隊士が、消える寸前に聞こえてきた音と酷似していた。

そして、そばにいる隊士も、音に聞き覚えがあるのか瞬時に顔が青くなる。

 

「鬼の気配がするわ。みんな気をつけて!」

 

汐の言葉にそれぞれが刀を構える。だが、気配はあちこちに分散されていてどこに潜んでいるかわからない。

 

キリキリという音はこちらに近づく様にどんどん大きくなっていく。そして不意に、彼らの背後で何かが動く気配がした。

 

四人が反射的にその方を向くと、森の奥から一人の隊士がこちらに向かってくる。だが、どうも様子がおかしい。

するとその隊士についてくるかのように、森の奥から次々と他の隊士たちも現れた。全員口から血を流し、目の焦点が合っていない者もいる。

 

そのうちの一人が刀を構え、汐のそばにいる隊士に向かって斬りかかってきた。

 

彼は悲鳴を上げつつもその斬撃をよける。そして他の隊士はそばにいた汐達にもそれぞれに刀を振るった。

 

「ハッハ!こいつらみんな馬鹿だぜ。隊員同士でやりあうのはご法度だって知らねえんだ!」

「いや、どの口がそんなこと言ってんの!?それに動きがどう見たっておかしいわ!何かに操られているのよ!」

 

汐は身をかわしながら伊之助に怒鳴りつけた。彼女の言う通り、彼らの動きは明らかにおかしく、人間ならばありえない動きをしているのだ。

 

「よし、じゃあぶった斬ってやるぜ!」

「駄目だ!まだ生きている人も交じってる!それに仲間の亡骸を傷つけるわけにはいかない!」

「否定ばっかりするんじゃねぇ!!」

 

業を煮やした伊之助が、怒りの頭突きを炭治郎にお見舞いした。

 

「なにやってんのあんたたち!こんな状況で遊んでいる場合じゃないでしょ!?」

 

振り上げられた刀を受け止めながら、汐は頭から湯気を出して叫んだ。このままでは全員の命が危ない。何とかしなければ。

 

その場から動けずにいる汐の背後から、別の隊士が迫る。汐は歯を食いしばると、心の中で謝りながら前の隊士の腹を思い切り蹴った。

そして一瞬生まれた隙を狙って足を払って押し倒す。

それと同時に伊之助が斬りかかってきた隊士を組み伏せた。

 

(!?背中から鬼の気配がする!)

 

汐が目を凝らすとそこには、やっと見えるくらいの糸が何本もつながっていた。汐はすぐさま刃を振るい、その糸を断ち切った。

隊士の体は解放された様に地面に吸い込まれていった。

 

「炭治郎、伊之助、糸よ!糸で操られてる!糸を切って!!」

「わかった!」

 

炭治郎は頷くと、襲い掛かってくる隊士の背中に向かって刀を振った。ぷつりという手ごたえと共に、隊士の体は地面に落ちていく。

 

「お前より先に俺が気づいてたね!」

伊之助は得意げに言うと、跳躍しながら二本の刀を振るい複数の隊士の糸を切り捨てた。

 

ひとまずの脅威は去ったが、彼らを操っている鬼がまだいるため根本的な問題は解決していない。汐は必死に鬼の気配をたどるが、気配が分散していてわからない。

 

「炭治郎、あんたの鼻で鬼の位置はわからないの?」

「もうやってる!けれど、すごい刺激臭がしてわからないんだ」

 

彼にしては珍しく声を荒げ、焦っている様子が分かる。すると突然、汐の近くでかさかさと奇妙な音が聞こえた。

 

音のする方向へ回を向けると、汐の右腕に二匹の白い蜘蛛が這いあがってきていた。

その瞬間、汐の右腕が自分の意思とは関係なく持ち上がった。すぐさま刀で糸を切ると、蜘蛛はそのままどこかへと逃げて行ってしまった。

 

(蜘蛛!こいつらが糸をつないでいたのね!)

汐は隣にいた炭治郎を見ると、彼も同じく蜘蛛に糸を繋がれそうになっていた。そして先ほど糸を切って解放した隊士たちも、再び糸につられ立ち上がっていた。

 

「汐、伊之助!糸を切るだけじゃだめだ!蜘蛛が操り糸をつなぐ。だから・・・!」

そこまで言いかけた炭治郎が再び苦し気に鼻を抑えた。その足元に再び蜘蛛が迫る。

 

「危ない!」

汐はすぐさま駆け寄り、二匹の蜘蛛を踏み潰した。

 

「じゃあ蜘蛛を皆殺しにすればいいんだな!?」

「そんなの無理よ!蜘蛛は小さいし多分何匹もいる。本体を叩かないと意味がない!でも、あたしも炭治郎も今のままじゃそれができないのよ!」

「伊之助。もし君が鬼の位置を正確に探る何らかの力を持っているなら、協力してくれ!」

 

襲い来る隊士たちの攻撃をかわし、炭治郎が必死に口を動かす。

 

「それから、えっと」

「む、村田だ!」

「操られている人は俺と汐と村田さんで何とかする。伊之助は・・・!」

 

炭治郎がそこまで言いかけた瞬間、汐の第六感が凄まじい気配を感じ取った。

反射的に上を向くと、炭治郎もつられて上を見る。そこにあった、否いたのは・・・

 

真白な肌に赤い文様。真白に蜘蛛の巣を彷彿とさせる文様が入った着物をまとった、少年だった。

この作品の肝はなんだとおもいますか?

  • オリジナル戦闘
  • 炭治郎との仲(物理含む)
  • 仲間達との絆(物理含む)
  • (下ネタを含む)寒いギャグ
  • 汐のツッコミ(という名の暴言)

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