ウタカタノ花   作:薬來ままど

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「こっちだ!かなり近づいているぜぇ!」

 

月明かりだけに照らされたうっそうな森の中を、伊之助を先頭に汐と炭治郎は走り続ける。

鬼に近づいているせいか、汐も鬼の気配を感じ始め、炭治郎も風向きが変わって鼻が利くようになってきた。

 

(気配はあと二つ。おそらくそのどちらかが、さっきの胸糞悪い人形劇の主催者!!)

 

森の中に三つの足音と草木のこすれる音だけが響く。それがしばらく続いたその時。

鬼の気配が強くなると同時に、三人の視界に黒い影が映った。

 

「伊之助!」

「俺の方が先に気づいてたぜ!!その頸、ぶった切ってやる!!」

 

伊之助は高らかに叫ぶと、刀を構えなおしていち早く先陣を切った。彼の鈍色の刀が月明かりに照らされてギラリと光る。

だが、伊之助の振り下ろされた刀は鬼の腕によって弾かれた。

 

伊之助は空中で鮮やかに回転すると、汐と炭治郎の間にふわり降り立った。

 

「ちょっ、ちょっとちょっと。嘘でしょ・・・?」

 

目の前の相手を見て、汐の顔が青ざめる。彼女たちの前に立ちはだかった相手は、頭部がなく鎌のような腕を接がれた鬼の屍だった。

 

「こいつ、頸が無ェエエ!!」

 

伊之助が大声で叫ぶと、鬼の屍は腕を振り上げ汐達に向かって振り下ろした。三人はそれぞれ別の方向に飛び、その攻撃をよけると刀を構えなおした。

 

「あいつ急所が無ェぞ!無いものは斬れねえ!!どっ、ハァ!?どうすんだどうすんだ!?」

 

伊之助は混乱しているのか、言葉が支離滅裂になっている。そんな彼を落ち着かせようと、炭治郎は冷静な声色で言った。

 

「袈裟斬りにするんだ」

 

炭治郎は刀を鬼の屍に向かって右斜めに構えながら言った。

 

「右の頸の付け根から左脇下まで斬ってみよう。広範囲だし、かなり硬いとは思うが・・・たぶん――」

 

だが、炭治郎が言い終わる前に伊之助が我先にと飛び出した。慌てて制止するが、その声は届かず彼は鬼に斬りかかる。

が、それより早く鬼の屍の鎌のような腕が伊之助の上半身にいくつかの切り傷を作った。

 

(速い!!が、避けられない程じゃねえ!!)

 

伊之助は鬼の攻撃を避けつつ反撃の隙を伺うが、それに気をとられていたせいで小さな蜘蛛の存在に気づくことが遅れた。

気づいたときには彼の手足は糸に繋がれ、身動きが取れなくなってしまった。

 

その隙を相手は見逃さず、動けなくなった伊之助に向かって腕を振るおうとしていた。

 

(やられる!!)

 

だが、その切っ先が伊之助に届く前に紺青色の光がその間を穿った。汐だ。

汐が間に入りその一撃を受け止めたのだ。

 

「うらあああああああ!!!」

 

汐が咆哮を上げ斬りかかるも、鬼は軽やかな動きで後ろに下がって距離をとった。

 

「ちっ!図体の割に素早いわね。操り人形様様って感じかしら?」

 

汐は吐き捨てるように言うと、伊之助に絡みついていた糸を切断した。

 

「汐!伊之助!大丈夫か!?」

 

炭治郎が心配そうな顔で駆け寄ると、汐は平気と言いたげにうなずいた。

そんな彼らを見て、伊之助の中に温かいのものが急速にこみ上げる。

 

「伊之助!俺たちと一緒に戦おう!一緒に考えよう!この鬼を倒すために力を合わせよう!」

「あたしたちだけじゃ厳しいわ!あんたの力も貸してちょうだい!!」

「てめえらァァ!!これ以上俺をホワホワさせんじゃねえ!!」

 

炭治郎と汐の言葉に、伊之助は我慢ができないと言わんばかりに声を荒げた。

鬼はキリキリという音を立てながら腕を振り上げる。その切っ先は炭治郎に向かっていた。

 

「邪魔だそこ!!」

 

伊之助の声に炭治郎は気づき、とっさに身をかがめて叫んだ。

 

「伊之助!俺を踏め!!」

 

伊之助は炭治郎に背負われている禰豆子が入った箱を踏み、鬼に躍りかかる。鬼も伊之助の頸を穿とうと、両腕を振り上げた。

だが、いつの間にか背後に回っていた汐が刀の峰で糸をからめとり、その動きを抑える。その一瞬の隙をついて、伊之助は両腕を斬り落とした。

 

「伊之助跳べェ!!汐はそのまま離れろ!」

 

炭治郎は頭で体を支えながら叫ぶと、そのままの姿勢のまま大きく息を吸った。

 

――全集中・水の呼吸――

肆ノ型 打ち潮!!

 

炭治郎から放たれた技が、鬼の両足を穿ち体勢を崩させた。

 

「袈裟斬りだ!!」

 

空中に身を投げた伊之助は心の中で舌打ちをした。まるで川の水が流れゆくこと程当たり前に、炭治郎の思う通りに進んでいることに。

 

(こいつは自分が前に出ることではなく、戦いの全体の流れを見ているんだ)

 

そのまま伊之助の二本の刀は、鬼の右肩から左脇下を切り裂く。すると鬼の体は崩れ、灰となって消えていった。

 

(やった!)

 

汐は思わず拳を作り、グッと握りしめる。だが、伊之助は突如炭治郎の方を向くと、刀を投げ捨て走り出した。

 

「伊之助!?」

「お前にできることは、俺にもできるわボケェエエ!!」

 

驚く炭治郎をよそに、伊之助は炭治郎を抱えると思い切り放り投げた。決して軽くはない彼の体が空中へと舞い上がる。

それを見た汐は彼の意図を察知した。彼は炭治郎に空から鬼の位置を探らせようというのだ。

 

その試みは功を奏し、炭治郎の鼻と目が鬼の位置を捕らえた。

岩場に全身が白に包まれた女の鬼が、怯えた顔で炭治郎を見上げている。彼女の両手に繋がれている糸が、人や鬼を操っていた動かぬ証拠だ。

 

炭治郎は息を大きく吸い、壱ノ型を放たんと刀を向けた。だが、突如女の鬼が両手の糸を自ら断ち切り、その頸を彼の前に差し出すような動作をしたのだ。

 

炭治郎はそれを見て目を見開くと、刀をとっさに構えなおした。そして

 

――水の呼吸――

伍ノ型 干天の慈雨

 

炭治郎から放たれた技は、斬られたものに殆ど苦痛を与えない慈悲の剣撃。相手が自ら頸を差し出したときにのみ使う技だ。

 

その証拠に頸を斬られた女の鬼の表情は穏やかで、眠るように目を閉じた。

頸がおち、灰になって崩れていく女の鬼。たくさんの人を傷つけ命を奪った鬼ではあるが、炭治郎が彼女に向ける眼は、とても優しくとても悲しいものだった。

 

透き通るような、優しい眼。

その眼を向けられた彼女の両目から涙があふれ出す。そして消えゆく寸前、彼女はこう言った。

 

「十二鬼月がいるわ。気を付けて・・・!」

「!?」

 

その言葉を聞いて炭治郎は戦慄した。十二鬼月。鬼舞辻直属の配下であり、おそらく彼に近い存在の鬼。

その血液を奪えれば、禰豆子が人間に戻る薬を作る大きな一歩になるかもしれない。

 

「そうだ!伊之助と汐!」

 

炭治郎は慌てて踵を返すと、二人が待つところへ戻った。

そこでは

 

「だぁーかぁーらぁー!俺に触るじゃねえって言ってんだろうが!」

「うるさいわねあんた。いいから黙って止血位させなさいよ!自分の状況もわかんない程馬鹿なわけ!?」

 

汐と伊之助が言い争っている現場に出くわした炭治郎は、軽く頭を抱えた。とりあえず二人が生きていることに安堵したからだ。

 

「あ、炭治郎!無事だったのね!」

汐が伊之助を押しのけ炭治郎に駆け寄ろうとするが、そんな彼女を伊之助がさらに押しのけ彼に詰め寄った。

 

「倒したかよ!」

「ああ、倒した。伊之助、大丈夫か?」

「俺に対して細やかな気づかいするんじゃねえ!いいか、わかったか!お前にできることは俺にもできるんだからな!もう少ししたら俺の頭もお前みたいに硬くなるし、それからな・・・」

「はいはいわかったからとりあえずあんたは黙りなさい。そして黙って手当てを受けなさい」

 

汐はそういって布を取り出し、伊之助の傷に当てる。痛みに呻き、汐を振り払う伊之助。そんな彼を恐ろしい声色で黙らせる汐。

結局伊之助がさんざんごねたため、血を軽くふくくらいしか手当てはさせてもらえなかった。

 

「さて、これからどうする?鬼の気配はまだまだあるし、さっき見た子供の鬼も気になるわ」

汐がそういうと、炭治郎は真剣な面持ちで二人に声をかけた。それは、先ほど女の鬼が言っていた、十二鬼月がいるという話だった。

 

炭治郎の言葉に汐の顔が青ざめ、伊之助は首を傾げた。

 

「本当なのね。本当に、十二鬼月がこの山にいるのね」

「ああ、きっと本当だ。あの人からは嘘の匂いがしなかったから、間違いはないと思う」

「そう。それが事実なら十二鬼月なら、禰豆子を助ける大きな一歩になるはずね」

 

汐がそういうと炭治郎の眼に決意が宿る。それを見て汐の心にも決意がみなぎった。

一方十二鬼月の存在を知らなかった伊之助は、俺にも教えろと声を荒げる。そのうるささに汐は顔をしかめつつも説明した。

 

「とにかく、この山に十二鬼月がいることはわかった。問題はどの匂いがその鬼であるかだ」

「考えていても始まらないわ。先へ進みましょう。こんな蜘蛛だらけの気持ち悪い森、さっさと抜け出したいもの」

 

汐の提案に炭治郎は賛成し、伊之助を連れて森を抜けることにした。

 

その後、汐達道なき道を歩き続ける。炭治郎の鼻と伊之助の感覚がなければ道に迷うことは必然だっただろう。

木々が切れ開けた場所に出たとき、汐はほっと息をついた。目の前には川が流れ、その水面には月が静かに映っていた。

 

だが、そこについたときに炭治郎が鼻を抑えた。風向きが変わり、刺激臭がこちらに流れ込んできたのだ。

その臭いは嗅覚が普通な汐や伊之助も感じたらしく、顔をしかめる。(最も(尤も)伊之助は被り物のせいで表情はわからないのだが)

 

「大丈夫?」

「・・・ああ、なんとか」

「無理しないでよ。あんたに何かあったら、あたしは禰豆子に顔向けできないんだから」

 

汐の言葉は少し乱暴だが、それでも炭治郎を気遣う気持ちがあふれ出ている。そんな彼女を見て炭治郎の心に温かいものがこみ上げてくる。

 

「ありがとう、汐」

「別に。さて、こんな臭いところからはさっさと抜けちゃいましょ。ぼんやりとだけれど鬼の気配もするし」

 

汐はぶっきらぼうに言うと、炭治郎と傷ついた伊之助の前を歩きだした。そんな彼女に、伊之助は「俺の前を歩くんじゃねえよ!」と怒鳴る。

その時だった。

 

何処からか、雷のような音がして汐は思わず上を見上げた。その音は炭治郎にも聞こえたらしく、彼も上を見上げて首をかしげていた。

 

(雷と言えば、善逸はどうしているのかしら。あのまま置いてきちゃったけれど、あいつの性格だから自分から鬼の住処に入るなんてことはないだろうし。あ、でも。煩悩の塊だから、禰豆子を捜して入ってきてるかも)

 

そうだとしたらなんだかなあと、汐は苦笑いを浮かべた。

 

「さっきの音。雷が落ちたみたいな音だ。雷雲の匂いはしないけれど、刺激臭が強くなっていてわからないな」

「知るかそんなこと!俺は先に行くぜ」

 

伊之助はそう言って川に入ろうとするが、炭治郎はそんな彼を呼び止めた。

 

「俺と汐は向こうに行ってみようと思う。だから伊之助は下山するんだ」

「は?」

 

伊之助は言っている意味が分からないと言わんばかりに炭治郎に詰め寄った。

 

「山、下りて」

「はあ!?なんでだよ!死ねよ!!」

「死ねよってあんたが今死にそうなんだけど!?自分の体見てから言いなさいよ」

 

困惑する炭治郎に汐が助け船を出すと、伊之助は声を荒げながら「俺は怪我してねえ!」と言った。

 

一瞬時間が止まったかと思うほどの沈黙の後。

 

「えぇ!?」

「あ、あんた・・・ついに頭までおかしくなったの!?」

 

炭治郎は呆然とし、汐は思わず辛辣な言葉を吐きだした。そんな二人に伊之助はさらに憤慨し、声を荒げた。その時だった。

 

不意に足音が聞こえ、三人が視線を向けると川の向こう岸に白い着物を着た少女が現れた。先ほどの少年と似た風貌をしている。

だが、彼女の気配は紛れもなく鬼の者であった。

 

(鬼!?山全体の鬼の気配のせいでわからなかったっ!)

 

「っしゃああ!!ぶった斬ってやるぜ鬼コラ!」

 

伊之助は高らかに宣言すると、少女の鬼はくるりと踵を返して森の中に逃げ込もうとした。

そのあとを追おうとする伊之助。すると少女の鬼は振り返り、大声で叫んだ。

 

「お父さん!!」

 

その声が届いた瞬間、伊之助の上空に巨大な影が出現した。影はその両腕を振り上げ、伊之助を叩きつぶそうとする。

伊之助は寸前でそれをかわすと、汐と炭治郎のそばに降り立った。

 

上から降りてきた襲撃者は、顔を上げてその全貌を晒す。先ほどの少年の鬼や少女の鬼と同じく真っ白い髪をしている。

しかしその顔は明らかに人間のものではなく、七つの目が付いた顔に鋭い牙をした醜悪なものであった。

 

その迫力に、全員の顔が青ざめ体が硬直する。

 

「オ゛レの家族に゛、近づくな゛!!」

 

巨大な鬼はすさまじい力で伊之助のいた部分を殴りつけた。衝撃波が発生し、川底が砕け水しぶきと瓦礫が舞った。

伊之助はそのまま吹き飛ばされ、その隙を狙って鬼が拳を突き出す。その伊之助を救わんと、炭治郎が動いた。

この作品の肝はなんだとおもいますか?

  • オリジナル戦闘
  • 炭治郎との仲(物理含む)
  • 仲間達との絆(物理含む)
  • (下ネタを含む)寒いギャグ
  • 汐のツッコミ(という名の暴言)
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