ウタカタノ花   作:薬來ままど

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――水の呼吸――

――弐ノ型 水車!!

 

炭治郎は空中から技を放ち、その刃を巨大な鬼の腕に食い込ませる。だが、その刃は腕に軽くめり込んだだけで止まり、全く動かなかった。

 

(刃が、通らない!!)

 

動きを止められた炭治郎に、鬼のもう一本の腕が迫る。しかしその腕を三本の刃が穿った。

汐と伊之助が刀を食い込ませ、その一撃を阻止した。しかしその腕の硬さは二人がかりでも斬ることはかなわず、鎬がギリギリと音を立てる。

 

(何なのよこいつの腕・・・硬すぎる!)

 

汐が悔し気に顔をゆがませると、鬼は咆哮を上げて三人を思い切り振り払った。汐と炭治郎はそれぞれ、川から出ている岩の上に着地する。

 

(炭治郎が型を使っても斬れないなんて・・・。もしかしてこいつが十二鬼月!?)

 

だとしたら状況が悪すぎる。汐と炭治郎はともかく、伊之助は先ほどの戦いで傷を負っている。とてもじゃないが、まともにやりあって勝てるとは思えなかった。

 

――どうすればいい?

 

考える暇もなく、巨大な鬼は汐と炭治郎に向かって拳を振り上げる。二人はその一撃を寸前でかわし、汐は別の岩へ、炭治郎は岸へと飛びのいた。

 

「オ゛レの家族に゛ィィィ、近づくな゛ァァァァ!!」

 

濁り切ったしかし明らかに殺意のこもった声で、鬼は汐に狙いを定めて再び拳を振り上げる。するとその背後から伊之助が隙をついて斬りかかった。

しかし、鬼はその太い腕で伊之助をいとも簡単に吹き飛ばした。

 

「伊之助ェ!」

 

汐が悲痛な叫び声をあげる。伊之助は水の中から慌てて顔を出し、あまりの痛さに頭を横に振った。

決して軽くはない伊之助の体が、ああも簡単に吹き飛ばされた。それだけ鬼の力が強いということだろう。

 

鬼は伊之助を追って川の中をかけていく。汐はその隙に水の中から上がり二人を追った。

水にぬれたせいで鉢巻きの強度は増している。うまくいけば鬼の動きを止められるかもしれない。

 

汐はそう考えた後、向こう岸でで走る炭治郎と目を合わせ頷きあう。そして炭治郎は川べりに立っていた大木に向かって技を放った。

 

――水の呼吸――

――弐ノ型・改 横水車!!

 

炭治郎が放った斬撃が大木を真っ二つに斬り、支えを失った木は伊之助を追いかける鬼に向かって轟音を立てて倒れこんだ。

水しぶきが霧の様に舞い、あたりを包み込んだ。

 

(今だ!)

 

汐は素早く近づき、鉢巻きを外すともがく鬼を縛り上げた。これならば炭治郎が幾分か頸を斬りやすくなるだろう。

そんな二人を見て、伊之助は感服と悔しさが入り混じった不思議な感情を抱いていた。

 

(汐が鬼を抑えている今なら頸を斬れるはず!最後にして最強の型)

 

「汐!俺が合図をしたらすぐに離れるんだ!」

 

炭治郎はそういうと、刀を構えなおして大きく息を吸った。

 

――水の呼吸――

――拾ノ型!!

 

だが、炭治郎が技を放つ前に鬼が汐の拘束を無理やり引きはがし、丸太を持ち上げたのだ。

汐と炭治郎はとっさに刀の柄でその丸太を受け止めたが、二人の体は勢いを殺しきれず後方へ吹き飛ばされた。

 

「健太郎ーっ!牛女ーっ!!」

 

伊之助が叫ぶと、炭治郎はそれにこたえるように声を張り上げた。

 

「伊之助!俺たちが戻るまで死ぬな!!そいつは十二鬼月だ!死ぬな!!絶対に死ぬな!!」

 

炭治郎の声がどんどん遠ざかっていき、やがて汐と炭治郎の姿は夜の闇に飲まれて消えてしまった。

 

伊之助の姿が見えなくなると、炭治郎は汐の姿を捜す。彼女も、先ほどの攻撃で吹き飛ばされているのを寸前に見たからだ。

目を凝らすと、少し離れた場所を飛ばされる汐の姿を見つけた。慌てて手を伸ばし、彼女の右腕を掴む。

そして二人の体は地面に向かって吸い込まれるように落ちていった

 

「汐、技だ!技を出して衝撃を緩和しろ!!でないと死ぬぞ!!」

「わかった!!」

 

炭治郎は地面に近づく寸前に汐の手を放し、大きく息を吸い刀を強く握った。

汐も彼と同様に、刀を構えなおして大きく息を吸う。

 

――海の呼吸――

肆ノ型・改 勇魚(いさな)下り!!

 

――水の呼吸――

弐ノ型 水車!!

 

二人はほぼ同時に技を放ち、汐はそのまま背中から地面に転がり、炭治郎は勢いあまって木にぶつかったものの何とか生きていた。

 

「炭治郎!無事!?」

「ああ、汐も無事みたいだな。けれど、あの鬼の一撃で随分飛ばされてしまったな」

 

炭治郎は顔をしかめながらあたりを見回し、汐も鬼の気配を感じて警戒しながら同様に見まわす。

 

(伊之助、大丈夫かしら。あんな化け物一人で相手にするには危なすぎるわ)

 

一刻も早く彼の下へ戻らなければならない。汐は炭治郎と顔を見合わせてうなずいた、その時だった。

 

「ギャアアア!!!」

 

何処からか布を引き裂くような悲鳴が聞こえ、二人は思わず振り返る。

 

「いっ、痛い!痛いわ累!!」

 

そのあと間髪入れずに少女の痛みを訴える声が聞こえてきた。

 

「お願いだから、もうやめて・・・!うっ、うううっ・・・!!」

 

嘆願する声に交じってすすり泣くような声も聞こえてくる。考える間もなく炭治郎は、その方向へ向かって歩き出し、汐もそのあとを追った。

 

木の陰からのぞいた二人は思わず息をのむ。そこには顔から血を流してすすり泣く少女の鬼と、その傍らで冷徹な眼で彼女を見下ろす少年の鬼の姿があった。

彼女の顔にはいくつもの切り傷があり、いずれからも血が滴り落ちている。そして累と呼ばれた少年の手には、血の付いたままの糸があやとりをするように指にかかっていた。

 

「何見てるの?見世物じゃないんだけど」

 

呆然と見ていた汐達の視線に気づいたのか、累はこちらに視線を向けさほど興味がないといった口調で言った。

 

「何しているんだ・・・!!君たちは仲間じゃないのか!?」

炭治郎が声を震わせながら問い詰めると、累は「仲間?」と首をかしげながら答えた。

 

「そんな薄っぺらなものと同じにするな。僕たちは家族だ。強い絆で結ばれているんだ」

 

累の言葉に汐は強い違和感を覚えた。家族とはこのように殺伐としたものだっただろうか。傷つけあったりするだろうか、と。

 

「それにこれは僕と姉さんとの問題だよ。余計な口出しするなら、刻むから」

 

累が糸越しに冷たい眼を二人に向ける。汐は思わず蹲る少女の鬼と彼を見比べた。

二人は確かによく似た顔立ちをしている。だが、汐の今まで見てきた家族と呼ばれる存在とは似ても似つかないものだった。

 

「嘘だ。こんなのは家族なんかじゃない」

 

それを強く感じた汐は、思わず口を開いた。汐の鋭い声に、炭治郎は視線を向け累の眼が微かに開かれる。

 

「少なくともあたしが今まで見てきた家族は、こんなんじゃなかった。血のつながりがある家族もそうじゃない家族も、どんな家族もみんな対等でどっちかが上なんてなかった」

 

汐は今まで見てきた家族と呼ばれる存在を思い出しながら言葉を紡ぐ。汐と玄海。彼女の故郷の村人達。庄吉と絹。右衛門と孫娘。そして、炭治郎と禰豆子。

いずれもみな笑顔で、温かく優しい眼をしていた。

 

そして、藤の花の家で炭治郎が言った『家族も仲間も、強い絆で結ばれていれば同じくらいに尊い』という言葉。この言葉が今目の前にいる二人に当てはまるとは到底思えなかったのだ。

 

「あたしが知っている家族は、みんな笑ってた。幸せな眼をしていた。けれど、あんたらは?笑っていない。泣いている。怖がっている。あんたたちの眼からは、幸せなんてかけらも感じない。氷みたいな冷たい感情しか読み取れない。互いを尊重しない関係を家族なんて呼ばないわ!絆の意味をはき違えた、一方的な押し付けよ!!」

 

汐が思わず叫ぶと、炭治郎は頷き真剣な眼差して二人を見つめた。

 

「汐の言う通りだ。強い絆で結ばれている者には信頼の匂いがする。だけどお前達からは、恐怖と憎しみと嫌悪の匂いしかしない!!こんなものを絆とは言わない!!」

 

「「紛い物、偽物だ!!」」

 

汐と炭治郎の言葉が綺麗に重なり、累と累の姉鬼へと突き刺さる。姉鬼は息をのみ、累は大きく目を見開いた。

 

「お前等・・・!」

 

累の眼が怒りに震え、口元がひくひくと痙攣しだす。

そんな時、不意に背後から草が揺れる音がした。

 

「お?ちょうどいいくらいの鬼がいるじゃねえか」

 

汐と炭治郎が視線を向けると、そこには一人の鬼殺隊士が笑いながら近づいてきた。

 

「こんなガキの鬼なら俺でも殺れるぜ」

彼はそう言って刀を累へとむけた。炭治郎が制止しようとするが、彼はそれを遮った。

 

「お前らは引っ込んでろ。俺は安全に出世したいんだよ。出世すりゃあ上から支給される金も多くなるからな。俺の隊は殆ど全滅状態だが、とりあえず俺はそこそこの鬼一匹倒して下山するぜ」

 

彼はそういうと、そのまま背後から累に斬りかかった。

 

「馬鹿っ!!そいつに手を出すんじゃない!!」

 

汐がそう叫んだ瞬間。累が手の指に絡まっていた糸を隊士の方へ伸ばした。その糸は一瞬で隊士の全身を細切れに刻み、ただの肉塊へと変えてしまった。

その残酷な殺し方に、汐と炭治郎は青ざめ言葉を失う。

 

「ねえ、なんて言ったの?」

累は先ほど人を殺めたばかりとは思えない程の静かな口調で汐と炭治郎に問いかけた。

凄まじい殺気を感じ、二人は刀を構え睨みつける。

 

「お前等、今なんて言ったの?」

 

全身が痺れるような殺気に、二人の顔から冷たい汗が流れ落ちた。累の眼からは、二人に対して確かな敵意を感じる。

 

(こいつを相手にするのは、かなり骨が折れそうだわ。だけど、ここで逃げるわけにはいかない!!)

 

汐の眼にも、累と同じように殺意が宿り戦闘態勢に入った。そんな彼女に累は少しも動揺する様子は見せずに、淡々とした声で言った。

 

「お前等、今言ったこともう一度言ってみてよ。誰の何が偽物だって?」

「ああ、何度でも言ってやる!」

「だから、耳の穴かっぽじってよく聞きなさい!」

 

――お前の絆は、偽物だ!!

 

二人の重なった言葉の刃が、累の耳と心を深く抉った。

この作品の肝はなんだとおもいますか?

  • オリジナル戦闘
  • 炭治郎との仲(物理含む)
  • 仲間達との絆(物理含む)
  • (下ネタを含む)寒いギャグ
  • 汐のツッコミ(という名の暴言)

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