ウタカタノ花   作:薬來ままど

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九章:絆


二人の声が累を穿ったその時、彼の手から二人に向かって糸が伸ばされた。

 

二人はその糸をかわすが、炭治郎は完全には避けきれず左ほおに小さな傷を作った。

汐が怯む間もなく次の糸が彼女のに向かって伸ばされる。とっさに刀で受け流すが、受け流された糸は、汐の背後の大木をいとも簡単に切断した。

 

(あんな大木を刺身みたいに軽く切断する糸。捕まればあれで全身を切り刻まれておしまいね!!)

 

炭治郎が隙を見て斬りかかるものの、死角から襲い来る糸の結界にうまく間合いに入り込めない。それどころか累は糸をどこまでも伸ばせるのか、距離をとっても生き物の様に襲い来る。

いつの間にか二人の羽織は刻まれ、顔にも複数の切り傷ができていずれからも血が流れていた。

 

累の強さに汐は顔をゆがませ、息を乱す炭治郎を見る。二人掛でも間合いにすら入れないことに、段々と焦りが芽生えてきた。

 

「言っておくけど、お前等は一息では殺さないからね。うんとズタズタにした後で刻んでやる。でも、()()()()()()を取り消せば、一息で殺してあげるよ」

 

累の淡々とした言葉に、汐は鼻で笑う。その態度に、彼の眉根が微かに下がった。

 

「どっちにしろ殺すんじゃない。あんた、言葉の使い方勉強しなおしたほうがいいわよ。それに、あたしは取り消すつもりなんてハナからないわ」

「俺もだ。俺と汐の言ったことは間違っていない!!おかしいのはお前だ!!」

 

――間違っているのは、お前だ!!

 

二人の声が再び響き、累の鼓膜を揺らす。彼は糸を大きく広げると、二人に向かって放った。

 

飛び交う糸の間を二人は走り回り、目を合わせながら連携した動きをとる。

刺激臭も薄まり、炭治郎の鼻は糸の匂いを感知することができ始め、汐も慣れてきたのか糸にまとわりつく鬼の気配を読み取れるようになってきた。

 

「汐。俺が前に出るから、お前は援護を頼む」

「わかった。しくじったら許さないわよ」

 

炭治郎は汐と目を合わせてうなずくと、累に向かって駆け出した。

 

(思ったより頭が回る奴らだ。二人とも恐怖にひるまない。特にあの青髪の奴。前の奴がうまく立ち回れるように動いている)

 

――まあ、関係ないけどね。

 

炭治郎は地面を蹴り大きく跳躍すると、大きく息を吸った。

飛び上がった炭治郎に、累の糸が迫る。

 

――水の呼吸――

壱ノ型 水面斬り!!

 

炭治郎の漆黒の刃が、糸に向かって横なぎに振るわれる。が、その糸は斬れることはなく、反対に炭治郎の刀身を真っ二つに折ってしまった。

 

「えっ?」

 

斬られることのなかった糸は、炭治郎の顔を斜めに切り裂く。そのまま地面に叩きつけられた彼は、ごろごろと地面を転がった。

 

「炭治郎っ!!!」

 

汐はすぐさま踵を返し、炭治郎の下へ駆け寄ろうとする。だが、累の糸はそれを簡単には許さず、汐の青い羽織を切り刻んだ。

 

(そんな・・・炭治郎の刀が折れるなんて・・・!あの糸はさっきの化け物の体よりも硬いっていうの!?)

 

糸を何とか躱しつつ炭治郎の下へ向かう汐。炭治郎は呆然と折れた刀を見つめている。

 

(刀が折れた状態じゃまともに戦うことは難しい。なら、あたしが炭治郎を守らなきゃ!)

 

汐は炭治郎を庇うように前に立つと、累に切っ先を向けた。刀身が濃い紺色へと変化する。

 

「炭治郎立って!次が来る。今は落ち込んでいる場合じゃないわよ!」

 

汐の言葉通りに間髪入れずに累の糸が二人に迫ってきた。地面をえぐりながら襲い来る糸を寸前で躱し間合いを詰めようとするが、糸は素早く生き物のようにしなり二人の接近を許さない。

かんたんには殺さないと言っていたように、糸は加減されているようで急所をなかなか狙ってこない。それでもここまで二人を追い詰めていく累の強さに、汐は悔し気に唇をかんだ。

 

「どう?まださっきの言葉を取り消す気にならないのか?」

 

炭治郎は歯を食いしばりながら累を睨みつけ、汐は吐き捨てるように言い放った。

 

「あんたって結構しつこいのね。何度言われたってあたしたちは自分の言った言葉を覆すつもりなんてさらさらないわよ!」

 

累の眼が汐の方へ動くと、彼は小さく「わかった」と呟いた。そして、

 

「なら、ズタズタになりな」

 

左腕を大きく引くと、汐と炭治郎の眼前にいくつもの糸でできた壁が現れた。二人を覆い尽くさんほどの大きさに、思わず足が止まる。

 

(駄目・・・!よけきれない!)

 

身体に糸が食い込む衝撃に少しでも耐えようと、汐は硬く目をつぶった。

肉が切り裂かれるような音と、液体が飛び散る音が響く。だが、自分の体には痛みもなく、隣にいる炭治郎も姿を保っている。

 

――なら、今飛び散っている血は誰のもの?

 

汐が目を開けるとそこには

 

汐と炭治郎を庇うように立ち、全身を鋼の糸で斬りつけられた禰豆子の姿があった。

 

「「禰豆子ッッ!!!」」

 

二人の叫び声があたりに木霊する。斬られてしまった禰豆子は体勢を崩し、それを炭治郎がとっさに受け止めた。

そしてそのまま彼女の体を抱えて移動する。

 

「禰豆子!禰豆子!!しっかりして禰豆子!!」

「兄ちゃんたちを庇って・・・!ごめんなっ・・・!!」

 

禰豆子を木のそばに座らせ、傷の具合を見る。あちこちが切り刻まれているが、特に手首の傷が深く今にも千切れそうだ。

汐はすぐさま包帯を取り出すと、禰豆子の手に硬く巻き付ける。少しでも早く治るように、二人は必死の思いで祈った。

 

一方。その様子を見ていた姉鬼は、呆然と汐達が消えた方向を見つめていた。

 

(あの子の背負っている箱から別の女の子が・・・でも、気配が鬼だわ。人間が鬼と一緒にいるなんて・・・)

 

そして累に視線を向けると、彼の体が小刻みに震えている。そしてそのまま人差し指を向けて、震える声で言った。

 

「その女・・・お前の・・・・兄妹か?」

「だったらなんだ!!」

 

累の言葉に炭治郎は声を荒げる。汐は包帯をきつく縛り、苦しげに呻く禰豆子の汗をぬぐっていた。

 

「兄妹・・・兄妹・・・。妹は鬼になっているな・・・。それでも一緒にいる・・・」

「る、累?」

「妹は兄を庇った。身を挺して・・・」

 

――本物の‘‘絆’’だ!!欲しい!!!

 

「ちょっ、ちょっと待って!!」

 

累の言葉に姉鬼は思わず前に飛び出して言った。

 

「待ってよお願い!!私が姉さんよ!!姉さんを捨てないで!!」

「黙れ!!」

 

累は糸を姉鬼に向かって飛ばし、彼女の体を斬り飛ばした。

轟音と共に土煙がもうもうと上がり、木が数本倒れていく。

 

「結局お前たちは、自分たちの役割もこなせなかった。いつもどんな時も・・・」

 

頸だけになった姉鬼の体に、累は吐き捨てるようにそう告げる。姉鬼は涙を流しながら累を見上げ、かすれた声で言った。

 

「ま、待って。ちゃんと私は姉さんだったでしょ?挽回させてよ・・・」

「だったら山の中をチョロチョロする奴らを殺してこい。そうしたら()()()()()も許してやる」

 

累は目も合わせないまま姉鬼に冷たく言い放つ。

 

「わ、わかった。殺してくるわ」

 

姉鬼は再生した体で頭部を抱えると、森の中へと消えていった。

 

(こんな、こんな冷たく吐き気がする関係を家族だなんて、笑えもしない)

 

累の冷徹さに、汐の体は怒りとおぞましさに震えた。炭治郎も同じく、険しい表情でそのやり取りを見ていた。

 

そんな時だった。

 

「坊や。話をしよう。出ておいで」

 

先程の冷徹な声とは裏腹に、穏やかな声で累は言った。その豹変振りに汐と炭治郎は、訝し気に彼を見つめる。

 

「僕はね、感動したんだよ。君たちの‘‘絆‘’を見て、体が震えた。この感動を表す言葉はきっとこの世にないと思う」

 

炭治郎は禰豆子を抱きしめ、汐は二人を背中に庇うようにしながら、累の言葉を静かに聞いていた。

 

「でも、君たちは僕に殺されるしかない。悲しいよね、そんなことになったら。だけど、回避する方法が一つだけある」

 

――君の妹を、僕に頂戴。大人しく渡せば、君も、青髪のそいつも命だけは助けてあげる。

 

「・・・は?」

 

汐の口から思わず声が漏れた。今言ったことの意味が全く分からず、理解が追いつかない。

それは炭治郎も同じだったらしく、彼の口からも「何を言っているのか分からない」という言葉が出てきた。

 

「君の妹は僕の妹になってもらう。今日から」

 

更に紡がれた累の言葉に、汐は眩暈がした。

 

(こいつッ・・・頭がイカれてるの?禰豆子があんたの妹になんかなるわけないじゃない)

 

汐が拳を握りしめると、炭治郎はその手に触れ静かに制止させた。そして禰豆子をさらにぎゅっと抱きしめる。

 

「そんなことを承知するはずないだろう!それに禰豆子は物じゃない。自分の想いも意思もあるんだ。お前の妹になんて、なりはしない!!」

「大丈夫だよ。心配いらない。‘‘絆‘’を繋ぐから。僕の方が強いんだ。恐怖の“絆”だよ。逆らうとどうなるか、ちゃんと教える」

 

余りにも身勝手且つ意味不明な言葉に、汐は思わず飛び出しそうになった。が、彼女がてっぺんに来る前に、炭治郎が切れた。

 

「ふざけるのも大概にしろ!!」

 

空気を震わせる大声が、静かな森に響き渡る。

 

「恐怖でがんじがらめに縛り付けることを家族の絆とは言わない!その根本的な心得違いを正さなければ、お前の欲しいものは手に入らないぞ!」

 

炭治郎の言葉が気に障ったのか、累は小さくため息をつくと、苛立ちを隠そうともしない様子で口を開いた。

 

「鬱陶しい。大声出さないでくれる?合わないね、君とは」

(それはこっちの台詞よ。どこまでも性根の腐った奴だわ)

 

汐が殺意のこもった眼で累を睨みつけていると、炭治郎は汐の耳に唇を近づけ「禰豆子を頼む」とだけ告げた。

困惑する汐に禰豆子を預けると、炭治郎は箱を投げ捨て累の前に立ちはだかった。

 

「禰豆子をお前なんかに渡さない!!」

「いいよ別に、殺して()るから」

 

炭治郎の凛とした声とは対照的に、累は淡々と言い放った。そんな彼に臆することもなく、炭治郎はそれより先に頸を斬ると宣言した。

すると累はにやりとした笑みを炭治郎に向けた。

 

「威勢がいいなぁ、できるならやってごらん」

 

――十二鬼月である僕に勝てるならね

 

累はそう言って髪で隠れていた左目を曝け出す。そこには【下伍】という数字が刻み込まれていた。

この作品の肝はなんだとおもいますか?

  • オリジナル戦闘
  • 炭治郎との仲(物理含む)
  • 仲間達との絆(物理含む)
  • (下ネタを含む)寒いギャグ
  • 汐のツッコミ(という名の暴言)

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