ウタカタノ花   作:薬來ままど

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「オイ鬼、飯の時間だぞ、喰らいつけ!!」

 

箱の中の禰豆子の鬼の気配が強まり、かなり苦しんでいるのが汐にも伝わってくる。そのあまりのむごさに、汐は怒りのあまり猿轡を思い切りかみしめた。

そのせいか、白い布が微かに赤く染まる。

 

「無理することはねェ。お前の本性を出せばいい。俺がここで叩ききってやる」

(そんなことをしてみなさいよ。そうしたら今度は、全身骨も残さず吹き飛ばしてやるから・・・!)

 

汐の胸の中に再び殺意が沸き上がってくるが、その匂いを感じた炭治郎が眼でそれはだめだと訴える。

あのような恐ろしい感情を、汐に抱かせたくはない。この怒りは、自分だけで十分だ、と。

 

「不死川、日なたでは駄目だ。日陰に行かねば鬼は出てこない」

 

伊黒が淡々と指摘すると、不死川はいったん言葉を切り、口を開いた。

 

「お館様、失礼(つかまつ)る」

 

言うが早いか、不死川は禰豆子の入った箱を持ったまま、眼にもとまらぬ速さで飛び上がり屋敷の中へ上がった。

そして箱を乱暴に投げ捨て、再びその刃を突き刺した。

 

「禰豆子ォ!やめろぉーーーーーっ!!」

 

炭治郎が飛び出そうとするが、伊黒がその背に肘を押し当て押さえつける。もちろん、汐を片手で押さえつけたままだ。

 

息ができず苦しむ炭治郎をみて、汐も必死で拘束から逃れようと身をよじった。だが、先ほどよりもきつく縛り付けられた両腕と猿轡が食い込み、痛みが走る。

 

「出て来い鬼ィィ、お前の大好きな人間の血だァ!!」

 

それから不死川は禰豆子をもう一度刺すと、刀ではこの戸を乱暴にこじ開けた。すると、箱の中から体の大きさを元に戻しつつ禰豆子が立ち上がる。

 

身体は刺されたせいで血に塗れ、苦しそうに息をつく禰豆子。口枷からあふれ出ている涎が、彼女が飢餓状態であることを物語っていた。

 

禰豆子は荒い息を吐きながら、血の滴る不死川の腕を睨みつけている。

 

「どうした鬼ィ。来いよォ。欲しいだろォ?」

 

不死川は挑発的な言葉を発し、禰豆子の理性を崩そうとしている。そんな光景を見ていられなくて汐と炭治郎は必死の抵抗を試みた。

しかし伊黒が肘に力を込め、炭治郎の動きを封じる。苦しげに呻く炭治郎に、汐は何もできないもどかしさと苛立たしさでさらに轡を噛んだ。

 

「伊黒さん、強く抑えすぎです。少し緩めてください」

 

見かねたしのぶが促すも、伊黒は「動こうとするから抑えているだけだが?」と答えるだけでその申し出を却下する。

炭治郎はなんとか拘束を解こうと必死で呼吸を整えようとした。

 

「竈門君。肺を圧迫されてる状態で呼吸を使うと、血管が破裂しますよ」

 

しのぶの言葉に汐は青ざめ、掴まれた手を外そうと必死で身をよじる。

宇髄は「いいな!響き派手で!!よしいけ、破裂しろ!」と高らかに叫び甘露寺を引かせ、悲鳴嶼は涙を流しながら「可哀想に・・・何と弱く哀れな子供。南無阿弥陀仏」と何故か念仏を唱えた。

 

「フゥ、フゥ、フゥ・・・」

 

禰豆子血が流れるほど拳をきつく握りしめ、湧き上がってくる衝動に必死にで耐えながら不死川を睨みつけていた。

一方炭治郎も禰豆子の下へ行かんとうなり声を上げた、その時。炭治郎は荒縄を引き千切り、一瞬拘束が緩んだすきに義勇が伊黒の腕をつかむ。

そのまま炭治郎は伊黒を振り切り、禰豆子の下へ走り出した。

 

「禰豆子!!」

 

「大丈夫!!」

 

炭治郎が叫ぶと同時に、空気を切り裂くような声が響いた。驚いて振り返ると、同じく伊黒の拘束を解いた汐が猿轡を外し炭治郎に視線を向けていた。

 

「大丈夫!!禰豆子なら、大丈夫!!大丈夫、大丈夫!!」

 

汐はまるで呪文のように同じ言葉を繰り返していた。だが、その顔は引きつり、手は震えている。でも、炭治郎は確信した。

汐は禰豆子を信じている。心の底から。けれど、炭治郎は妙な感覚を一瞬覚えた。

 

――昔、誰かにも同じようなことを言われたような・・・

 

一方汐も自分の口から出た言葉に少なからず驚いていた。何の保証も確証もないはずなのに、禰豆子は絶対に誰も傷つけないという確信が胸の中にあったのだ。

そして彼女も、妙な感覚を一瞬だが覚えていた。

 

――誰かにも、同じようなことを言ったような・・・

 

 

二人の言葉は禰豆子の耳に届いていた。禰豆子の中に、在りし日の記憶がよみがえる。

 

雪の中、自分を守ろうとする実の兄、炭治郎。食事の香りが漂う台所に立つ母と、そばに座り自分を慈しみの眼で見る父。

 

――人間はみなお前の家族だ。人間を守れ・・・

 

花が舞い、無邪気に駆けまわる弟と妹たち。自分に手を差し伸べる兄。そして、自分の頬にそっと触れる、誰かの手。

 

――人は、守り、助けるもの。傷つけない。絶対に、傷つけない・・・!

 

禰豆子はしばらく不死川を睨みつけていたが――

 

――その顔を、血まみれの腕からそむけた。

 

「!!」

 

驚いて目を見開く不死川に、安堵の表情を浮かべる汐と炭治郎。禰豆子は顔を背けたまま、目を固く瞑り明確な拒絶を示していた。

 

「・・・どうしたのかな?」

 

耀哉が状況を聞くと、お付きの少女達は「鬼の女の子はそっぽ向きました」「不死川様に三度刺されていましたが、目の前に血塗れの腕を突き出されても、我慢して噛まなかったです」と答えた。

 

「ではこれで、禰豆子が人を襲わないという証明ができたね」

 

耀哉の言葉に不死川は悔しそうに唇をかみ、汐と炭治郎は肩を震わせた。

 

義勇に手を掴まれていた伊黒は、その手を振り払うと何のつもりだと問いただす。しかし義勇はそれに答えず炭治郎と汐の背中を見つめていた。

 

「炭治郎。それでもまだ、禰豆子のことを快く思わない者もいるだろう。証明しなければならない。これから、炭治郎と禰豆子が鬼殺隊で戦えること、役に立てること」

 

不思議な高揚感を感じ炭治郎と汐はそのまま跪き頭を下げる。炭治郎はともかく、汐は今までこのように頭を誰かに下げたことは滅多になかった。

その彼女ですらこのような気持ちにさせる。柱達が心酔する意味が分かった気がした。

 

(何?この感じ。ふわふわする・・・。この人の声の波長が、あたしたちの心を落ち着かせているんだわ・・・)

(声。この人の声で頭がふわふわするのか?でも、これは汐の歌を聴いているときとおなじ・・・)

 

「十二鬼月を倒しておいで。そうしたら皆に認められる、炭治郎の言葉の重みが変わってくる」

 

炭治郎の胸の中に温かいものがこみ上げてくる。彼は一度目をつぶると、決意を込めた眼で耀哉を見つめた。

 

「俺は・・・俺達は、鬼舞辻無惨を倒します!!俺達が必ず!!悲しみの連鎖を断ち切る、刃を振るう!!」

 

炭治郎の迷いのない声は、庭中に響き渡る。そんな彼に耀哉は笑みを浮かべながら「今の炭治郎達には出来ないから、まずは十二鬼月を一人倒そうね」と、幼子に言い聞かせるように言った。

その言葉に炭治郎の全身が瞬時に真っ赤に染まり、何人かの柱達が笑いをこらえた。

 

そんな彼に、汐は顔を上げて高らかに言い放った。

 

「大丈夫です!炭治郎ははっきり言ってお馬鹿なことを沢山言いますけれど、絶対に自分の意思を曲げたりはしないんです。今は無理かもしれないけれど、でも絶対に炭治郎と禰豆子は十二鬼月も、鬼舞辻も倒せるって信じてます!!」

 

汐の言葉に柱達が我慢できずに吹き出す。汐はそんな彼らを睨みつけようとしたが、耀哉がやんわりとそれを制止した。

 

「鬼殺隊の柱たちは当然、抜きん出た才能がある。血を吐くような鍛練で自分を叩き上げて、死線をくぐり、十二鬼月をも倒している。だからこそ、柱は尊敬され、優遇されるんだよ。炭治郎も汐も、口の聞き方には気を付けるように」

 

「は、はい・・・」

「ごめんなさい」

 

二人は赤くなりながら縮こまり、そんな二人を甘露寺は頬を染めながら見ていた。

 

「それから実弥、小芭内。あまり下の子に意地悪しないこと」

 

伊黒と不死川は思い切り不服そうな顔をしながらも頭を下げ、「御意」と答えた。

不死川の傍らでは、ひどい扱いを受けた禰豆子が頭から湯気を出しながら箱に戻っていた。

 

「炭治郎の話はこれで終わり。そして次は、汐。君の番だね」

 

「はひ?」

 

不意に名を呼ばれた汐は、素っ頓狂な声で返事をしてしまう。その間抜けさに甘露寺が思い切り吹き出してしまうが、慌てて顔を抑えた。

 

「君に一つ断っておきたいことがあるんだ。実は、私は君が隊律違反を犯していてもいなくても、ここへ呼ぶつもりでいたんだよ。どうしても君に、青髪の少女に会っておきたくてね」

 

「え?あたし?青髪の少女って、ええ?」

 

わけがわからないと言った様子で汐は耀哉を見つめる。(不死川はそんな汐を屋敷の中から睨みつけていた)

 

すると彼はにっこりとほほ笑んで、心からうれしそうな声で告げた。

 

「待っていたよ、大海原汐。いや、今はこう呼んだ方がいいかな」

 

―――君が来るのを待っていたよ、()()()()()()

 

その季節にしては妙に肌寒い風が、汐の真っ青な髪を静かに揺らしながら通り過ぎていった。

珍妙なタンポポが女性を敵に回す発言をしている!どう制裁する?

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