ウタカタノ花   作:薬來ままど

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それから数日後。
炭治郎と伊之助より少し遅れて汐も訓練に参加することになった。

だが、それは想像を絶するほどの苛酷なものだった。

まず、寝たきりで固まった体を三人娘が【力づくで】ほぐす。
次に反射訓練といい、薬湯が入った湯飲みを相手とかけあう訓練。
最後に全身訓練という鬼ごっこをする。

説明だけなら簡単そうだが、怪我が癒えたばかりの彼らにとってはどれもこれも地獄でしかない。
その証拠に炭治郎と伊之助はげっそりと窶れ、ほぼ毎日参人の病室に遊びに来ていた汐も、訓練開始日から全く来なくなってしまった。

その雰囲気に善逸は怯え、涙を流すのであった。


十二章:迷走


それからさらに数日後。

汐は陰鬱な表情で一人訓練場で男たちが来るのを待っていた。彼女の他にはアオイ、三人娘、そしてカナヲが彼等の到着を待っていた。

 

やがて扉が開くと、汐以上に陰鬱な表情をした炭治郎と伊之助と、怯えて涙を流す善逸の三人が入ってきた。

 

四人はアオイの前に座ると、彼女は善逸の為に訓練の説明を始めた。

身体をほぐす訓練、湯飲みと薬湯を使った反射訓練、鬼ごっこ形式の全身訓練を口頭で説明した後、伊之助、炭治郎、汐がそれを実際に行いさらに分かりやすく説明する。

 

 

(伊之助は身体を大きく逸らされて涙を流しながら呻き、炭治郎はカナヲに薬湯をかけられずぶ濡れに。汐はカナヲを捕まえよとして足をもつれさせ顔面から転んでしまった)

 

陰鬱な表情で俯く三人をしり目に、善逸は唐突に手を上げた。アオイは何かわからないことがあるのかと尋ねると、善逸はそれを否定し立ち上がった。

そして驚くほど低い声で「来い、野郎共」とだけ言った。

 

困惑する炭治郎と申し出を断る伊之助だが、

 

いいから来いって言ってんだろうがァァァ!!!

 

善逸の怒声が空気を震わせ部屋中に響き渡る。そのあまりの大声にカナヲ以外の全員がびくりと体を震わせた。

 

来いコラァ!!クソ共が!!ゴミ共が!!

 

善逸は炭治郎と伊之助の襟首を掴むと、恐るべき力で二人を引きずりながら去っていった。

残された女性たちは呆然としていたが、汐だけは「嫌な予感しかしないわ」と顔を引き攣らせて言った。

 

その予感は的中し、外から耳をつんざくような善逸の大声が聞こえてきた。

 

善逸は炭治郎と伊之助を引きずり出すと、地面に投げ捨て自分はその前に仁王立ちになって叫んだ。

 

正座しろ正座ァ!!この馬鹿野郎共がァ!!」

「なんダトテメエ・・・」

 

あまりの扱いに憤慨した伊之助が口を開くが、善逸の右拳が伊之助の左頬を穿った。

伊之助はその勢いのまま吹き飛ばされ、建物の壁に叩きつけられる。

 

「伊之助ェ!!」

 

吹き飛ばされてうずくまる伊之助に炭治郎は慌てて駆け寄る。そして善逸に向かって「なんてことをするんだ善逸!伊之助に謝れ!!」と叫んだ。

 

だが、

 

あ゛あ゛!?お前が謝れ!!お前らが詫びれ!!天国にいたのに、地獄にいたような顔してんじゃねぇぇぇぇえ!!女の子と毎日キャッキャキャッキャしてただけのくせに、何をやつれた顔してみせたんだよ!!土下座して謝れよ、切腹しろぉ!!

 

善逸は目を血走らせ、おかしな動きで早口でまくし立てる。しかしあのような大変な訓練を馬鹿にされた上に切腹などどいう物騒な単語が出たからには、炭治郎も黙ってはいられなかった。

 

「なんてことを言うんだ!!」

黙れこの堅物デコ真面目がぁ!!黙って聞けいいかァ!?

 

炭治郎の怒声を遮ると、善逸は炭治郎の髪の毛を鷲掴みにしながら唾を飛ばしてまくし立てた。

 

女の子に触れるんだぞ!体揉んでもらえて!!湯飲みで遊んでる時は手を!!鬼ごっこの時は体触れるだろうがァァァ!!女の子一人につき、おっぱい二つ、お尻二つ、太もも二つついてんだよ!!すれ違えばいい匂いするし、見てるだけでも楽しいじゃろがい!!うきゃあー幸せ!!うぉああ幸せ―!!

 

善逸は飛び上がり、怪我をしていたとは思えない奇妙な舞を披露する。そんな善逸に炭治郎は呆れ果て、伊之助に至っては殴られた腹立たしさを善逸にぶつけるように声を荒げた。

 

「訳わかんねぇコト言ってんじゃネーヨ!!自分より体小さい奴に負けると、心折れるんダヨ!!」

やだ可哀想ッ!!伊之助、女の子と仲良くしたこと無いんだろ!山育ちだもんね、遅れてるはずだわ!あー、可哀想!!

 

しかし善逸は伊之助の言葉を一掃し、有ろうことかさらに挑発までする始末。これには伊之助の堪忍袋の緒は完全に切れてしまった。

 

「はああ゙ーーん!?俺は子供の(メス)踏んだことあるもんね!!」

最低だよそれは!!ヤダヤダヤダ!!それじゃモテないわ!!

「はああ゛ーー!?女ぐらい何人でも持てるわ!!」

 

その会話は訓練場の中にいた女性たちにも筒抜けで、アオイは拳を振るわせながら聞いていた。だが、突如汐がゆらりとした動きで立ち上がった。

 

「汐さん?」

 

汐のただならぬ雰囲気に気づいたすみが、怯えた様子で声をかける。だが、汐はそのまま滑るように扉へ向かうと、振り返らずに淡々と答えた。

 

「あたしが出て行ったら全身全霊で耳を塞いで。そこのカナヲって子もね。そうじゃないと、どうなっても知らないから・・・」

 

それだけを告げると、汐はそのまま訓練場を後にした。

 

一方。善逸は未だに汚い高音をまき散らしながら、意味不明なことを捲し立てていた。だが、あまりにも興奮していたせいか、背後から忍び寄る黒い影に気が付くことができなかった。

 

いいかこのクソ野郎共!!女の子っていうのは・・・へぐっ!!

 

再び捲し立てようとした善逸の動きが突如止まる。真っ赤だった顔が、頸から上へみるみる青く染まっていく。

前にいる炭治郎と伊之助は、その光景に瞬時に青ざめて固まり、善逸も状況を確認しようと剥いたままの目を下へ動かした。

 

そこで見たものは、自分の大事な部分に綺麗に食い込む汐の爪先だった。

 

「ほぉ~~う?」

汐は青ざめて震える善逸の背後から、にっこりと笑いながらさらに足に力を込めた。

 

「ってことはなあに?あたしたちが死ぬような思いでやっていたことが、あんたには天国にみえたんだぁ~?随分と目出度ぇ頭だなあ、この下半身直結男がアア!!!

 

汐はその勢いのまま善逸の下半身を思い切り蹴り上げる。奇妙な悲鳴を上げて善逸の体は飛び上がり、そのまま地面に倒れ伏した。

彼の顔は真っ青になり、蹴られた場所を抑えてびくびくと痙攣している。だが、そんな彼を汐は胸ぐらをつかんで無理やり立たせると、凄まじい速度で前後に揺さぶった。

 

ふざけてんじゃねーぞカス!あたしたちのいる前でよくそんなふざけたことがほざけるなてめーは!!大体乳も尻も太ももも男にだってついてるだろうし、そもそも尻は一つだ馬鹿野郎!!そんなくだらねーこと考えている余裕があるなら、無駄な時間を費やしたあたしたちに謝れ!!わかったかこの童貞拗らせクソ下衆野郎がアア!!

 

汐はそのまま善逸を投げ飛ばすと、腐った生ごみを見るような眼で善逸を見下ろした。それから震えて縮こまっている二人を一瞥すると、ふんと鼻を鳴らして訓練場に戻っていった。

 

炭治郎と伊之助は、倒れ伏したままの善逸をどうしようか迷ったが、その後彼が何事もなく立ち上がったのでそのまま微妙な空気のままで訓練場へと戻った。

 

*   *   *   *   *

 

だが、善逸の女性に対する執着は、汐の想像をはるかに超えていた。

 

あれほどまで罵ったのにもかかわらず、戻って来た善逸は満面の笑みで思わず怖気を感じる程だった。

 

しかも、皆が涙を流すほどの激痛を伴う三人娘の按摩をゆるみ切った笑顔で受けていた。本当に心の底から幸せそうな顔をしていた。

そんな彼を見て伊之助は(あいつやりやがるぜ)と心の中でつぶやいた。

 

一方、善逸の調教が失敗に終わった汐は、もう呆れを通り越し埴輪のような表情で善逸を見つめていた。

 

「あれはもうだめだわ。上級者だもの」

「上級者?なんの?」

「変態」

「ああ・・・」

 

汐の言葉に納得した炭治郎は、顔をゆがませながら善逸を見つめていた。

 

善逸の邪なやる気はとどまることを知らなかった。次の反射訓練では、アオイと対峙したものの、すぐさま湯飲みをとりアオイの顔の前に突き付けた。

ご丁寧に片方の手はアオイの手を握り、「俺は女の子にお茶をぶっかけたりしないぜ」と思い切り気障ったらしく言って見せた。

 

が、先ほどの善逸の女性を敵に回す発言を皆聞いており、アオイは顔を思い切り引き攣らせ三人娘も眉をひそめながら彼を見つめていた。

 

さらに、その後の全身訓練でも調子に乗ってアオイに抱き着いた善逸は、顔を数発殴られて青あざを作っていた。

 

(あたし、こんな馬鹿よりも劣ってたのね・・・)

 

しかしその善逸の痴態をみて、汐の中の何かが燃える。こんな馬鹿以下に思われたくない。負けたくなんかない。

 

そう思ったせいかは定かではないが、汐は反射訓練では海の生活の勘を取り戻したせいもあり、5戦のうち4勝を勝ち取り、全身訓練でも善逸程ではないがアオイの動きを完ぺきに読みなんと全部の勝負で勝ち星をとることができた。

 

二人の奮闘を見た伊之助はやる気を出し、アオイに容赦なく薬湯をかけ、鬼ごっこでは彼女を逆さまに持ち上げて怒鳴られるほどだった。

 

炭治郎だけは負け続けていたものの、一生懸命な汐を見て己を鼓舞し何とか食らいついていた。

 

だが、

 

三人が順調だったのはここまでだった。

 

カナヲには勝てない。誰も彼女の湯飲みを押さえることは出来ないし、捕まえることが出来ない。

何度やっても結果は同じで、全員は薬湯の悪臭を漂わせながらその日の訓練は終了した。

 

「紋逸が来ても、結局俺たちはずぶ濡れで一日を終えたな」

「改名しようかな、もう紋逸にさ・・・」

「同じ時に隊員になったはずなのに、この差はどういうことなんだろう?」

 

覇気のない声で、炭治郎は善逸に尋ねるが、彼は「俺に聞いて何か答えが出ると思っているなら、お前は愚かだぜ」とだけ答えた。

 

「そうね。童貞(ぜんいつ)に聞くだけ無駄よ。あたしだってわからないもの。だけど、あの子の目・・・なんだか気になるのよね」

「目?あー・・・確かにそうかもしれない」

「っていうか汐ちゃん。今ものすごく酷い呼び方してなかった?俺の事すごく不名誉な呼び方しなかった?」

「さあ?とりあえず薬臭くてたまらないから、あたしは一足先に着替えてくるわね」

 

そう言って汐は三人と別れて自室へと戻る。だが、彼女からは薬湯の匂いに交じって悔しさと屈辱の匂いがしていたことを炭治郎は見逃さなかった。

 

この作品の肝はなんだとおもいますか?

  • オリジナル戦闘
  • 炭治郎との仲(物理含む)
  • 仲間達との絆(物理含む)
  • (下ネタを含む)寒いギャグ
  • 汐のツッコミ(という名の暴言)
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