ウタカタノ花   作:薬來ままど

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汐の姿を見て青年、冨岡義勇は目を見開いた。鋭く前を見据えるその瞳には、恐れも迷いもない覚悟が見て取れた。

つい先ほどまで泣き叫んでいた者とはまるで別人の風貌に、義勇は思わず動きを止める。

 

鬼はそんな汐に狙いを定め、その強靭な腕を振り上げた。

 

かなり昔に退いたとはいえ、大海原玄海は元・柱。しかも鬼になったことで身体能力は大幅に上がり、そして弱点である頸も巧みに守っている。

先ほどの義勇の攻撃でかなり消耗しているとはいえ、そんな相手に現・柱である義勇が苦戦した相手に、ただの村人である汐がかなうはずがない。

それは火を見るよりも明らかだった。

 

だが、それは汐が普通の人間だったらの話だ。汐はその攻撃を紙一重でかわし、切りかかる。

 

驚いたのは、その動きがまるで初めて刀を持った者のそれではないことだ。受け止められるものは刀で受け流し、それが不可能の場合は体をひねってかわし、その刃は確実に弱点である頸を狙っていた。

 

あたりに刀と爪がぶつかる音と、砂を蹴る音。そして、息遣いが響く。

だが、所詮は素人と鬼。どちらが優勢に立つのは目に見えていた。

 

ほぼ無傷な鬼と、負傷している汐。彼女の顔は青ざめ、息も乱れている。これ以上の戦闘続行は危険だ。

義勇はそう判断し、刀を構えようとしたが。

 

「手を出すな!これはあたしと、おやっさんの問題だ!」

 

汐の鋭い声に、義勇はその手を止める。なぜかはわからないが、汐の声には力があった。

ただ大きいだけではない。その声には、とてつもない何かが宿っているようだった。

 

やがて汐は鬼から距離を取り、刀を構える。そして、大きく息を吸った。

 

口から洩れるのは、地鳴りのような大きな音。その音を聞いて、義勇は目を見開いた。

 

「まさか、これは・・・!」

 

全集中・海の呼吸――

 

鬼はそれを阻止しようと、咆哮を上げて汐に向かう。だが、それよりも早く、汐は足を曲げ前を見据えた。

 

――壱ノ型 潮飛沫(しおしぶき)!!

 

その瞬間、汐は砂を強く蹴り瞬時に鬼の間合いに入る。それから目にもとまらぬ速さで、鬼の頸を切り裂いた。

 

小さくうめき声をあげながら、崩れ落ちる鬼。その背後に汐が転がるように着地する。

 

(やった・・・のか?)義勇がその光景に目を離せないでいると

 

「おやっさん!!!」

 

汐があわてて振り向き、首だけになった彼の頭を取り上げた。

 

「うし・・・お・・・」

 

彼の口から言葉が漏れる。汐の両目から、とめどなく涙があふれ出した。

 

「おやっさん!ごめん、ごめんなさい!あたし、あたしおやっさんにひどいことを・・・」

「いいんだ。俺がうそをついていたことは事実だ・・・だが、まさかお前がここまでやるとは・・・な。強くなった・・・本当に」

 

身体は既に灰となり、ほとんどなくなっている。そして彼の頸も、灰になりつつある。

 

「泣くな、汐。胸を張れ。前を見ろ。そして、最後まで足掻け。生きるってのはそういうもんだ。そして、お前にもしも、仲間が出来たら大切にしろ。そうすりゃ、必ず答えてくれる」

 

「おや・・・っさ・・・ん・・・」

 

「ありがと、よ。最期にお前の顔が見られて、俺ァ幸せもんだ。この世で最も、別嬪の顔が見られて・・・よ・・・」

 

その言葉を最後に、彼、玄海の頸は灰となり風に乗って昇って行った。残されたのは、彼が身に着けていた赤い鉢巻。

 

「ううぅ・・・・!ぐうっ・・・うぐっ・・・!!」

 

汐はそれを握りしめ声を殺して泣いた。悔しさと、悲しさの入り混じった小さな慟哭も、降りしきる雨と風に流されて消えて行った。

 

 

 

 

 

*   *   *   *   *

 

 

 

それから遅れて到着した鬼殺隊員により、村の検証と村人の葬儀が行われた。

村に入り込んでいた鬼たちは全員討伐されたが、確認された生存者は汐だけであった。

絹はそのあと、村の外れで彼女のものと思われる着物が、おびただしい血液のついた状態で発見されたため、死亡と判断された。

 

そして、生き残った汐は、義勇の手当てを受け休んでいた。

眠っている汐を眺めながら、義勇は先ほど鬼殺隊員が見つけた書物を読んでいた。

それは、玄海がもしもの時のためにと残しておいた書状だった。

 

驚くことに、玄海はこのような事態を予測していたかのように、自分に何かあったとき。汐が生き残ったときにはどうすればいいかということが事細かく記されてあったのだ。

 

(しかし、また先生の元へ人を送ることになるとはな)

これが運命なのか因縁なのか。義勇は自嘲気味に小さくため息をついた。

 

それはまだ半年近く前の事。とある山で家族が鬼に惨殺される事件が起きた。そして、その家族の一人が鬼と化し、それを守ろうとする少年と出会い、義勇は彼をかつての師であった鱗滝の元へと推薦した。

 

しばらくすると、汐は意識を取り戻し、義勇から眠っていた間のことを聞かされた。

始めは少し動揺したが、そのあとは俯き何かを考えているようだった。

 

(村を滅ぼされ、育ての親は鬼化し、そして自らの手でその引導を渡した)

 

普通の人間なら発狂してもおかしくない。そんな極限状態の汐を、このままいかせてよいのだろうか。そんな迷いが義勇の中に生まれ始めたころ。

 

汐が突如口を開いた。

 

「ねえ、教えて。鬼ってなんなの?おやっさんは、何が原因でああなったの?」

 

その言葉は驚くほど静かで落ち着いたものであり、義勇は驚きはしたものの自分の知っていることを話した。

 

鬼というものは、ある鬼の血が体に入り込んだことで生まれる。おそらく玄海もその時に血が混入したのだろうと、義勇は語った。

だが、玄海が日の下に出ることができなくなったのは最近ではない。それなのに鬼としての習性が今の今まで出なかったことは、その法則に矛盾する。

 

しかし、汐にとってはそのようなことはもはやどうでもよかった。気になったのは、鬼を増やす何かがいる、という話だ。

 

「そいつが、おやっさんを鬼にさせ、村のみんなを殺した原因なんだね」そういう汐の目は、恐ろしいほど鋭く、深い色を宿していた。

怒り、憎しみ。否、そのようなものがすべて生易しく感じるほどの、殺意。絶対に許せないという確かな殺意。

 

 

「そいつを倒すには、どうすればいい?あたしは、これからどうすればいいの?」

 

こんな目をする人間を、義勇は数えるほどしか見たことがなかった。だが、同時にゆるぎない決意も、汐から感じる。

 

この決意が、身体を動かし、生きる糧になる。

 

義勇は小さく息をつくと、汐にこれからのことを簡潔に伝えた。

 

「まずは狭霧山という山の麓に行け。先生―、鱗滝左近次という老人はそこに住んでいる。お前の師から言伝は行っているだろうが、もしもそうでない場合は冨岡義勇に言われてきたことを伝えろ」

 

義勇はそれから汐に狭霧山の場所を伝えると、他の隊士と共にすぐに引き上げた。

 

 

あのようなことがあったにもかかわらず、海はいつものように優しい潮騒の音を奏でている。

 

村はなくなり、多くの人命が失われたこの場所を、鎮めるように奏でている。

 

そんな村のあった場所を、静かに眺める人影があった。

 

海の底を髣髴させるような深い青色の髪を風になびかせ、それに寄り添うように赤い鉢巻が靡いている。

 

名は大海原汐(わだのはら うしお)。近くの漁村に、養父と共に暮らしていた少女だ。

だが今は、故郷も養父も亡くした、身寄りのない少女だ。

 

しかし彼女の目には確かな決意が宿っていた。おやっさんや村人の敵を討つため。無力だった自分に別れを告げるため。彼女はこの地を離れる。

 

「おやっさん、絹、庄吉おじさん、みんな・・・」

 

辛い思いをさせてごめんね。必ず、みんなの無念は晴らすから・・・

 

「行ってきます」

 

小さく紡がれた言葉は、波の音にかき消されて消えていく。しかし、汐の立っていた場所に残った足跡が、その旅立ちを静かに物語っていた。

 

 

 

 

 

序章:完




ようやく序章が終わりましたが、まだ誤字脱字があるかもしれません
その時は遠慮なく指摘してくださいね
さて、ようやく主人公である汐が鬼殺の道を歩き出しましたが、果たして彼女は、鬼殺隊になれるのでしょうか

この作品の肝はなんだとおもいますか?

  • オリジナル戦闘
  • 炭治郎との仲(物理含む)
  • 仲間達との絆(物理含む)
  • (下ネタを含む)寒いギャグ
  • 汐のツッコミ(という名の暴言)
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