ウタカタノ花   作:薬來ままど

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全集中・常中を習得した汐達を祝う話


月夜の宴

「皆様、全集中・常中の習得おめでとうございます!」

 

三人娘の声を音頭に、少し遅れて洋杯(コップ)を打ち鳴らす音が響いた。ちゃぶ台には様々な料理が所狭しと並べられ、おいしそうな匂いを漂わせている。

 

その夜は、汐達が全員全集中・常中を習得できた祝いの宴が開かれ、乾杯をした瞬間伊之助は被りものを外して料理にむさぼりつく。

それを炭治郎とアオイが諫め、善逸は呆れ、汐は食べようと思っていた料理を取り上げられ伊之助を殴り飛ばしたりと瞬く間に混沌の場所と化した。

 

そんな光景をしのぶはほほえましく見ていたが、その視線を別の方向へ向けた。そこにはみんなから離れた位置で月を見上げるカナヲの姿があった。

 

それを見てしのぶは少しだけ悲しそうな顔をする。そんなしのぶを見て、汐は意を決したように立ち上がった。

 

「汐?」

 

怪訝そうな顔をする炭治郎をしり目に、汐は開いていた洋杯(コップ)をとり飲み物を注ぐと、一人で佇んでいるカナヲの元へ向かった。

 

「はい」

 

汐はそう言ってカナヲに飲み物を差し出す。カナヲは表情を崩さないまま汐の方を向き、飲み物と顔に視線を動かした。

 

「今のうちに確保しておかないと、馬鹿猪に全部持ってかれるわよ」

 

汐の言葉にカナヲは意味が分からないと言ったような表情をしたが、徐に服のポケットから何かを取り出そうとした時だった。

 

「受け取ってあげたら?」

 

背後からしのぶが優し気な声色で声をかけると、カナヲはしのぶに顔を向ける。そして汐の方を向くと飲み物を受け取った。

 

(受け取ってくれた!)

 

今まで話しかけてもほとんど反応しなかったカナヲが、しのぶの助力があったとはいえ反応してくれたことが嬉しかった。

思わず笑みを浮かべる汐に、カナヲはぽかんとした表情で見つめた。

 

その時。部屋の隅に置いてあった炭治郎の箱から、禰豆子がのそのそと出てきた。禰豆子は人がたくさん集まっていることに少し驚いたのか、目を泳がせている。

 

「禰豆子!おはよう!」

 

汐が名前を呼ぶと、禰豆子の目が汐に向けられる。すると禰豆子に気づいた善逸が「禰豆子ちゃ~ん!!」と甘ったるい声を上げながら禰豆子に迫ろうとした。

 

汐は瞬時に動くと、善逸の腕を掴み華麗な背負い投げを決めた。

 

痛い!何するんだよ汐ちゃん!

「うるさい黙れ。禰豆子に近づくなウジ虫」

ウジ虫!?童貞呼ばわりが収まったと思ったら今度は人間ですらない呼び方されんの俺!?あんまりじゃない!?

 

ぎゃあぎゃあと騒ぎ出す善逸をしり目に、汐は禰豆子を連れて炭治郎のそばに近寄った。

兄の姿を見た禰豆子は嬉しそうに寄り添い、それを見た汐を含めた全員の顔がほころんだ。

 

すると禰豆子は、突然汐の服を引っ張り何かを訴えるように見上げた。その表情を見て、汐は瞬時に察する。

禰豆子は汐の歌が聴きたいのだ。

 

「汐。禰豆子が歌を聴きたいみたいなんだ。歌ってくれないか?」

 

炭治郎の頼みに汐は頷いたが、少しだけ考えた。今は夜の帳が降りた時間帯。あまり大きな声を出す歌を歌えば近所迷惑になるだろう。

だが大切な人たちの願いは聞いてあげたい。汐は少しだけ悩んだ後、ある一つの歌を歌うことに決めた。

 

汐は立ち上がり、皆を見回すと息を吸いゆっくりと口を開いた。

 

軽快な旋律と共に柔らかい声が辺りに響く。まるで小さなものが跳ねまわっているような可愛らしい歌に、全員の顔がほころぶ。

禰豆子に至っては歌に合わせて体を揺らし、それを見た善逸が顔を赤らめて見とれ、炭治郎はさりげなく二人の間に入って身体を揺らし、伊之助は食べることを忘れて聞き入っていた。

 

三人娘たちも汐の不思議な歌にうっとりと聞き入り、アオイは勿論カナヲまで無意識に足を揺らしている。これにはしのぶも目を見開き、改めてワダツミの子のすごさをひしひしと感じた。

 

やがて歌が終わると大きな拍手が巻き起こった。汐は少しはにかんだ笑顔で禰豆子のそばに座ると、三人娘たちが押し寄せるように汐のそばに近寄ってきた。

 

「素敵な歌でした!」と、なほが言い、「可愛らしい歌でした!」と、きよが言い、「楽しい気持ちになれました!」とすみが言った。

皆から絶賛されている汐を見て、善逸はふと浮かんだ疑問を口にした。

 

「そう言えば汐ちゃんっていろいろな歌を知ってるけど、どこで覚えてくるの?」

 

善逸の質問に全員がはっとした顔で汐を見た。今まで気が付かなかったが、汐はたくさんの歌を知っているがいったいどこで覚えてきたのか。

彼女が歌う歌は幻想的な響きをしたものが多く、とても誰かに教えてもらったものばかりとは思えない。

 

皆の眼差しに汐は少し困惑した表情を浮かべながら話し出した。

 

「故郷でみんなに教わった歌もあるけれど、最近は生活していてふと思いついた旋律をそのまま歌にしたりしてるのよ」

「え?それって即興で歌を作ってるってことか?」

「まあそうなるわね。現にさっき歌った歌は、裏山の小さな動物たちを見ていて思いついたものだし」

 

さらりと答える汐だが、皆は表情を固まらせたまま彼女を見ている。そして一部の者は(ワダツミの子って凄いな)と謎の感心を抱くのであった。

 

*   *   *   *   *

 

やがて宴もお開きになり、汐は満足げに腕を伸ばしながら歩いていた。あれほど楽しかった時間は久しぶりであり、心はまだ余韻に浸っていた。

特に料理は絶品で、伊之助は食べ過ぎて動けなくなるほどであり、呆れた炭治郎と善逸が引きずるようにして連れて行っていた。

 

「ん?」

 

汐が厨房の前を通ろうとしたとき、中から物音が聞こえた。好奇心に促されて覗くと、大量の食器を一人で洗うアオイの姿があった。

 

一人じゃ大変だろうと声をかけると、アオイはびくりと体を震わせ振り向いた。

 

「ごめん。脅かすつもりはなかったの」

「・・・何の御用ですか?」

 

アオイは相も変わらずきつい口調でそう言うが、汐は特に気にする様子もなく「手伝うわ」とだけ答えた。

 

「いえ、結構です。あなたはもう休んでください」

「こんな沢山の食器、あんた一人に任せてたら明日になっちゃうわよ。いいから手伝わせて」

 

汐は少しだけ悪戯っぽく笑ってから、アオイの制止を聞かず洗い終わった食器を片付け始める。アオイは眉根を寄せながら何か言いたげな表情をしていたが、黙々と作業をする汐にため息をついた。

 

「今日の料理、あんたが腕を振るって作ってくれたのよね。みんなおいしいおいしいって言ってくれてたわ。食べ過ぎて動けなくなった馬鹿もいたけど」

「・・・そうですか」

「それに、今までもあんたには世話になりっぱなしだったし、せめてものお礼がしたかったのよ。もっとも、あたしは医学とかからっきしだからこんなことしかできないけどね」

 

そう言って笑う汐に、アオイは背を向けると絞り出すような声で言った。

 

「お礼など結構です。私はあなたと違い戦うことはできませんから。鬼殺隊員のくせに」

 

先程とは違う雰囲気に、汐は思わず手を止めてアオイを見た。初めてアオイを見た時、隊服を着ていたことから彼女も鬼殺隊員であることはわかっていた。

しかし任務に行く様子もなく、鎹鴉もいないことから不思議に思ったものの、そう言う隊員もいるんだろうとしか汐は思わなかった。

 

「選別でも運良く生き残っただけで、そのあとは恐ろしくて戦いにいけなくなった腰抜けですから、私は」

 

そう言うアオイの声は微かに震えていて、悔しさがにじみ出ているのが感じ取れる。しかし汐はそんな雰囲気を消し飛ばすように声を上げた。

 

「はあ?アオイが腰抜け?どこのどいつよ。そんな戯言ほざいたの。そいつを連れてきなさいよ。あたしがぶっ飛ばしてあげる」

「え?」

「アオイの事何も知らないくせにふざけんじゃねーわよって。まああたしも、ここに来るまで鬼殺隊ってただ鬼を斬るだけが仕事だって思ってたけどね」

 

汐は皿の片づけを再開しながら、少しだけ困ったように笑った。

 

「だけど隠の連中やアオイ、なほ、きよ、すみをみて、こういう形で鬼殺隊にかかわっている人たちがいると知った。あたしたちが矢面に立っている間、あんた達は裏でこうやってみんなを支えてくれていたんだなって、ここに来て初めて知ったのよ」

 

それに、と汐はつづけた。

 

「あんたはここに来てから、あたしたち以上の重症患者をいやというほど見てきたんでしょ?中には治療の甲斐なく命を落とした人もいる。それでも命の終わりから目を逸らさずにいるあんたの精神力を、あたしはすごいと思うわ。戦うだけが鬼殺隊員じゃない。それを教えてくれたのはあんたよ、アオイ」

 

アオイははっとした表情で汐の青い目を見つめた。彼女の眼には驚きと困惑、そして微かな嬉しさが見える。

 

「それに、あんたがどうして鬼殺隊にかかわったのかはわからないけど、きっと並々ならぬ想いがあるんでしょ?その想いを忘れないように、あんたはあんたにしかできないことをすればいいのよ。それだって立派な【戦うこと】だと思うわ」

 

そう言って汐はにっこりと笑うと、次々と食器を片付けていく。そんな汐の背中を、アオイは呆然と見ていた。

汐の言葉がアオイの耳を通り、心の中に染み渡っていく。あの時歌を聴いていた時もそうだったが、汐の声は不思議な響きで自分の脳と心を揺らしていく。

 

その後、アオイが洗った食器を汐は全て片付け終え、後の片づけはアオイに任せることになった。

流石にこれ以上遅くなっては健康に響くとアオイから釘を刺されたからだ。

 

「じゃあお休み。また明日ね」

「・・・ま、待って!」

そう言って手を振り去ろうとする汐を、アオイが呼び止めた。何事かと思い振り返ると、アオイは目を逸らしながらも小さく「ありがとう」とだけ告げた。

 

それを聞いた汐はにっこりと笑い「うん。どういたしまして」と告げるとそのまま部屋へ向かった。

 

 

*   *   *   *   *

 

「あれ?しのぶさん?」

 

部屋に戻ろうとする汐の前から歩いてきたしのぶを見て、汐は足を止めた。しのぶは汐を見て「まだ起きていたんですか」と言いたげな表情をしていた。

 

「アオイの手伝いをしていたら遅くなっちゃって。もう寝ようと思ってたの」

「そうですか。もう夜も遅いですから、夜更かしをしないで早く寝ることをお勧めしますよ」

 

そう言って笑うしのぶに、汐は少しだけ震えた。が、不意に思い出したように彼女は口を開く。

 

「ねえしのぶさん。カナヲってさ。もしかして自分で考えて行動することが苦手なの?」

 

汐の言葉にしのぶは目を見開き、「どうしてそう思いました?」と聞き返した。

 

「今まで見てきたときもそうだったけど、カナヲって誰かに言われてから動いているように見えたし、今日の宴会でもしのぶさんに言われたから飲み物を受け取ったように見えたから。違ってたらいいんだけど」

 

そう言って顔を伏せる汐に、しのぶはため息を一つつくと意を決したように口を開いた。

 

「お察しの通り、カナヲは自分から動くことがほとんどできません。昔、私と姉が初めて出会った時からカナヲは自分で考えて行動することができなかったのです」

 

しのぶはカナヲが自分で行動することができないことを危惧し姉に相談したところ、彼女はカナヲに銅貨を投げて決めることを提案したという。

銅貨と聞いて汐の脳裏に、銅貨をはじいているカナヲの姿がよみがえった。

 

(じゃああの時のあれは、あたしが弱いから話したくないんじゃなくて、あたしと話すか話さないかを決めていたってこと・・・?)

 

だとしたら自分は相当な誤解をしていたことになる。青ざめる汐に、しのぶは優しく声をかけた。

 

「あなたが気にする必要はありませんよ。この事はカナヲに近しい一部の人しか知らないことですから。でも、あなたがカナヲのことを気にかけてくれていたことはうれしく思っています」

「気にかけたっていうか、カナヲのお陰であたし達は新しいことができるようになったから、そのお礼をしたいだけよ。でも、今の調子じゃまだまだ難しそうね」

 

うーんと首をひねる汐に、しのぶは汐の優しさを感じた。口は悪いがとても心の優しい少女だということを、彼女は改めて認識した。

 

「さて、もう夜も遅いですしお休みになってはどうですか?それとも、眠れないなら私の手伝いをしますか?」

「・・・寝ます。おやすみなさい」

 

しのぶからただならぬ気配を感じた汐は、そそくさとその場を後にする。姿が見えなくなったのを確認したしのぶは、窓から見える月を仰ぎ見た。

 

(何故でしょう。カナヲのことを誰かに話したことなど、今までほとんどなかったのに。やはり彼女は只者ではないようですね)

 

自分の変化に戸惑いつつも、しのぶは他に起きている不届き物がいないか見まわるため、その場を静かに去るのだった。

 




汐「はぁ~。禰豆子可愛い。どこぞの金髪馬鹿じゃないけど、可愛すぎて辛い・・・」
し「汐さんは本当に禰豆子さんが大好きなのですね」
汐「あんな可愛い妹がいる炭治郎がうらやましい。あたしもあんな妹が欲しい!むしろ禰豆子の姉になりたい!!」
し「えっと、その方法がないわけでもないですよ?」
汐「えっ、本当!?本当にそんな方法があるの!?あたし禰豆子と血がつながっているわけでもないのよ!?」
し「それがあるんですよ。最もそれは一人ではできないことですが」
汐「???」
し「(ゴニョニョゴニョニョ・・・)」
汐「えっ!?ええーっ!!た、確かにそれならできる、けど・・・。でも、あたしにはまだ早いよ!それに炭治郎にだって選ぶ権利だってあるし・・・」
炭「え?俺がどうしたって?」
汐「な、何でもない!!あんたには関係ないわよ!」
炭「関係ないって今俺の名前呼んでたし」
汐「呼んでないったら!!もーっ、馬鹿ッ!!」
炭「???(あれ、汐からまたあの匂いが・・・)」
し「あらあら、青春真っ盛りですね・・・」

この作品の肝はなんだとおもいますか?

  • オリジナル戦闘
  • 炭治郎との仲(物理含む)
  • 仲間達との絆(物理含む)
  • (下ネタを含む)寒いギャグ
  • 汐のツッコミ(という名の暴言)
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