ウタカタノ花   作:薬來ままど

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汐と炭治郎が鬼を追って客車を出た数分後。

「うーん、はっ!」

煉獄は目をかっと見開き体を起こした。先ほどまでいた自宅とは異なり、目の前の景色に少しばかり面食らう。
だが、彼は瞬時に先ほどまでの光景が夢であったと理解すると、あたりを見回し今現在の状況を確認した。

すると小さな少女が燃え滓のようなものをもって自分を見上げているのが目に入った。

少女の名は竈門禰豆子。竈門炭治郎の実妹で、悲運にも鬼に変えられてしまった少女。
しかし鬼であるが人を襲わず守ることができる優しき鬼――と、炭治郎と汐は訴えていたが、煉獄は初めそれを信じることができなかった。

鬼は人を喰らい、傷つけるもの。それは絶対に変わらない。そう信じていたからこそ、煉獄は鬼を庇う炭治郎と汐を処分するべきだと思っていた。
しかし二人の心は嘘偽りなく、そして禰豆子自身も人を喰らうことを拒絶した瞬間を煉獄も目撃していたからこそ、少しだけ信じてみようと思う気持ちになったのだ。

禰豆子は心配そうな目で煉獄を見つめていた。そして彼女の持っている燃え滓をよく見ると、切符のようでありそこから微かだが鬼の気配がした。

「君が俺を目覚めさせてくれたのか?」

煉獄が問いかけると、禰豆子はそうだといわんばかりにうなずく。そして煉獄がもう一度あたりを見回すと、人数が少しばかり足りないことに気づいた。

「大海原少女と竈門少年。それから猪頭少年の姿がないな。もしや鬼を見つけたのか」

煉獄が立ち上がった瞬間、異変を感じて振り返った。客室の壁や床から肉のようなものが盛り上がり、乗客たちを取り込もうと蠢きだしていたのだ。

「うたた寝してる間にこんな事態になっていようとは!!よもや、よもやだ!!柱として不甲斐なし!!穴があったら入りたい!!」

煉獄は瞬時に刀をとると、肉片に向かって刀を構えながら砲弾のように突っ込んだ。




「まったく、起きるのが遅いのよこの馬鹿!あんたが寝ている間にこの列車は鬼の一部になっているみたいなの!聞こえてる!?この列車自体がもう鬼なのよ!!」

「安全な場所がもうない!眠っている人たちを守るんだ伊之助!!」

 

汐と炭治郎の声が伊之助の耳に届くと、彼は思わず足を止めた。その間にも、不気味な感覚は絶えずその体を刺激している。

 

「やはりな・・・俺の読み通りだったわけだ。俺が親分として申し分なかったというわけだ!!」

 

伊之助はすでに肉片の巣窟と化している客車へ戻ると、二本の刀を構えながら息を吸った。

 

獣の呼吸

伍ノ牙 狂い裂き!!

 

伊之助はそのまま刀を四方八方に滅茶苦茶に降り抜き、自分ににじり寄ってくる肉片を切り裂き吹き飛ばした。

 

「どいつもこいつも 俺が助けてやるぜ!(すべか)らくひれ伏し、崇め讃えよ、この俺を!!伊之助様が通るぞォォ!!」

 

伊之助は高らかに叫ぶと、本物の猪の如く肉の壁に向かって突っ込んでいく。だが、そんな彼の進路を阻むように巨大な壁が立ちふさがった。

思わず足を止めそうになる伊之助だが、不意に背後から鋭い声が飛んだ。

 

「耳を塞いで!!」

 

伊之助が言われた通り耳(猪の顔の横の部分)を両手でふさいだその瞬間だった。

 

ウタカタ 伍ノ旋律

爆砕歌(ばくさいか)!!!

 

汐の口から衝撃波が発せられ、肉片の壁を瞬時にバラバラに吹き飛ばした。その衝撃で客車が激しく揺れ、伊之助は思わず倒れそうになるが、何とか踏みとどまった。

やがて揺れが収まると、汐を見た伊之助の身体の奥から熱い何かが沸き上がってくるのを感じた。

 

「な、なんだ今の技!すげぇ!!」

 

だが、伊之助が興奮する間にも肉片は休む間もなく自分たちや乗客を取り込もうと蠢く。汐は舌打ちをし、顔を歪ませながら後方車両にいる禰豆子達の方へ顔を向けた。

 

「オイ子分その四!よく聞きやがれ!!」

「誰が子分その四よ!あんたまだ寝ぼけてんの!?」

「いいから黙って聞け!俺はこの場所を守ってやるから、お前はこの先にいる子分共を守れ!親分命令だ!」

 

そう言って得意げに胸を叩く伊之助に若干腹立たしさを感じた汐だが、今はそんなことを言っている場合ではない。汐は頷くと、迫りくる肉片を吹き飛ばし切り裂きながら、後方車両へを向かった。

 

「禰豆子!善逸!煉獄さん!!」

 

扉をけ破って中に入ると、既にそこも同じように肉片があふれ、その中で禰豆子は一人戦っていた。

鋭い爪で引き裂き、強靭な脚力で蹴りつぶしながら、禰豆子は襲い来る肉片から人を守らんと必死に体を動かしていた。

 

「禰豆子!!」

 

汐が叫ぶように名を呼ぶと、禰豆子は安堵した表情で振り返る。だが、その瞬間。禰豆子の左腕に鬼の肉片が絡みついた。

引きはがそうと禰豆子が右腕を振り上げるが、その腕にも肉片が絡みつき、両腕を拘束した。

 

「このっ!!禰豆子を放せ!!」

 

汐が刀を構えて突っ込もうとすると、天井から肉片がぼたりと落ち、汐の首に巻き付いた。

 

(しまっ・・・!)

 

そのまま肉片は汐の首を締め付け、ギリギリと巻き上げていく。それを見た禰豆子が目を見開くが、彼女の両足にも肉片が絡みつき完全に拘束されてしまった。

 

「ヴーーーーッ!!」

 

禰豆子は首を絞められる汐を見て、唸り声をあげた。自身の両腕も締め付けられ痛みが走り、思わず目を閉じたその時だった。

 

雷の呼吸 壱ノ型

霹靂一閃 六連!!!

 

金色の閃光が目にもとまらぬ速さで動き回り、禰豆子と汐を拘束している肉片を弾き飛ばした。

禰豆子は両腕が解放され、汐も頸の周りの肉片が吹き飛び体が自由になった。

 

咳き込みながら目を開けると、そこには目を閉じ刀を構えた善逸が、雨が降るような呼吸音を響かせながら立っていた。

 

「禰豆子ちゃんは俺が守る」

 

その勇ましい姿に禰豆子と汐は呆然と彼を見つめるが、鼻提灯が割れるとフガフガとみっともない呼吸音に変わった。

それを見た禰豆子は目を点にさせ、汐は「肝心なところで決まらないのね」と呆れたように呟いた。

 

(っていうか、あたしは眼中にないのかこの野郎。まあいいけど)

 

思わず蹴り飛ばしたくなったが、何はともあれこれで炭治郎、伊之助、善逸の三人が戦える状態になった。後は煉獄だけだが、姿は見えない。

 

「禰豆子。煉獄さん――あたし達と一緒にいた大人の男の人を知らない?なんかこう、目がギョロっとしたこんな感じの・・・」

 

汐は自分の目を指で押し上げながら禰豆子に尋ねたその瞬間。突然後方車両が激しく揺れた。また鬼が暴れ出したのかと思い身構えると、突然前方の扉が肉片ごと吹き飛び、赤い何かが飛び込んできた。その反動で汐は吹き飛び転んでしまうが、痛がる暇もなく耳をつんざくような大声が汐の耳を穿った。

 

「大海原少女!!無事か!!」

「誰かさんのせいで背中と耳が痛いけどね!」

 

痛みと耳鳴りに腹立たしげに言うと、煉獄は「誰の事かはわからんが無事のようだな!」と大声で言った。

 

「ここに来るまでの間にかなり細かく斬撃を入れてきた。鬼もすぐに再生はできまいが、余裕がない。手短に話す」

 

煉獄は汐を立たせると、迫りくる肉片を切り伏せながら凛とした声で言った。

 

「この列車は八両編成だ。俺が後方五両を守るから、黄色い少年と竈門妹とで、前の三両を守るんだ!」

 

煉獄の言葉に汐は肯定の返事をしようと口を開いたとき、煉獄が来た方から強い鬼の気配を感じた。

ひょっとしたら鬼の本体がそこにいるかもしれない。汐は首を横に振り、煉獄の眼を見て言った。

 

「待って煉獄さん。この先から強い鬼の気配がする。ひょっとしたら鬼の本体はそこにいるのかもしれない」

「なんと!先ほどはそんな気配は感じなかったが・・・、君が言うならそうなのだろう。相わかった。俺は前方にいる竈門少年や猪頭少年にこのことを伝えに行く。すぐに戻るから待っていてくれ!」

 

いうが早いか煉獄はすさまじい速度で車両を貫く様に移動する。そのあまりの速さに汐は呆然とするが、迫ってくる肉片を片付けつつ次の車両へ向かった。

 

何処へ行っても肉片は汐や乗客たちを飲み込もうと迫ってくる。あまりにも芸のない行動に苦笑しつつも、刀を構え息を吸った。

 

海の呼吸 壱ノ型

潮飛沫!!!

 

足に力を込め、身体のばねを利用して飛び上がり、肉片を大きく切り裂く。そして振り返り、今度はウタカタを放たんと呼吸を切り替えた。

だが、肉片の周りには眠っている大勢の人々がいる。爆砕歌では彼ら毎吹き飛ばしてしまいかねないため、汐は顔をしかめつつ大きく息を吸った。

 

ウタカタ 参ノ旋律

束縛歌(そくばくか)!!!

 

空気が張り詰める音と共に肉片の動きが止まる。それを汐は刀で引きはがしつつ、人に肉片が違づかないようにした。

しかし汐の喉には確実に負担がかかっていた。先ほども爆砕歌を放ち、そして束縛歌も三度使っている。いくら全集中・常中を習得してウタカタの使用回数が増えても、限界はあった。

 

喉に痛みを感じ、汐は思わず喉を抑える。その隙を狙って肉片が足元から迫ってきた、その時だった。

 

「なるほど、それが例のワダツミの子の歌か!想像以上にすごい力だ!」

 

後方から轟音のような声が響き、肉片が瞬時に吹き飛んだ。そしてそのまま、煉獄は汐の目の前に立ち顔を覗き込む。

 

「待たせたな、大海原少女!」

「待たせたなって、まだ五分もたってないけど?っていうか近い!!その目ちょっと怖いんだってば!」

「すまない、この目は生まれつきなものでな。それより大丈夫か?喉を痛めたのか?」

 

煉獄は肉片を切り伏せつつ汐にしのぶからもらった薬を使うように促す。汐はすぐさま袂から粉薬を取り出し、一気に煽った。

苦みを覚悟していた汐だが、それに反して薬はすっと鼻に抜けるような清涼感がある味だった。そして喉の痛みが急速に収まっていく。

その即効性に驚きつつも、喉の調子と共に汐の士気も回復した。

 

「もう大丈夫か大海原少女!だが休んでいる暇はないぞ!!」

 

煉獄の言う通り、肉片は先ほどよりもはやい速度で人々を取り囲んでいく。それだけ鬼も本体を探り当てられまいと必死なのだろう。

 

「むっ、あまり状況はよくないな。大海原少女!俺が道を切り開く。君は先に進んで本体を探してくれ!」

「煉獄さんは?」

「俺もすぐに追いかける。だが、これだけは言っておく。決して無理はするな。命の危険を感じたらすぐに逃げろ」

 

煉獄が言い終わると同時に、肉の壁が扉を塞ごうと周りに集まってきた。煉獄はその肉片を切り伏せると、汐をその中に放り込む。

 

「行け!俺もすぐに続く!!」

 

煉獄の怒鳴り声と共に、ミシミシと扉がきしむ音がする。汐はすぐさま立ち上がると、鬼の気配をたどって足を進めた。

 

(あいつは絶対に許さない。あたしだけじゃなく炭治郎の心まで傷つけた。しかるべき報いを受けさせてやる!)

 

鬼の気配が強まるにあたり、微かに湧き上がってくる恐怖を汐は殺意で上書きしつつ先へ進む。そしていよいよ最後尾の扉が見え、その扉に手をかけ開け放った。

 

その瞬間。汐はその扉を開けてしまった事を、激しく後悔することになる。

 

扉の向こうには、その先にいたのは、魘夢の本体などではなかった。

その気配は彼など赤子同然に思えるほどの、恐ろしいなどどいう言葉では言い表せない程のものだった。

 

「・・・ッ!」

 

先ほどまでの殺意を全て上塗りしてしまうほどの恐怖が、汐にまとわりつく。心拍数が急激に上がり、呼吸が乱れ、全身が小刻みに震えだす。

 

「ワダツミの子・・・また鬼狩りに・・・関わって・・・いるのか・・・哀れな・・・娘だ」

 

地を這うような低くおぞましい声が汐の耳に絡みつき、思考を奪っていく。そのせいか、目の前の別な鬼が口にしたワダツミの子の名前を認識することができなかった。

そして微かながら悲しみと侮蔑を含んでいることにも、汐は気づくことはなかった。




おまけSS

汐「まともじゃないあたしとつるんでいる連中が、全員まともなわけねぇだろうが!」
炭「えっ」
善「えっ」
猪「えっ」
禰「むっ」
煉「えっ」

この作品の肝はなんだとおもいますか?

  • オリジナル戦闘
  • 炭治郎との仲(物理含む)
  • 仲間達との絆(物理含む)
  • (下ネタを含む)寒いギャグ
  • 汐のツッコミ(という名の暴言)
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