ウタカタノ花   作:薬來ままど

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あいさつ回り中の汐が、柱とドンパチやる話
この作品では鏑丸は無毒の蛇となっております


柱だヨ!全員集合?(後編)

陽がだいぶ傾き、少しばかり風が冷たくなってきた頃。

悲鳴嶼邸を出た二人は、近くにあった甘味処で一休みすることにした。

 

甘露寺は皿が山積みになるほどの三食団子を。甘いものが苦手な汐はところてんを注文した。

 

「さて、後ご挨拶をしていない柱の人は・・・蛇柱の伊黒さんと、風柱の不死川さんの二人ね」

 

「・・・え?」

 

次に向かう所を聞いて、汐の顔が引きつった。

前者の伊黒は柱合裁判で汐を拘束し、痛めつけられた相手。後者は禰豆子を傷つけ、激高した汐が殴り倒し、あまつさえ殺めようとした相手だ。

そんな二人が汐と会えば衝突は避けられないことは確実であり、汐自身も二人は好き好んで会いたい相手ではない。

 

しかし甘露寺は、伊黒はともかく不死川には、殴ってしまった事と殺そうとしてしまった事をきちんと謝らなければならないと汐を諭した。

殴ったことはともかく、殺そうとしたことは簡単に許されるとは思わないが、ぐうの音も出ない正論に、汐は従うしかなかった。

 

「さて、お腹もいっぱいになったことだし、そろそろ行きましょう。早くしないと日が暮れてしまうわ」

 

相も変わらずウキウキとした甘露寺に、汐は陰鬱な気持ちでしたがうのだった。

 


「ここが伊黒さんのお家ね。外では時々あったり、文通もしているけれど、お家に来るのは初めてなの」

「え、そうなの?っていうか文通してるって・・・」

 

心なしか伊黒の話をする甘露寺の眼は、他の柱には無い何かを宿していた。それが何なのかはこの時点の汐にはわからなかった。

 

「こんにちは、伊黒さん。甘露寺です!いらっしゃいますか?」

 

甘露寺が声をかけると、間髪入れずに伊黒が屋敷から出てきた。その速さに驚く汐をしり目に、甘露寺はにこやかな笑顔で言った。

 

「今日は汐ちゃんと柱の皆さんにご挨拶に来たんです。私の大切な継子を、伊黒さんにもきちんと紹介したくて」

 

甘露寺が尋ねてきたことに嬉しさを宿した伊黒の眼が、汐に映った瞬間あからさまに目の色が文字通り変った。

その眼は明らかに疑いと怒りと嫉妬心が宿っていた。

 

「甘露寺の継子になったという話は耳にしていたが、まさかお前とは。何故お前のような者が甘露寺の継子になれた。甘露寺に恥をかかせるような体たらくなら絶対に許さん」

 

相も変わらずネチネチとした物言いに、汐は思わず顔を引き攣らせた。そんな彼女の態度が気に障ったのか、伊黒は更に視線を鋭くさせる。

しかし汐も師匠である甘露寺に恥をかかせないようにと、引き攣る顔を何とか戻そうとしながらも、伊黒に挨拶をしようと手を伸ばした、その時だった。

 

手の甲に小さな衝撃を感じて汐が視線を動かすと、そこには伊黒の相棒の蛇、鏑丸が汐の手の甲に牙を突き立てているのが目に入った。

 

「ぎゃあああああああああああああああああ!!!!!」

 

汐は耳をつんざくような悲鳴を上げ、鏑丸振り落とそうと思い切り手を振った。初めはずっと食いついていた鏑丸だが、何度か振り下ろされる手の衝撃に耐えられず上空に打ち上げれられた。

それを甘露寺が慌てて受け止め、伊黒に返す。

 

「な、な、な、何すんのよこの蛇公!!」

 

噛まれた傷口を抑えながら汐が激昂すると、鏑丸は心なしかしてやったりとした表情で汐を見据えていた。

 

「あったまきた!!三枚に下ろして蒲焼にしてやる!!」

「シャーッ!!」

「シャーッ!!」

 

顔を真っ赤にした汐が日輪刀に手をかけると、鏑丸も怒ったように威嚇の声を上げ、それに合わせるように汐も威嚇の声を上げた。

 

そんな汐を甘露寺は慌てて止め、伊黒は呆れたように汐を見据えていた。

 

「キーッ!!覚えてなさいよ!!あんたに馬鹿にされないくらい、強くなってやるんだから!!」

 

甘露寺に引きずられながら、汐は頭から湯気を出して叫び続けるのだった。

 

そして次は、いよいよ汐にとって鬼門の不死川邸。

先程の伊黒とのやり取りですっかり気分を害した汐は、訪問を頑なに拒んだが、甘露寺に(物理的に)引きずられ、有無を言わさず連れてこられてしまった。

 

「こんにちは、不死川さん。甘露寺です」

甘露寺が声をかけると、一人の使用人が屋敷から進み出てきた。甘露寺が説明すると、不死川は鍛錬場にいるという。

 

逃げ出そうとする汐を捕まえてから、甘露寺は鍛錬場のある場所へ足を進めた。

 

そこではたくさんの巻き藁があり、いずれも真っ二つに斬られ地面に無造作に落ちている。その中心ではひたすらに刀を振るう不死川の姿があった。

 

「不死川さん、こんにちは。甘露寺です」

 

甘露寺がそんな彼に臆することなく声をかけると、不死川は何だといわんばかりに振り返った。だが、その眼が汐を捕らえた瞬間、彼の顔中に青筋が浮かんだ。

するとそれを見た汐の顔も、全ての皮が引っ張り上げられたように引き攣り、たちまち空気が張り詰めた。

 

「甘露寺ィ。なんでそのガキをここに連れてきやがった?」

柱合裁判でのことを思い出したのか、不死川は顔中を痙攣させながら汐を睨みつけ、汐も禰豆子や炭治郎を傷つけられた記憶がよみがえり、殺意のこもった眼で彼を睨みつけた。

 

そんな状況に気づいているのかいないのか、甘露寺は穏やかな表情で言い放った。

 

「私の継子の大海原汐ちゃんを不死川さんに紹介したくて来たんです。もう他の柱の皆さんにはご挨拶が住んでいますので、後は不死川さんだけなので」

「そうかァ。ならさっさと帰れ。そいつを見ていると虫唾が走る」

 

不死川はそれだけを言うと、二人に背を向け刀を振り上げた。汐は思わず吹き飛ばしたくなる衝動を感じたが、甘露寺の手前これ以上諍いを起こすわけにはいかない。

かといってこのまま黙って帰るにも腹立たしい。汐は唇をかみしめると、一歩彼の方へ踏み出した。

 

「不死川、さん」

 

汐は上ずりながらも声をかけるが、不死川はそれに答えることなく刀を振るう。その態度にムッとしながらも、汐は震える頭をゆっくり下げた。

 

「柱合裁判の時、殴ってしまった上に殺そうとしてしまって、すみませんでした」

 

震える声で謝罪の言葉を口にすると、刀を振る不死川の手が止まる。そしてゆっくりと振り返り、汐の青い髪を見据えた。

 

「てめぇ、まさか謝って許されるとでも思っているのか?ごめんで済んだら警察なんざいらねぇんだよ。形だけの謝罪なんざ何の意味もねぇ。俺はお前を許す気も認める気もさらさらねえんだ。消えろ」

 

不死川は冷たく言うと、再び汐に背を向け刀を手に取る。汐は顔を上げると、不死川の背中に向かって言い放った。

 

「わかっている。あたしのしたことが許されないということは。けれど、これだけは言わせてもらうわ。あたしは炭治郎と禰豆子を信じるし、あんたがあたしを認めないというなら、力づくで認めさせてやる。あたしたちが鬼殺隊員として戦えるって、証明して見せる!!」

 

汐の凛とした、無礼極まりない言葉に甘露寺の肩が跳ね、不死川も思わず振り返り汐を見た。彼女の眼には、これ以上ない程の強い決意と矜持、そして微かな野望すら見えている。

まるで獣のようなその眼光に不死川の身体が微かに震えたが、不意に謎の衝動が彼の奥底から湧き上がってきた。

 

「・・・上等だァ」

 

不死川は汐に近づき、冷たい眼で見降ろし、そんな彼に、汐は殺意と意地を込めた眼で睨み返した。

 


 

こうして汐の波乱に満ちたあいさつ回りが終わり、稽古をつけてもらっていた時よりも何倍も疲れた彼女は、家に帰るなりすぐさま布団に倒れこんだ。

 

(あ゛ー、疲れた。今まで生きてきて一番疲れた気がするわ。だけど、柱にああも啖呵を切ったわけだし、炭治郎と禰豆子の為にも、がんばらない・・・と)

 

しかし汐の意識は決意とは裏腹に、その疲労に引きずられるようにして闇の中に沈んでいくのだった。

 

その夜、汐は不思議な夢を見た。深い深い水の中、海の底に引きずられるようにして沈んでいく。

 

自分を包み込む泡は、何故か冷たく、汐の体を突き刺していく。

 

そんな彼女の視線の先には、海の底で静かに咲く、青白く光る一輪の花があった。花びらがいくつも重なった、八重咲の百合に似た花。

周りは水で満たされているというのに、その花は静かに咲いていた。

 

汐はその花に何故か見覚えがあるような気がした。しかし、水の中で咲く花など聞いたことがない。

汐はその花にそっと手を伸ばして触れようとしたその時だった。

花が突然泡のようになり、水に溶けて消えていく。

 

(駄目ッ・・・!逝っちゃ駄目ッ!!)

 

それを見た瞬間、汐の胸に突然悲しい気持ちが沸き上がり、理由もないまま泣き叫んだ――

 

 

「・・・い、おい。おい!いつまで寝ている?」

 

不意に声をかけられ、目を開けるとそこには一人の男が立っていた。

口元を布で覆い、左右の眼の色が違うこの男は――

 

「あふぇ?伊黒・・・さん?」

「間抜けな顔で間抜けな声を出すな。全く、なんでこんなやつが甘露寺の継子になれたんだ」

「いや、そもそもなんであんたがここにいるの?っていうか住居不法侵入じゃないの!?」

 

慌てて起き上がった汐の罵倒に臆することもなく、伊黒は汐を冷たい眼で睨みつけながら言い放った。

 

「俺は鬼は勿論だが、それに媚びを売る奴も、自分の言葉に責任を持たない奴が嫌いだ、大嫌いだ。昨日も言ったが、お前が甘露寺に恥をかかせることは絶対に許さないし、俺はお前を認めない。認めてほしくば、証明して見せろ。お前が甘露寺の継子にふさわしいか、そして、お前のその力が役に立つのか」

「伊黒さん・・・」

「わかったならさっさと着替えろ。愚図は嫌いだ。四〇秒で準備を整えろ」

 

伊黒にどやされ、汐は大慌てで着替え、そして甘露寺邸に赴く。その日を境に、汐の悲鳴が一層大きくなるのだった。




伊「認めない認めない。お前を甘露寺の継子とは絶対に認めない」
汐「あー、もう!しつっこい!!あたしはしつこい奴と優柔不断な奴が大嫌いなのよ!」
伊「俺もお前のような、喧しく下品な女は大嫌いだ。甘露寺を見習え」
汐「さっきから甘露寺甘露寺って、あんたなんなの!?みっちゃんのことが好きなの!?」
伊「!?貴様・・・甘露寺を気安く愛称で呼ぶな」
汐「みっちゃんが呼んでくれって言ったから呼んでるのよ!何なのこの人!めんどくさいにもほどがあるわ!!冨岡さんとは別方向で面倒くさい!!」
伊「おい・・・あんな奴と俺を一緒にするな。罰として訓練場の掃除も追加だ」
汐「横暴だぁああああああ!!!!この変人共!!絶対にあんた達をぎゃふんといわせてやるからなあああ」

汐はどちらに値すると思いますか?

  • 漆黒の意思
  • 黄金の精神

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