世界は思った以上にクソらしいです

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世界がクソなのでさよならバイバイ

 死にます。もう生きていくのがつらい。

 

 世の中はクソだと思いました。生きている人間全てがうざい。全てが嫌い。

 

 さして満員でもない電車に乗りました。そこそこ混雑はしていたけど、ぎゅうぎゅうになんかならない、余裕はまあある、普通の混雑している電車。俺は右手でスマホを弄りながら、左手で吊革を掴んでいました。

 後ろのクソ女が、「痴漢!」って叫んだ。その瞬間スマホを持ってる右手をその女に掴まれた。咄嗟のことで驚いて、俺はスマホを落としました。

 

 普通に考えて俺じゃない。だって、俺は両手が塞がっていたから。なのに女は人を殺しそうな目で俺を睨んで、如何にも俺がやったかのように見せつけてくる。

 俺は必死に弁明しました。けどあの女の言い分は「尻を触られた」の一点張り。私は確かに触られた、気持ち悪い感触があった、と只管に喚き散らす。

 なんで俺なんだ、ふざけんじゃねえ。両手塞がってただろうが、と叫びたくなりました。けど、俺は声すら出せなかった。その次に放たれた女の声が、あまりにも衝撃的で。

 

「だってお前、痴漢しそうな顔してるじゃん!」

 

 俺は不細工です。それは知ってる。あまり善人ヅラでもないです。それも知ってる。それでも、その言葉があまりにも意味がわからなさすぎて、俺は絶句しました。周りの人は目すら合わせてくれない。それどころか正義感剥き出しの紫色の髪したババアが「次で降りろ」と威嚇してくる。黒いマスクした化粧濃い女が「刺されなかっただけマシだと思え」とヒステリックに叫んでくる。「これだから男と同じ車両に乗りたくない」「女性専用車両に乗れば良かった」だの、ボソボソ声が聞こえてきました。男共も汚いものに触れるべからずと言わんばかりに目を逸らす。良かった、俺は不細工じゃなくて。そんな声が聞こえてきそうでした。

 

 結局、俺は証拠不十分で一応解放はされました。誰も、最後まで俺の味方はしてくれませんでした。あんなにも俺が両手塞がっていたことを見ていたはずの、俺の目の前で座っていたサラリーマンでさえも、何も言ってはくれませんでした。どうでもよかったんでしょうね、俺の人生なんて。それ以来電車に乗れなくなりました。乗っていると気分が悪くなって、周りの音が聞こえなくなって、目が見えなくなる。気が付いたら駅のベンチにもたれかけていて、隣で駅員さんが介抱してくれている。そんな状況になるのが普通になりました。そしてそうやって俺が介抱されていると、電車が当然遅れてしまって、そしてクソみたいな奴らが「そんなんになるなら乗るなよ、急いでんだよ」と睨んでくる気がして。怖くて、電車の音すら聞けなくなりました。スマホは誰かに踏まれて画面が割れていました。

 

 会社も辞めました。痴漢冤罪をかけられたことが理由で、会社に居づらくなったからです。

 勿論証拠不十分で解放されたことや、本当に両手が塞がっていたこと、そして本当にやっていないことはお話しました。社長はそれを信じてくれました。けど、他の奴らはそうでもありませんでした。

 何かミスをすると上司からは「そんなんだから冤罪をかけられるんだ」と言われ、殆ど喋ったことの無い女性社員からは「でも確かに痴漢してそうだよね」「冤罪って言ってるけど本当にやったんじゃない?」「あの顔じゃ女遊び出来ないもんね」だの言いたい放題陰口を叩かれていました。

 それを同僚に相談すれば「気にすんな。ところでどうだったよ?尻の感触は」と当然のように俺が罪を犯した前提で話してきました。誰を信じていいのか、もう全く解りませんでした。

 次第に女性が怖くなり、上司が怖くなり、そして人間が怖くなりました。自分以外に信じられるものが無い気がして、電車に乗れないどころか外に出られなくなりました。人と喋るのが、人に会うのが怖くなりました。なんなら、人の記憶に残ることすら怖くなりました。

 

 家で一人で寝て起きて食事をする。冷蔵庫に食べるものが無くなったら真夜中にスーパーで何かを買う、或いは母親に買ってきてもらう。それ以外に外には出ない、家族以外には会わない。そんな生活を送り続けていました。家族すらたまに怖くなっていたので、一人暮らしはやめませんでした。精神科や心療内科を薦められましたが、人が怖い以上行きたくありませんでした。もし、精神科や心療内科に通う姿を誰かに見られ、陰口を叩かれていたら?先生が診察終わりに「あいつ治す気あるのかな」なんて陰口を叩いていたら?そう考えると気が気でないのです。

 本当の地獄は、とある放送局の通信料請求でした。人と会いたくないから居留守を使うのに、ひたすらドンドンと扉を叩き、インターホンを鳴らし続け、果てには窓から家の中を覗こうとしてくるのです。怖くて怖くて仕方が無くて、一人で布団にくるまりながら泣き喚きました。そしてその泣き声を聞きつけて、「いるんでしょう!?」とまた扉を叩かれるのです。死んでしまえ、と思いました。俺も、某局も。

 

 

 どうして、俺はこんな目に合わないといけなかったんでしょうか。

 簡単です。俺が不細工に生まれたのが悪い。

 

 もしあの電車の中で。あのクソ女の後ろに立っていた俺が吉〇亮だったなら、きっとあんな目にはあっていない。つまり俺が不細工なのが悪いんです。

 俺が不細工に生まれたのが悪い。俺を不細工に生みやがった母親が悪い。生まれたことが悪い。

 

 死にたくない。けど死んだ方が楽にしか思えないんです。

 

 ハッキリ言います、この世界はクソです。見た目で善し悪しが決まり、臭いものには蓋をして、ゴミであっても寄ってたかれば一人の人生をぶっ潰し、偏見だけで残酷に心を壊すことだって出来る。何も知らないクズが壊れた心に拡声器を持って土足で踏み込み、ガラスの破片を撒き散らす。親は選べない、当然ながら自分の顔も選べない。生まれた国すら選べない、自由に生きることすら選べない。ドロップアウトしたゴミは見て見ぬふりをして、落し物は踏み躙る。

 

 クソだ、こんな世界はクソだ。

 

 俺が正しいとは言わない。けど、間違ってる。

 

 だから、この間違っている現実を誰かに発信してください。俺にはもうそれすら怖くて出来ないんです。俺はもう疲れました。

 

 特に人生、楽しいこともありませんでした。さようなら。

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

 

 

『昨日、某県某市のマンションにて、〇✕□△さん二十六歳が首を吊って自殺している姿が発見されました。遺体の隣には遺書が残っており、遺書には「もう疲れました」と書かれており、ストレスによる───』

 

 

 ──某放送局ニュースより抜粋





この作品はフィクションです。作品の内容が特定の人物や団体、社会問題等を批難、侮辱する意図は一切ございません。


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