どうも、錬金術師で女の子の友達が多い転生者です 作:シュリンプ1012
ヤッベェ、今回長すぎた。7000越えって……えぇ?
「……蓮司」
彼女は自分の頭の上に手を置いて、今ここにいない彼の名前をひっそりと呟いた。
つい先程、彼女の頭の上には蓮司の暖かな手が添えられていた。その時の温もりを感じ取るように、置いた手でゆっくりと頭を摩る。
–––大丈夫だよ、沙綾
あの時に、蓮司が彼女を心配させまいと、優しい声で言い放った台詞。その台詞を、彼女は頭の中で再生させた。そうする度に何故か彼女の心も温もりを感じ取るようになった。
実は彼女、山吹家の面々と商店街の大人達以外には名前で呼ばれた事はなかった。彼女は弟と妹が産まれて世話をするようになり、子供の扱いが上手くなっていった。学校でもその長所を活かして、クラスの先頭に立ち、みんなを引っ張ってきたのだ。
それ故だろう。クラスメイトは彼女を目上のような存在だと勝手に認識して、[山吹さん]や[山吹]と呼んでいる。例え女子だろうと、男子であろうともだ。気さくに[沙綾]とは呼ばない。
彼女自身、そんな事は気にしていなかった。むしろ誰だってそうだろう。仲のいい友達と普通に過ごせるのならそれで良いと、大半の人はそう思うものだ。自分から名前で呼んで欲しいとは思わない。
しかし、ある日を境に彼女は初めて家族達以外で名前で呼ばれたいと思った。それが彼、蓮司だった。
『ふぃ〜、疲れた〜……』
『もう……無理して来なくてもいいんだよ?』
ある日の昼下がり。蓮司は沙綾の実家である山吹ベーカリーで、今ではもう恒例となっている手伝いをしていた。因みにだが、二人が出会ってから2年、つまり小学3年の時のことである。
『いや、千紘さんにまた頼まれたからさ。無理してでも来る価値はある』
『……もう、お母さんもだけど蓮司も蓮司だよ』
彼女は別に来なくてもいいと態度で示してはいるが、実際の所はかなり助かっていた。彼が店の手伝いに来た事を近隣の方々が知り、その人達が別の人に伝えていき、その人もまた別の人に……と段々と伝播していった。そのおかげで店の売り上げがうなぎ上り……とまではいかないが、今までよりも上がっているのは確かだった。
『あ!蓮司兄ちゃんだ!!』
『蓮司兄ちゃん遊ぼ!!』
『お、純に紗南か』
店の奥から声が聞こえてきたと思うと、純と紗南が二人の下に走ってきた。そんな走ってきた二人を見て、蓮司は先程までの疲れた表情を消し飛ばして笑顔を作り、二人を受け止める。
『こら、ダメだよ純、紗南。お手伝いの邪魔しちゃ』
『いいじゃんちょっとくらい!!お姉ちゃんはずっといたんだろ!今度は俺たちが遊ぶの!!』
『ダーメ!!蓮司はまだ仕事終わって無いんだから!』
『……あれ?俺に休む権利は?』
『『無い!/ある!』』
『……どっちやねん』
彼女と純が言い争いをする中で、蓮司は不意に彼女らに質問するも返ってきた答えに肩をがくっと落とす。彼は先程、沙綾に向かって強気な姿勢を見せていたものの、内心ではもの凄くと言えば大袈裟ではあるが、そこそこ疲労が溜まっていた。
『二人とも、そこまでにしなさい?』
『あ、ママ!!』
『お、お母さん!休んでてって言ったじゃん!』
もういっその事こいつらの喧嘩見ながら休憩しようかなと蓮司が考えていると、店の奥から山吹家の母、千紘が顔を出した。
『蓮司くんはお手伝いで来ているのよ?あまり無茶はさせたくないわ』
『いえいえお気になさらず。まだまだ頑張れますので』
蓮司の身体を心配する千紘であったが、当の本人は全くもって異常無しと断言した。しかし……
『……嘘。さっき私に「俺に休む権利は?」なんて聞いてきたじゃん』
『なっ……!』
彼女の発言によって異常ありと断言された。この時蓮司の考えは、コイツ……最初は俺の事心配して、次に仕事を押し付けようとして、最終的には休ませようとか……コロコロ思考変えるんじゃねぇ!と、怨念を脳内で撒き散らしていた。
『もう、そうならそうって言っていいのよ?それに、お昼が終わるから買いにくるお客さんも少なくなるのよ?だからほら、奥で休んでなさい?』
『……それじゃあお言葉に甘えて』
そう言うと、蓮司はエプロンを脱いで畳み、千紘の横を通り過ぎる際に小声で「ありがとうございます」と一言伝えると、店の奥に消えていった。その事を確認した千紘は、今度は沙綾の方に向き合う。
『ほら、沙綾も休んでなさい?』
『えぇ?でもお母さんだけじゃ……』
『もう、沙綾ったら心配性ね。……大丈夫よ、さっきまで休んでたから。それに……』
そこまで言うと、千紘は沙綾の耳元まで近づいた。
『もっと蓮司くんとお話、してたいでしょ?
『…なぁ!?』
実の母親の発言に、耳まで顔を真っ赤にする沙綾。クラスではお母さん的立場にいるとはいえど、彼女だって乙女。異性と二人っきりで話すなど、そんなの……!と考えてしまうものだ。
『お母さん、からかわないで!!別にそんなんじゃないから!!蓮司の事はそんな風に思ってないから!!』
『あらそう?でも良いと思うんだけどなぁ。蓮司くん礼儀正しいし、いざって時は頼りになるし……沙綾にぴったりだと思うんだけどなぁ』
『……!も、もう!お母さんのバカ!!』
彼女はそう言い放つと、エプロンを着けたまま奥の方に小走りで向かい、そして消えていった。その際も彼女の顔はほんの少し紅く染まっていた。
そして千紘の方はといえば、罵声を浴びられたにも関わらず、にこやかな表情であった。
………………
…………
……
…
『もう、お母さんったら……。本当に違うのに……』
店の奥に消えた後、すぐ様しゃがんで頰に手を添えた。その手には紅くなった頰の熱が伝わっていく。
彼女の心の中では、今茶の間にいるであろう蓮司の事について考えていた。確かに母である千紘の言う通り、彼は礼儀正しい所もあるし、頼りになる。クラスでは、彼の事を好きだと思う女子が数人いるとの噂も出始めている。
しかしそんな彼に対し、彼女には一つ気になる点があった。それは彼が
先に話した通り、彼女は学校などでは名前で呼ばれない。それも彼女は気にしていない事も話しただろう。しかし、一人だけ例外がいた。それが彼だ。
沙綾はある時、テレビでこんな事を聞いた。
『異性の人に名前で呼ばれた時、あなたの心がときめいたと感じたら、あなたはその人に恋心を抱いている』
それは、俗に言うお悩み相談的な番組。内容としては、昔から仲が良い男の子を見るとなんだか不思議な気持ちになる、という試聴者からの質問に答えるものだった。
この時の沙綾にはあまり質問の内容は理解できていなかったが、《昔から仲が良い男の子》と聞いて思いついたのが蓮司だった。
きっかけはこんな些細な事。しかしながらこんな小さな出来事で彼女の蓮司に対する見方が変わったのだ。
《仲の良い二人》から《名前で呼び合う仲》へ。言葉で表すとあまり変化は感じないだろう。しかし、二つの言葉の意味を理解すると、大きな変化であることが感じ取れるのだ。
…
……
………
…………
……………
………………
「……っ」
沙綾は胸元で握っていた両手の力を強める。蓮司には無事で帰ってきて欲しい。それでいて、また名前で私の事を呼んで欲しい。この二つの事を考えていた沙綾は、ふとある事に気付く。
(……あれ?なんだろうこの気持ち。蓮司に呼ばれた時の事思い浮かべていたら、心がなんか変な……!)
そして気付いたのだ。この気持ちの正体を。モヤモヤする感覚を彼女は理解したのだ。
(私……やっぱり蓮司の事……)
再度、あの番組の台詞がフラッシュバックする。あの時理解できなかった事が、まさに今、理解する事が出来たのだ。
「……好きなんだなぁ」
自然と口から零れた言葉。それが、モヤモヤの正体。彼女は彼に恋患っていた。それも多分、昔から。それでも彼女は今、こうして理解する事が出来たのだ。
自然と彼女に笑顔が戻る。今気づけた喜びを抑えられずにはいられなかった。
しかしながらも、現実はそう甘くはない。
「……!?」
突如として、何かが破裂したような乾いた音が鳴り響いた。彼女を含めた人々が一斉に行動を止めて、音のした方向を向く。
「え、何々?パレードの開始時間?」
「まだ時間じゃなくない?」
「どっかの係員が間違えて打ったんじゃね?」
しかし殆どの人は気にもせず歩き始めた。実は、先程この場所で女性が倒れたと彼らに情報が流れ込んできたのだが、
そう、今回もまたそのような類いだろうと気にもせずに、彼らは歩き始めた……という訳なのだ。
「……嘘…!」
しかし、彼女は違った。他の者たちのように和気藹々とした表情を見せず、逆に
それもその筈。乾いた音がした方向は、今彼女が心配する彼…蓮司が向かった方向なのだ。
破裂した音。その音は彼女もテレビなどでよく耳にしているもの……そう、
「心配しなさんな、お嬢さん」
「!!」
すると、後ろから大きな手が彼女の頭に乗せられた。彼女が後ろを振り向くと、そこにはそこそこ筋肉質な男性がいた。
「あなたは、さっきの…」
沙綾はすぐに彼が誰なのかを理解した。彼は先程、沙綾のお母さんである千紘を迅速に手当て、及び看病をしていた者だ。
「蓮司は生きてるよ。なんてったってアイツは俺の息子だからなぁ」
「……むす、こ…?」
「まぁ出会って数日だけどな」と彼は付け足したが、彼女の耳には届いておらず、彼女の脳内では《息子》という言葉が反復していた。
「……まぁでも、ちょっとばかし雲行きが怪しいからな……」
男は彼女の頭に乗せていた手を戻し、ポケットに突っ込んだ。そして少し考え込んだ後、沙綾にこう言った。
「蓮司の下に、行くとするか……」
その表情は、険しいモノだった。
♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
「ハァ……ハァ……?」
「なっ……くそっ!」
今の……なんだ?
「もう一発……!!」
……何故だか頰が痛い。
「蓮司兄ちゃん!危ない!!」
俺は右頰に手を当てる。その手には何やら赤い液体が付着していた。
「死ねぇぇぇ!!」
引き金が引かれた音。その後に発砲音が耳にやってくる。
嗚呼、まただ。また同じ感覚だ。
さっきは純に気を取られて手出しが遅れたが、今度はそうはいかない。
ゆっくりと、顔を右に傾ける。すると銃弾はそのままゆっくり速度を保ったまま、俺の顔の横を通り過ぎていった。
「なっ…!?」
後ろで弾が壁にめり込む音が聞こえた。壁にめり込んだ衝撃なのか、風圧が一気にこちら側に吹き、俺の短い髪が少しだけ靡く。
「……っ!?」
瞬間、俺の胸に鋭い痛みが襲った。その痛みで俺は声を上げて、その場に倒れ込んでしまう。その隙に銃弾を放っていた誘拐犯は、夏の暑さによって溶け始めた氷から何とか力技で抜け出して、そのまま走り去ろうとした。
「ま、待てよ……!」
痛みに堪えて何とか犯人を追いかけようとするが、逆に痛みが増していき追いかける事が出来なかった。
––––どうした?そこでそのまま這いつくばっているつもりか?
突然、頭に誰かの声が聞こえた。その声と同時に、今度は頭にも鋭い痛みがやってくる。
–––––そのまま這いつくばっていて、貴様は何も感じないのか?
「ああああああぁぁぁぁ!?」
……何も感じない、だと?……ンなもん感じてるに決まってるだろうがっ……!舐めてんのか!?
––––ほう、では何を
謎の声はまたも聞いてくる。
……そんなの、決まってるだろうが。
「
自然と、俺の口からその言葉が出た。
「純を攫って……!俺に傷をつけた
普段の俺ならこんなに感情を表に出す事はないと自分は思っている。それなのに、俺の口からは糸もたやすくその言葉を発していた。
「……グっ!?アァッ!!!」
すると俺の言葉に反応してなのか、耐えていた痛みが益々強まった。痛む部分に更に衝撃を加えたぐらいに。
「こ……ろし……て……」
さっきまで絶好調だったのに
「ころし……て……!」
なんだ、このどんでん返しは
「や……ルゥ……!!」
俺が思い上がったからか?
「こ…ロシ……アアアァァ!?!?」
……そんなの、
「ハァ……ハァ……!?」
そうだ、こんなの理不尽だ。俺が地に伏せるのはおかしい。
「コロ、ス……!!」
這いつくばるのは
「コロシテヤル……!!」
誘拐犯、お前の筈なのだ
––––まだまだ、だな。青二才め。
「グガァ!?アァッ…!!」
すると、また謎の声が聞こえてきた。しかも痛みをまたも増して。とうとう痛みに耐え切れず、俺は目を見開いてそこで暴れ出してしまった。
「ウゥ……!?」
暴れた衝撃で、懐から黒い球体が転がって出てきた。その球体には
––––さぁ武器を取るのだ、小僧よ
その声に反応してか、俺は呻き声を上げながらその球体に–––錬成陣に触れる。
俺が陣に触れると、球は閃光を発しながら形を変えていく。
「……ッ!!」
俺はソレを掴む。
ソレは
––––交代の時だ
声が聞こえたかと思うと、今まで襲っていた痛みがだんだんと和らいでいった。痛みが消えると、それと同時に意識が朦朧となっていく。
そして、俺は張っていた糸が途切れるように、俺の意識は闇に消えていった。
♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
「ハァ、ハァ……!逃げなきゃ……!」
彼女は小道をひたすらに走った。
「クッソ……!!」
未だに両足に残る冷えに耐えながら走っていく。
彼女は心の中では幸運だと思っていた。いきなり子供が現れたかと思ったら、魔法みたいなので両足と片手を凍らされ、もう片方の手で懐に隠し持っていた拳銃を持って2発打っても難なく躱されて。もうそこで終わりなのだと諦めた時だ。
子供が苦しみながら倒れたのだ。しかもそれだけではない。凍らされていた箇所も、太陽の熱によって溶け始めていた。これを機に彼女は氷を力技で抜け出した。
ここで反撃しようとも思ったが、彼女はそうしなかった。何故なら
それに彼女は無闇な殺傷はしたくないとも思っていた。だからその場から逃げたのだ。闘わなくとも、逃げ切れば彼女は勝ちなのだ。故にその場を離れた。
しかし、相手はそんなの許す筈も無かった。
「……ここくればだいじょ」
安堵し切って止まったその時だった。突然横から風が吹いたのだ。だがこれだけなら、風が吹き始めたのかとただ思うだけで終わる。
しかしそれだけではなかった。
「…あ、あれ?」
彼女は違和感を覚えた。今まで左手で拳銃を握っていた筈なのに、その握る感触が……
いや、そんな程度ではなかった。そもそも左腕があるという感覚が
そしてもう一つの違和感が彼女を襲う。
「……え?」
視界の上から
そこで彼女は目を疑った。目線の先に
しかし、彼女は唐突に理解してしまった。今自分に何が起きているのかを。目の前の人物が誰なのかを。
降り注ぐ紅い液体の次に降ってきたモノによって……彼女は嫌でも理解してしまったのだ。
「あっ…」
理解して出てきた言葉がそれだった。あまりにも情報量が多すぎて、彼女はそういうしか無かった。
–––腕だ。空から降ってきたのは左腕。切り口から鮮血を吐き出しながら降ってきたモノはそれだった。
「……ゥゥゥアアアアアアアアア!!?」
今は無き左腕の方から同じく鮮血が溢れ出してくる。その止まること知らない出血により、今までに味わった事がないであろう痛みが彼女を襲った。
「アア、アアア!!?クッ、アアア……」
「煩わしいぞ、愚民が」
彼女が傷口を抑えこみながら地面に倒れると、前方から人の声が聞こえてきた。彼女はゆっくりと声のした方に目を向けていく。そして、その人物を見た瞬間に、信じられないという目でその人物を見つめる。
「なん……で……アン…タ…が」
……その人物は小柄な体型にも関わらず、その手には黒く光る刀を携えていた。髪は橙色の短髪で、目は金色という目立つ顔立ちだ。
「……」
彼は一歩一歩着実に彼女の下に近づいていく。そして彼女の下に着くと、そのまま彼女を見下した。
その見下す目を見た瞬間、彼女の恐怖心に拍車がかかった。先程彼と対峙した時には感じれなかった殺気が彼女を襲ったのだ。
「や、やめて……!こっちに来ない、で……!!」
彼女は彼から逃れるために後ろへとゆっくりとではあるが後退していく。しかし、彼は彼女を逃すとは考えてもいない。
「ッ!?アアアァァ!!?」
ザクッと肉を刺す音がする。彼は逃げ出そうとする彼女の足に刀を突き刺して固定したのだ。
「逃すと思ったのかね?ん?」
「……ァガ……ァ……」
あまりの痛さにとうとう彼女は声を上げる事が出来なくなっていた。
「……さて、私にもあまり
彼はそう言うと、突き刺した刀を思いっ切り抜く。抜いた衝撃で彼女の身体が少し痙攣した仕草を見せる。
彼女の目に映るのは、先程自分を氷で拘束していた少年。その少年の片目には、
「それではな、名も知らぬ女性よ」
死が迫っている事、ただそれだけだった。
うーん、色々詰め込み過ぎちゃったわ……今後はこんな事ないようにします……。
RASのメンバーを出したいと思っとるんだけど、誰が最初に見たい?
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レイヤ
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ロック
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マスキング
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パレオ
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チュチュ