どうも、錬金術師で女の子の友達が多い転生者です   作:シュリンプ1012

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 遅くなって申し訳ない!!明けましておめでとうございます!!
 年が始まって早々、今回で第3章は終了となるぞ!!


仲良し組だった俺たち

 ––––最初に感じたのは、ただ一つの束縛感だった。

 俺を縛り上げる何かは、足の爪先から手指の先端まで……更には頭の天辺までに到達して、背中全体には壁といった物体に触れて感じるような冷気が伝わっていた。

 無論、実際に自分が縛り上がった姿を見た訳ではない。だって目を開いていないから。視界を広げなくては確認する事も出来ない。

 なら目を開いて確認すればいい話なのだろうが……如何せんこの目を瞑っているこの時間が堪らなく心地いいのだ。この、何かに触れていられるこのひと時が堪らなく愛おしく感じる。……言っておくがそういった趣味が無いことを予め伝えておこうか。

 

 しかしながら、ここは何処なのだろう。それに加えて俺はどんな状態なのだろう。心地いいとか抜かしてはいるがそこだけちょっぴり不安だ。

 

 

 

 ––––おい!蓮司!!

 

 

 不意に何処からか声が聞こえてきた。

 ……何だろう、この声の主を俺は知っている気がする。ひょっとして俺の知人だろうか。まぁでも、今はこのゆったりとした時間の方が大事だ、なるへ邪魔をしないで欲しい。

 

 

 ––––蓮司起きろ!!そんな所で……寝んじゃ、ねぇ……!

 

 

 はぁ…邪魔をしないでと言ったばかりだろうに。……ん?実際には言ってないか。だからこんなに俺の事呼んでるのか?頼むよ、フィーリングってやつで察してくれよ全く。……仕方ない、邪魔しないでと伝えるとするか。感謝しろよ?

 

 

–––––……–––…––……?」

 

 

 ……あれ、おかしいなぁ。口が思ったように動かない。てか口あるのかこれ?あんまり動かしてる感ないんだけど。もしかして縛られてるのと何か関係してる系なのか?心地いいのと関係してる感じなのか?

 

 

 ––––おい、クソ蓮司!!さっさと起きやがれ!!

 

 

 うるっせぇな、こちとら変な感じがして気が気じゃないんだよ。……ていうかこの声ホントに誰だ?誰が俺に話しかけてきてる?

 

 –––っクソ!離し…やがれぇ……!

 

 

 なんだ……?声の主は誰かと戦ってるのか?その割には戦闘音らしきものは聞こえない。……段々心地良さよりもそっちの方が気になってきたぞ?

 

 

「……?」

 

 

 てな訳で目をゆっくりと開いてみた。ゆっくりと開いたせいか、視界全体がボヤけてしまう。

 

 

 

 ……のはいいんだ。視界がボヤけるのは別に大した事じゃない。よく朝起きる時にあるから。ただ問題はそこじゃない。

 

 何故だか、()()()()()()()()()()

 

 いや正確には開いてる筈なんだが、右眼の視界だけ真っ暗なのだ。もう黒で塗りつぶされてる感じだ。おかしい。これは正に摩訶不思議と言っても過言ではないだろう。

 

 とまぁそんなこんなで考えていると、左眼で見る視界が段々と晴れてきた。

 

 

 その一瞬、視界に映ったモノに俺は目を疑った。

 

 

 –––ぐぬぁぁ……!?蓮、司ィィィ…!!

 

 

 俺の眼に映ったのは、怨念や憎悪などをこれでもかといえる程に具現化した何かと、その何かから取り押さえられた一つの影だった。多分、その影が俺の名前をしつこく呼んでいた奴だろ…う……?

 

 

 ……待て、なんか妙だ。何だか足が……足、が……?

 

 

 

この瞬間、俺は自分の身に起きた事を少しだけ理解することが出来た。

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()

 

 

 すぐ様視線を足下に向ける。だがもう遅かった。

 

 

 俺の足はもう、何処にも無かったのだ。

 

「!?」

 

 その事に気付いた瞬間、無くなっている筈の足に鋭い痛みが走った。その痛みはどんどんと上へ上へと登るように這い上がってきた。

 

 「……!!!……!?……!!!」

 

 激痛が俺の身体を蝕んでいく。だが悲鳴をあげようにも、先程述べたように口が動かせない。ただただ悶え苦しむしか無かった。

 

 ここで俺は理解した。俺を愛おしくさせていた先程のアレ。アレが俺の身体を奪っていたのだ。

 

 

 ––––蓮司……くそっ!!

 

 

 もう左半分は眼を残して根こそぎ奪われた時、影が再度俺の名前を読んできた。痛みで閉じていた左眼を開くと、影が俺の方に何とかして右腕を伸ばしていた。

 

 俺もそれに呼応するように左腕を伸ばす。

 

 

 互いに互いを助け合うように。

 

 

「–––!!……!!」

 

 ––––ふぬぅうあぁあああ!!!

 

 

 距離が近かったからだろう、互いの手はもう後数センチの所まで差し掛かっていた。最後のラストスパート、俺は必死になって腕を伸ばした。……目を瞑ってしまう程に。

 

 

 だが、俺と影の助け合う祈り届く事は無かった。

 

 

 

「…!」

 

 

 もう届く、と思った俺は閉じていた眼を見開いた。

 

 だが、そこにいたのは助けを求めようとした影はなく……

 

 

「……!?」

 

 

 代わりに

 

 

「な、なんでなんだよ……!」

 

 

 

 

 無い右腕と左眼を抑えて

 

 

 

 

 まるで化け物みたかのような表情をした

 

 

 

 

 俺自身だった

 

 

 

 

♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁっ!?」

 

 

 気が付いた時には、俺は横になっていた身体を勢いよく起き上がらせる。顔や身体には少量の冷や汗が伝っているのが体感で理解できた。

 何故か息が上がっている……?また変な夢見てたのか……俺。これで何回目だよ……クソ。

 

 

「……はぁ」

 

 

 まぁどんな夢かは分からないが、こんな事になった原因は嫌でも分かってる。……あの事件をテレビで見た時からずっとだ。

 あの事件–––きーやんときーやんのお母さんが事故に遭った事件の事だ。きーやんのお母さんは縦方向に三等分で斬り分けられた車に乗車しており、その身体も横方面から縦に斬られて真っ二つになっていたそうだ。

 そしてきーやん。アイツは行方不明となっていたが、事件の翌日に警察が現場周辺を隈なく探し回ったところ、不自然な場所に人間の左腕が血溜まりの中心に落ちていたそうだ。鑑識の結果、その腕はきーやんのモノと断定。血溜まりの出血量……そしてその近辺には熊といった肉食動物が生息していた事から……死亡と断定された。

 

 それをテレビで見た時、俺本当に吐きそうになった。人間が……それも幼馴染が車の事故に遭って、それで熊に襲われたかもって……。

 しかもそれがあの時(遊園地の事件)の後だったから変なことを余計に想像して……そのせいで病院の食事も喉を通らなくて。今は何とか食えているが、心の方がもうポッキリと折れていた。

 

 

「蓮司くーん?朝食を持ってきたよー」

「……ありがとう、ございます」

 

 

 看護師さんが朝食を目の前で広げている中、俺は一つだけ思い付いた。

 

 

 

 俺の力を行使すれば、アイツは戻って来るのでは?……と。

 

 だが俺は心の中で首を振った。

 無論そんな事をやったってアイツは戻ってこない。やってくるのはただの厄災。寧ろ、やってくるではなく持って行かれるのが正しい。

 ……でも、もしかしたら。

 

 

 この世界では、そんな事なくて

 

 

 やって見せたら、もしかしたらアイツは生き返るのでは?

 

 

 ……それは分からない。確かにやったら何かしらの代償を払う確率は多いにそちらが上だ。

 だけどそれは鋼の錬金術師の世界でのお話。もしかしたらこの世界ではそんな事は無くて、割とすんなりと出来るかも知れない。転生者補正なり何なりで成功出来るかも……と、そんな考えを俺の脳内で循環させていた。

 

 

「おーい蓮司くーん?」

「え?あ、はい」

「もう朝ご飯できたよー?あとね、君にお客さん」

「お客……さん?」

 

 

 甘ったるい考えか、と一蹴してふと我に還ると、どうやら朝食は準備を終わっていたようで、更には俺にお客さんも来ている事が分かった。

 まぁどうせあの人(ホーエンハイム)だろう。あの日以来来てないからもうそろ来るだろうとは思っていた。

 

「そうそう。君ぐらいの女の子」

「……うん?女の子?」

 

 

 しかし的は大外れだった模様で。

 俺ぐらいの女の子……誰だろう。ふーむ、思い当たる節があり過ぎて分からん。

 

 

「ほら、来なさいよ」

 

 

 看護師さんが扉のほうに手を小さく振る。すると少しだけ顔がヒョコッと現れた。

 

 

「あっ……」

 

「え、えっと……どうもっす……」

 

 

 顔を出していたのは意外な……いや全く意外では無いな。この場合。

 

 そう、その人物は俺のもう一人の古くからの幼馴染–––大和ちゃんだった。

 

 

 

 

 

 

 ♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

 

 

 

「元気にしてましたか、蓮司くん」

「……まぁ、ぼちぼち」

 

 

 俺がパサパサしたパンを一口サイズにちぎって口の中に放り込んでいると、対面に座っていた大和ちゃんが話しかけてきた。

 

 

「いやぁ、それにしても今日はいい天気ですね!」

「ん?……まぁ、そうだね」

 

 

 確かに、窓を見てみると空は一旦の曇りのない快晴で、外に出て寝っ転がれば物凄くいい夢が観れそうだ。

 ……いい夢、で思い出してしまった。もしかして今さっき感じた不快感も、ずっとこの病室内にいるからだろうか。ならいっそ外に出て寝たい。

 

 

「その朝ご飯、美味しそうですね!」

「……食べてみる?」

「あ……いえ別に大丈夫ですよ?ジブン食べてきたので……」

 

 

 ……そんな事言って、本当はこんなの食べたくないでしょ。さっきも述べたけど、今食べてるこのパンめっちゃパサパサしてて、口の中の水分持ってかれるし。口内潤すためにスープ飲もうとしたらそのスープもちょっと不味いし。

 まぁでも病院の飯が不味いのを体験出来ただけでもよしとしよう。……ハァ、こうやってプラスに考えでもしないと気分が上がらねぇよ。……てか…

 

 

「そういえば来る道中に「大和ちゃん」は、はい?」

「一つ聞いていい?」

 

 

 めっちゃ気になる事が一つだけあるのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんでさ、今日来たの?」

 

「……え」

 

 

 俺の疑問による発言が意外だったのか、大和ちゃんは面食らった顔になってしまった。

 

 

「な、なんでってそれは……」

「俺の見舞い……もあるんだろうけど本当は違うでしょ」

「!!えっと……」

 

 

 ……どうやら図星だったようだ。

 

 

「あのねぇ……何年幼馴染やってると思ってるの?さっきから積極的に話しかけて来るかと思えば、他愛のない話ばっか。……普段の大和ちゃんならもう少し落ち着いて話すと思うんだけど?」

「……」

 

 どうやら俺の推測が正しかったようで、大和ちゃんが俯いてしまった。よく見てみると、両拳が小刻みに震えている。

 

 

「……実は」

「実は?」

 

 

「自分……怖くなっちゃって……」

「……」

 

 怖かった……その一言で、俺は大和ちゃんが何が言いたいのか少しだけ理解した。

 

「……実はジブン、前々から蓮司くんのお見舞いに来てたんです。でも、何回来ても蓮司くんはずっと眠ったままで……もしかして蓮司くんはもう起きないんじゃないかって思ってしまって……!」

 

 大和ちゃんは震える声をなんとかして絞り出し、俺に今の心境を話してくれた。そんな姿を見て、俺は心が苦しくなるのを感じてしまう。

 

 

「それにジブン、なんで蓮司くんが入院してるのか全然分からなくて……それで看護師さんに聞いても何も話してくれなくて……!」

「……」

 

 ……看護師さんが話せないのは無理もない。だって俺が入院したのは誘拐犯と戦ったり人造人間(ホムンクルス)と戦ったりしたからだ。

 当然、あの人(ホーエンハイム)や弦巻財閥の方々も口外されるのも困る筈。だから担当医の人達に口止めしているのだ。

 

 でも俺は、それ以上に……もっと悲惨で、恐ろしく残酷な事が原因なのだ、と、本人でも無いのに確信していた。だってそれは、()()()()()()()()()()()()()

 

「……でもそれぐらいに大変な事があって……」

 

 

「きーやんの事、だろ?」

「……はい」

 

 

 予想は的中。……まぁでもこんなの予想するまでも無い事だ。

 俺が入院したという予想外な事に加えて、幼馴染の突然の死……幼い大和ちゃんにとっては信じろと言われても信じるなんて事は出来なかった筈だ。

 

「……あのニュースを見て思ったんです。みんながみんな、ジブンの手の届かない場所に行っちゃうんだなって……そう思った途端、何もかもが怖くなって……ずっと部屋で怯えて……!」

 

 そこまで聴いていると、不意に大和ちゃんの手元に一滴の雫が落ちるのが見えた。そこからまた一滴、一滴と大和ちゃんの手元を雫が濡らしていく。

 

 その様子を、俺は黙って見つめるしかない。

 

「……でもそんな時に、蓮司くんが目を覚ました、ってお母さんから聞いて……いてもたってもいられませんでした」

 

 すると、大和ちゃんは目元を擦ってゆっくりと立ち上がった。

 

「今こうして蓮司くんと話せているだけで、ジブン何だか嬉しいんです。いなくなったと思ってた人と話せて……でも、その分……」

 

 立ち上がった大和ちゃんは、ゆっくりとこちらに近づいて来ると、そのまま俺の袖を掴んだ。その際、俺はずっと隠れていた彼女の顔を見る事が出来た。

 

 

 その顔は涙で濡れて–––

 

 

「仲の良かったきーやんが居なくなったのが…余計に思い出されて……!」

 

 

 目元は真っ赤に腫れて–––

 

 

「だから……だから……!」

 

 

 –––もう、いいよ。

 

 

「蓮司くんも……いつか本当に居なくなっちゃうんじゃないか、って……!!」

 

 

 –––それ以上言わなくても、分かってる。

 

 

「……え?」

 

 

 –––無意識だった。大和ちゃんの泣き顔を見ていたら、いつの間にか俺は彼女の頭の上に手を添えていた。

 

 

「大丈夫だよ、()()()()()

「……!!」

 

 

 これもまた無意識。今まで苗字で呼んでいたのに、俺は何故か名前で呼んでしまった。

 ……前にもこんな事があった。確か、沙綾を落ち着かせる為に名前呼びになったのだっけ。どうやら今回も似たようなケースだから名前で呼んでしまったようだ。

 

「俺も……きーやんが居なくなったって分かった時、心の中が真っ黒になってさ。余計な事考えちゃったんだ」

「余計な事…ですか?」

 

 俺の言葉に疑問の念を抱いたのか、麻弥ちゃんが目にうっすらと涙を浮かべながらも、首を傾げた。

 

「そ。……もしきーやんを生き返らせる事が出来たら、とか。その為ならどんな事になっても構わないなぁ、とか」

 

 

 そう、謂わば自己犠牲というモノ。自分がどうなろうと、自分がやりたかった事が成せればそれでいいと思う事。……今さっきの俺はそんな感じだった。

 

 けど、今は違う。

 

 

「でも、そうやって自分を犠牲にしたら、その後の皆はどう思うのかな、って考えたら……絶対に悲しむんだろうなって思えて」

 

 

 無論、俺一人ではそんな事考える事は出来なかっただろう。人体錬成をしたらそこでお終い……自分の身に何が起ころうと……ましてや他人の事なんて考えてもみなかった。

 

 だけど、さっきの麻弥ちゃんの涙ながらに話してくれた思いに……俺は改心させられた。

 

 今、目の前にあるのは、一人の友人を失った幼馴染。

 

 その幼馴染から、今度はもう一人の友人(俺という存在)が消えたらどうなるだろう。……今、こうして俺を頼ってくるこの子はどうなるだろう。

 

 それだけではない。いつも公園で遊ぶ幼馴染五人組、パン屋の娘の沙綾、そして俺の親である母さん……色々な人が俺と関わってくれた。そんな人達を悲しませるのはどう考えても良くないモノだ。

 

 ……何だかこれだけ聞くと自意識過剰マンみたいに思われるかもしれないなぁ。でもそれだけの…頼り甲斐のある人間だと、俺は自負している。

 

 

 だから、そう思うからこそ言わなければならない。

 

 

「だからそうならない為にも、俺はずっと()()()()()

 

 

 その為にも、笑っていなくては–––

 

 

「もう––––離れないから」

 

 

 ニッコリと、な。

 

 

「……」

「……あれ?」

 

 

 急に麻弥ちゃんが俯いてしまったのだが。……ん?よく考えたら俺の台詞、何だか胡散臭いような…。何故だか羞恥の心が芽生えて……。

 

 

「……とうですか?」

「?」

 

 

 いかん、全然聞こえなかった。

 

 

「本当、なんですか…!」

「え?あ、いやまぁたしかに本当っちゃホント……ぬふぉ!?」

 

 

 え、待って!?急に抱きついて来たんですけど!?この子そんなにアクティブな子だったっけ!?

 

 

「……絶対に離れないで下さい」

「え?」

 

「絶対、悲しい思いをさせないで下さい……!」

 

 

 ギュッと、抱きつく力が強まった。

 これはちゃんとした答え出さないと離れてくれなそうだなぁ。

 

 

「……うん、分かった」

「…!!」

「えっ、ちょっえ!?」

 

 

 ちょっと!?この子今度は顔埋めて来たんですけど!?

 

 

 

 

 まぁ可愛いから許すけど。

 

 あ、いやでもこんな状況誰かに見られたら誤解しそうなんだ「あらあら、青春?」が……?

 

 まて、誰だこの声。扉の方から聴こえて……。

 

「いいわねぇ青春。私も若いころは旦那と……」

「待て待て待てぃ!?アンタ誰!?」

 

 扉の方を向いてみると、そこに佇んでいたのは金眼、金髪のタバコみたいのを咥えた女性だった。

 

「私?私はここの医院長の、弦巻 珠子だよ」

「弦巻……ってこころの?」

「あら何だい、こころにもう会ってたの?あの子、私の自慢の娘なのよ」

 

 衝撃事実。こころのお母さんは、なんと病院の医院長だった。……いやあんな元気っ子のお母さんが医院長だなんて思わないわ普通。

 

 あと、普通に忘れそうになってるんだけど麻弥ちゃんね?まだ抱きついたままなんだよ。さっきから何も応答はないけど……あれ?

 

「すぅ……すぅ……」

 

「寝、寝てる……」

「相当疲れてたんでしょう。この子走って来てたし。病院では走らないってのをこの子に教えてあげといてよね」

 

 だったら貴方もこころにジェットコースターは連続してならない、ってのを教えといて欲しかったなぁ。あの時の事は忘れない(確固たる決意)

 

「……あ、そうだ。君に渡すモノあって来たんだった。はいこれ」

「えっ何これ……手紙?」

 

 珠子さんがポケットから取り出して渡してきたのは、一通の手紙。何故か綺麗に封筒に入っている。あともう一つあるのが……。

 

「……あとこれ」

「ココアシガレット」

「え?」

「いやだから、ココアシガレット」

 

 手紙の上にチョコんと一本付いてきた。どうやらこれはココアシガレットらしい。

 

「甘いの摂取しといた方が良いと思うよ君は。……じゃ、私はこれで」

「えっちょっ……行っちゃった……」

 

 俺、ココアじゃなくてコーラ派なのに、って言おうとしたらどっか行っちゃったよ。マジで何だったんだ?……っといけないいけない。そんな事より手紙の方が大事だ。

 

「手紙の内容は……っと?」

 

 俺は中身が気になったので、封筒から一枚の紙を取り出した。表面に差し出し名が書いてあったのはホーエンハイム(光野 錬夜)だった。

 ……何故に手紙?直接言いにくればいいのに。取り敢えず読むとするか。

 

「何々……?」

 

 俺は黙々と手紙に記された文字を読み進めていく。手紙の内容を纏めると以下の通りだ。

 

 一つ目。ちょいと急ぎの仕事が入ったから少しの間は会えなくなる事。

 二つ目。帰ってきたら俺に新しい錬金術を教える事。

 三つ目。桜–––母さんが心配しているから早く退院しろとの事。

 

 纏めてみるとこんな内容だった。

 ふむ……急ぎの仕事って何なのだろう。まぁ何年の間海外でバリバリ活躍してたらしいから、こういう事は日常茶飯事なんだろうなぁ。それに母さんも心配してるらしいから早く退院しなきゃなぁ。……ここの飯不味いし。

 

 まぁそんな事よりも、だ。

 

 新しい錬金術……って何のことだろうか。あのホーエンハイムが教える錬金術だから……国土錬成陣の事とか?いやそれはないか。

 

 

「む……にゅぅ……フヘヘ…」

「……あ、忘れてた」

 

 麻弥ちゃんがずっと抱きついて寝てたの忘れてた。ハァ、ほんっとやめて欲しいわ。こうやって抱きつくの……

 

 

 

 

 か"わ"い"い"な"あ"!!も"う"!!

 

 

 

 

 

♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 男は、ある場所に立っていた。周りにはその男を囲うように沢山の木々が生い茂っていた。その木々は風に煽られており、まるで男をこの場から追い払うようかのに揺れている。

 

「……ふむ」

 

 男は周囲を一瞥するとポケットに手を突っ込み、森の中を歩き始めた。気が付けば、空は鉛色へと変貌していて、今からでも雨が降りそうな気配だ。

 

「……おっと、ここは」

 

 歩み続けていると、男は森の中にしては開けている場所に着いた。

 その開けた場所の中心に、男は目を光らせる。

 

「やはりな、ここに奴らがいたか」

 

 そこで誰かが暴れたのか、地面が少し抉れていた。さらにその抉れた所の周りには点々と血の跡が残っている。その跡を見た男は直ぐに勘付いた。

 

 この跡は、数日前に付いたモノだ、と。

 

 

「……ここであの暴食の餌にされたか…それとも、もっと別の何かをされたか……」

 

 男は––––ヴァン・ホーエンハイムはこの場で起きた事を想像すると、顔の眉間を抑えて何かを考え始めた。

 

 

()() ()()()()……もしかして人造人間(ホムンクルス)の……」

 

 

 他に誰もいない……言い換えれば自分一人しかいないその場所で、彼は小さく呟いた。

 

 

 

 

 禁忌を犯すその日まで……彼の息子が真理を見るまで、残り約一年である––––

 





 取り敢えず、第3章はここでお終いです!
 次回からは第4章に入りますが、まぁ多分2、3話でその章は終わっちゃうと思いますがね。あ、あとルート裕也なんですが、番外編として書く事にします。……まぁ簡単に言えば彼の死の真相ってヤツですかね?

 伏線貼りに貼っているようですが、これからも宜しくお願いします!

RASのメンバーを出したいと思っとるんだけど、誰が最初に見たい?

  • レイヤ
  • ロック
  • マスキング
  • パレオ
  • チュチュ

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