ヤンデ"レン"(完結済み)   作:狩宮 深紅

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香蓮ちゃんは書いてて筆がのりますねぇ〜。
そうこうしているうち10話の大台にのりましたね!
今回はGGOは無いですが、その分頑張ってイチャイチャ書いてみました。


閉じ込める彼女

 

僕には閉じ込めようとする(素敵な)彼女がいる。

 

それは香蓮がSJというGGOの大会が終わった後の、とある冬の日の出来事。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

–––––––––––––––––––––

 

窓の外は、白一色の世界だった。

 天気予報が数日前から騒ぎ立てていた通り、都心には数年に一度という大寒波が襲来していた。普段は見慣れたアスファルトの道路も、向かいのビルの屋根も、すべてが分厚い雪の毛布に覆われている。

 風が唸り声を上げ、窓ガラスをガタガタと揺らすたびに、ここが極寒の世界であることを思い出させる。

 

 けれど、そんな外の厳しさとは無縁の場所が、ここにはあった。

 小比類巻香蓮のマンションの一室。

 エアコンの暖房が効いた快適な室内。そして何より、部屋の中央に鎮座する、日本が生んだ文明の利器にして魔性の家具──炬燵(こたつ)。

 

–––流石にこの暖かさには勝てないなぁ。

 

僕は炬燵の中に下半身を沈め、ふぅと息を吐いた。

テーブルの上には、籠に盛られた蜜柑と、湯気を立てる緑茶。テレビからは特番のバラエティ番組の音がのんびりと流れている。

これぞ日本の冬の休日の完成形だ。

 

「うん……。本当に、幸せ……。」

 

すぐ隣から、同じように蕩けた甘い声が聞こえた。

僕の左隣、炬燵のL字型の配置で座っているのは、この部屋の主であり、僕の恋人である香蓮だ。

 

今日の彼女は、いつものモデルのように洗練されたファッションではない。

大きめのグレーのスウェットに、ゆったりとした部屋着のズボン。長い黒髪は無造作に後ろで束ねられている。

いわゆる「彼氏の服を借りました」風のサイズ感だが、これは彼女自身が買ったものだ。身長183センチの彼女が着て、ようやく袖が手の甲を隠すくらいの「萌え袖」になるサイズ。

 

彼女が動くたびに、その長い袖が揺れ、普段のクールな印象とはかけ離れた小動物のような愛らしさを醸し出している。

 

「今日はGGOもお休みして正解だったね。SJも無事に終わったし、こんな日は、銃声よりも〇〇の声を聞いていたいもん」

 

香蓮は蜜柑の皮を丁寧に剥きながら、上目遣いで僕を見た。

その瞳はとろんと潤んでいて、炬燵の熱気のせいか、それとも別の理由か、頬がほんのりと桜色に染まっている。

 

──そうだね。たまにはこうして、何もしない一日も悪くないよ。

 

僕は彼女から手渡された蜜柑の一房を口に放り込む。甘酸っぱい果汁が広がり、炬燵で火照った体に染み渡る。

 

「……ねぇ、〇〇」

 

–––ん?

 

「このまま、時間が止まればいいのにね。春なんて来ないで、ずっと冬のままなら……ずっとこうしていられるのに。」

 

彼女の呟きは、単なるロマンチックな比喩以上の、重たい湿度を帯びていた。

彼女は時折、世界を狭めたがる。

広い世界には、彼女を不安にさせる要素、彼女曰く僕に近づこうとする女性たちが多すぎるかららしい。

だからこそ、この四角い炬燵の中という閉じた世界が、彼女にとっては一番安心できる聖域なのかもしれない。

僕は彼女の頭をポンポンと軽く撫でることで、その不安を肯定も否定もせずに受け流した。

 

 

 

 

 

 

それから一時間ほど、他愛のない会話をしながら過ごしていただろうか。

蜜柑を3個ほど食べたあたりで、流石に喉が乾いてきた。

 

──香蓮、ちょっとごめん。お茶のお代わり持ってくるよ。

 

僕はそう言って、炬燵から出ようと腰を浮かせた。

 

重力に逆らい、膝を立てて立ち上がろうとした、その瞬間だった。

 

–––?

 

動けない。

いや、正確には「足が物理的に固定されている」。

炬燵布団の下。誰の目にも触れない温かい闇の中で、何かが僕の両足に絡みついていた。

それは蛇のようにしなやかで、蔦植物のように執拗で、そして万力のように強靭な力を持っていた。

 

香蓮の脚だ。

 

彼女の細長く綺麗な脚が、僕の足首からふくらはぎにかけてを挟み込み、さらに足首同士をクロスさせてフックをかけることで、完全にロックしていたのだ。

プロレス技で言うところの「コブラツイスト」、あるいは柔術の足関節技に近い。

──あの、香蓮さん? 足、絡まってるよ。

 

僕は体勢を崩しそうになりながら、隣の彼女を見た。

香蓮はテレビ画面を見つめたまま、白々しいほど真顔で答えた。

 

「気のせいだよ。」

 

──いや、気のせいじゃないよ。物理的に引っ張られてるんだよ。僕の両足が、君の美脚によって完全に封鎖されているんだけど。

 

「気のせいです。うん、それはきっと、炬燵の妖怪の仕業です。この炬燵は古いから、たまに人を食べようとするんです。」

 

──これ、先月買ったばかりの新品だよね?

 

僕がツッコミを入れても、彼女は頑としてこちらを見ようとしない。

だが、その澄ました表情とは裏腹に、テーブルの下での締め付けは強まる一方だ。

 

逃がさない。絶対に離さない。

そんな強固な意志が、足の裏の接触面から伝わってくるようだ。

 

──香蓮、お茶飲みたいんだけど。ついでにトイレも行きたいし。

 

「我慢してください。」

 

彼女はようやく僕の方を向いた。

その瞳は、冗談を言っているようには見えない、真剣そのものの光を宿していた。

 

「今、この炬燵の外に出ると危険です。」

 

──危険? 廊下に猛獣でもいるの?

 

「いいえ。寒暖差です。」

 

彼女は真面目な顔で、とんでもない理屈を並べ始めた。

 

「今の炬燵の中と外では、気温差が20度以上あります。そんな環境に無防備に出れば、ヒートショックを起こして心停止する危険性が極めて高いです。私の彼氏を、そんなことで死なせるわけにはいきません。」

 

──いくらなんでもそこまで温度差はないはずだよ。それに僕、まだ20代だし健康だよ?

 

「ダメです。万が一ということがあります。ヒートショックは舐めたら駄目、道産子の私が言うのだから間違いない。それに、〇〇の命は、もう〇〇だけのものではありません。……私のものだから。」

 

最後の一言。

サラッとしかしながら当たり前かのように言う。

彼女は少しドヤ顔で、そしてどこか勝ち誇ったように口角を上げると、さらに足のロックに力を込めた。

彼女の183センチという身長は、長いリーチを生み出す。その長さは、僕を捕獲し、拘束し、支配するために、あつらえたかのように完璧なサイズだった。

 

–––––……僕も香蓮の事は好きだよ。でも僕にも……いや、まぁいっか

 

僕が苦笑して脱出を諦めかけていると、香蓮は僕が抵抗しないのを良いことに、さらに攻勢に出た。

 

ズルズルと体をずらし、なんと上半身まで炬燵布団の中に潜り込ませてきたのだ。

 

当然、L字型だった配置は崩れ、彼女は僕の真横──いや、ほとんど僕に覆いかぶさるような体勢になる。

 

「……ん。」

 

彼女は僕の肩に頭を預け、長い腕を僕の腰に回し、長い脚で僕の脚を絡め取る。

全身を使って、僕という存在をホールドしにかかっていた。

狭い炬燵の中は、彼女の独壇場だ。

逃げ場はない。前後左右、どこを向いても彼女の体温と、甘い香りが僕を包囲している。

 

「……私、今この瞬間は大きくてよかったって思うよ。」

 

香蓮が僕の耳元で、熱っぽい吐息と共に囁く。

その声は、震えるように甘く、そして深い喜びに満ちていた。

 

「昔は、この長い手足が大嫌いだった。可愛くないし、普通の服は入らないし、みんなジロジロ見るし……怪物みたいで。」

 

彼女の足が、僕のふくらはぎを愛おしむように、ゆっくりと擦り上げてくる。

スウェット越しの感触。骨格の形まで分かるほどの密着度。

 

「でも、今は違う。この長さがあるから……こうして〇〇を、どこにも行けないように包み込んであげられる。」

 

彼女は僕の胸に顔を埋め、グリグリと頭を押し付けてくる。

 

「GGOのアバターみたいな小さい手足じゃ、〇〇を逃がしちゃうかもしれない。でも、現実(この)私なら大丈夫。〇〇の全部を、私が檻になって閉じ込めておけるから。」

 

彼女は、自身の最大のコンプレックスだった「高身長」を、今この瞬間、最大の武器として肯定していた。

 

愛する人を拘束し、独占するための、最強の道具として。

他の人から見たら少しおかしいと言うかもしれない、けれどあまりにも純粋で切実な愛の形に、僕は愛おしさを覚えた。

香蓮は不安なのだろう。

僕がふらりと立ち上がって、彼女の手の届かない場所へ行ってしまうことが。

炬燵の外という「彼女の支配が及ばない世界」に、僕が出ていくのが怖いのだ。

ならば、答えは一つだ。

香蓮のその不安を、丸ごと受け止めてあげることだけ。

 

──……まぁ、香蓮がそう言うなら仕方ないか。

 

僕は立ち上がるのを完全に諦め、力を抜いて再び炬燵の中に深く座り直した。そして、彼女が潜り込んできたことで捲れかけていた炬燵布団を掴むと、二人の肩までしっかりと掛け直した。

 

––––なら、こういうのはどうかな?

 

外の冷気を完全に遮断し、二人だけの密室を作り上げる。

 

「え……?」

 

予想外の行動に、香蓮が驚いたように顔を上げる。

僕は彼女の腰に回された腕の上から、自分の腕を重ね、さらに強く自分の方へと引き寄せた。

密着度は限界突破。お互いの鼓動が重なり合う距離だ。

 

──お茶もトイレも、後回し。君の言う通り、外は危険すぎるからね。命には代えられない。

 

「〇〇……?」

香蓮がキョトンと目を丸くする。

僕は彼女の瞳を真っ直ぐに見つめ、優しく微笑んだ。

 

──これなら、春になるまでここから出られないね。

 

「えっ」

 

──この部屋の食料、蜜柑だけだと厳しいかもしれないけど……まあ、なんとかなるかな。冬が終わって、雪が溶けるまで……二人きりで冬眠してみる?

 

僕の提案に、香蓮の思考が一瞬停止するのが分かった。

彼女は僕を監禁するつもりだった。僕の自由を奪い、困らせてでも独占するつもりだった。

それなら僕も少しイタズラで仕返しをしてやろう。そう思った僕はそれを許すどころか、自ら進んで「共に閉じこもる」ことを選んだのだ。

彼女の顔が、みるみるうちに真っ赤に染まっていく。

それは炬燵の熱気のせいではない。心臓が爆発しそうなほどの喜びと、羞恥と、幸福感が一度に押し寄せたからだ。

 

「……ほんとに? 春まで、ずっと?」

 

震える声で確認してくる彼女に、僕は頷く。

 

──うん。ずっと一緒だ。君のその長い脚の檻は、居心地が良すぎるからね。出るつもりはないよ。

 

僕の言葉に、香蓮は沸騰したヤカンのようにあっぷあっぷと口を開閉させ、目がぐるぐる状態になっている。やがて耐えきれなったのか香蓮は僕の胸に顔を埋める。

 

「……ん。大好き。……愛してる」

 

くぐもった声と共に、下半身のロックがさらに強まる。

けれどそれは、痛みを伴う拘束ではない。絶対に離れたくないという、甘えと依存の抱擁だった。

 

「……まぁ、春が来ても、出してあげませんけど。」

 

彼女の小さな独り言が聞こえた気がしたが、僕は聞こえないふりをした。

代わりに、彼女の背中をゆっくりと撫でてあげる。

 

この時間はきっと彼女にとって1番安心できて、僕にとっても香蓮にとっても幸せな時間を可能な限り一緒に共有したいから。

 

––––僕も愛してるよ、香蓮。

 

 

 

 




これを書いているときに本当に小説の描写のように雪が降っててびっくりしました。
皆様雪道にどうかお気をつけて。
また感想を頂けると嬉しいです。
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