ヤンデ"レン"(完結済み)   作:狩宮 深紅

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最近アニメを見返しました。
香蓮ちゃんはやっぱり可愛いですねぇ〜。
今回はその中で見つけた空白期間を活用した話です。
また楽しんで頂けると嬉しいです。


心配性な彼女

 

僕には良い友人を持った(素敵な)彼女がいる。

今回はGGOの大会の間の、香蓮の帰省について行った日の出来事。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三月の北海道は、まだ冬の支配下にあった。

新千歳空港に降り立った瞬間、突き刺すような冷気が頬を叩く。東京の空気とは密度が違う、澄んだ、しかし容赦のない寒さだ。

僕は思わず身を震わせ、コートの襟を合わせた。

 

「……寒いね、〇〇」

 

隣で、小比類巻香蓮が僕の腕にぎゅっとしがみついてきた。

彼女は生まれも育ちも北海道のはずだが、寒がりなのは相変わらずだ。いや、むしろ「寒い」という事実を、僕に密着するための正当な理由にしている節がある。

 

──そうだね。でも、香蓮がくっついてくれてるから暖かいよ。

 

「ん、私も。〇〇は私のカイロ代わりだからね」

 

彼女は嬉しそうに微笑み、183センチの長身を少し屈めて僕の肩に頭を預ける。

周囲の視線が集まるが、彼女は全く気にしていない。むしろ「この人は私のもの」と見せつけるように、腕を絡める力を強めた。

 

今回の帰省は、春休みを利用した旅行──という名目だが、実質的にはもっと重い意味を持っている。

 

彼女の両親への挨拶。つまり、将来を見据えた「顔見せ」だ。

空港で捕まえたタクシーの中で、香蓮はずっと不満げに頬を膨らませていた。

 

「……はぁ。憂鬱」

 

──どうしたの? 久しぶりの実家なのに。

 

「だって、実家だと部屋が別々なのが辛いもん……。東京のマンションなら、ずっと〇〇と一緒にいられるのに。夜に〇〇の匂いを補充できないなんて、私、干からびちゃうかも。」

 

彼女は本気で心配しているようだ。

まだ到着してもいないのに、すでに「夜の分離」を嘆いている。その重たくも愛おしい依存性に、僕は苦笑しながら彼女の手を握り返した。

 

──大丈夫だよ。昼間はずっと一緒にいられるんだから。それに、ご両親の前でベタベタしすぎると、僕の印象が悪くなっちゃうよ?

 

「むぅ……。お父さんなんて無視していいのに。」

 

香蓮は拗ねたように窓の外へ視線をやった。

雪景色の中を走る車は、やがて閑静な高級住宅街へと入っていく。

 

 

 

 

 

 

「到着しました」

 

––––ありがとうございます。

 

 運転手さんの言葉に促され、車を降りる。

 目の前に現れたのは、モダンで洗練されたデザイナーズマンションのような豪邸だった。

 

コンクリート打ちっぱなしの壁に、大きなガラス窓。広大な敷地には手入れされた洋風の庭園が広がり、ガレージには高級車が収まっている。

 

香蓮が「お嬢様大学」に通っていることや、都内の一等地にマンションを持っていることから、裕福な家庭だとは想像していたが、まさかこれほど現代的な豪邸だとは。

 

──……すごいね。本当にお洒落なお家だ。

 

「そう? 広いだけで掃除が面倒なだけだよ。……さ、入ろ?」

 

香蓮は気負う様子もなくセキュリティのしっかりした門を開けるが、僕は自然と背筋が伸びる思いだった。

玄関を開けると、上品な服装の女性が出迎えてくれた。香蓮のお母様だ。

「あら、お帰りなさい香蓮。それに、あなたが〇〇さんね? よく遠いところまで来てくれました」

 

──初めまして。〇〇と申します。本日はお招きいただきありがとうございます。

 

「ふふ、そんなに堅くならないで。さ、上がって。リビングで主人が待っていますから。」

 

お母様は穏やかな笑顔で迎え入れてくれたが、「主人が待っている」という言葉に、ピリッとした緊張感が走る。

 

通されたリビングは吹き抜けになっており、暖炉の炎が揺らめいている。

そして、その中央にある外国製の革張りソファに、腕を組んで座る一人の男性がいた。

香蓮のお父様だ。

厳格そうな顔立ち。眼鏡の奥から放たれる眼光は鋭く、品定めするように僕をじっと見据えている。

 

「……座りたまえ。」

 

短く告げられた言葉に従い、僕はソファに座った。香蓮も僕の隣に座るが、その表情はどこか強張っている。

流石に両親の前では、彼女の普段の激しい激情も鳴りを潜めている様子だ。

 

苦しい沈黙が流れた。

お母様が紅茶を出してくれる音だけが、部屋に響く。

何とかこの状況を変えるため意を決して口を開く。

 

–––––去年の夏頃の香蓮の旅費を出していただいた件、本当にありがとうございました。おかげさまで香蓮ととても楽しい時間を共有できました。

 

僕の言葉にお父様は一口紅茶を飲むと、ゆっくりと口を開いた。

 

「あぁ、あの時の件か。香蓮の頼みだからな、君も楽しんでくれたなら良かった。」

 

そういうお父様の言葉はよくあるものではあるが、雰囲気と声色は厳格な様相であり、僕もそれ以上の言葉を紡ぐことができなかった。

そんな僕の雰囲気を知ってか知らずか香蓮のお父様が僕を真っ直ぐ見据えて話す。

 

「……単刀直入に聞こう。君は、まだ学生の身で、娘とどういうつもりで付き合っている?」

 

低い声だった。威圧感がある。

単なる遊びではないか、大事な娘をたぶらかしているのではないかという、父親としての警戒心。

 

──真剣に、お付き合いさせていただいています。将来、結婚することも視野に入れています。

 

僕は視線を逸らさずに答えた。

お父様の眉がピクリと動く。

 

「結婚、か。……口で言うのは簡単だ。だが、君にその覚悟があるのかね?」

 

お父様はチラリと隣の香蓮を見た。

 

「知っての通り、香蓮は背が高い。世間一般の女性とは違う。本人もそれを気に病んでいる。……君に、そのコンプレックスごと娘を受け入れる度量はあるのか? 一時の感情や、物珍しさで付き合っているのではないか?」

 

それは、香蓮自身がずっと抱えてきた「呪い」に触れる問いだった。

自分が「普通」ではないという苦しみ。それを共有し、支えきれるのかと問われているのだ。

 

隣で香蓮が膝の上で拳を握りしめているのが分かった。

僕は迷わなかった。

 

息を吸い、はっきりとした声で告げる。

 

──コンプレックスと仰いますが、僕にとっては彼女の長身こそが最大の魅力です。

 

「……ほう?」

 

──彼女のモデルのような美しいスタイルも、それに見合わないほど繊細で傷つきやすい内面も、その全てを愛しています。

 

僕は言葉に熱を込める。

これはお父様への回答であると同時に、隣にいる香蓮への愛の誓いでもある。

 

──背が高いから目立つ? それは素晴らしいことです。どこにいても、すぐに見つけられますから。僕は、香蓮以外は考えられません。彼女が自分のことを好きになれるまで、いや、好きになってもらえなくても、僕がその倍以上、彼女を肯定し続けます。

 

そして、僕は続けて具体的な将来設計についても語った。

現在の学業の状況、就職活動の見通し、そして二人でどのような家庭を築きたいか。

夢物語ではなく、現実的なビジョンとして。

まぁ、バッドエンドとして香蓮とデキ婚してしまう可能性も有るのだが……。流石にそれは言わなかった。

 

 

 

僕が話し終えると、再び沈黙が訪れた。

お父様は驚いたように目を見開き、言葉を失っているようだった。

その静寂を破ったのは、隣にいた香蓮だった。

 

「……お父さん!!」

 

彼女は僕の腕を強く抱きしめると、潤んだ瞳で父親を睨みつけた。

それは反抗期のような甘いものではなく、愛する者を守ろうとする雌豹のような気迫だった。

 

「彼を試すような真似は止めてよ! 失礼だよ!」

 

「か、香蓮……」

 

「〇〇の言った通りだよ。この人は……この人は、私の『命』なの。私の全てを受け入れて、愛してくれる唯一の人なんだから!」

 

彼女の声が震える。

 

「もしお父さんが彼を認めないなら……私、一生独身で家に引きこもるから! 誰とも結婚しないで、死ぬまでお父さんを恨み続けてやるんだから!」

 

とんでもない脅し文句だった。

一生独身で引きこもり。娘を溺愛しているお父様にとっては、核ミサイル級の破壊力を持つ言葉だろう。

お父様は口をパクパクとさせ、やがて深いため息をつくと、ガクリと肩を落とした。

 

「……負けたよ。」

 

 その顔からは、険しい表情が消え、どこか寂しげで、しかし安心したような笑みが浮かんでいた。

 

「あんなに引っ込み思案だった香蓮が、男のために親に食ってかかるとはな……。よほど、いい男を見つけたようだ。」

 

お父様は僕に向き直り、頭を下げた。

 

「すまなかった、〇〇君。意地悪なことを言った。……娘を、頼む」

 

──はい。必ず、幸せにします。

 

「うむ。……今日は泊まっていきなさい。積もる話もある。酒は飲めるかね?」

 

──はい、少しなら。

 

その夜、僕は香蓮のお父様と二人で、夜遅くまで酒を酌み交わすことになった。

酔ったお父様が「香蓮の小さい頃のアルバム」を持ち出し、それを香蓮が必死に阻止しようとする騒ぎも含めて、僕たちは完全に打ち解けることができたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––

 翌日。

香蓮の実家での緊張から解放された僕たちは、香蓮の地元の友人に会うために駅前へと来ていた。

待ち合わせ場所に現れたのは、小柄で金髪の女性。

以前、香蓮のマンションで一度会ったことのある、篠原美優だ。

 

「よっ! 久しぶりだね、こひー。それに、〇〇君も久しぶり」

 

美優さんは値踏みするように僕をジロジロと見る。

香蓮が僕の腕にべったりと張り付いているのを見て、呆れたように肩をすくめた。

「うわぁ……。あんたたち、東京行ってさらにバカップル化が進んでない? ここ公衆の面前だよ?」

 

──久しぶりだね、美優ちゃん。まあ、いつものことだから。

 

「はいはい、ご馳走様。ま、立ち話もなんだし、カラオケでも行こうか。こひーも話したいことあるでしょ」

 

美優さんの提案で、僕たちは近くのカラオケボックスへと入った。

 

個室に入り、適当に曲を入れて盛り上がっていると、不意に香蓮が立ち上がった。

 

「私、ちょっとジュース入れてくるね。あとお手洗いも」

 

──一緒に行こうか?

 

「ううん、大丈夫。すぐ戻るから」

 

香蓮はそう言って部屋を出て行った。

だが、扉が閉まる直前、彼女が美優さんに向けて小さく目配せをしたのを僕は見逃さなかった。

 

……なるほど、そういうことか。相変わらず可愛いことするじゃないか。

 

香蓮が部屋を出て、少し経った頃。

美優さんが動いた。彼女は自分の席から立ち上がると、僕の隣──香蓮が座っていた場所にするりと滑り込んできた。

 

距離が近い。香蓮とは違う、柑橘系の香水の匂いがする。

 

「ねぇ、〇〇君」

 

美優さんは甘い声で囁きかけ、僕の太ももに手を置いた。

 

「単刀直入に聞くけどさ。……香蓮のどこがいいの?」

 

──え?

 

「だ、だってさー?デカいし、可愛げないし、重いし。友達としてなら面白いけどあの子、付き合うと面倒くさいでしょ? ヤンデレ気質だし。」

 

美優は上目遣いで僕を見つめ、自分の胸元を強調するように身を乗り出す。

 

やはりおかしい。香蓮から聞く美優さんも、以前会った彼女も、こんなあからさまな誘惑をする人じゃない。それに、どこかぎこちない。

 

まあ、つまり、そういうことなのだろう。どちらから言い出したのは分からないけど。

 

「その点、私はどう? 小柄で、スタイルもそこそこいいし、気も利くよ? 私の方が扱いやすいし、可愛いと思わない?」

 

それは明確な誘惑だった。

彼女候補にどう? という、悪魔の囁き。

以前、一度会った時も冗談めかして言っていたが、今回はより踏み込んだ「テスト」のようだ。

もちろん、僕の答えは最初から決まっている。

 

僕は美優の手をそっと退け、迷う素振りゼロで即答した。

 

──ごめん、美優さん。君もとても魅力的だけど、興味ないよ。

 

「……え、即答? もうちょっと迷ってもよくない?」

 

──迷う必要がないからね。

 

僕は部屋の扉の向こう──そこにいるであろう愛しい彼女に向けて言葉を紡ぐ。

 

──僕は、背が高くて、ちょっと不器用で、僕のことを重いくらい愛してくれる香蓮じゃなきゃダメなんだ。

 

「……ふーん?」

 

──扱いやすいとか、そんなのは関係ないよ。僕は、彼女のその「面倒くさい」ところも含めて、全部が愛おしいんだ。他の誰かがどれだけ可愛くても、香蓮の代わりにはならないよ。

 

僕の言葉に、美優さんはキョトンとして、それから「ぷっ」と吹き出した。

 

「あはは! こりゃ完敗だわ。こひーがゾッコンになるわけだ。」

 

 その時だった。

 ガチャリ、と扉が静かに開いた。

 

「……〇〇」

 

入ってきたのは、全身から幸せオーラを隠しきれない、蕩けるような笑顔の香蓮だった。

彼女はゆっくりと僕に近づくと、美優と僕の間に割り込むようにして座り、僕の腕にぎゅっとしがみついた。

 

「ごめん、お父さんの前でも言ってくれたんだけど、やっぱりちょっと怖くなって……。私も〇〇のこと大好き、愛してる♡」

 

彼女は僕の肩に頭を乗せ、うっとりとした表情で僕を見上げる。

そのデレデレ具合に、美優は苦笑いを浮かべた。

 

「はいはい、合格合格。ごちそうさま。……あーあ、やってらんねーわ。目の前でイチャつかれて、私はピエロ役とかさぁ……。」

 

美優が冗談めかして愚痴をこぼす。

すると、香蓮が僕に抱きついたまま、美優の方へ顔を向けた。

その顔は満面の笑みだったが、声のトーンだけが一段低くなった。

 

「……美優?」

 

「ん? なに、こひー?」

 

 香蓮は美優に聞こえるだけの小さな声で、しかしはっきりと囁いた。

 

協力してくれたのは感謝するけど……ちょっと〇〇に近づきすぎ。太もも触ってたよね? 胸も押し付けてたよね? ……あとでじっくり『お話』があるからね?

 

「ひえっ……」

 

 美優の顔が引きつる。

 香蓮はニコニコと笑ったまま、僕の方へ向き直り、何事もなかったかのように甘え始めた。

 

「さ、〇〇。もっと歌お? 今度は私とのデュエットね。」

 

──あはは、そうだね。美優さんも一緒にどう?

 

「……い、いや、私は遠慮しとくわ。命が惜しいし……。」

 

 美優は遠い目をしながら、ドリンクバーのグラスに口をつけた。

 

 こうして、北海道での試練──実家への挨拶と、親友からのテスト──は、僕たちの絆をより強固なものにして幕を閉じた。

 外の寒さは相変わらずだったが、僕の左腕に絡みつく彼女の体温は、いつまでも温かかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––

 

無事、長旅も終わり、都内の寒さもひと段落して春の暖かさを感じさせる。東京に帰ってきた僕たちは香蓮のマンションまで帰ってきていた。

 

「ねぇ〇〇、私が参加したSJの録画ってもしかして見た?」

 

–––––もちろん見たよ、最後の戦いの香蓮とてもかっこよかったね。

 

「え〜、ほんとに?〇〇がそういうなら〜。」

 

タクシーの中で見たメールで何か複雑そうな表情をしていたが、聞いても今は僕のことを優先したいとはぐらかされてしまった。

だけど、今の香蓮はとても機嫌良さそうで僕も嬉しい。

 

ピッ、という電子音が鳴りマンションのロックが開かれる。

僕達がマンションの中に入ろうとしたその時–––––––。

 

「小比類巻、香蓮さん、ですよね?」

 

「ん?はい、そう、ですけど……?」

 

 

––––失礼ですが、どちら様でしょうか?、香蓮の知り合い、には見えませんが。

 

振り向いた香蓮と男性の前に割って入り、香蓮を守るように男性に尋ねる。

 

そこには僕たちよりも年上の、顔の整った男性。

数分後に知ることになったのだが、香蓮がSJで共に戦った人物。

GGOの中では"M"と名乗るプレイヤー、阿僧祇豪志さんとの出会いだった。

 

 




次の話はSJ2の内容を書きます。
私がこの小説を書き始めた時から描写したかったシーンがありますので、楽しみにしてください。
まあ、もしかしたら既に気づいている方もいるかもしれませんが…。

感想など頂けると嬉しいです。
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