今回書きたいことを詰め込んだので、是非楽しんで頂けると嬉しいです。
SJ編は3話構成で書くつもりですのでよろしくお願いいたします。
「頼む……! 君たちしかいないんだ!」
デザイナーズマンション特有の、冷ややかなコンクリート打ちっぱなしのロビー。
彼はその硬い大理石の床に、額を擦り付けんばかりの勢いで土下座をしていた。
そう、彼の名前は阿僧祇豪志さん──GGOでの「M」だ。
「今度のSJ2で……君たちの手で、ピトフーイを殺して欲しい。」
人気のないエントランスに、彼の悲痛な声が反響する。
隣に立つ香蓮が、眉をひそめて僕の腕にしがみついた。
「……阿僧祇さんでしたよね、顔を上げてください。他の住人の迷惑になります。それに、いきなり殺してくれなんて……たかがゲームの話ですよね?」
香蓮の言葉はもっともだ。
だが、豪志さんはガバッと顔を上げると、血走った目で首を横に振った。
「今回ばかりは遊びじゃないんだ。彼女は……ピトフーイは、『今回のSJ2で死んだら現実世界でも死ぬ』と言っている。」
「は……?」
「彼女はずっと焦がれていたんだ。SAO事件のような、本物のデスゲームに。彼女が今回のSJ2で死んだら、彼女は自らの命を絶つだろう。あの女は……本気だ。」
あまりに突飛で、狂気じみた話だった。
香蓮は自販機で購入した缶を眺めながら、溜め息混じりに諭すように言った。
「阿僧祇さん。ピトさんが変な人なのは知ってますけど、流石にそれは悪い冗談ですよ。負けたら自殺するなんて……そんなの、私たちが付き合いきれる話じゃありません」
「冗談じゃない! 僕は彼女を愛している、愛しているからこそ、彼女が嘘を言っているかどうかなんて分かる!」
「だとしてもです。もし私たちがピトさんを倒して、本当にピトさんが死んじゃったらどうするんですか? 私たちに人殺しの片棒を担げって言うんですか? ……何より、私の大切な〇〇を、そんな狂った遊びに巻き込みたくありません」
香蓮は拒絶の意思を示すように、僕の腕を抱きしめた。
彼女の優先順位は明確だ。僕の平穏が第一であり、他人の狂気に付き合う義理はない。
だが、豪志さんは引かなかった。
彼はテーブルの上で拳を握りしめ、震える声で食い下がった。
「他に頼める人間がいないんだ! 彼女を満足させて倒せるのは、香蓮さん、君しかいない!」
「そう、言われましても…。」
ガタンッ!!!
渋る香蓮に対して、焦りと苛立ちが混ざった表情をしながら彼、阿僧祇豪志は勢いよく立ち上がり、座っていたソファーを倒した。
咄嗟に手を伸ばし香蓮を背に守る。豪志さんは僕達に語りかけているが香蓮を守る僕には目もくれず香蓮だけを見ていた。
「君たちには分からないはずだ!」
僕たち以外に誰もいないこの場所で、彼の悲痛な叫びが反響する。
「君たちのような、温室で守られた学生同士の青臭い恋愛とは違う! 僕とピトフーイの間にあるのは、そんな生ぬるい関係じゃない!」
「今まで1度でも有るのか? 誰かを心の底から本気で愛したことが!自分の命を全て捧げても良いと思えるほどの相手と、愛し合ったことがあるか!」
静まり返ったエントランスに、彼の荒い息遣いだけが響く。
その沈黙を破ったのは、香蓮のヒールの音だった。
カツン、と。
香蓮は彼女を守っていた僕の腕を優しく払い、香蓮が一歩、豪志さんへ近づいた。
「……阿僧祇さん」
彼女の声は静かだった。けれど、その冷たさは外の寒さよりも遥かに鋭かった。
香蓮は、普段コンプレックスから少し丸めがちな背筋を、スッと伸ばした。
183センチの長身が、眼前の彼を絶対零度とも言える視線で見下ろす。
「眼科、行った方がいいんじゃない?」
香蓮は僕の手を握ったまま、ハイライトの消えた瞳で豪志さんを射抜くように見下ろした。
「見えないの? 私の『全て』は、今ここにありますけど」
「……っ」
気圧されたように、豪志さんが僅かに後ずさる。
「この人のためなら、命なんて安いものだよ。私はいつだって、〇〇のためなら死ねるし、〇〇のためなら誰だって殺せる。……私たちの愛を、あなたたちの物差しで勝手に測らないで。」
香蓮の手が、僕の腕に強く食い込む。
「訂正して。……じゃないと、その舌──二度と喋れないように引き抜きますよ?」
ナイフなどない。
けれど、日が沈み掛け薄暗くなり始めているエントランスで放たれたその言葉は、凶器よりも鋭く豪志さんの喉元に突きつけられた。
本物の殺気。
豪志さんは、言葉を失い、強烈な狂気のカウンターに戸惑っていた。
確かに、阿僧祇豪志も香蓮に彼氏がいると判明した段階でムキになって反論してくるだろうとは予想していた。その上で理解されはしないだろうと。
しかし、実際に香蓮から向けられたのは彼の予想を大きく外れた自分と同等かそれ以上の狂気。
場の空気が限界まで張り詰める。
僕は静かに香蓮の手を握り、その緊張を解きほぐすようにポンポンと撫でた。
──香蓮、ストップ。……豪志さんも、落ち着いてください。
僕は二人の間に割って入り、豪志さんの目を真っ直ぐに見つめた。
──豪志さんの必死さは伝わりました。貴方の抱えているものが、僕たちの想像を超える愛であることも。
「……」
──でも、僕たちもまた、お互いを何よりも大切に思っています。形は違えど、愛ゆえの狂気には多少理解があるつもりですから。……ね、香蓮?
僕が微笑みかけると、香蓮はふぅっと息を吐き、憑き物が落ちたように表情を緩めた。
「……ん。〇〇がそう言うなら、仕方ないね」
香蓮は僕の肩に頭を預け、豪志さんに向き直った。
「分かりました。引き受けます。……その代わり、覚悟してくださいね?〇〇を巻き込んだことは、GGOの中できっっっっっっちりと、精算してもらいますから。」
その言葉に、豪志さんは力が抜けたように地面に座り込む。
その顔には、深い疲労と、そして一筋の希望が見えた。
「……すまない。そして、ありがとう……」
こうして、僕たちのSJ2への参加が決まった。
それは、一人の狂った女性を止めるためであり、後に思い出すのだが、僕も のGGOでのデスペナルティをかけた大きな戦いに。
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そして、SJ2当日。
僕たちはGGOの待機エリアにある酒場に集まっていた。
いやぁ、香蓮が酒場に入ってきた時の歓声はびっくりしたよ。流石に前回優勝者だったから人気が出るのも頷けるね。
…僕の方は好奇な目線を浴びていたんだけど。
今回のチームメンバーは3人。
リーダーのレン、そして僕。最後に現れたのが、ALOからコンバートしてきた頼れる助っ人だ。
「よっ! お前ら相変わらず熱いねぇ! 酒場の入り口まで甘い匂いが漏れてたぞ!」
両肩に巨大なグレネードランチャーを担いだ金髪の小柄アバター。フカ次郎だ。
彼女は豪快に笑いながら近づいてきたが、僕の姿を見た瞬間、その笑顔がピタリと固まった。
「……おい、待て」
フカ次郎が僕を指差す。
「なんだ、その頭」
僕の装備は、前回カジノで手に入れた重装備に加え、頭部に「ある特殊なヘルメット」を装着していた。
全体的に白く角張ったフォルム。そして額の部分には、特徴的な黄色いV字のアンテナが輝いている。
いわゆる、国民的ロボットアニメの「顔」を模したヘルメットだ。
「ぶふっ! お前、それガンダ〇じゃねぇか! 著作権的に大丈夫なのかそれ!?」
──いや、これはレンが「〇〇の顔を見られると悪い虫が寄ってくるから、物理的に隠せ」って言うから……。
僕はヘルメットの中で苦笑した。
レンは真顔で、さも当然のように頷く。
「はい。完璧な防虫対策だよ。顔が見えなければ、〇〇に一目惚れする泥棒猫も減るはずだから」
「いや、逆に目立つだろそれ! 戦場で一番狙われるわ!」
フカ次郎のツッコミもっともだ。
だが、この装備にはさらなるギミックがある。
──それにこれ、面白い機能があってさ。見てて?
僕はヘルメットの側面にあるスイッチを操作した。
すると、顔面を覆うバイザーの奥で、ピンク色のカメラアイが左右交互に発光し起動音を発した。
『グポォン……』
腹の底に響くような、独特の重低音。
それ聞いたフカ次郎が、目を見開いて叫んだ。
「TB(サンダーボルト)じゃねぇか!!」
彼女はわなわなと震えながら、僕とレンを交互に見た。
「お前ら……武器がビームマグナムもどきだからって、SEまでこだわってんじゃねーよ! しかも 『グポォン……』ってことはフルアーマーの方かよ! 連邦の白い悪魔の皮を被ったジオン系MSとか、設定が渋滞してんだよ!いや、元ネタ的にそうなんだろうけど!!」
「よく分からないけど、〇〇がカッコいいからいいじゃない。強そうだし、一応ちゃんと光学武器用のフィールドも付いてるし。」
レンは満足そうに僕のV字アンテナを撫でている。
どうやら彼女にとって、ガンダムネタはどうでもよく、「僕の顔が隠れていること」だけが重要らしい。
「はぁ……。先が思いやられるわ。あたし、銃弾で撃たれる前にツッコミ過多で死ぬかもしれん。」
フカ次郎は深くため息をつき、ジョッキの水を煽った。
––––––––––––––––––––
フィールドへの転送時間が迫ってきた。
レンが僕に向き直り、天使のような(しかし背景に黒い翼が見えるような)笑顔を向けた。
「そういえばさあ、〇〇。約束は覚えてるよね?」
──……え?
僕は直立不動で答える。何かとてつもなく嫌な予感がする。
エントリー前に思い出してしまった、あの契約
「もし今回の大会で〇〇が死んだら(1デス)……責任を取って、リアルで生えっちします。この前した約束、忘れてないよね?♡」
レンの声が弾む。
––––あー、そういえばそうだったね。うん、忘れては無いよ、忘れては…。
最近は香蓮にほとんどキャリーされてたから死ぬことは無かったから半分忘れかけていたけど…。
「大丈夫、前も言ったけどできたとしたら学生結婚して、大学は退学。その後は私が一生養ってあげるから、安心して
(死んだら社会的にヤバい人間になってしまう!?)
「まー、〇〇の心配性もわかってるからさ、1つご褒美。その武器、HMBMは撃つたびに自傷ダメージを受けるよね? ……撃って減ったHPの分だけ、終わった後にHP1割に付き1回『濃厚な治療』でご褒美をあげます!」
彼女は舌なめずりをするような仕草を見せた。
ステータス上げて頑丈になったとはいえまだ一発撃つだけでHPが3割削れるのに!?
––––ご、褒美…?
「うんっ!キスの雨か、それともマーキングか……。〇〇の身体が蕩けるくらい、たっぷりとね」
──(もしかしなくても詰みか?火力として持ってきたコイツだけど撃ったら貞操の危機か……!?)
つまり、僕は「死んでも地獄(天国?)」、「戦っても地獄(天国?)」という、逃げ場のない状況に追い込まれているわけだ。
フカ次郎が遠い目で天井を見上げた。
「こいつらイカれてやがる–––––。……敵チームの皆さん、どうかこいつらを爆発させてくれ。」
視界がホワイトアウトし、次の瞬間、僕たちは荒廃した都市フィールドに立っていた。
第2回スクワッド・ジャム、開幕だ。
「敵影確認! 10時の方向、距離200!」
開始早々、フカ次郎の声が響く。
廃ビルの陰から、規格が統一されている小銃、(恐らくアサルトライフルだろうか)を持った6人組のチームが現れた。
「おい! 変なヘルメット被った奴がいるぞ! 」
「集中砲火だ! まずあの白い奴から潰せ!」
「「「「了解!」」」」
––––ですよね!
敵の銃弾が雨のように降り注ぐ。
僕たちは慌てて近くの遮蔽物に隠れた。
敵は頑丈なコンクリート壁の裏に陣取り、そこから一方的に撃ちこまれていた。
「ちっ、あそこじゃあたしのグレネードが爆風込でも当たらねえ! 直線的すぎて狙い撃ちされるわ!」
フカ次郎が舌打ちする。
膠着状態だ。迂回しようにも、開けた場所を通らなければならず、リスクが高い。
その時、レンが冷徹な声で言った。
「〇〇。邪魔だよ、あれ」
──え?
「あの壁。邪魔だから、壁ごと消して」
──えっ、ここで!? まだ序盤だよ!?それにここで撃ったらかなり目立つよ?
僕が躊躇していると、レンが悲痛な(演技じみた)声を上げた。
「あっ、危ない! このままだと敵の弾が私に当たっちゃうかも……! 私のか弱いアバターじゃ耐えられないよぉ……」
嘘だ。彼女のAGI(敏捷性)なら、あの程度の弾幕はダンスを踊るように躱せるはずだ。
だが、僕の本能が彼女の危機(という演技)を見過ごすことができなかった。
──(香蓮を危険には晒せない、か…。)
僕は覚悟を決めた。
背中のハイパーメガブラスターマグナムを引き抜く。
その重量感。そして禍々しいまでのエネルギー充填音。
──レン、走り抜けて!ビル群を横切るだけでいい!
僕は遮蔽物から身を乗り出し、敵が隠れているコンクリート壁に照準を合わせた。
先行したレンがビルの後ろに隠れていた射線を一気に引き付けてくれていた。敵チームの射撃予測線は全てレンの姿を後追いをしている。
迷いはいらない、バレットサークルを絞りトリガーを––––––––––引く。
『ドギューーーーン!!』
戦場に似つかわしくない、SF映画のような極太の発射音が轟いた。
銃口から放たれたのは、弾丸ではない。純粋な破壊の光だ。
光の奔流は、厚さ50センチはあるコンクリート壁を、まるで濡れたティッシュのように貫通した。
いや、貫通ではない。蒸発させたのだ。
「は? なに今の──。」
壁の裏でリロードしていた敵プレイヤーたちは、何が起きたのか理解する間もなかっただろう。
壁ごと、不運にも直撃コースに居た彼らのアバターは光の中に消えた。中心から逸れていた為掠めただけのプレイヤー達も上半身のそれぞれ左右が抉れていた。
「掠めただけで!!?」
ドォォォォン!!
ダダダダダダダダダダッ!!
遅れて爆発音が響き、廃ビルの一部が崩落する。HPがギリギリ残っていたプレイヤーも香蓮がとどめを刺す。
システムログには、6人分の《Dead》の表示が連続して流れた。
「……はぁ!?」
フカ次郎が口をあんぐりと開けて、消滅した壁と敵チームの残骸を見つめた。
「壁ごと抜きやがった! お前それ、音だけじゃなくて火力までビームマグナムじゃねぇか!! どんなバランスブレイカーだよ!!」
敵は全滅した。
だが、代償はすぐにやってくる。
「いったぁ……!!」
僕の右腕から、バシュッという音と共に大量の赤いポリゴンエフェクトが噴出した。
HMBMの強烈な反動ダメージ。HPバーが一気に3割ほど消し飛ぶ。
「〇〇ーーッ!!」
勝利の喜びよりも先に、ピンク色の弾丸が僕に飛び込んできた。
レンだ。
彼女は僕の傷ついた右腕に抱きつき、その赤いエフェクトを愛おしそうに見つめた。
「あぁっ! 〇〇の腕が! かわいそうに、痛いよね!? ごめんね、私のために……!」
彼女は手早く回復アイテムを取り出し、僕の腕に押し当てる。
だが、その目は心配だけではなく、どこか興奮に潤んでいた。
頬を紅潮させ、荒い息を吐きながら、僕を見上げる。
「……でも、私のために傷ついてくれたその姿……ゾクゾクする♡ 素敵だよ、〇〇……。」
彼女の手が、治療という名目で僕の腕を這い回る。
「HPが減った分だけ……あとでたっぷり『ご褒美』させてね? 約束だよ?」
──あはは……お手柔らかに頼むよ。
僕は苦笑しながら、彼女の頭を撫でた。
その光景を、少し離れた場所で見ていたフカ次郎は、遠い目をして呟いた。
「……おーい、私はスキャン確認しとくからなー、終わったら声かけてくれ〜。………はぁ。」
廃墟に響くのは、勝利のファンファーレではなく、フカ次郎の深い深いため息だった。
ここまで読んで頂きありがとうございます!
次回は中盤と少しダイジェスト風で進めていく予定です。
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