ヤンデ"レン"(完結済み)   作:狩宮 深紅

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SJ2の彼女(中編)

 

草が生い茂る巨大なドーム状のフィールド。

フカ次郎が放ったピンク色のスモークによって視界は遮られ、戦場は混乱の渦中にある。

 

 そんな中、攪乱のために前線に出ていたレンが死体の中に倒れている一人のプレイヤーを発見した。

 黒髪短髪で、整った顔立ちの男装アバター。クラレンスだ。

 

「……動かないで。」

 

 レンはP90の銃口を突きつける。

 

「そのポケットに入ってるマガジン、置いていって」

 

 P90のマガジンは嵩張るため、レンは常に弾薬不足に悩まされている。同じ銃を使うクラレンスは、格好の補給源だった。

 クラレンスは両手を上げて苦笑する。

 

「参ったな。……いいよ、ただし条件がある」

 

「条件?」

 

「私の頬っぺに、お別れのチューをしてくれたらね。そうだなぁ、せっかくだったらそこの可愛いピンクちゃんがいいな〜。」

 

「……はぁ?」

 

 レンが呆れた声を出す。

 戦場で、しかも敵同士でキス? 正気を疑う提案だ。

 

「何言ってるんですか? ふざけないでください」

 

「嫌なら別に良いんだよ? その代わりマガジンは無しだから。……僕を撃ち殺すとしても弾薬は減るだけだし?」

 

 クラレンスはニヤリと笑う。

 レンは舌打ちした。確かに、ここで無駄な戦闘をして消耗するのは避けたい。

 

(背に腹は代えられない……ゲームだし、減るもんじゃないし)

 

レンはため息をつき、渋々とクラレンスの顔に近づこうとした。

ただのアバター同士の接触。システム的な処理に過ぎない。そう自分に言い聞かせて。

だが、その唇が触れる直前だった。

 

ガシッ。

強い力で、レンの肩が掴まれた。

驚いて振り返ると、そこにはいつになく真剣な表情をした僕がいた。

 

「──ダメだ」

 

低く、鋭い声。

僕はレンを強引に後ろへ引き剥がし、彼女とクラレンスの間に割って入った。

「え、〇〇……?」

 レンが目を丸くする。

 僕はクラレンスを睨みつけたまま、レンに背中で語りかけた。

 

「弾なら僕のを渡す。インベントリに念の為持ってきた予備があるはずだ。……だから」

 

 僕はレンの手首を掴み、自分の方へと引き寄せた。

 

「たとえ頬でも、ゲームでも……レンに触れていいのは僕だけだ。」

 

それは、普段の温厚な僕からは想像もつかないような、剥き出しの独占欲だった。

ゲームのアバターだろうと関係ない。彼女の「ファースト」も「セカンド」も、些細な接触の一つですら、他の誰かに譲るつもりはない。

こんな風に考えたことなんて一度も無かったからこそ、慣れない感情に僕は押し流されていた。

 

僕の言葉を聞いたレンは、顔を沸騰させたように真っ赤にしてフリーズした。

 

(し、嫉妬……してくれた……!? 〇〇が、私を独占した……♡)

 

 彼女の脳内でお花畑が展開される中、クラレンスが口笛を吹いた。

 

「ヒュー! そういう事か、熱いねぇ彼氏さん。愛されてるねぇピンクちゃん」

 

 

その時だった。

ドームの入り口付近から激しい銃声が響き、複数の影が突入してきた。

強豪チーム『MMTM』だ。

MMTMのリーダーからの合図で射撃予測線が一斉に僕に向けられる。

 

HMBMを撃った所を見られていたのか、僕は完全にマークされていた。

 

「うわっ、やっぱりヘイト高いな……!」

 

僕は遮蔽物に身を隠す。

反撃しようにも、現在はマガジン温存のためにスナイパーライフルを装備しているし、乱戦状態のドーム内でHMBMを撃てば、味方のレンやフカ次郎まで巻き込んでしまう。

 

その時、呆けていたレンを庇うように、クラレンスが飛び出した。

 

「おいっ、危ない!!くっ……! お熱いカップルへの、餞別だ! 持ってけ!」

 

 彼女はポケットからマガジンを放り投げると同時に、敵弾を浴びて物言わぬオブジェクトになり散った。

 

絶体絶命のピンチに予期せぬ助け舟。

 

さらに、MMTMの後方から別の銃声が響いた。

重厚で、統率の取れた射撃音。

SHINC(新体操部チーム)の到着だ。

 

「チッ、漁夫の利を狙われたか! 引くぞ!」

 

挟撃を恐れたMMTMは、素早い判断でドームから撤退していった。

静寂が戻ったドームに、屈強なアバターたちが姿を現す。

その中心に立つ、大柄な女性アバター──ボスのエヴァが、不敵な笑みを浮かべてこちらを見ていた。

 

「レン。それに白い彼氏君」

 

「ボス……」

 

「さぁ、邪魔者は消えた。約束通り、ガチバトルしようじゃないか!」

 

ボスは僕の背負うHMBMを見てニヤリと笑った。

 

「それに、いい鉄砲(ツツ)持ってんじゃねぇか。男はデカくてナンボだよな!」

「……どうも。レンが話していた方々だね。今回は助かったよ」

 

僕が礼を言うと、レンがスッと僕の前に立ち、ボスを牽制するように睨んだ。

(……あんまり〇〇と親しくしないでほしいなぁ。)

 

「ごめん、今は戦えない…。理由は、言えない…。」

 

「どうして!ガチの勝負をするって…!」

 

「それは–––––––。」

 

エヴァの言葉に申し訳なさそうに俯くレン。恐らくピトフーイの事を伝えるかどうか迷っているのだろう。

 

香蓮の気持ちは最大限尊重したい、だが、ここはこの場を活用するしかない。

 

––––すまない、エヴァさん。少しやむを得ない事情があって…。

 

「そうそう、今回の大会でピトフーイって人が優勝せずに死んじゃったらリアルでも死んじゃうらしくってさぁ?それを唯一止められるのがレンなんだよ。」

 

「〇〇!?それにフカ!!」

 

 

「…香蓮さん、お話、聞かせていただけますか?」

 

 

 

 

僕たちは打倒ピトフーイのための一時的な同盟を結ぶことになった。

その見返りとしてこのSJ2が終わったら彼女達にたくさんのお菓子をご馳走することになった。

 

 

 

 

 

 

 

ピトフーイたちが陣取るログハウス周辺。

そこには、念願の相手、チームPM4が潜んでいた。あちらもこっちのチームを視認している様で、お互いに射程距離外である為か銃弾は飛び交ってはいないがピリつく緊張感が漂っている。

 

 

–––

––––––––––

––––––––––––––––––––

 

 

接敵前、僕たちとSHINCのリーダーであるエヴァさんと作戦の確認を行う。

 

「あの盾は厄介だ。通常の銃弾じゃ傷一つ付かねぇ。」

 

SHINCのボスが過去の戦いを思い出しながら、うんうんと唸る。

 

「だが、こちらには秘密兵器がある。こいつで一点突破する」

 

彼女が示したのは、巨大な対戦車ライフル『PTRD-1941』。

フカ次郎も負けじと、僕の背中を叩いた。

 

「なぁに、いざとなったらこっちにもあるじゃねぇか。盾ごと奴らを吹き飛ばせる特大のがさ。」

 

全員の視線が僕に向く。

僕はHMBMの感触を確かめながら、静かに首を振った。

 

––––可能だけど……相手はあのMさんだ。僕が構えてチャージする隙を見逃してくれるはずがない。撃つ前にカウンターの狙撃を喰らっておしまいだろう

 

HMBMは強力だが、予備動作が大きい。百戦錬磨のM相手に正面から撃つのは自殺行為だ。

 

–––だからこそ、ボスさん達には隙を作って欲しいんです。彼が防御を固めた一瞬、そこを狙います。

 

「あぁ、分かった。その大役、任された!」

 

右手でサムズアップをしながらボスは力強く頷いた。

 

 

 

 

––––––––––––––––––––

––––––––––

––––

 

 作戦開始。

 

SHINCが前衛となり、決死の突撃を開始する。

狙撃銃の連射不可という特性と、射撃予測線(バレットライン)を駆使して距離を詰める彼女たちだが、Mの射撃は正確無比だった。

 

メンバーのアンナが眉間を撃ち抜かれ脱落する。

 

「アンナ!!くそっ!もうこちらの動きに対応しやがった!」

 

 

岩場に陣取ったソフィーが叫ぶ。

 

「トーマ! 作戦通り私を使って!」

 

ソフィーが身を晒し、わざと被弾して死亡する。

だがこの瞬間彼女の身体はどんな弾丸でも貫通出来ない破壊不可オブジェクトとなった。

 

トーマはその死体を盾にして、対戦車ライフルを構えた。

 

ダァンッ!!!!

 

轟音と共に放たれた弾丸が、Mの盾の一枚を吹き飛ばす。

吹き飛ばされた盾の破片がPM4のメンバーに直撃し、一人を脱落させた。

 

––––……凄いな。彼女たちも本気だ。執念が違う。

 

僕は彼女たちの覚悟に戦慄した。

レンもまた、その光景に目を奪われていた。

 

「ええ……。だからこそ、応えなきゃ!」

 

「射線、通ったぞ!!」

 

ボスの叫び声が響く。

Mは残った盾を展開し、なおも突破しようとするSHINCの弾丸を防ごうとしていた。

 

その一瞬の硬直。

そこが、僕に与えられた唯一の勝機だった。

 

「Mさん……その盾ごと、こじ開ける!!」

 

僕は遮蔽物から飛び出し、HMBMを構えた。

バレットサークルを絞り、トリガーを引く。

 

『ドギューーーーン!!』

 

戦場を切り裂くような極太のビーム。

それは一直線にMの盾へと突き進んだ。

 

「狙われてる! 死ぬ気で避けなさい!!」

 

ピトフーイの鋭い警告が飛ぶ。

Mは反射的に身を捻ったが、光の奔流は彼の左腕と盾を飲み込んだ。

 

「なッ!? 俺の盾が……!! これがピトの言っていた化け物兵器!!」

Mは腕を失い、HPを半分以上削られながらも、射線の通らない丘の裏側へと転がり込んで生存した。

 

だが、鉄壁の守りは崩壊した。

 

「ぐぅっ……!すまない!仕留め損なった!!」

 

僕の右腕から、再び大量の赤いポリゴンが噴出する。

HP減少エフェクトと共にまたもやHPの三分の一が削れる。

 

「問題ない!ナイス〇〇! 愛してるよ! 後で治療するから!」

 

レンが僕の背中を叩き、駆け出した。

 

 

盾は溶けてなくなり、ピトフーイを守るPM4のメンバーも減った。

 

「野郎ども突っ込めぇぇ!!」

 

ボスが咆哮を上げ、SHINCの残存メンバーと共に突撃する。

 

「私たちも行くよ! ピトさんを挟み撃ちだ!フカ!あれをお願い!!」

 

「あいよ任された!!」

 

フカ次郎は先程のドーム戦でも使用したピンクのスモークグレーネードを発射する。

レンと僕もSHINCとは別方向からPM4へと肉薄する。

 

勝利は目前だ。ピトフーイを追い詰め、僕たちの手で終わらせる。

 

そう確信した、その時だった。

ピトフーイが、向かってくるレンを迎撃しようと身を乗り出した瞬間。

遠く離れた崖の上から、乾いた銃声が響いた。

 

ドォン!!

 

ピトフーイの頭部、ヘッドラインに何かが着弾した。

衝撃で彼女の身体が大きくのけぞり、そのまま崩れ落ちる。

 

「……え?」

 

レンの足が止まった。

戦場にいた全員の動きが凍りついた。

Mが血相を変えてピトフーイの身体を引きずり、回復装置を当てながら必死にログハウスの中へと入っていく。

 

最悪の横槍。

別チームのスナイパー、シャーリーによる介入。

僕たちの「ピトフーイを倒す」という目的が、第三者によって奪われようとしていた。

 

「ピトさんが……撃たれた……?」

 

呆然とするレン。

だが、僕はすぐに思考を切り替えた。

ここで止まっていては、ピトフーイを救うことも、倒すこともできない。

 

射線はわかった。

距離も、問題ない。運良く距離は200m程度。

HPはまだ減ったままだ。しかし、ここで撃たなければ香蓮が撃たれる!!

件の狙撃手はピトフーイを仕留めたと考えてるのかガッツポーズをしていた。

仕留めるのなら今しかない。HMBMを左に持ち替え左手でトリガーを指を掛ける。

バレットサークルを絞り、トリガーを–––––引く。

 

 

『ドギューーーーン!!』

 

二発目の極太のビームがその狙撃手とその一帯を文字通り、削り取った。

Deadのシステムメッセージが表示され、何とか仕留められたようだった。

 

––––ぐぅっ……!

 

減少が止まりかけていたHPバーが再び減少しだす。

かろうじて繋がっていた右手は後方に吹き飛び、左腕もHMBMを保持することができず地面にそのまま落としてしまう。

 

「〇〇!腕が!!連続して撃つなんて!!」

 

足を止めていた香蓮がこちらに駆け寄ろうとしてくる。

 

––レン駄目だ!そのままピトフーイさんにとどめを刺すんだ!!

 

「っ!でも!〇〇!私、私どうしたら…!!」

 

香蓮は心は僕への心配とピトフーイを倒すこと、Mの懇願との板挟みになってしまっていた。

 

ごめん、香蓮。君にそんな顔をさせてしまうなんて……。

 

 

戦いはまだ、終わっていない。




後1話です!
最後はGGO描写で貯めた分イチャメインで書く予定なのでお楽しみに。

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