何時からだっただろうか、自分の名前に違和感を感じたのは。
何時からだったろうか、友人たちの名前に違和感を感じたのは。
双子の弟、のび太と一緒に小学五年生になったときだったろうか?
もしくは、いつの間にか増えていた同居人、未来の猫型ロボットのドラえもんを意識したときだっただろうか?
「んー、まあ、考えてもしかたないか」
頭の中にここがドラえもんの世界であること、そして、自分は、ここがアニメや漫画の世界であることを浮かべながら何をしようが時間の流れに身を任せようと思うことにした。
自分は神様特典や、チートなステータスを持っているわけではない。
ただ、ここにいる人間たちより一度多くの人生を体験しているだけだ。
「また、考え事かい?のびろ君」
青い猫型ロボット。トーキョーマツシバロボット工場で製造されたネコ型ロボット第1号である。
別名ドラえもん。
「まあ、ね」
「…まあ、僕のことを知っていて未来のことも知っている君に考えるなっていうほうが酷だろうけど。あまり考え事ばかりもよくないよ」
ドラえもんの顔はいかにも心配ですという表情だ。
まあ、小学五年生がするような表情で考え事(いやまあ中身は三十代のおっさんなんだが)は、おかしいのだろう。
「わかった、わかった。じゃあ子供らしくするよ」
ドラえもんに心配ばかりかけるとママやパパが心配するので仕方なくズボンのポケットからお小遣いで買った文庫本を取り出す。
「いや、流石に小学五年生が推理小説読むってどうなんだい?」
「…赤川次郎は面白いぞ」
「いや、著作者のチョイスを言ってるんじゃないよ!」
「…小学生は推理小説読まないのか?」
「読んでもマンガじゃないかい?」
「…そうか」
小学生は読まないのか推理小説。
面白いのになぁ。
少し黄昏ていると、聞きなれた声が響く。
「やい、のびろ!」
「…」
黄色い服に紺色のズボン大きな体躯に俺様口調な人物。
剛田 武、通称ジャイアン。
この辺のガキ大将で、いじめっこ。お前のものは俺の物俺のものは俺の物と、ジャイアニズムを掲げている。
「のびろ君、ジャイアンが呼んでるよ」
ジャイアンから目を離しすぐに開いたページに目を移す。
「俺様がせっかく野球に誘ってやったのに、来ねぇとはいい度胸じゃねぇか!」
「いや、私は断ったしそもそも、いい度胸とはなんだ?ジャイアン、あなたは私より立場は上なのか?」
大人げなく言葉を殴りつける。
「うるせぇ!いつもいつも生意気なんだよ!」
…子供相手に対応を間違えただろうか?
というか、自分より我が強い子供相手に先ほどの言い分はやはりだめか。
私自身周りを見下しているわけではないが。読書の邪魔をされたせいか少し苛ついていたようだ。
というか。
「さっきからなんだドラえもん?」
裾をくいくいと、生地がのびちゃうだろ。
「に、逃げようよのびろくん」
…忘れてた、ドラえもんも確かのび太と一緒でいつもぼこぼこにされていたな。
「で、口喧嘩は終わりか豚ゴリラ?生憎と私は日本語しかわからなくてな、ゴリラが目の前でうほうほ言っていても理解できないのだよ」
「の!のびろくん!」
こいつ、ありえねぇ!という風に私を見るドラえもん。
「……」
そして、すでに言葉を失いバットを握りしめているガキ大将。
「ブッコロシテヤル!!」
バットで、殴ろうとしているのだろうバットを背負うように、持ち私めがけて走ってくる。
その顔は必ず殴ると言っても差し支えないほどすごい表情をしている。
となりにいるドラえもんなんていつも青い顔がさらに青くなっている。
あのバットを食らえば弱い自分なんてすぐにぼこぼこにされるだろう。
すでに自身の目の前に迫っている木のバット。
だが、それを食らってやるほど自分もお人よしではない。
「はぁ」
一呼吸置き、即座に右足でバットの底を蹴り上げる。
少し右足に痛みが走るが、バットはジャイアンの両手から抜け出て後方に飛んで行った。
「っ!」
驚いているようだが、もう遅い。
すぐに体を回転させて顎をかすめるように蹴りを放つ。
「がつっ!」
「悪いけど一方的にやられるつもりはないんだ」
おそらく視界が揺れているジャイアンに言うだけ言っておく。
「…やりすぎじゃない?」
「相手は、武器をもってこちらに危害を加えようとした。こちらは素手で対応。まだ優しいほうでしょ?」
空地じゃ、もう読めないなぁと考えながら家に帰ろうと小説をポケットに入れなおし。帰路につく。
★
「やっちまったぁぁぁぁぁぁぁぁ!何が一方的にやられるつもりはないだよ。俺は中二病かよっ!もっと抑えてものも言えただろうが何煽ってんだよおぉぉぉ!」
「ドラえもん、兄さんはどうしたの?」
「・・。うんまあ、いろいろあったんだよ」
そのあと自宅で転げまわる転生者がいた、てか自分だった