j月U日
いつものようにエリユの道具屋で店員として働く。最近は、人間のよりも同胞の客が多い。まぁ、当然と言えば当然のことだ。魔王である私がこの村に居ると言うことは既に知れ渡っている。それでもここまで来るものはたいざいを犯したなどで人間達の中に居場所がない者達か、私を討ち取って名を上げようと言う勇猛な者達くらいのものだろう。
……やれやれ私を、私達を前にしてエリユを誘惑しようなどとは……
まぁ、サキュバスと言う種である以上は男を誘惑するのは致し方ないというものだろうし、あまり腹を立てすぎると言うのも失礼だろうか?
「これはこれは、魔王様」
オーク種の者が店にやって来た。隙のない立ち居振る舞いからして、相当に修練を重ねた戦士なのだろう。
そう言えば、人間達の間ではオーク種に対して少々見過ごせない偏見がある。少なからずエリユの店に書物の類が入荷するが、その中にオーク種を題材にしたものがあったが……オーク種はあのような低俗なケダモノではない。エルフにも劣らない勇敢で誇りある森の戦士達だ。そんな彼らがあのような真似をするはずがない。
……それを読んだのかって? 一応、商品の確認は必要だ。それにこんなものをエリユに見せるわけにはいかない。
今のリーツ村は私の理想の中にある世界の形と言っても良い。人間と魔物が共に生きる世界……私の他人が聞けばバカバカしくて一笑に伏すような荒唐無稽な夢だったが、この村を見ているといずれは……
j月p日
今日はエリユの道具屋は休みだ。そして、私は城に戻っての溜まった書類やら何やらの処理。ここのところ働き詰めだ。そう言えば、今日が休みの理由はエリユの父の命日だからだそうだ。母の命日もまた別の日にあるそうで、その日も休みになるらしい。
そう言えば、父と言えば私もあまり父のことを話しで聞いたことはなかったな。母や側近達は立派だったと言っていたが、顔も声も何も知らない。
「魔王様!」
「どうした」
私に仕える侍女の1人が血相を変えて部屋に駆け込んできた。
「た、大変です! 一部諸侯が、リーツ村へ向けて進軍の準備を……ひぃ!?」
ほう? リーツ村に攻め込む? ははは。
「ちょっと出かけてくる。クロードに一言諸侯の席が幾らか空くと伝えておいて欲しい」
「は、はい……お、お気を付けて……」
j月q日
今日はリーツ村で、今年の収穫を祝っての宴が行われた。あちらこちらからかき集めた酒などを村の皆に振る舞う。
エリユが言うには少し収支が厳しいそうだが、どうにかするのが商人で意地にもかけて取り戻すらしい。なんとも頼もしいことだが、あまり無理はしないで欲しい。前みたいにいきなり倒れられたらと思うと、心臓が止まりそうになる。
そして、宴の席でめでたい事があった。エリユの道具屋を直す際にも世話になった大工のところの若い男と、アリス達が世話になっている宿屋の娘が結婚することになった。それに際して、次期村長としてエリユが2人の式を執り行うことになった。
j月b日
冬が近づき、日増しに寒くなって行く。そこで、とあるものをエリユの道具屋に仕入れることになった。私達魔物の中では、冬場には欠かせない温暖石と言う道具だ。これがどのような物かを簡単に説明すると、効果が切れるまで自動で一定の範囲内の空間を温め続けるというものだ。これ一つで、おおよそ1週間は家の中を温め続けられる。
店で試用し、その上で売ることも決まり売り出し始めたところ、飛ぶように売れて行く。それもそうだろう。薪をを用いたストーブなどよりも余程効果があるからな。代わりに少しばかり値が張るが、この村の住人の大体は買える程度に金銭には余裕があるそうだ。
売れるとは思ったが、まさか追加発注が必要なくらいに売れるとは思わなかった。
j月x日
季節は本格的に冬に変わり、本格的に冷え込んできた。まぁ、屋内は温暖石の効果で暖かいが、外は雪こそまだ降ってはいないが、そのうち降り出しそうなくらいに寒い。
そんなある日、店にクロードがやって来た。
そして、クロードが語り出したのはエリユ達にはまったく関係ない身内での内輪揉めの話だった。もう聞き飽きた話だ。それでもクロードが言うには、伴侶の話の大半を側近達が潰しているのだそうだ。
そして、なぜか今回の求婚者はエリユとの決闘を所望しているらしい。私の伴侶になろうと言うのなら、直接私に挑んでくれば良いと言うのに……