j月U日
ここ数ヶ月で色々と変化が起きましたが、今日もエリユ様の道具屋は通常通りに営業中です。
いつの間にか店に置かれている品の半分近くが魔物側から仕入れたものになっているのには、どことなく寂しさを感じますが、状況が状況ですし仕方がありませんね。
店に来るお客様も最近は人間よりも魔物が多いです。人間のお客様も居るには居ますが、いわゆる犯罪者の方やユーリアを討ち取ろうとやって来る人くらいで、こう普通のお客様が殆ど居ません。
……ユーリアと接したことで魔物であれば殺すと言うのは、改めるようにしましたが淫魔だけは滅ぼした方が良い気がします。いかがわしい格好でエリユ様を誑かそうとは……
オーク種のお客様が獣の牙を売りにやって来ました。今はエリユ様と商談をしていますが、かなりの実力を備えているように見えます。正直、戦っても勝てるかどうか……ユーリアと言いその側近と言い、なぜこうも……
「少し、鍛え直しが必要でしょうか?」
最近、お腹が出てきたような気もしますし……
「そこまで気にしなくても良いと思うよ? て言うか、アリスのスタイルでその発言は喧嘩売ってるのかな」
「な、なんでそうなるんですか!?」
「あ、それわかりますぅ。アリスさんのスタイルって、同じ女から言わせて貰うとケチのつけようがないくらいなんですからねぇ? まぁ、それはユーリアさんもですけどぉ」
帳簿に今の時間までの売り上げを書き込みながらティエルさんがそう言って、棚に瓶などを並べていたユーリアが「なぜ私まで!?」と声を上げる。
「お前らやかましい。商談の邪魔だから裏行ってろ」
「まぁまぁ、落ち着かれよ店主殿。女子とはあのようなものですぞ」
オークさんの優しさに全私が感動しました。そうですね。魔物とも仲良くしないとですね!
j月p日
今日はお店はお休みです。理由は今日はエリユ様のお父様の命日だからだそうです。
軽く剣の鍛錬をしてから出かける。とは言っても、リーツ村の外には出てもしょうがないので、仲間達のところを回ります。
ジルのところに向かうと、久しぶりに鎧に身を包んで剣を振っていました。と言うか、戦っていました。
「おいおい。勇者の仲間がこの程度かよ?」
ジルと戦っているショートソードを右手に持っている男性(布切れのようなものを巻いていて黒い目以外は顔がわかりません)がそう言って、ジルを煽る。
「なめんじゃねぇ!」
大きく踏み込んでジルが身の丈ほどもあるグレートソードを振り下ろしますが、男性はそれを右手に持ったジルのものに比べて貧弱過ぎると言って良いショートソードで軽く受け流してしまう。
「んん、一撃の威力はまぁ大したもんだよ。けど、逆に言っちまえばそんだけだ」
「すぐにでも叩っ斬ってやる!」
そう言って何度もジルは斬りかかりますが、男性はそれをことごとく受け流してしまい、そのうちジルが荒い息をさせてグレートソードを杖のように寄りかかる。
「ちっ、きしょう……」
「アホみたいな体力してるよったく……んで、そっちのお嬢さんが噂の『逃げ出した勇者様』ってとこかい」
逃げ出した勇者、ですか……笑うしかないですね。
「知ってるかい? 今、あちらこちらで勇者を名乗る有象無象が出てるって話」
勇者、ですか。
そもそも私は、自分で勇者なんて名乗り始めたわけじゃないんですけどね。元はと言えば、私は親も知らない孤児でジルの家で働いていた奉公人だった小娘。それが私……
「逃げ出した勇者様、ねぇ……面白い話聞かせてくれるじゃない?」
そう言いながらフィーネが姿を見せました。元々、賢者とは思えない身のこなしをする人でしたけど、まさか暗殺者のように気配を絶って近づいて来るなんて少し彼女の過去が気になります。
「……アリスは逃げてなんかない。一回負けたけど……」
そして、フィーネの後ろからひょっこりとルカが出て来てそう言う。さり気なく傷を抉らないでください。
「おうおう。勇者様御一行が勢揃いだ」
「……とりあえず、武器捨てて? ボンするよ?」
「おっかねぇなぁ」
そう言って、男性は剣を腰の鞘に納めると服の袖口からポロリと何かを出して、それを足元に向かって投げつけた。その瞬間、パッと視界が真っ白になりました。
「あーばよぅ」
視界が元に戻ると、そこにはもう男性の姿はありませんでした。
「あの野郎……! 次会ったら絶対に叩っ斬る!」
「アリスちゃん。噂なんて気にしちゃダメよ?」
……勇者、か。勇者って一体なんなんでしょう。
j月q日
謎の男性との遭遇から少しが経った頃、収穫の時期がやって来ました。今年は色々と会った(それの大半は私やユーリアのせい……正直居た堪れないです……)ようですが、豊作に恵まれたようです。そして、それを祝って祭が行われることになりました。
楽しい時間でしたが、後が大変そうです。お酒などユーリアが魔王としての強権を使ったりで搔き集めたりしたそうですが、それでも費用などはエリユ様が出していて、表面上はそうでもなさげでしたが、内情はどうなのか……まぁ、私に出来るのは少しでも多くお客様にものを売ることくらいですが、
そう言えば、宴の中で結婚の話が出ました。もちろん私ではありませんよ? それで、結婚することになったのは大工のお爺さんのお弟子さんの1人の男性と私もお世話になっている宿屋の看板娘の女性です。とても素晴らしいことです。いずれは私もエリユ様と……まぁ、ただの夢ですけどね。
j月b日
収穫の時期も過ぎて、冬が近付いて来ました。それに合わせてエリユ様が面白いものを仕入れました。
温暖石と言ういわゆるマジックアイテムで、一定範囲内の空間を暖め続けてくれると言うものだそうで、ユーリアが言うには、これなしには冬を越せないそうです。
その言葉の通り、とても使い勝手が良くて効果も高い、と素晴らしい道具ですが、少々値段が張るのが痛いところでしょうか? 2000ゴールド。魔物達からすればそう大した額ではないようですが、人間にとっては結構な痛手な値段です。
そう言うわけで、いくら便利で効果が高くてもこの値段ではあまり売れないだろうと少し在庫は少なめで売り出し始めましたが、あっという間に在庫がなくなってしまい追加を発注することになりました。
j月x日
本格的に冬が近づいて来て、外を出歩こうと思ったら上着が欲しくなって来ました。まぁ、室内は温暖石の効果で春のようにポカポカですけどね。いつものように働いていると、ユーリアの側近の1人の魔人(人間に見えても魔物なのでこう呼ぶことにしました)の方がやって来て、厄介な話を始めました。
どうやら、魔物達の中でユーリアの伴侶になろうと言う動きがあって、それで色々と問題が発生しているようです。権力者に群がるのは人間も魔物も変わらないと言うことでしょうか? まぁ、ユーリアが言うには魔王の伴侶になったからと言って、それに連なる一族が力を持つわけではないようですが……
て言うか、なぜエリユ様がそのユーリアに求婚していると言う魔物の中の1人と戦わねばならないのでしょうか?