☆月∩日
不思議な人間に出会った。
私を見て恐れなかった者は居ない。何故なら私は魔王だからだ。だが、その人間は私を恐れなかった。
その人間の男に出会ったのは散策で偶然訪れた人間達の村の道具屋だった。
彼はその道具屋の店主のようだ。そして、彼の店は中々に人間達に親しまれているようだ。まぁ、私が店の中に入った途端に皆、逃げて行ってしまったがな。
だが、彼は私を見ても恐れることなどなく、笑顔を浮かべ「何をお探しで? お客さん」とそう言った。
不思議な人間だ面白い。
☆月∋日
またあの人間の道具屋に来た。
私は自分のこと同胞達のこと、そして人間と戦いたくないと話した。魔王たる私が人間にそんな事を言うのはおかしいかもしれない。きっと、疲れていたのだろう。
そんな私の話に彼は一言こう言った。
「戦いたくないなら、戦いなんてやめちまえよ」
あまりにも軽い返事だが、至極最もだ。思わず笑ってしまった。
気分がスッキリした。
☆月⇔日
また道具屋へやって来た。少しずつだが、この人間と話すのが楽しみになって来た。
彼と他愛もない雑談に興じていると、人間の子供が一人、店の商品棚に手を伸ばし品物を掴むと、そのまま店を出て行こうとしたので、捕まえて説教した。
魔王たる私を前に盗みを働くとは中々に肝が据わっているようだが、決して褒められたものなどではない。
私の説教であの子供が盗みを働かなくなれば幸いだ。さて、これから少し忙しくなる。
☆月∃日
側近にあの道具屋に行くことを咎められてしまった。別に良いではないか。私が誰と親しくなろうと。
そして、何を間違ったか。側近の中で一番頭の硬い暗黒騎士があの道具屋へと向かった。何事もなければ良いが……
そして、帰って来た暗黒騎士は「あの者が我らに害をなすことは無いでしょう」そう言って、あの道具屋で買ったと言うナイフを土産に持ってきてくれた。
土産は嬉しいのだが、ナイフなど貰っても、使い道がないのだが……
☆月∬日
今日は気分が良い。何故なら人間達への侵攻を推し進める過激派を封じ込める事が出来たのだからな。
今日は久々にあの人間の道具屋を訪れた。どうやら、暗黒騎士が迷惑をかけたらしい。軽く愚痴られてしまった。謝罪をして、エリクサーを一つ買うことで手打ちとしてもらった。
このエリクサーは病に苦しむ、人間との戦いで親を亡くした孤児達のために使った。争いに関係のない子供が死ぬなど決してあってはならぬ。
今日はあの人間の名を知ることが出来た。名はエリユ。姓はない。
☆月▲日
折角、過激派を封じ込めたと言うのに、人間との争いが小さくなる様子がない。それどころか日に日に大きくなっている様子さえある。
どうすれば、人と魔物と相争わずに共存できるのだろうか。
思わず、エリユのところで愚痴をこぼしてしまった。魔王たる者が情けない。
最近、あの村には私を恐れない人間が増えた。
☆月‰日
城の蔵の整理をしていると、特に必要もないものが沢山出てきたので、売りに出したのだが、一つ残ってしまった。それはこの魔界ではどこにでもある石ころも同然の物なので仕方が無いと言えば仕方ない。
だが、そこで私は一つのことを思い付いた。我らの間では価値のないような物であっても、人間ならばどうか?
思い立ったが吉日。人間もいい事を言う。
そう言うわけでエリユの道具屋へやって来たわけだが、いつの間にか村人に恐れられることは無くなっていた。
それで、買取の結果だが、とんでもない高額となった。
城へ戻り、皆に話すと皆大層驚いた。
☆月>日
最近は人間との争いも落ち着いているので、エリユの道具屋へよく行っている。その度に腕自慢の剣士や槍士に勝負を挑まれるのだが、脅威にはならない。
むしろ、殺さないように手を抜いて戦うのに疲れる。
辺境の村と言うだけあってか、娯楽も乏しいらしく。ちょっとした見世物となっているが、あまり悪い気はしない。
エリユに魔装のことを訊かれた。どうやら、人間は魔装を知らないらしい。まぁ、魔装は我らであっても限られた者しか使えぬものだ。それを人間がポンポンと使っていれば、我らの立つ瀬がない。
☆月□日
今日。エリユの道具屋で我が宿敵と言っても良い相手と出会った。
勇者。
神に選ばれし人間であり、我らの最大の脅威になりうる存在。
……エリユを怒らせてしまった。まぁ、私と勇者が悪いのだから文句など言えない。だが、エリユ。お前は強いのだな。互いを殺し合うつもりで戦っていた私と勇者の間に割って入り、殴って強制的に戦闘を終了させるとは。
まさか、私が負ける日が来ようとは思いもしなかった。それも相手は勇者ではなく、道具屋の店主などとはな。
私と勇者がやり過ぎたせいで、エリユの道具屋が壊れてしまった。
どうにかせねば……!
勇者も私と同罪。逃がしはしない。