百合に男を挟むのは許せないという感想を頂きました。知らなかったとは言え、やってはいけない事らしく、今後の話を見るのを迷っている方も居られるかと思います。
今のところ、精神的BL的な描写が出てくるのが体育祭以降です。それまではそういった描写は全く無いので、よければそこまでだけでもお付き合い頂けたらな、と思います。
「これが……」
「うん、文書の家だよ。大きいでしょ」
「想像の10倍くらい大きいんですけど……」
目の前の大豪邸に言葉を失う出久くん。
今日は2人で文書の家に来ている。
というのも文書の家は皆研究職で成功を収めており、個性を研究する為の設備や個性を使用する為の別館があるのだ。
「撮香さんお邪魔します」
「どうぞー、緑谷君? もいらっしゃーい」
「ここここんにちは! ……今、何もないところから声が……?」
「何度か来れば慣れるよ」
出久くんを促し、門を潜る。
目の前の巨大な館を横目に奥にある、少し小さめな大きな館を目指す。
「あれ、奥なの?」
「うん、個性を測定する装置があるのは別館だけだからね」
「別館……」
「個性使用の為の、体育館みたいな感じだよ」
「たいいくかん……」
いっぱいいっぱいな出久くんを引き連れ、文書の待つ別館へ。
別館は二階建てで、一階が単純測定。二階が精密測定。そして地下には威力測定用の対衝撃用隔壁展開装置がある。対衝撃用隔壁展開装置って言葉ここでしか聞いたことないわ。
ドアを開けると、国外の本をパラパラと捲っていた文書と目が合う。
「こんにちは、文書」
「こんにちはです初来、それと……」
「あ、あのっ! 初めまして、緑谷出久ですっ」
ボクに向けていた笑顔を引っ込め、文書はじっと出久くんの顔を見つめ。
「……チッ、顔は覚えたらしいですよ」
「舌打ち?! 感じ悪っ!」
びっくりするくらい鋭い目付きで出久くんを睨み付ける文書。
「文書!」
「4億」
ボクの言葉を遮るように、指を4本立てる文書。
4億ってなんぞ。何を言えばいいのかわからず黙るボクらの前で、文書が言葉を放つ。
「ここにある設備の総額だそうです」
「……はっ?!」
初耳ぃ!
えっ、ボク今までそんなの使わせて貰ってたのか?!
あまりの金額に小刻みに震える出久くんがボクを見る。ボクは慌てて首を振る。
知らんかったんや!
いや、確かにそういった特殊機械って高いんだろうけど、個人でそんなん保有してるのか?!
「覚えておきなさい緑谷出久。何処の馬の骨とも知らぬ貴方がここを使えるのは、他ならない初来が文書に頼み込んだからだということを」
そして、と言葉を切り、ボクの手を引く文書。
「『あいき』」
「ちょっ……」
自分の意思に反して自分から動いてしまう独特の感覚に反応する間もなく、ボクと文書の唇が重なる。
触れあうのは一瞬だけ。顔を離した文書は唇をペロリと舐め、薄く笑う。
「初来は文書のものです」
「ひっ、人前でなにするだーっ!」
文書の頬っぺたを両手で挟んでぐにぐにする。
ある程度文書の頬っぺたを堪能した後で恐る恐る出久くんの様子を伺うと、やはり出久くんは呆然としていて。
暫くしてボクが見ているのに気付いたのか、小さくわかりましたと呟いて下を向いてしまった。
所変わって、運動能力測定所。まあ見た目は体育館だ。
「さっさとやってしまうそうですよ。とりあえず緑は何ができるのかさっさと吐くそうですよ」
「み、ど、り、や、だって!」
「髪型と髪色以外覚える気はないそうです」
敵意しかない文書。
……いや、仲良くしてっていうのはボクのエゴか。最初からわかっていた事だ。
「ごめん出久くん、文書の言う通り答えて」
「う、うん……えっとね」
出久くんは正直に話した。
個性を使えるようになったのが実技試験の真っ最中だということを。
今日までイメージトレーニングメインで、個性は全く使っていないことを。
目を閉じて聞いていた文書が、聞き終えると同時に目を見開く。
「帰れ」
「待って待って待って、話を聞いて文書!」
「聞いた上で判断しました。個性を満足に使えず、使えば骨折、それ故に訓練ができない」
文書の拳が握られる。
「ここは幼稚園ですかっ!」
叫び、一息いれてから文書は頭を掻く。
「期待してなかったのに期待を下回られるとは、心底驚かされたそうですよ緑」
「申し訳ありません」
小さくなっている出久くん。まぁ、全面的に文書が正しい。
それでも、ボクらは出久くんをトップヒーローにしなくちゃならないんだ。
「文書、お願い」
「……ん、わかったそうですよ」
1つ頷いて、文書は出久くんに近付く。
「あの?」
「『ふういん』」
出久くんのお腹に添えられた文書の右手が青白く光り、出久くんの身体に移ったそれが線になって全身を駆ける。
「な、なにこれ?!」
「貴方の個性を封印しました。今は個性を全く使えない状態だそうです」
「えっ?! ほ、本当だ、使えない……」
手を握り開く出久くん。驚くよね、そりゃ。
「えっと、ふ、文書さん……?」
「誰が名前で呼んでいいと言ったそうですか?」
自己紹介してなかった気が……
目を閉じ、文書が口を開く。
「個性『文字魔法』、言葉で世界を変える個性だそうですよ」
「えっ?! せ、制限とかは……?」
「何故それを貴方に話さなければいけないらしいですか?」
恐らく、出久くんの知る中でも最強の個性がポンと出てきて混乱しているのだろう、目がぐるぐるしだした。
「言葉で世界を変えるそれってつまり言葉にできるなら際限なく現象を起こせる訳でいやいや個性は身体機能の1つ流石に無制限な訳がないそういえばさっき指が光ってた気が『ふういん』で指4本なら最高10文字なのかいや足の指を入れると20文字1度に使える文字数とか単語を複数使えるかとか同じ文字を複数の単語に使い回せるかとかそれならほぼ無制限じゃないかいくらなんでもそれなはいかそれに文字って言ったって人それぞれ言葉に対する受け取り方は違うそれはやっぱり文書さん準拠だろういや待てよそもそも同じ言葉で違う物を指す事は当たり前にある僕も遠藤さんも同じ『ひと』だけと違う存在だつまり文字魔法の本質はイメージを文字によって制御するつまり大元はイメージ……?」
「長ぁーい!!!」
ビックリした、ずっとぶつぶつ喋ってるしあんまり聞き取れなかったけど。
近くで聞いていた文書は聞き取れていたのか、目を見開いていた。
その表情に先程までの険はなかった。
「驚きました、緑……いえ、緑谷でしたか。素直に感心しました」
「あ、ご、ごめんなさい! なんか独り言癖になっちゃってるみたいで!」
「構わないそうですよ……顔も、覚えました。私の名前は伝聞文書だそうです。名前で呼んだら重力で押し潰します」
「あっ、えっと、よろしくお願いします、伝聞さん」
「……文書」
すげぇな出久くんは! あの文書から敵意を無くさせるなんて!
ただ残念なのは、文書の目が仲間を見る目ではなく優秀な機械設備を見る目だということだ。
「緑谷、もしヒーローになれなかったら家の研究所に来るらしいです。緑谷には研究者の才能があるそうですよ」
「ごめん、僕は最高のヒーローになるんだ」
出久の表情に、やれやれと言わんばかりに文書が薄く笑う。
「それなら早く個性くらいまともに使えるようになるそうですよ。……とりあえず、緑谷の個性の出力を10パーセントに抑えました。使ってみなさい」
一瞬だけ出久くんの身体が薄く青く光り、収まる。
出久くんが右拳を握り、身体が跳ねた。
「っぐ、だ、ダメだこれでもきっと骨折する……」
「10パーセントでですか?! ……規格外の出力、流石初来の見初めたヒーローだそうです」
呆れたように、感心したように呟き、文書は再び構える。
左手の指が、青白く発光する。
「『かんてい』…………っ!」
「文書?」
硬直した文書に声を掛ける。今何を使ったんだ? 4文字なのはわかるけど……
「なんでも、ないですよ初来……そうですね、大体4、いや5パーセントの出力なら反動が無視できるのがわかりました。次は初来の出番なので着替えて来てください」
「う、うん……?」
早口で捲し立てる文書に背を押され、ボクは更衣室へと向かった。
グッと、襟首を掴まれ引き寄せられる。
目の前には伝聞さんの整った顔があった。何故か怒りに満ちていたけど。
「な、何?! ごめんなさい、僕何かした……?」
伝聞さんの吐く息がか細く震える。
僕を睨み付ける目が、細められる。
「力を蓄え、譲渡する個性……『ワン・フォー・オール』ですか、大層な名前ですね」
「なんっ?!」
心臓が跳ねる。
バレた、何でバレた?!
……そうか、鑑定! 相手の情報を見る文字魔法か!
それでも、誰が渡したかまでは!
「オールマイト」
「っ!」
聞こえた言葉に思わず身体が跳ねる。しまっ……
「やっぱりですか、納得できました」
ゆっくりと、伝聞さんの手に力が籠る。
ギリギリと聞こえてきそうな程に噛み締められた歯がチラリと見えた。
「緑谷、わかっているのですか? 緑谷に力を譲渡したということはオールマイトにはもう力が残ってないということです」
「ーー?!」
そうだ、何で気付かなかった?! 言われてみれば当たり前の事なのに!
……いや、気付きたくなかったのか。僕がオールマイトを……平和の象徴を皆から奪ったということに。
「あの、その……僕は」
「よくも……」
僕の言い訳の言葉を遮るように、伝聞さんの言葉が囁かれる。
「よくも、初来の夢を奪ってくれましたね」
ガンッと、まるで頭を殴られたかのような衝撃が襲う。
僕は、知ってる。
あの日、僕の部屋で僕らは夢を語り合ったから。
僕が平和の象徴を受け継ぐと照れながらも言い、遠藤さんは笑ってくれて。
遠藤さんも、恥ずかしそうに言ったんだ。
『ボクは、実はオールマイトのサイドキックになりたいんだ。子供の頃からの夢だったり』
「お前がっ! 泣くなっ!!」
突き飛ばされ、尻餅をつく。
涙で滲む視界に、こちらを睨み付ける伝聞さんが映る。
「お前だけは泣く権利がないんです! わかったらさっさと走れ!」
伝聞さんが指差すのは、白線テープで作られた、恐らく50メートル走用のトラック。その向こうには、街角にあるような景観を際限した構造物。多分パルクール用の設備だ。
「その情けない顔を初来に見せるな、何かあったと悟らせるな! それが、初来の夢を奪ったお前の、最低限の義務だっ!!」
「ムラっとしたのでちょっと胸揉んでいいですか」
帰ってくると同時に、文書がそんな事を言い出した。
「自分のを揉んどいてよ」
「揉むほどないんですよ」
「悲しいなぁ……」
悲しみに包まれながら、出久くんの姿を探す。めっちゃ走ってるよ。
何が出久くんを動かすのか、壁を横に連続三角飛びしている。あぁ、個性がしっかり使えるようになって嬉しいのか。
一心不乱にとび跳ね回る出久くんから目を反らし、個性を発動する。
ーー個性『個性創造』発動
ーー個性『意識操作』創造
すかさず風を操り、その風に『意識操作』を挟み込む。
ーー『個性連結』発動
風が渦巻き意識を反らす。渦の中心に居るボクらを、出久くんはよっぽど意識しないと視認することができない。
反動の吐き気をこらえて文書へ近寄る。
「『遮断結界』発動、これで出久くんはこっちを向かないし、見えても意識できないよ」
「初来? 一体何を……」
遮るように、真正面から文書を抱き締める。
「気付いてないの? 語尾がなくなってるよ」
「あっ……あの、文書は」
頭を撫でて、それ以上は言わなくていいと止める。
「ほら、今なら揉み放題だそうですよ?」
「……その語尾、どうかと思います」
「自分で言うのかそれを……」
ゆっくりと、ボクの胸に顔を押し付けてきた文書は、そのまま両手を背中に回してきた。
「初来が、緑谷に取られるかもと考えてしまって、ちょっと気分が沈んだだけだそうですよ」
「そっか」
そういうことにしといてあげよう。
暫くしたら落ち着いたのか、文書は顔を離して両手をボクの胸に伸ばしてきた。ので払う。
「TIME UP」
「えっ……」
呆然とする文書。栗みたいな口しやがって。
遮断結界を解除すると、個性『意識操作』がボクの中から失われる。
再び風を操り、出久くんを絡めとり引き寄せる。
着地するなりぐえっと潰れたカエルのような声を出した出久くん。まあまだ他人に快適な空の旅を約束できる練度ではないからね。
親友を泣かせた罰だ、甘んじて受けて貰おう。
「さて、身体は暖まったかい出久くん」
「あ、うっ、うん!」
見たところ、今の出力ならボクは個性を使わずとも対応できる。
そろそろ対人戦も経験しておかないと。
といってもボクも対人戦初めてなんだけどね!
「とりあえずボクが相手だ。まあ、今の出久くんならなんとかなりそうだし、個性抜きでやってみよう」
「えっ、いや、それは流石に無理が」
「警告してあげるです、緑谷。全力でやらないと一瞬で貴方の負けらしいですよ?」
文書の言葉に、言葉に詰まる出久くん。
とりあえず、格好つける為にバックステップで距離を取り、口を開く。
「幼稚園児から小学生になれたくらいで他人の心配なんて、優しいね」
こんな事出久くんに言いたくはないけれど、こんなところで足踏みして貰っては困るので煽る。
「最高のヒーローに、手を抜いてなるんだ」
「ーー! うわあああぁぁぁぁっ!」
出久くんが、拳を振り上げまっすぐに駆けてくる。
そのパンチを掴んで止めた。
「なっーー」
「あ、結構強いね。10パーセントくらいになると押し負けそう」
呟き、手の力を抜く。
前につんのめる出久のお腹に、優しく膝を入れる。
後ろによろけ、咳き込む出久くんの腕を取り、極めて地面に押さえつける。
「ぐっ、げほっ」
「君は最高のヒーローになれると、ボクは本気で思ってるよ。でも今の君はこんな様だ。個性を使ってなお個性を使わないボクにいいように遊ばれてる」
顔を上げ、こちらを見る。その目は、驚愕と不安に揺れていた。思っていた以上に険しいこれからを身をもって理解したからこその表情。
ボクだって不安なんだぜ? なんてったって対人経験ゼロ。
これでいいのか、こんなやり方で強くなれるのかって思いながら。
それでも一歩ずつ進むんだ。
「一緒に乗り越えようよ、出久くん。覚悟しとけよ、ボクと文書はスパルタなんだ」
アンケートありがとうございました。
日常回、いらないという意見が大半でしたね。
必要という意見も80はあったので、伏線で必要な話以外に、1話だけ日常回を挟みます。
今回、本当にビックリするくらい文書さんが勝手に喋ってくれました。
そやね、確かに初来の夢を奪ったって言われても仕方ないよね。文書さんに言われて初めて気付きました。
初来「合気道? 文書が使ってるのと動画とか見て覚えました」
超成長は本気でヤバい個性。特に、初来が得意とする運動系の成長具合は人類の限界に迫ってます。