君だけの『ヒーロー』   作:縦ロール兵装

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これからは月曜日の0時に更新するようにします(初回から4時間遅刻)
ストック貯めて、要所要所で放出する感じ、でいけたらいいなぁ……

そして地味に1万字超え。


実技試験総合1位vsヒーロー科試験総合1位

 個性『個性操作』

 創った覚えのない個性。

 その個性により『鑑定』の個性が『情報操作』へと変化した。

 

 その時のボクの気持ちがわからない人は想像して欲しい。

 男の人なら、もし朝起きると同じベッドでモデルか? という位キレイな人が裸で眠っていたら。

 女の人なら、朝起きると自分好みなイケメンに腕枕されていたとしたら。

 まず怖いだろ。誰? って思うだろう。

 そしてやったぜ! と思うだろう。ボクもそうだ。

 まず、そもそも『身体操作』の個性も創った覚えないしね! それを使っておいて『個性操作』はダメってどういう話だ。

 多分寝ぼけて創ったんだろうと納得し、今日は文書&出久くんと遊びに出かけることにする。

 一昨日の文書の家で修行した時から出久くんの態度がおかしい。ボクに対して妙におどおどしているというか……

 文書となにかあったのは知っている。けれど切り替えて貰わないと、ただでさえ出遅れているんだ。

 というわけで。

 

「いーずーくくんっ! あっそびっましょっ!」

 

「えっ、な、何……遠藤さんと伝聞さん!? なんで部屋に!?」

 

「サプライズさ!」

 

 事前に今日は一日家にいることを聞いていたので、文書と2人で緑谷家に遊びに来た。

 引子さんだけには連絡を入れておいたので、出久くんにとっては完全にサプライズだ。

 引子さんはボクと入れ替わりで出かけるらしく、何故かいい笑顔をされた。その後で文書がいるのを見て心臓が止まりそうな顔をしてたけど何だったんだ一体……

 

「……本当に、オールマイトグッズだらけですね」

 

「ひゃあ! み、見せられる部屋じゃないから! ちょっと待ってて!」

 

 おっ、エロ本かな? 大丈夫文書の部屋で散々見てるから気にしないよ? ボクそもそも元男だし。

 とは言えないので、文書とリビングで待つ。

 暫くしてリビングへやってきた出久くん。無地に『もるもっと』とだけ書かれたTシャツを着ていた、ダサいのはモテないからそのTシャツやめといたほうがいいよ?

 

「どうしたの、今日はいきなり……」

 

 困った顔でそう切り出す出久くん。

 まどろっこしいことは嫌いなので単刀直入に言う。

 

「出久くん、文書と何かあったでしょ」

 

 固まる二人。ボクは続ける。

 

「ぶっちゃけ、どちらが正しいとか間違ってるとかボクにはわかりません。どうでもいいです」

 

「どうでもいい……」

 

「でも、出久くんは最高のヒーローになるんでしょう?」

 

「ーーっ!」

 

 ん? なんか変なリアクションだな。まぁいいか。

 

「その為には文書の手助けが絶対に必要です。つまり二人は仲直りしないといけません」

 

「……それは、ボクが」

 

「緑谷」

 

 出久くんの言葉を止める文書。

 仲良くしろってば。文書も出久くんを認めてるんだろ?

 

「という訳で、今日は遊びます! 遊んでたら勝手に仲直りできるでしょ!」

 

「小学生並み……」

 

「あはは……でも、うん。そうだね」

 

 出久くんは一度目を閉じると、文書に向き直った。

 

「僕は、最高のヒーローになるよ。なれるって、言って貰えたから」

 

「それが、緑谷の義務ですか?」

 

「義務だけど、義務だけじゃないよ。信じてくれた人の期待に応えたいんだ」

 

「……わかりました、文書は緑谷を手伝いますよ。それが初来の為になるらしいですから」

 

 互いに薄く笑いあう二人。なんかいいな、通じ合ってるみたいで。

 なんか仲間外れ感を感じる。

 

「ねぇねぇ文書」

 

「なんですか?」

 

「3行で」

 

「仲直り

したらしいですよ?

解散」

 

「そっか! じゃあ遊びに行こう!」

 

 遊びに行くことになりました。

 

 

 

 

 

 住宅街の道を行く。目指す先は駅のそばにあるカラオケ。

 その途中で、ふと気になったので尋ねる。

 

「そういや出久くん、個性の制御はどうなってるの?」

 

 流石に毎日文書の家にお邪魔するのも悪いので、課題が見つかったら文書の家で対策を考える、というやり方にした。

 なので昨日は出久くんの成長具合を見ていないのだ。

 

「やっぱりキツイよこれ」

 

 右腕を上げる出久くん。

 見た目は変わっていないけれど、今も個性を発動させているのだろう。

 

「維持するだけで集中力の大半を持っていかれるよ。こんな状態じゃまともに動けない」

 

「言っておきますけど、制御は文書の個性がやっているそうです。文書の個性なしだともっときついらしいです」

 

「まぁ、今は個性を使うという感覚に慣れるのが先だね」

 

 千里の道も一歩から。明日からは個性を発動させた状態でタコ殴りにする予定なので、今日中に1里くらいは進んで欲しいところである。

 と、急に出久くんが立ち止まった。

 その視線の先には……金髪の、爆発頭の男の子がいた。

 目を見開き出久くんとボクらを見て慄いているけど……知り合い?

 

「かっちゃん……」

 

「……どーいうことだ」

 

 目つきが鋭く、顔が凶悪になっていく金髪。

 

「道端の石っコロが、俺よりモテていい筈がねぇ」

 

「はっ?」

 

 何言ってんだこいつ。

 けれど何故か出久くんは身体を縮こまらせ震えている。なんで?

 

「てめぇみてーなクソナードが、俺よりモテるワケがねぇ! どんな手を使いやがったデクてめぇーー!」

 

 爆発音と共にこちらへ……出久くんへ飛び掛かってきた金髪。

 危ないので出久くんと文書を抱えて、石塀に飛び乗る。

 

「出会うなり飛び掛かってくるって、君なんなのホモなの?」

 

「誰がホモだ気色ワリィこと言うなクソ垂れ目!」

 

 クソ垂れ目……

 びっくりするくらい口が悪いこの金髪をどうするか一瞬考える。

 ぶちのめそうか。いや、でも出久くんの知り合い? みたいだし、とりあえずは穏便に。

 石塀から飛び降り、2人を離してから金髪に話しかける。

 

「とりあえず、自己紹介から始めない? 何か言いたいことがあるみたいだけど、名前くらいは」

 

「あ゛ぁ゛? 誰がクソモブの名前なんぞ覚えるか死ね!」

 

 ……へぇ。

 頬が引き攣る。

 さっきから出久くんをクソナードとかデクとか呼ぶのも含めて、コイツ嫌いだ。

 こういった粗暴なのが1番嫌いな文書も、目に嫌悪感を滲ませている。

 

「猿がキーキーと煩いですね。不愉快なのでさっさと行きましょう」

 

「……出久くん、行こう」

 

 面倒は避けて通るに限る。

 そう言って出久くんの手を引く。けれど出久くんはそれを拒んだ。

 

「ごめん、遠藤さん。ちょっとだけ話をしたいんだ」

 

 そう言って金髪に向き直る出久くんの目は……いつもと違った、なんというか『男の子!』みたいな感じだった。

 ……ボクにはさっぱりわからないけれど、出久くんにとってはこの金髪は張り合いたいと思える存在らしい。

 対峙する2人の間の空気が張り詰める。

 互いに握られた拳、言葉を探していた出久くんが一歩を踏み出す。

 

「かっちゃん、僕は最高のヒーローになるよ」

 

「寝ボケんな。現実逃避して努力もしてなかったてめぇがヒーローになるだぁ? 誰がそんなヒーローを認めるかよ!」

 

「そうだよ、僕は諦めてた! 諦めて、諦めていないフリをしてただけなんだ!」

 

 出久くんの絶叫が、耳に刺さる。

 自分の汚点を吐き出すのはどれほど辛いだろうか。ましてやそれを突き付けたのが、幼馴染だというのならなおさらだ。

 それでも。

 出久くんの目は、そんな自分を悔いてはいても恥じてはいなかった。

 

「それでも認めて貰えたんだ、背中を押して貰えたんだ! 『君は最高のヒーローになれる』って! その期待に応えたいんだ!」

 

「無個性の雑魚が! ちょっと身体を鍛えたくらいで、たまたま雄英に合格できたくらいで! 俺と同じ土俵に立てたつもりか!?」

 

 吐き出された言葉は、敵意があって。それでも何故か悪意はなかった。

 2人の関係は、きっと幼馴染という言葉だけでは言い表せないのだろう。

 腕を伸ばせば互いの身体に触れる、そんな距離で2人は自分をぶつけ合っていた。

 

 

 

「立つよ! 最高のヒーローになるために、君を超える!」

 

 

 

「俺を超えられるのは俺だけだ! 何もできねぇてめぇが、俺を見下すな!!」

 

 

 

 言葉が響き、消えて日中の静寂が戻る。近所迷惑極まりないぶつかり合いが一瞬だけ途切れた。

 

「はいはーい、二人ともちょっとかっこよかったけど、少し訂正ねー」

 

 その隙に、ちょっと通りますよという感じで2人の間に入る。

 気勢を削がれて力の抜けた金髪くんに話しかける。

 

「勘違いしてるっぽいけど、出久くんは無個性じゃないよ?」

 

「は? 何言ってんだ、デクは」

 

 

 

「無個性の人間が、実技試験で大型敵をぶん殴って大破させるなんてできないでしょ?」

 

 

 

 ボクがしっかりこの目で見たよ、と言う。

 すると金髪くんは凄い動揺した。

 ……まぁ、無個性だと思ってたらいつの間にか個性を発現してた、なんて言われてもすぐには受け入れられないか? いやそれでも、否定的な感じの方が大きいリアクションだな。

 

「んな、馬鹿なことが……俺は、ガキの頃からコイツを知ってる! コイツが無個性なことも!」

 

「いや、幼馴染なら出久くんが無個性じゃなくなったことを喜ぼうよ。証拠ならあるよ、出久くん」

 

 論より証拠、と出久くんに脚力強化して垂直飛びしてもらう。

 ぴょん、と擬音の付きそうなジャンプで5メートルほど飛び上がる出久くん。流石にこれで無個性だとは言い張れないだろう。

 出久くんの個性行使に言葉を失う金髪くん。

 彷徨わせた視線が出久くんを捉え、ぽつりと言葉が零れ落ちた。

 

「デク。てめぇ、俺に嘘ついてたのか」

 

「ち、ちがっ」

 

「無個性だって嘘ついて、裏で俺を笑ってたのか」

 

「待って、聞いてかっちゃ」

 

「俺を! 見下してたのかデクっ!」

 

「やめい」

 

 手刀を頭に叩きつけ金髪くんを地面に沈める。ややあって起き上がってきた金髪くんは、頭を押さえてボクを睨みつける。

 

「何、しやがんだこのクソ馬鹿力……」

 

「いや、君敵意が先走りしすぎて頓珍漢な事言ってるからさ」

 

「あ゛!?」

 

 その一々威嚇するのやめて。

 嘆息し、手を振る。

 宙に白い線が引かれ、それに追随するように風が巻き起こる。『個性操作』で色々と適応個性を弄ってみた結果、この形に落ち着いた。

 いやー面白いね『個性操作』。地味に限定強化したら『個性強化(ブースト)』できるし。そろそろ自分の個性なのに手に負えない感が出てきたよ。

 

「あのね、出久くんにも個性は発現されてたんだよ。ただ発動条件がわからなかっただけ」

 

 3人がボクの言葉にポカンと口を開ける。あれ、変なこと言ってない、よね?

 

「何を、根拠に……」

 

 金髪くんの言葉に答えずに、宙に引かれた白線を手の平に集めて渦を描く。

 勢力を増した風は金髪くんの周辺にまで流れを拡大させていた。

 

「てめぇ、それは」

 

「ボクの個性。風に干渉する為には、まずボク自身が風を起こす必要がある。そうしなければ風を操れないんだよ」

 

 線を消し、散った風が木々を揺らす。

 それが収まったと同時に口を開く。

 

「個性、それも発動型は特に、条件っていうのが設定されているんだって。出久くん、身体を鍛えたから個性の条件を満たしたんじゃないかな? 例えば『一定以上の筋肉量を持った時身体を強化することができる』個性とか」

 

 当たり前だ。どうにかして『発動させるから』こその発動型、発動条件がないなら常時発動型になってしまう。

 第一、そういった理屈を抜いても、出久くんの性格からして裏で人を笑うっていうのはないだろう。

 

「そもそも、無個性の烙印を押されながら、君を裏で笑う為だけに個性を隠すとかどんな長期プランだよ国債か。手っ取り早く個性鍛えて真正面から見下す方がお手軽でしょ」

 

 そらそうだ、と金髪くんは目を見開いた。敵意が大きいとこうも視野が狭まるのか。

 とりあえず誤解は解けたようで何よりだ。

 出久くんも金髪くんも、互いに意識しあってるのが、正しい方向に向けばいいなと思う。

 

 

 

「まぁ仕方ないよね、金髪くんはヒーローになれなさそうだし。出久くんを怖がるのもわかるよ」

 

 

 

 けど、それと出久くんを馬鹿にした事とは話が別だよね?

 

 

 

「え、遠藤さん……?」

 

「……は?」

 

 急に喧嘩を売られた金髪くんはまず呆然とし、出久くんは意味がわからずただ狼狽えていた。

 

「さっきから何? 幼馴染なんだろうけど、それにしたって最低限の礼節ってもんは必要でしょ」

 

「……なんなんだてめぇは、さっきから訳わかんねぇことをごちゃごちゃと!」

 

「尊敬する人を貶められたら、誰だって腹が立つって話だよ」

 

 デクは木偶、ナードはまぁ普通に見下される存在に対する呼称だし。

 出久くんは誰かを救ける為に動ける……いや、動いてしまう人だ。

 確かに個性を使えなかったかもしれない。

 確かに雄英に入るための適切な努力を1年前まではしていなかったかもしれない。

 だけど、人の為を思える人を馬鹿にするようなヤツが、ヒーローになんてなれるもんか。

 

「……はっ、デクを尊敬するだぁ? 例え個性を使えようが、こいつはただの木偶! 低次元同士で傷の舐め合いなんざ反吐が出るわ!」

 

「かっちゃん! 遠藤さんは低次元なんかじゃーー」

 

 

 

「言ったね?」

 

 

 

 感情のない声が聞こえた。なんて感想を抱いてしまうほどに、自分の声には何も込められていなかった。

 視界の端で頭を押さえる文書が見えた。

 

「文書、別館貸して」

 

「……あのですね初来、初来に手加減なしでやられると家が」

 

「文書」

 

「……手加減できるなら、貸します」

 

「ありがと」

 

 目線は金髪から離さない。

 出久くんはなんとか止めようとボクと金髪の間を行ったり来たりしてる、けど止まる訳がない。どっちも。

 

「『誰かを思う心はヒーローの原点』。オールマイトの言葉だよ」

 

 あの時の言葉は胸に残っている。

 今のヒーロー制度が出来る前、ヴィジランテと呼ばれるヒーローの前身とヴィランと呼ばれる犯罪者を分けたのは正義の心の有無。

 それは、今でも忘れてはいけないもののハズだ。

 

「ちげぇよ、力だ。ヒーローに必要なのは誰にも負けない力だ!」

 

 だから、目の前でそう言い放つ金髪を認める訳にはいかない。

 認めてしまったら、ヒーローがヒーローである必要がなくなってしまう。

 

「なら敵でも問題ないワケだ。力さえあれば、なんて如何にも敵の言いそうな言葉だね」

 

「……わかった、てめぇブッ殺されてぇんだな」

 

「やってみなよ。君に勝って、出久くんが低次元なんかじゃないって証明するよ」

 

「2人ともやめろって!」

 

 睨み合うボクたち。互いが否定しあっているんだ、どちらかが明確に負けるまでどちらも引かない。

 拳を固く握りしめる。

 ぶん殴って、出久くんにごめんなさいさせる!

 

 

 

 

 

「馬鹿、な……こんなことが、こんなに差が、あるわけねぇ!」

 

 金髪くんの震える声が耳に届く。

 再び繰り返されるがむしゃらな特攻。あまりに稚拙なそれを、ボクは余裕を持って避ける。

 拳が空を切り、カウンターの蹴りが突き刺さった。

 地面を転がり、受け身を取って立ち上がるその目に浮かぶのは驚愕だった。

 

「キミの攻撃、単調すぎるよ。もう見切った」

 

 ボクの言葉に、歯を食いしばる金髪くん。

 金髪くんに余裕なんてもうない。残機はあと1。つまりあと1回場外へ吹っ飛ばせばボクの勝ちだ。

 だというのに、金髪くんに諦める雰囲気はない。

 

「ねぇ、なんで諦めないの? もう誰の目から見ても勝敗は明らかだよ」

 

 早々に残機が無くなり観戦モードの文書と出久くんが見守る中、金髪くんは口を開く。

 

「俺はオールマイトをも超える男だからだ」

 

 理屈になってない言葉と共に金髪くんの操作するキャラクターが駆ける。

 ダッシュからのA攻撃、繰り出される拳にこちらも横A攻撃を合わせる。

 相殺。互いの攻撃がキャンセルされ、動きが止まる。

 互いに条件は同じでも、それを意図しているかしていないかの差は大きかった。

 すぐさまダッシュし距離を詰めるボクのキャラクターに対して金髪くんが選んだのはA攻撃での迎撃。

 出が早いそれは迎撃に最適で、だからこそ読みやすい。

 回避の無敵時間を利用し、後ろに回り込んでからの後ろ投げ。

 追撃の空中横A攻撃でステージ外に蹴り飛ばす。

 

「俺は! 負けねぇっ!」

 

 復帰の為の空中B。滞空時間と横の移動距離に優れるからこそ、その手は読めた。

 先回りして頭上を取り、下A攻撃。

 俗に言うメテオ。当たれば確実に相手を落とせるそれを叩き込む!

 

「ボクの! 勝ちだっ!」

 

 抵抗する間も与えられず落ちていくキャラクターを見て、敗北を察したのだろう。

 金髪くんはゆっくりとコントローラーを下ろし、目を閉じて天井を仰ぎ見るようにして口を開く。

 

 

 

「仲良しか!」

 

 

 

 びっくりするぐらい素晴らしいノリツッコミをして、金髪くんは出久くんに詰め寄る。

 

「おいデクなんなんだこの女ぁ! 完全に戦う流れだったろぉが! なんで! 俺は! 仲良くゲームやってんだ!」

 

「あはは、僕もちょっと展開についていけなかったよ」

 

 スマッシュファイターズ16。略してスマファイ16。

 個性が現れる前から人々に愛されるゲームタイトル。

 文書の家にお邪魔したボクたちは、プロジェクターを用意して別館でスマファイで遊んでいた。

 

「なぁクソ垂れ目、てめぇ俺に勝つって言ったよな! 勝ってこのクソナードが低次元じゃないって証明するっつったよな!?」

 

 相変わらずキレまくりな金髪くん。

 その視線を真正面から受け止め、ボクは口を開く。

 

「知ってるかい、人間の怒りのピークって6秒しか持たないんだよ」

 

「10分くらい持たせろや!」

 

 いやね、ボクも最初は怒ってたんだ。けれど文書の家に来るまで10分も時間がかかったんだ。

 ぶっちゃけ言うと怒り続けるのしんどいです。

 

「大体、戦ってボクが勝って、それで君は出久くんを認める?」

 

「俺が勝つに決まってんだろ死ね!」

 

 ね? 無駄でしょ?

 まぁでも、ボクも模擬戦はやるつもりだ。

 でもそれは互いの力量を量り合う為であって、決して怒りに任せて相手を屈服させる為ではない。

 そもそも力で解決とか、性に合わない。

 

「力をぶつけ合うのはいいけど、怒りをぶつけ合うのは違うでしょ。いい感じに力抜けてきたし、そろそろ模擬戦しようか! あ、怪我には気を付けましょう!」

 

「自由か! ……ダメだこいつ、俺の苦手なタイプだ」

 

 がっくりと肩を落とす金髪くん。小声で呟いたのもしっかりと風を拾って聞いてるからね?

 風を操ってゲーム機やらプロジェクターやらを片付ける。10秒もしないうちに終わり、距離を取って笑いかける。

 

「さ、やろうか」

 

「あぁ、さっさとこのクソくだらねぇ茶番を終わらせて帰って寝る」

 

「やれるもんなら」

 

 片手を振る。ボクだけにしか見えない線が宙に描かれる。

 風は空気の流れ、空気は見えない。つまりボクの攻撃は不可視。

 空気の矢が金髪くんに突き刺さる。

 

「ぐっ……なんだこのクソ威力、舐めプかてめぇ!」

 

「怪我には気を付けるようにって言ったでしょ」

 

 怒声を受け流し、風矢を2射。命中。

 追撃に5射を射かける。

 

「舐めんなクソがっ!」

 

 怒りの声と爆発音が混ざり合い、視界が赤に染まる。

 爆発の個性か……

 

「くっ……適当に爆発させてても迎撃成功するんかい」

 

 威力は高い。ボクが射掛けた風矢は一撃で消滅した。勿論威力は抑えてあったけど、この爆発の威力じゃ抑えてなくても一緒だっただろう。

 だから、やり方を変える。

 風矢をボクに撃ち込んだ。

 

「は?」

 

 威力を抑え、貫通力を極限まで高めた風矢がボクの身体を前へ移動させる。

 目の前には、爆発を推進力にしてこちらへ飛んできた金髪くんの呆けた顔。

 そりゃそうだ、ノーモーションでの高速移動は、来るとわかっていなければ認識することができない。何故なら人の動きには事前の動作があるという『常識の縛り』があるからだ。

 ボクはほら、風の動きがわかるし、ね?

 

「ほら、実戦ならこれで終わってるよ?」

 

 拳を金髪くんの頬に当てる。

 ぺちん、と間抜けな音が耳に届き、そこでようやく事態を把握した金髪くんが仰け反るようにして後退した。

 

「あ、大丈夫だよ、今のでボクの勝ちだなんて言わないから」

 

 実際、初見殺しの技術で相手の力を量れるかといわれるとNOだ。

 でも、君は納得しないだろ? してやられたのは事実だから。

 だから、そこを突く。

 

「当たり前だよねなんてったって模擬戦なんだから。実力を出す前に終わらせる訳ないでしょ」

 

 歯茎を剥き出しにして、一片の悪意すらもない笑顔を金髪くんの網膜に焼き付ける。

 喋るたびにカチカチと打ち鳴らされる耳障りな歯の音に、金髪くんの顔から強張りが取れていった。

 

「で、聞きたいんだけど、ボクって低次元かな? いやーさっき言われて、ちょっと心配になってて」

 

「……ろす」

 

「ろす? ……まぁいいや。でもちょっと安心かな、今のでボクは低次元じゃないって分かったし」

 

 完全な無表情になった金髪くんに、目をギョロつかせて一心不乱の笑みをお見舞いする。

 

 

 

「来いよオチ担当の三下。手加減してあげるから全力で掛かって来い!」

 

 

 

「ブッッッコロスッアアァァァッッッ!!!」

 

 

 

 凄まじい爆発音と共に爆発オチ担当が宙を舞う。

 迎撃の為に風を纏わせ、叫ぶ。

 

 

 

「初来ちゃんの勇気が世界を救うと信じて! 完!」

 

 

 

 

 

「……凄い」

 

 目の前で行われる戦闘に、僕はただ一言呟く事すら憚られるほどに見入ってしまった。

 かっちゃん。僕の幼馴染。

 僕を虐めてくる嫌な奴で、それでも憧れてしまう程に凄い奴。

 そう思ってた。

 

「これが、かっちゃんの本気……」

 

 でも、そんな僕の憧れすら軽々超えてしまうほどに、今のかっちゃんは凄かった。

 爆破による高速移動。宙を翔けることすら可能なその個性は、衝撃で飛ぶという性質上、軌道変化の負担が大きい。

 その筈なのに、凄まじい速度で描くその軌道はまるで刀の切り返しのような鋭さで。

 どれだけのGが掛かっているのか、想像すらできない。

 呆れるほどの身体能力、呆れるほどのタフネス。

 

 そして、そんなかっちゃんでも未だに捉え切れていない遠藤さん。

 

 僕を認めてくれた人。僕の背中を押してくれた人。

 僕が憧れた人も、容易に僕の憧れを超えていた。

 風を操り宙を舞う、その軌道はかっちゃんに比べて速さは劣る。

 だけど、制御能力が秀でているのか、それとも単純に戦闘センスが高いのか。

 唐突に反転して攻撃を仕掛けたり、かと思えばフェイントでかっちゃんの後ろに駆け抜けては風の弾丸を放ったり。

 最初の、瞬間移動かと見紛うほどの動きもそうだけど、『相手の意図を外して自分の有利を作り出す』のが抜群にうまい。

 

(こんな人たちを、超えるのか……?)

 

 全然違う。個性を使い慣れているとかいないとか、そうじゃなくて『根本的な部分』から僕と違ってる。

 考え方からして僕とは違う場所にあの2人はいる。

 

「一体何が違うんだ個性でできることが多いとかそういう問題じゃなくて捉え方が違う自分の個性に対する理解と戦闘スタイルの確定でもあれほど多彩な動きはできないだろそもそも2人とも思考を早くする個性じゃないのだからあの反射速度は明らかにおかしい」

 

 思考が沈む、それでも目は2人の戦闘を追っている。

 

「相手の行動の予測とそれの対応にプラスして個性の使用なんていくらなんでも人間の脳じゃ不可能なはずだ考えろ考えろ実際2人ともできてるんだ絶対に何かあるはずなんだ」

 

 沈む、沈む。

 今までずっとノートに纏めてきたヒーロー考察。

 個性がない代わりに、観察だけは誰よりもしてきた自負がある。

 だから、見つけられるはずだ。気付くだけで次のステージへ進める何かを。

 僕は、追い付かないといけないんだ、立ち止まっていられないんだ!

 

「緑谷、簡単なことらしいですよ」

 

 伝聞さんの声が、耳に届いた。

 じっと2人を……いや、遠藤さんを見つめながら、僕に言葉を投げかける。

 

「緑谷は特殊な事情がありますが、そもそも個性は『生まれ持っているもの』です。緑谷だって今は同じだそうです」

 

 そうだ、2人は個性を生まれた時から持っていて、僕は受け継いだ。考え方に違いがあるのならそれが原因だ。

 

「個性は当たり前にあるもの……違い……個性を使って……自分の望む結果を……」

 

 ふと、遠藤さんの姿が浮かんだ。

 ゲームを風を操って片付ける姿と、今の風を纏って宙を翔ける姿。

 

「……そうか!」

 

 どうしても、僕の根底には『個性を使う』という考えがあった。

 それはきっと僕が個性を持っていなかったからで、あと加えるならオールマイトの雄姿が常に頭にあったというのも原因の一つだろう。

 だけど、個性はあって当たり前のものだ。何も考えずに使えて当たり前のものだ。

 殴る為だけに使うんじゃなくて、走る為に、跳ぶ為に、蹴る為に。

 結果を得るために、行動に加えるのが個性だ。

 そして、オールマイトと同じくらい心に焼き付けられた遠藤さんの姿が、また僕の背を押してくれた。

 風で自分の身体を吹き飛ばすんじゃなく、風を使い続けて身体を逐次制御するその姿は、まさしく僕が進むべき未来の姿だった。

 

「相手の動きを予測しながら動いて個性を使う、そんなのは到底無理だ。なら最初から使いっぱなしにしておけばいいんだ」

 

 実技試験の時、僕が『ワン・フォー・オール』を使用した時のイメージは、電子レンジでチンして爆発した卵。

 小さな頃にやらかしたのが今も頭に残っている事に思わず笑ってしまう。

 

「掴めましたか?」

 

「うん、遠藤さんのおかげだ」

 

 何か言いたげな雰囲気の伝聞さんを意識から外し、個性『ワン・フォー・オール』に集中する。

 電気が全身を巡るイメージに引きずられて、『ワン・フォー・オール』が起動する。

 電子レンジで温めるように、全身に万遍なく熱が広がるイメージ。地味だけど、ユニークだとオールマイトに言って貰えたんだ!

 

 

 

「全身常時身体許容上限(5%)……!」

 

 

 

『ワン・フォー・オール フルカウル』

 

 

 

 全身に力が漲る。

 伝聞さんの補助があるからか、なんとかギリギリ制御できるレベルだ。

 軋みを上げる全身に鞭を打ち、顔を上げると、かっちゃんと遠藤さんが地面に倒れ伏していた。

 目の前の光景がもたらす衝撃にフルカウルが解けた。

 

「2人ともいい加減にするらしいです。熱くなりすぎて手加減しきれてなかったそうですよ?」

 

「で、伝聞さん、2人に何を……」

 

「『かじゅう』で重力を5倍にしました」

 

「5G……」

 

 簡単に言うと、ジェットコースターの最高速度で掛かる加重が今2人にかけられているのだ。

 

(もしかして、1番強いのって伝聞さん……?)

 

 倒れ伏したまま動こうともがいている2人を見て、僕は恐怖で動けずにいた。

 呆れたように息を吐いて、伝聞さんは僕へと顔を向けた。

 

「あの話ですが、今晩でいいですか?」

 

「……えっ、あ、うん」

 

 視界の端で、2人が起き上がるのが見えても、僕は動けなかった。

 現状が変わる節目を前に、身体が強張ってしまう。

 今夜、僕は伝聞さんに全てを話さなければいけない。

 受け継いだ力も、受け継ぐまでの自分も、僕の原点(オリジン)も。

 オールマイトと共に、伝聞さんに全てを伝えて、その上で黙っていて貰うよう説得しなければいけないんだ。




「『次回予告』!」

「全てを諦めていた少年が出会ったのは、ボロボロになりながらも戦い続ける平和の象徴、オールマイト」

「ねぇ文書、ボクもついてっていい?」

「その出会いは一人の少年の背を押し、ヒーローへの道を歩ませる原点となります」

「わーいオールマイトと会えるんだーやったー嬉しいなー」

「緑谷のこれまでと、これからを語る一夜のお話」

「絶対ついてくからね? 1人だけオールマイトと会えるとかズルい! ズルいから!」

「次回『緑谷出久:オリジン』。これは、1人の男の子が最高のヒーローになる、その始まりの物語」

「お願いつれてって! 泣くよ?! 泣きわめくよ?!」

「さらに向こうへ、Plus Ultra!」

「わかった、じゃあ処女やる! 文書にボクの処女やるから!」
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