ストックなんて作れませんでしたがなんとか一話完成
夜風が路地を吹き抜ける。まるで融けるように揺らぐ黒髪が、街灯に照らされては闇に消える。
人気のない道の先を見据え、伝聞文書は自身を落ち着かせるように息を吐いた。
(柄にもなく、緊張していますね)
指定されたのはとある海浜公園。
海流の流れによって元々ゴミの流れ着きやすかった事に加え、心無い人間が不法投棄を繰り返した事で地元の人間すら寄り付かなかったその場所は、誰かがゴミを撤去したことで今では恋人たちの憩いの場となっている。
(……まさか、文書の事を懸想している、なんてことはないですよね……?)
もしそうなら封印に加えて不能を刻みつけましょう、と心に決めて、文書は膝を軽く曲げる。
目的地は海浜公園。方向は地図で確認した限りではこのまままっすぐ。
(多少の誤差は諦めます。お母さん達に怪しまれないように、ちゃっちゃと行ってさっさと帰ります)
「『かそく』」
言葉が世界を変える。
以前に見た初来の飛行のイメージのまま、文書の身体は星海に投げ出された。
凄まじい勢いで吹き付ける風に、文書の指から3つの光が消える。
「『ぼ、う……ふう』」
言葉が世界を変える。
風の影響が排除され、荒れた髪を撫で付けながら文書は眼下の景色に目を向ける。
未だに消えない街の光と人々の喧騒が遠く、夜空に煌めく星々も遠く。
世界でただ一人取り残されたような孤独感に、文書の頬が緩む。
(世界に1人で取り残されても……『私』は1人じゃないです)
ゆっくりと、高度が下がっていく。
目的地が近づき、目視で人がいないことを確認して文書の指から4つの光が消える。
再び吹き荒れる風が文書に届くよりも早く、文書の口から言葉が零れる。
「『かくさん』」
言葉は世界を変える。
文書の持つ移動エネルギーが衝撃波となり周囲へと噴出し、速度を落とした状態で砂浜へと着地した。
再び指から光が消え、残るのは出久に掛けた封印の4つの光。
それを翳すと、うっすらと、微かに指から伸びる光が文書の目に映る。
その先に、人影が見えた。
歩みを進める文書の目が暗闇に慣れた頃には、既に言葉の届く距離だった。
「『かんてい』」
言葉が世界を彩る。
長袖に隠した手に光が灯り、目の前に立つ2人の情報が脳に刻まれる。
緑谷出久。No1ヒーローから個性を受け継ぐ、初来が認めた『ヒーロー』
そしてその横にいる金髪が八木俊典。今はまだ緑谷出久と同じ個性を持つ男。
テレビで見るのとは違う、長身痩躯にこけた頬という見た目は、誰が見ても健常な身体ではないと理解できてしまう程だ。
「オール、マイト……」
No1ヒーロー、平和の象徴。
彼がいるからこそ日本の敵犯罪率が一桁台に抑えられているという、まさに抑止力そのものな存在。
その、異常な姿に文書の心は激しく揺れる。
「初めまして、伝聞文書くん……だね?」
「初めまして、です。オールマイト、だそうですね?」
対峙する2人は視線を交錯させる。
何から話すべきか、言葉を探す文書にオールマイトが話しかける。
「私の姿に、驚かないんだね。例の鑑定かい?」
「驚いてはいるそうですよ。鑑定は使っているらしいです」
(らしい? 変な喋り方をする子だなぁ)
言葉が途切れ、潮騒が2人の間を満たす。
探りを入れるべきか、それとも本題を切り出すか。
そんな事を考えていたオールマイトに、文書が一歩踏み出す。
「要件は、『ワン・フォー・オール』の秘密とオールマイトのその姿の事を他言しない事、であっているらしいですか?」
陸風に髪が揺れる。オールマイトの瞳が文書を映す。
「……あぁ。平和の象徴は必要なんだ。人々の心を守るには折れない柱がなければならないのだよ」
「心を守る、ですか」
小さく零れた言葉が風に流れて消えてゆく。
オールマイトと文書の視線が交わった。
文書の瞳に映るオールマイトには、まるで色がなかった。
(なんという、冷たい瞳だ……)
ただ情報を得るためだけに向けられた視線に、オールマイトの心が揺れる。
人を人として見ていないような眼差しは、かつて対敵した相容れない存在を思い起させる程だった。
「……条件が、あるらしいですよ」
気がそれていたオールマイトは、文書の言葉に反応を返すことができなかった。
それに気づかずに文書は続ける。
「まず一つ目は、貴方と緑谷の始まりを話すことだそうですよ」
「僕と、オールマイトの……」
雰囲気に呑まれていた出久が、自身の話題が出たことでようやく声を上げる。
「そして二つ目は、雄英で、初来の事を気にかけてあげて欲しいそうですよ。初来は貴方のことをとても尊敬しているらしいので」
「初来……そうか、君は遠藤少女の」
「はい、親友なんです。大切な」
初来の事を語る文書の瞳に、柔らかな色が浮かぶ。
それは、普通の人が持つ、親しい人へと向ける当たり前の感情で。
それを文書が持っていたことが、オールマイトはどうしようもなく喜ばしかった。
「そして最後に、例え全ての人に『ワン・フォー・オール』のことがバレたとしても、初来にだけは知られないようにして欲しいそうですよ」
「……私を、尊敬してくれている遠藤少女の為、か」
徹底した『遠藤初来の為』という行動原理。
多少行き過ぎている気がしなくもないが、誰かを思うことに間違いがあるはずもないとオールマイトは頷く。
「よしわかった、君の言う条件を呑もう。その代わり私の事も、『ワン・フォー・オール』の事も黙っていてくれよ」
「わかったらし……いえ、わかりました」
頷き合う二人、その視線が出久へと向けられる。
「さぁ緑谷少年、さっそく話を始めてくれ」
「きりきり話すらしいですよ」
「え、あっ、はい」
急に話を振られて一瞬狼狽えた出久は、過去を整理する為に目を閉じ深く息を吐く。
「……僕は、10か月前まで無個性だったんだ」
無個性。その言葉に文書の瞳が揺らぐ。
恐らくはそうだろう、と考えてはいた。個性を鑑定した際『ワン・フォー・オール』以外の個性がなかったからだ。
それでも、自分と同じような境遇を過ごしていたと聞かされると、どうしても心が揺らいでしまう。
「それまで僕は、皆から馬鹿にされてたんだ。無個性の癖にヒーローになりたいだなんて、って」
「……無個性でも、緑谷はヒーローを目指していたんですか」
ゆっくりと、出久は顔を振り文書の言葉を否定する。
「前にかっちゃんが言ってた通り、僕はヒーローになる事を諦めてた。……それでも、なりたいと思う気持ちは捨てられなかったから、自分なりにヒーローを研究して、それをノートに纏めてたんだ」
自分では気づいてなかったけれど、それは諦めているのと同じことだったんだよね、と出久は寂しそうに笑った。
「ある日、僕はヘドロの身体を持つ敵に襲われたんだ。そこをオールマイトに助けて貰って」
ゆっくりと、言葉にするのをためらうかのような一瞬の間。
「僕は、そこでオールマイトにヒーローを諦めるように諭されたんだ」
「えっ……」
思わず視線を向けた文書の先で、オールマイトはそれを否定することもなくただ立っていた。
「どういう、ことですか」
「ヒーローは、個性を使用した犯罪者を個性を使って制圧するのが仕事。だから無個性の人間には務まらない、そう言われたんだ」
それくらいは文書も知っている。
わからないのは、オールマイトの発言と現状へ至る話の流れだ。
疑問の言葉を飲み込み、先を促す為に文書は口を開く。
「それで、緑谷は納得したのですか?」
「納得は、最初からしていたんだ。ただ僕は、目を背けていた現実を見せつけられただけだよ」
そうして、次に出久が口にした言葉は、文書が想像もしていなかった事だった。
「強い敵と戦って、オールマイトは大怪我を負ったんだ。脇腹を抉られた痕を見せられて、自分がヒーローとして活動できる時間は3時間しかないって。自分が笑うのは自分が恐怖から目を逸らす為だって、そう言われたんだ」
「ーーーー『かんてい』!」
言葉が世界を暴く。
直前まで外見情報を映していた鑑定の効果が変わり、文書のイメージ通りに、個性ではなく対象の状態を映し出す。
「……そんな」
思わず零れた言葉は震えていた。
胃全摘出。憔悴した身体。命を削ってのヒーロー活動。
どれもが文書の想像を超えていた。
「これが、私の秘密さ。なんとかだましだましヒーローを続けているが、そう遠くない未来に私はもうヒーローを続けられなくなるんだ」
「そんなに、なってまで」
「続ける必要があるのか、なんて言ってくれるなよ? ヒーローっていうのはそういうものなんだ」
一歩、後ずさる文書。
例え痩躯になろうとも変わらぬ『平和の象徴』としての瞳に、気圧されたのだ。
それに気付き、気合を入れなおして文書は問いかける。
「……それなら、何故貴方は緑谷に個性を譲渡したのですか? 言いたくはないのですが、緑谷は個性がなければ研究者気質なただの無個性の男ですよ?」
「何故なら、緑谷少年がただの無個性の男だったからだよ」
そう告げ、オールマイトは出久に目配せを一つ。出久から話を引き継ぎ、オールマイトが語り出す。
「事の始まりは……あぁ、うん。私のミスで、さっき緑谷少年が言っていたヘドロの敵を取り逃がしたんだ」
落とされた視線がオールマイト自身の手を映す。
そこにある後悔を握りつぶすように、拳を握ったオールマイトが顔を上げた。
「そのせいで爆豪少年がヘドロの敵に捕らわれてしまったんだ。私は活動限界を超えてしまい、爆豪少年の抵抗により地獄絵図になった商店街で、手が出せないヒーロー達は誰もが爆豪少年を救けだすヒーローを待っていた」
「緑谷少年以外の誰もが、『ヒーロー』として動けなかったんだ」
目を閉じその時を思い返すオールマイトが、天を仰ぐ。
「信じられるか? 救けを求める少年に真っ先に手を差し伸べたのが、無個性の少年なんだぜ? 無個性で小心者の少年が、その場の誰よりも『ヒーロー』だったんだぜ?」
再び戻された視線が文書を貫く。
迷いのない視線は、出久への信頼だった。
「継いで欲しいと思ったんだよ。救いを求める声に応える……応えてしまう少年に、『ワン・フォー・オール』を」
オールマイトの視線が出久に向けられる。
「意外に思うかもしれないが、『ワン・フォー・オール』は義勇を求める声と、それに応える事のできない後悔の心で紡がれてきたんだ」
「後悔の……」
出久も初耳なのだろう、困惑の響きを含む呟きが波間に消える。
「そうさ。誰か救けて、と。救いを求める声に応えられなかった継承者たちが、それでもいつかと、後世に願いを託したのがこの力だ」
「願いを、託す」
「そうさ、だからこそ私は君を選んだんだ」
風が吹く。
波音が途切れ、雲間から覗く月の光が3人を照らした。
「誰よりも『ワン・フォー・オール』に相応しいと思ったから、君を選んだんだ」
言葉は途切れ、ただ時折吹く風とさざ波の音が浜辺を満たす。
ゆっくりと、文書に向き直るオールマイトが、照れくさそうに頭を掻く。
「という訳で私は緑谷少年に『ワン・フォー・オール』を譲渡したんだけど、伝聞くんの聞きたい事は聞けたかな?」
「なんでちょっと照れてるらしいのですか、ヒロインですか。……はい、聞きたいことはきちんと聞けました」
そう言って、文書は出久に向き直り、頭を下げた。
「えっ、な、なに……?」
「申し訳ありませんでした、緑谷。前に貴方が初来の夢を奪ったと言いましたが、訂正します。間違っていました」
頭を下げたまま、文書は続ける。
「緑谷はオールマイトに認められて、正当に個性を受け継いだだけです。決して初来の夢を奪った訳ではありません」
「あ、頭を上げて! 気にしてないから!」
「文書は、小学生の頃は無個性だという理由でイジメを受けていました」
唐突な告白。その内容に、出久もオールマイトも言葉を失った。
「文書の個性は反動が強すぎて、その頃は使うことができなかったんです」
「そんな……」
「文書は、イジメに負けました。文書を虐める世界なんて意味がないと見限っていました」
文書の言葉から想像できる状況など、出久はいくらでも思いつけた。
だからこそ、同じ状況を経験したからこそ出久は慰めの言葉を掛けることができなかった。
「だから、緑谷が周囲に負けずにヒーローを目指すと言えたことに、敬意を抱きます」
「敬意なんて、そんな……」
困惑する出久の前で、文書が頬を緩めた。
暗闇に慣れた出久とオールマイトの目に、月明りに照らされた文書が映る。
「今までは初来の為に緑谷を手伝うと言っていましたが、これからは違います。文書は、自分の意思で、緑谷の力になりたいと思ったから手伝います」
風に靡く黒髪が月明りを散らし、幻想的な光景に2人は息を呑んだ。
「緑谷、貴方を尊敬します。これから、よろしくお願いしますね」
それは、出久が初めて目にした、文書の混じり気のない笑顔だった。
「うーん、青春!」
オールマイトの言葉に、見惚れ呆然としていた出久が身体を震わせる。
対して文書は、再び無表情に戻りその無機質な瞳をオールマイトに向けた。
「言っておきますけど、文書が好きなのは初来ですからね? もし緑谷が文書に懸想していたりしたら」
言葉を切り、視線を片手に向ける文書。
その指に3つの光が灯る。
「緑谷は不能になって、残念ながら子孫を残すことができなくなるらしいですよ?」
「懸想してないから大丈夫ダヨ!」
股間を片手で抑え、もう片方の手で全力で否定の意を返す出久。
その姿を見て留飲を下げた文書の姿に、ふと出久の脳裏にある仮説が浮かぶ。
「そうだ伝聞さん、伝聞さんの個性でオールマイトの怪我を治せたりしないかな……?」
「緑谷少年、それは一体どういう……?」
文書に相手の情報を知る個性がある程度しか聞いていなかったオールマイトが驚いた表情で出久に問いかける。
「あ、えっと、伝聞さんの個性は『文字魔法』といって、言葉の通りに世界を変える個性なんです。今は『ワン・フォー・オール』に封印を掛けてもらって、制御できる範囲で個性の訓練をしてるんです」
「なにその強個性!?」
吐血するオールマイトをスルーして、出久は口早に話し出す。
「伝聞さんの個性で『ワン・フォー・オール』に干渉できたということは、他人の身体に対しての干渉ができる筈。イメージの通りに世界を変えることができるのなら、オールマイトの怪我を治すことが……いや、それだけじゃなくて『ワン・フォー・オール』を作り出して、また平和の象徴として活動ができるようになったりとか!」
「ごめんなさい、無理です」
文書の言葉に、出久が動きを止める。
眦を下げ、自らの手を見下ろす文書。
「文書の個性は他の生き物には通らないんです。緑谷に『ワン・フォー・オール』の封印を掛けることができたのは、裏技を使っただけなんです」
「裏技……それは、オールマイトには使えないの……?」
出久の言葉に文書は頷く。
「それは、何故なのか……聞いてもいいかい?」
オールマイトは問いかける。
閉ざされた己の未来だけならばここまで直接踏み込みはしなかっただろう。
だがオールマイトがーー平和の象徴がいなくなれば、人々の心の支えがなくなってしまう。
出久はまだヒーローとして幼く、彼が成長し人々の支えとなれるまで、長い時間が必要だ。
オールマイトに残された時間は、もうあまり無いのだ。
だからこそ『平和の象徴がいなくなり人々の心の支えがなくなった未来』を救えるかもしれない文書に、オールマイトは疑問を投げかけた。
「本当に使えないのか」と。
「……今言った通り、文書の個性は『他の生き物』には使えないのです」
他の生き物、という言葉を強調する文書。
2人の顔を見返しながら、再び口を開く。
「だから、緑谷と文書の共通点や共感できる部分を『繋げ』て、同じ人間だと認識を誤魔化して使っているのです」
「いや……それは、おかしくないか……?」
簡単に言うと、「口が1つ目が2つあるから緑谷と文書は同一人物ですね、なら『文字魔法』の改ざんが効きます」という理屈だ。
間違いなく狂人の思考回路に、思わずオールマイトが呻く。
「待って伝聞さん、『文字魔法』自体を改ざんして、他の生き物にも使えるようにしたりとかは」
「できるかもしれませんね、そして文書が個性を失ってしまう可能性も当然あります」
あまりにも当たり前の返答に出久は言葉に窮した。
そもそも、よく考えなくても出久の今のセリフは「セルフ人体改造してみない?」である。
オールマイトから握りこぶしで頭を軽く叩かれ、出久は肩を落として黙り込んだ。
「なら、共通点や共感できる部分がないというのは?」
そもそも同じ人間同士で100パーセント共感できないなどということはあり得ないのだ。
好きなもの嫌いなもの。喜怒哀楽に繋がる体験談など、人間である限り絶対に何か1つは共通し共感できることはある。
「……オールマイトは悪くありません。悪いのは文書です……文書が弱いのが悪いんです」
文書の視線が下がり、その瞳が砂浜だけを映す。
ゆっくりと、苦しみに喘ぐように胸元を掴み、血を吐くように文書は言葉を零した。
「文書は虐められていました。物を隠されたり、取られたり、馬鹿にされたり、小突かれたり。今考えると子供同士の軽いじゃれ合いだったものもありました、それでもあの時の文書の苦しみは本物だったんです」
さらさらと風が髪を撫でて、そっと文書の顔を隠す。
「なんで文書がこんなに苦しまなければいけないのか、って。この個性が悪いんだ、って。こんな個性に生まれたくはなかったって。毎日毎日夜に1人で泣いていました。泣きながら、願っていました。誰か文書を救けてって」
「救けてオールマイト、って」
風と波の音だけが、言葉のない浜辺を漂い消える。
「文書だって、ヒーローが個性で敵に立ち向かう存在だって知っています。泣いている子供を救けるような、そんな『ヒーロー』とは違うって理解しています」
不意に、文書の顔が上げられる。
オールマイトを見るその目は、無。
まるで情報を得るためだけに向けられたその視線に、オールマイトはただその断罪の言葉を待つことしかできなかった。
「オールマイト、貴方を尊敬しています。嘘じゃないですよ? 貴方がいるから日本は平和でいられる。私たちがこうして安らかに暮らしていられるのも貴方のお陰です。貴方の生き方は理解できませんが、それでも人々の為にという一念で、命を削りながらヒーローを続ける姿は、格好いいと思っています」
「でも、ごめんなさい。文書は、文書を救けてくれなかったヒーローに共感なんてできないんです」
その言葉に、一体誰がなんと返せるというのだろうか。
無言のまま言葉を返せずにいる2人に、文書は踵を返す。
「もう話は終わりでいいですね? ……あ、安心してください。緑谷に対してはきちんと個性が働きます、例え大怪我を負ったとしても、死んでいなければ文書の個性でどうとでもなります」
オールマイトを見もせずにそう言い、ついでにと言わんばかりに手を振る。
今まで灯っていた指の光が4つ消え、同時に出久は自分に掛けられていた文書の個性の効果が消えたことに気付く。
振り返り出久へと視線を向ける文書はいつもと変わらぬ様子で、いつもと同じ調子で話しかけた。
「緑谷、貴方には入学までに『限定強化』の前提くらいはできるようになって貰わないといけないんです。補助輪ありじゃないとダメなんです、なんていつまでも言わせませんよ」
そう言って薄く笑い、今度こそ文書は歩きだす。
その指に光が3つ灯り、軽く跳ぶように何気なく身を屈め。
「『かそく』」
言葉が世界を変える。
空に昇る流星のように、個性の光が尾を引き星空を裂く。
出久も、オールマイトも。
見つかるはずのない言葉を探して、ただ文書の姿を見つめることしかできなかった。
「まるで呪いね」
『文書の傍』で全てを聞いていた撮香は、愛娘の在り方をそう評した。
寝返りをうつと、さらりと流れる黒髪が一糸纏わぬ身体を滑り落ちた。
「それにしても初来ちゃんったら、呪いを掛けておいて知らんぷりなんて本当に酷いわ」
シーツを這わす指先が光を灯し、半透明になった指先が、遠藤家の自室で寝ているはずの初来の頬に触れて通り抜ける。
「なにより酷いのは、呪いを掛けたと欠片も思っていないところ」
個性により映し出された初来の頬の輪郭をなぞり、撮香は妖艶に笑う。
初来の姿が消え、彷徨う指先が照明器具の頼りない明かりで作られた影を伸ばす。
「ねぇ文書ちゃん、今のままの文書ちゃんじゃ、初来ちゃんのヒロインにはなれないわよ」
瞳を閉じ、迫る眠気に身を任せながら、撮香は薄く笑う。
「頑張ってね文書ちゃん。お母さんは文書ちゃんの強さを信じているからね」
「『次回予告』だそうです!」
「文書ちゃんが、俺ん家にきた!」
「久々に訪れた初来の家で、文書は思わぬ人物と出会うことになるらしいです」
「それ俺だって、久しぶりだからって顔忘れんなよー」
「ネタバレらしいですよ水騎ちゃん?!」
「久しぶりの邂逅は一触即発? 特に理由のない嫁姑問題が初姉ちゃんを襲う!」
「初来は絶対に渡さないです……!」
「次回『遠藤初来の日常ー修羅場編ー』!」
「初来のおっぱいが変幻自在に?!」
「さらに向こうへ!」
「「Plus Ultra!」」
今回描写に力を入れてみました。くどくなかったですか?
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このくらいがいいかな?
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まだ描写が軽い
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描写がくどい、削れ